第9話 最強はダイヤ
「ご迷惑をお掛けしました。実は弟が…グロリアがガラスのような髪の人に連れて行かれたと騒いで仕方が無くて…。それがアステール様だと分かるや否や、直ぐに城下町へ向かうだの城へ乗り込むだの…度を超えたシスコンのあのバカ兄貴が、冷静ではいられなくなったようで…。」
グロリアの家へ連れられた一同は、ダイヤに出されたお茶を飲みながら話を聞いていた。
「グロリア、それで?話があるんだろう?」
「ここは私が。先日、森の中で怪我をされていたお嬢様をお見かけした王子が、城へ連れ帰りました。意識の混濁が見られた為、我等の身の安全も含めた行動ですので、ご了承を。その後、お嬢様が城の花瓶を割ってしまったのです。その金額はおよそ2百万。直ぐに弁償は出来ないとのことで、使用人として住み込みで雇い、労働による返済をお願いした所存です。」
「二…百万…!グロリア…ほ、本当なのか…?」
「勿論、ご家族の皆様にはお嬢様のお給料の一部を毎月お送りさせて頂きます。それを差し引き、期間はおよそ三年間のお預かりになります。」
全て自分に任せて下さいと言っていたライト。成る程な、とグロリアは小さく頷いた。
「さ、三年間なら、こちらへの仕送りは要らないので、妹はこの村で、住み込みせずに通って働いて稼げば…俺達家族も協力するので、そうすれば三年で、返済は、可能では…。」
焦りを隠せないダイヤが歯切れ悪くそう言う。
「グロリア、お前もこの家から、弟達から離れるのは、それは寂しいだろ…。何も住み込みにする必要は…。」
「王族のお側に居れられるのです、私達はお嬢様の身の安全も考慮して、この選択が最善かと。」
一歩も引かないライト。ここは譲るわけにはいかないのだ。アステールの為に。
「いや、だけど…城が安全では…。」
「ご了承下さいましたら、まずは十万、こちらが負担致しましょう。」
そんなライトの言葉に、テーブルに置いていたダイヤの手がピクリと動く。
「…金か、結局。」
「やべっ…ライト、さん…!兄貴に金での取引は…!」
「妹をここに置いて出て行って下さい。俺は、金や権力を振り回す輩が、一番嫌いなんです。」
笑顔の奥に怒りを抑え込むダイヤ。空気が固まった。
「…ふむ、これは交渉決裂だなライト。」
「ん…?グロリア…何か言った…。」
ダイヤの隣に座っていたアステールが立ち上がる。そしてグロリアの手を取り口を開く。
「お兄さん、私はこの人に恋をしてしまったのだ。この七色に光る髪、触れば壊れてしまいそうな唇…!儚げな目…!!優しい笑顔…!!この美貌全てに!!!」
「ア、アステール様…!?」
「この人を見た途端…!紅潮する頬、上がる体温…!早まる動悸!これを恋と言わず何と言おう!!私の恋を止めると言うのか…!?それが許されるというのか…!?否、許されてはならないのだ…!」
その様子を見たダイヤは口を開けて固まる。ハッとしたアステールが咳き込み椅子に座りなおす。
「す、すまない、つい。という訳だ。時折ここには帰らせてもらうから、許してくれないか…?」
「…無理矢理にも程があるだろ馬鹿かコイツは…。」
小さく溜息が漏れるグロリアを見ずにアステールは続ける。
「私の一番を…見つけてしまった…!お願いだ…!お兄さん…!」
そんな切実なお願いに、一瞬固まったダイヤは頭を抱えて大きな溜息を吐いた。緊張が部屋を包み込み、グロリアの唾を飲み込む音がアステールにも小さく聞こえる。
「そんな…そんな可愛い顔をしてお願いされたら…駄目だとは言えないだろう…!」
何を言い出すのかと驚いたグロリアがダイヤの顔を覗き込む。ダイヤは涙を流していた。
「げっ…!?泣いて…!?」
「グロリア…俺が幸せにしたかった…!小さい頃には…俺のお嫁さんになるって言ってきかなくて…!そんなグロリアを…ずっと側で…家族みんなで…大事にしたかった…!ぐすっ…アステール様、散々の御無礼をお許しください…!兄弟には、俺からちゃんと、伝えておくので…!!きっと今、みんながグロリアに会えば、泣いて全力で引き止めてしまう…!だから直ぐに行って下さい…!どうか、どうか、俺達の可愛いグロリアを、よろしくお願いします…!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔でグロリアへ手を伸ばす。そんなダイヤの姿に若干の引きを必死で隠し、その手を取った。そのままグイとグロリアを引き寄せるダイヤ。
「泣かせたら…殺す。」
アステールにもライトにも聞こえないくらい小さな声で、ダイヤはそう低くグロリアに伝えた。グロリアにとって一番尊敬していた兄のダイヤが、実はアストを超えるシスコン具合だったということは本人だけが知らないのだった。
何事も限度を超えないように、という事ですね!笑笑
なんともキャラの濃いグロリアの兄2人なのでした