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第17話 正義を追う者

毎度長らくお待たせしました!

 目の焦点は合わず、口からはよだれが垂れ流し状態になり、体は小刻みに震えている。ふらふらと立ち上がると、手に持って居た木の板を振り回しながらアステールに向かっていく。


「もう俺の声も届かないか。」


 悲しそうなアステールの表情を、グロリアは見逃さなかった。広場で剣を構えるアステールの元へ駆けるジュネルド。振り下ろされる木の板。大きな音を立ててその板が弾かれた。が、しかし、ジュネルドは止まらない。そのままアステールにぶつかり押し倒す。周りのレフト達が声を上げるも、アステールがそれを制止する。


「コロシ…コロ…ス…ミンナ……。」

「……どこにもやれない憎しみか。助けてやれなくてすまなかった。」


 そんなアステールの言葉に、ジュネルドは涙を流す。


「コロ…して…殺しテ…下サ……殺サれるナラ…アすテ…ル…様…ガ…い…。」


 鈍い音が広がる。ジュネルドの体を突き破った剣が赤く光る。ジュネルドは最後、笑って力尽きた。


 アステールの体の上に覆い被さって力尽きたジュネルドを、レフト達が押し退ける。アステールの無事が第一だった。その間アステールは一切口を開かず、ただ静かに、美しく涙を流し続けた。


「アステール様!どうかこのような危険な事はおやめください!!!貴方様の身に何かあったら俺達は…!!」


 下町の民宿の一室に案内されたアステール、グロリア、レフト。レフトが泣きそうな声でアステールに縋り付く中、アステールは今も尚俯いたままだ。


「アステール様…!!」

「…っ…!!お前達は!!!民を守る為に命を捧げている!!!そんなお前達に!!…民を殺させたくないと思うのはおかしいか…?」


 子供のように泣くアステールに、レフトは何も言えなくなった。

 下町には下町独自のルールが作られて居た。罪人には制裁を。罪を犯した者はその街毎の住民による多数決によってその街で処刑されるか、警備兵に引き渡されることになっている。中でも罪が重いのは殺人。ジュネルドは貧しい生活の中妻に先立たれ堕ちていった。唯一の救いが残されたしっかり者の娘だったのだが…ジュネルドは心の隙間を埋められず、薬に手を出してしまう。酒と薬に溺れた挙句、それを指摘し止めようとした娘を、自らの手で殺す事になってしまった。その罪悪感に耐えられず狂乱。止めに入った複数人は怪我で済んだが、もうこの時点でジュネルドの死刑は確定して居たも同然だった。生きたまま火焙りにされるのだ。アステールはそんな下町のルールを変えようと必死だったが、心の磨り減った下町の住民達の数の圧には勝てず、少しでも楽に死んで欲しいという一心で、アステールは今回3度目の制裁を犯した。いや、正確には2度目だ。1度目は火焙りの現場を初めて見た時。その悲鳴と光景に耐えられずに。2度目は制裁が決まった人物に、直接殺してくれと頼まれた時。しかしその時アステールにはその人物を殺せず、その人物は建物から飛び降りてしまう。その手を掴むことが出来なかった事は今でも鮮明に覚えていた。そして今回。アステールの心は憔悴しきっていた。


「…お前達の手まで汚す事はない…。それに……アイツは俺に殺されたがっていた…。」


 グロリアは口を開くことが出来なかった。普段あぁ見えて、実はこんなに多くの闇と不安と罪悪感を抱えて生きていたのかとグロリアは切なくなった。そして、アステールの人望を再認識したグロリアは一刻も早くアステールに並べるように、一刻も早く元に戻れるようにしようと決意した。


「アイツは…この姿の俺を見てアステール様と呼んだ。俺を求めたんだ。何が正しいとか俺には分からない。どうする事が一番なのか…探すのに必死だ。俺は…ただただ無力だから…。」

「そんな事…!アステール様!こんなに悩み傷付き苦しんでいる貴方だから…!だから皆貴方を敬愛しているのでしょう!!お願いです!貴方が俺達を想ってくれているのと同じように、俺達も貴方を想っています。貴方に苦しんで欲しくない。その為には業を負う覚悟は皆あります!!!」


 レフトの言葉にアステールは唇を噛んだ。声を必死に抑えて止まらぬ涙をぬぐい続けた。


「兄貴…婆ちゃん…こいつら…悪い奴らばっかじゃねぇよ…こんなに…人間臭いよ…。」


 その光景をそばで見ていたグロリアも、堪らず涙流した。

 漸く落ち着くと、一行は住民の避難先である大工工房へと向かった。余程様子が心配なのだろう、アステールの歩みは決して落ち着いたものではなかった。


「グロリア様…!!先程はありがとうございました…!」

「まるでアステール様のような迅速な判断…感服いたしましたよ…!!」

「まさか名前まで覚えていて下さったなんて…私達の為に…ありがとうございます…!!」


 工房へ入るや否や、避難していた住民達から囲まれてしまったアステール。しまった、先程は無我夢中だったとアステールは顔を引攣らせるも、皆の無事を確認出来て安堵した様子だった。この一件により、グロリアの名は町中に広まる事になる。


「アステール様!グロリア様!!!」


 城に帰るなりライトが声を上げ、駆け付ける。下町の話はもう既に回っているようだった。


「全く無茶をされて…これで入れ替わりがバレて居たりしたらどうするんですか…!」

「っ!民の命の方が大事だろう!!!……あっ…いや、すまない、はっはっは、どうにも今日は気が立っているな!!」


 笑顔で取り繕うアステールだったが、ライトは掛ける言葉が見つからなかった。アステールはその後口を開く事はなく奥の部屋に篭りきりだった。


「おはよう世界!!今日も世界は俺の為に回ってい…ん?」


 勢い良く部屋の扉を開けたアステールだったが、目の前の光景に口を閉じる。


「…ふむ!何事だ!!」

「アステール様…それが…!!!グロリア様が…!!!」


 部屋にグロリアの姿はなかった。


「…落ち着けライト。それと昨日はすまなかった。昨日、おかしな所はなかったか?」


 ソファに腰を掛け新聞を開くアステール。その背後に回り、髪をとくライト。


「…えぇ…夜中伺った時には何か考え事をしているようには見えましたが…。」

「ふむ、困ったな!一国の主人が行方不明だと知れたら騒然とするな!!」

「軽口を叩いている場合ではありません…!」


 焦るライトに対し、アステールは落ち着いて居た。豪快に新聞を閉じると髪をとくライトの手を払い、ライトを見る。


「城を出ているのであれば行き先はリモの村以外ないだろう。目撃者が居ないかレフトに話を聞いて共有させろ。ライトはジョセフィーヌの準備が出来次第俺を呼べ。焦るなライト、俺はここに居る。」

「アステール様…。」

「まぁ何であれ俺の体を弄んだ事に変わりはないからな!!アイツには仕置が必要だ!…早く事を収めるぞ。」


 ライトに用意された紅茶を飲み干すとアステールは立ち上がった。ライトも部屋を出てジョセフィーヌの元へと向かった。


「やれやれ…グロリア様も勝手が過ぎるな…さてジョセフィーヌ、ジョセフィーヌ…?なっ…!居ない…バカな!!ジョセフィーヌがグロリア様を許したというのか!?アステール様以外乗せないあのジョセフィーヌが…!!一刻も早くアステール様にお伝えしなければ…!!」

下町のお話はここで一旦終わり、まさかのグロリアが行方不明に!?さぁどうするアステール!次回もお楽しみに!

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