謎の宝
ギリアムは、村の集会所で、袋の中身を確認していた。
入っていたのは、装飾品や、通貨そのものまである。数えてみたら、この村が数年は楽に暮らせるだけの量があった。
喜ばしいことではある。ただ、あまりにもあっさりと手に入る金というのは、逆に疑念を生じさせる。
何故こんなお宝が村のすぐそばに落ちていたのだろう。しかも、この宝は血みどろで、汚れていた。親切な大金持ちが落としていくには、物騒すぎる。
集まった皆が、どうしたらいいのか、と目で告げている。
皆の視線が集う先には、腰を曲げた老人がいた。
村長だ。村の最年長にして、代表。これだけの宝、村長の判断なしには受け取れない。
金は、金を呼ぶ。しかして、厄介ごとも持ち込む。
それこそ、この宝が知られれば、また新たな盗賊団に襲われるかもしれない。今回のような幸運は、二度も三度も訪れないだろう。
「どうしますか?」
警備隊長として、ギリアムが皆に代わって判断を促した。
この村の長は、生真面目だ。突然の幸運を喜べるほど、欲深くはなかった。
村長の判断は、少しばかり時間をおいてから下された。
「これは、受け取らぬ」
村長が言うと、男衆は、閉じていた口を一斉に解き放った。
村長の判断を良しとする者、宝がもったいないという者、さまざまだ。
「よいな?」
はっきりと言った老人の目は、力を失ってはいない。鋭い目に射抜かれて、皆はまた静かになる。
「ギリアム」
「はい」
「これを村において、使おうものなら、またいらぬ争いが起きよう。すぐにとは言わぬ。だが、早いうちに、村から外に出さねばならぬ」
「はい。どのようになさいますか?」
「ノートスへ持っていき、ギルドにでも納めよ。ギルドならば、これを有効に使うだろう」
静かに告げられ、ギリアムは少しばかり驚いた。
「領主様でなくて、よろしいのですか? これだけあれば、村の税を向こう七年は払えますが」
「よい。領主様は、いささか金への執着が強い。税はいつも通りに納める。このような貢物をしては、他の村々からの、疑念も呼ぶだろう。ここは、平和があるだけの小さな村でよい」
「かしこまりました」
「明日、ノートスへ運べ。何人かで行くのだ。慎重にな」
言い終わると、村長は杖を突きながら、集会所を出て行った。
とたん、集まっていた皆が、さまざまに言い合う。
「もったいねえな。これを捨てるなんてよ」
「いや、村長のご判断が一番だ。金を隠し持っても、いずれバレる。その相手が領主様だったどうする?」
「全部を持って行かなくてもいいんじゃないか? いざという時のために取っておけば、傭兵を雇うこともできる」
「やめとけ、傭兵なんざ。王国兵でも怪しいってのに、ならず者に金なんか出したら、村が潰されちまうわ」
「最低限、村で使う分を残せないか? ガタが来ている家の補修もしてぇし、農具を新調すりゃあ、畑仕事も捗る」
様々な意見が飛び交う。宝を惜しむ声の方が多いだろうか。
しかし、ギリアムは、それらの意見を切り捨てた。
「村長の仰ったように扱う。これは集会所で保管するぞ。明日の朝まで、二人ずつ交代で警備する。変な考えは起こすなよ」
それから、ギリアムは警備のスケジュールを立てた。なるべく意見がくいちがう者同士を一組にして、宝に手を出させぬようにした。
「いいな、くれぐれも、変な考えを起こすな。俺は、この村が好きだ。ここに住む奴らもな。そんな奴らが、金に目がくらむなんて姿は見たくない」
念押ししてから、ギリアムも集会所を出た。