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第14話 二人の王族

今年ももう終わりですね。更新ペースは非常に遅いですがこの子達の物語、ちゃんと完成させたいなぁ。

「へぇ、リモの村出身なんだね。実際に行ったことはないけれど、本や新聞で見かけたことがあるよ。自然溢れる素敵な所だね。それに…アステールが惚れたと言うのも、納得だ、ふふふ。」

「勿体無いお言葉です。アマル様も儚げで美しく…今にも…消えて…。」


 その先の言葉は飲み込んだ。アマルが不思議そうにグロリアの顔を覗く。


「それにしてもグロリア…君と話しているとどこか懐かしいものを感じるね。なんだか落ち着くよ。」

「そ、そうでしょうか?そう仰って頂けて何よりです。」

「アステール、あまり無茶をしてグロリアを困らせてはいけないよ。」

「は、はい。分かっています。」


 どことなくぎこちない会話を、ライトは内心ハラハラして聞いていた。


「アステールは王族の在り方について日々悩み改善策を練っている。それも、多くの国民を思ってね。王族だからでは無い、アステールは国民にとって身近で、彼らを思っているのが真っ直ぐに伝わる。だからこそ彼らからの指示が高いんだ。父上は今やお忙しい身であられるから、街に赴き彼らの声に耳を傾ける余裕がないからね。父上の苦悩を知っている身としては、とても複雑なんだけれど…。これからより負担も掛かり仕事に追われる事が増えるだろう。グロリア、どうかアステールを支えてやっておくれ。側にいられない僕の代わりと言ってはなんだけど…大切な弟なんだ。」


 その言葉に、アステールは固まった。距離を取るようになってからもなお兄アマルからの寵愛は感じていた。不器用な態度ばかり取っていた自分の事を、よく見てくれていたんだと思うと頬を伝う涙を抑えきれなかった。慌てたアマルがハンカチを差し出す。アマルがライトに紅茶を準備するよう声を掛けている隙に、グロリアが声を殺して言う。


「な…に泣いてんだよこのタイミングで…!どう考えてもあんたが泣くのはおかしいだろ…!怪しまれたらどーすんだ…!」

「う、煩い奴だな…!俺だって泣きたくて泣いているわけでは…!」

「君は優しいんだね。アステール、良い人を見つけたね。安心したよ。実は…月之都夜凪つきのみやこよな様の件で話があったんだが…お断りした方が良いかな?」

「い、いえ、聞かせて下さい。」


 グロリアは食い気味に短くそう答えた。自分はアステールだ。知らなくてはならない、今のアステールの現状を。その為に少しでもヒントになるなら聞いておくべきだと判断したからだ。


「…生まれてすぐに決められた婚約だったけれど、僕の身体は長く持たない。父上と話して取り消しをお願いしたんだけれど、十六夜はアステールを婚約者にと申し出たんだ。この後グロリアと会談の調整を話し合うが、僕は僕の責任を押し付け2人の関係を悪化させたくない。会談をお断りするなら僕から伝えようと思うのだけれど…。」

「差し出がましいかと思いますが…それでは陛下が築き上げてきた十六夜との仲に亀裂が出来てしまう恐れがあります。私は構いません、しっかりと双方が納得するお話に収めるべきかと。」

「…アステール………?」


 アステールが発したその言葉に、アマルは小さく呟いた。直ぐに首を振りアステールを見る。


「…ありがとうグロリア。そこまで僕らの事を考えてくれるんだね。…うん、分かった。この後はアステールは職務に戻るんだよね。あまり根を詰めすぎないようにね。レフト、アステールをよろしく頼むよ。」


 そう言われたレフトは背筋を伸ばして敬礼をすると、グロリアの椅子を引き、中庭を後にした。食器を下げるライトはチラリとアステールを見る。アステールの表情は真剣そのものだった。きっと今夜は荒れるだろうなと心が痛むライト。いつもアマルやウシュックと対談した日の夜は、うなされて中々寝付けないでいたことをライトだけが知っていたから。


「ではグロリア、アステールの代わりに申し訳ないけれど、もう少し付き合ってもらうね。」


 アマルの優しい声が広がる。アマルの少し息の多い声が、より儚さを強調させる。瞬きをした間に静かに眠って、そのまま目を開けないんじゃないかと不安になるほどだった。


「では後日円卓の間にて、私とアステール様、アマル様と夜凪様でお話をという事で…。」

「うん、準備はルルリラ達にお願いするよ。すまないね、まだ慣れないのにこのような事をさせてしまって…。それに…アステールから求婚を申し出たというのに、そのアステールに婚約者が、などという話を…複雑だろうに…真剣に考えてくれてありがとうね、グロリア。」

「……いいえ…。そもそも私は王族というものが苦手で…正直なところここに居るべきではないものですので…彼が声をかけてくださった事の方が、私には考えられなかったというか…。ですがこうなった以上、多くを見聞きした私が、民の声を陛下へ届けなければならない。下町の現状を知るのは私なのだから。このままではこの国が民の不満に溢れかえってしまう。そんな時に、多国間との不仲などあってはならない。築き上げてきた大切なもの…多くを犠牲にして成り立ったこの国の力を…他国との関係を、そんなに簡単に手放してしまったら、余りにも報われない…。犠牲になった者達に…顔向けが…。この国を継ぐという事は、犠牲になっていった者達と残された者達の想いも引き継がねばならない。だからこの目で多くを見てきた…。陛下がお一人で守って来たこの国を少しでも良いものにして…誰もが笑って、ただ些細な事でもいい、皆が小さな事に幸せを感じられるような、そんな生活を…。」


 アステールはハッとして顔を上げた。アマルの雰囲気に呑まれ、つい素で話してしまった。最近連れられてきた村娘が王族を前にそんな事を言うなど許されない。しかし、目の前のアマルは小さく微笑んでいた。


「やっぱり…何があってそうなったかは分からないけれど、君は…アステールだね。」

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