第二話 この世で一番嫌いなものは
「ぶえっくしょいちくしょう!!」
豪快なくしゃみを披露した少女は鼻をすする。そんなくしゃみを聞いた兄達が口を開く。
「グロリア…!!せめて手を当ててくれないか!!」
「そうだぜグロリア。俺らとは違うんだ。」
グロリアとは、アステールの住む都の隣にある比較的大きな村の村娘だ。その美貌から噂が広まり、女らしくしろ、と言われることも増え、グロリアの機嫌は終始悪かった。兄の言葉に口を膨らますグロリア。
「…あたしは男に生まれたかった!くしゃみ一つ自由に出来ないなんて窮屈すぎんだろクソが…。」
「そうは言ってもなぁ…。」
グロリアの兄弟、特に兄2人は頭を悩ませていた。村で知らない人は居ない程の美貌を持つグロリアが、兄弟の誰よりも口が悪かったからだ。最近は行動にも表れるようになり気が気でなかった。長男であるアストは誰よりも気弱でグロリアにとって誰よりも頼りない男だった。次男であるダイヤは長身で口は悪いが頼りになる存在で、グロリアにとっては理想の男性像に近かった。三男のパルトは兄弟の中で一番女子力が高く、一番苦手意識を持っていた。四男のリドットは歳こそ下だがリーダーシップがあり、グロリアはこれからの成長を密かに楽しみにしていた。五男のトルンはやんちゃで好奇心旺盛、目を離せない要注意人物だった。
弟三人は村の学校へ行っており、今は兄2人と家に居た。しかし長男のアストは夕食の準備、次男のダイヤは弟達が壊したテーブルの修理に追われている。グロリアは村のパン屋で仕事をしてしたが、この日は丁度休みだったのだ。そんな時、家のチャイムが鳴った。手の離せない兄2人に変わって、仕方なく玄関へ向かうグロリア。
「はいーどちら様で、す…。」
玄関に立つ黒い影。本能的に顔を上げることが出来なかった。見てはいけない何かが目の前にいる。そう感じたのだ。ドアノブを掴む手が微かに震える。
「…其方は信じるか。」
「…はっ……!クソ…!」
勢いよく顔を上げるグロリア。目の前には黒い服を着た老婆が立っている。何だ、やっぱり何てことない、ただの老婆だ。一つ小さく深呼吸をすると目の前の老婆をキッと睨む。
「で、要件は何ですか。冷やかしならさっさと帰ってくれませんかねぇ。」
そんなグロリアの言葉に、老婆は小さく笑う。そして小瓶を取り出した。
「其方は魔女を信じるか?」
「…はぁ?」
怪訝そうな顔で老婆を睨む。
「あんたおかしくなってんじゃねぇの?魔女なんてただの言い伝え。信じてる奴なんかいねぇっての。」
「…ふふ、成る程。ではこの小瓶を其方にやろう。少しばかり女性らしくなるかもしれぬぞ。ふふふ…。」
老婆のその言葉に、グロリアは壁を殴りつけた。
「あたしがこの世で一番嫌いなものは、人の内面にまで触れ合おうとせず勝手ばっか言う…あんたみたいな人間なんだよ!!!」
そして差し出された小瓶を無理矢理掴むと中の液体を飲み干した。
「…っ!は!ほらどうだ!何も変わんねぇ!証明してやったんださっさと失せな!」
小瓶を突き出してそう叫んだグロリアの前に老婆の姿はなかった。驚いたグロリアは玄関を飛び出す。
「っざけんなババァ…!バカにしやがってよぉ!」
小瓶を握りしめて森を駆ける。老婆があの短時間で遠くに行けるはずがない。早く小瓶を返してこれきりだ。そう心の中で怒鳴り、走り続ける。と、突然の動悸にグロリアは立ち止まった。
「…はっ…はっ…!な…んだこれ……苦し…!」
胸を押さえて座り込むと、肩で息をする。視界が狭まり、これはまずいと小さく笑う。手に持った小瓶が視界に映ったのを最後にグロリアの意識は途絶えた。
「…ふふ…さあさこれは奇妙な話…楽しみ、楽しみよの…。」
大変お待たせしました!いよいい此処からが始まり!?という感じですね!まだまだ続きます!お付き合いください!




