第四話 君が俺であたしがお前
「入れ替わっている!?」
口を揃えて叫ぶ2人。
「あぁ…これは夢か何と美しい…!!」
「キメェ誰だてめぇ!!」
「怒った顔も美しい…!あぁ…!何て罪な人間なのだ…!」
グロリアの言葉もアステールの耳には届かない。ただただ自分に酔いしれるアステール。
「アステール様!今の叫び声は一体!?」
2人の叫び声に驚いたライトとレフトが慌てた様子で現れた。
「あ?アステール?誰だそれ?何か聞いた事があるようなないような…。」
明らかにアステール…正確にはグロリアの目を見ている2人に、ポツリと呟く。
「…ふむ、これは厄介な事になっているな。ライト、レフト、とにかく落ち着け。」
グロリアの姿をしたアステールが冷静に言うが、逆効果である。グロリアの美しさに一瞬怯んだ2人であったが、唾を飲み込むと同時に腰に掛けてある剣を抜く。
「お、おいおいおい!何してんだお前ら!」
「アステール様は下がっていてください。素性の知れぬ者です。小娘を殺す様な真似は致しませぬ故今は私共にお任せを!」
「えぇそうです!す、少し綺麗だからとアステール様に手出し出来ると思うな!」
ライトがアステールを庇う様に立つ。遅れてレフトも側に寄る。この場をどう乗り切るか、口元に手を当て考えるアステール。
「…手出しを?誰が、誰にだって?」
沈黙を破ったのはアステールの低い声。といっても、入れ替わっているので言葉を発したのはグロリアだが。それに違和感を感じたライトとレフトは振り返りグロリアを見る。拳を握るグロリアの手が小さく震える。
「や、やめるんだ俺の繊細な手に爪痕が残っ…!」
「先に人の寝込みを襲ってきたのはこいつだろうが!!!」
アステールの切な叫びも届かず、グロリアの怒鳴り声が響いた。その声に驚いたカラスが茜色の空へ飛び去っていく。初めて見る凄い剣幕のアステールに、ライトとレフトは目を見開く。アステールは未だ自身の手に爪痕が残らないかハラハラしている。が、誰もが口を開けずにいた。グロリアが深呼吸をして顔の熱が引いた頃、その沈黙を破ったのはレフトだった。
「いやだからそう言ってんでしょう!!!!」
入れ替わっている事に気がついていない2人は、グロリアがアステールに色仕掛けをしようとしたのではと推測した。王位継承者であるアステールを狙い過去に一度ではあるが、女性に薬を盛られかけた事実があるからだ。
「だぁぁぁ拉致があかねぇ!おいそこのキモいやつ!!どうにかしろお前が蒔いた種だろ!」
美しいバターブロンドの髪をぐしゃぐしゃにしながらアステールを指差すグロリア。
「俺の髪が!?!?くっ…まぁいい優先すべきは此方だ…。今だけは耐えよう。」
アステールは引きつった顔を隠すように顔に手を当てる。そして静かに息を吸った。
「…明星上りし暁の刻、七色に輝く光明が差す……。この国に代々王族とその側近に伝えられている言葉だ。お前なら分かるはずだ、ライト。」
鋭い眼光のアステールに、ライトは血相を変え剣を収める。そして小さく頭を下げた。腰に手を当て真剣な表情を浮かべるアステールと腕を組んだグロリアを、レフトは交互に見る。
「状況説明は後だ。もうじき日が沈む。急いで帰るぞ。」
尚も焦りを隠せないライトは言われるがまま森の入口へと向かう。慌ててレフトも後を追う。それに続いて優雅に歩き出すアステール。その背中を見つめるグロリア。
「あたしも!?!?」
我に帰ったグロリアがアステールにそう叫ぶ。
「…君には大変不便を強いる事になった。しかしこれは国の一大事、ノーとは言わせない。さぁ、共について来てもらおう。」
「…さ、最悪だぁぁぁぁ!!!!」
にっこり笑ったアステールに、グロリアは悲痛な叫びを上げるのだった。




