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Knight of the girl ~少女と黒い猫~  作者: きと さざんか
2:盗賊
8/21

盗賊団消滅

 ギリアムの家に連れてこられて、どれくらいの時間が経ったろうか。

 メイは、ただ恐ろしさに震えて、マーシーの腕の中にいた。

 いつ来るか分からぬ相手というのは、実に厄介だ。来るまでの時間、ずっと怯えていなければならない。

 来たら、略奪の始まりだ。小さな村の自警団では、盗賊相手にどれだけ戦えるものか。

 一分を一時間とも感じる中、マーシーがメイを抱く手を緩めた。


「マーシーさん?」

「大丈夫、大丈夫よ、メイ。ちょっとだけ、待っていて」


 そう言い残して、外に出ようとする。


「マーシーさん! ギリアムさんが、家から出るなって!」

「メイはそこにいて。大丈夫、怖がらなくていいから」


 マーシーはメイを気遣いながら、外をうかがいつつ出て行った。

 一人残されたメイは、目からあふれる涙をぬぐうこともできずに震える。

 一人は嫌だ、一人は心細い。誰か、一緒にいて。

 祈るように思っていると、家の扉が勢いよく開け放たれた。

 ついに盗賊団が来たのか。

 杖を構えようとしても、それだけで何もできない。法術ほうじゅつを念じる余裕など、どこにもなかった。

 しかし、メイの予想は大きくはずれた。


「メイ! もう大丈夫よ!」

「ふえっ?」


 涙でぼやけた視界の中、人影があった。聞こえたのは、弾んだ、嬉しそうな声だ。

 マーシーだった。まだあふれてくる涙を拭きつつ立ち上がると、また抱きしめられる。

 今度は、赤子をあやすような優しい抱擁ほうようではなかった。息が詰まりそうになるくらいの、力強い抱きしめ方だ。


「マーシーさん、何が……?」


 尋ねると、マーシーは、


「助かったの、私たち!」

「助かった……?」

「えぇ!」


 マーシーの声に、男の言葉が続いた。


「盗賊のやつら、いなくなったらしいぜ」


 ギリアムだ。マーシーと一緒に帰ってきていたらしい。


「え? なんで……」


 いきなりの展開に、メイは付いていけない。とにかく村は安全になったということは理解できたが、


「ったく、手間をかけさせるよなあ」

「ひぅっ!?」


 耳元で聞こえた、慣れた声でようやく心が落ち着いてきた。


「ジー……ク?」

「おう、戻ったぞ」


 黒猫のジークムントが、いつの間にかメイの肩にいた。

 いつもと変わらぬ声音こわねは、まるで何事もなかったかのように告げてきた。


「ジークのお手柄……、ってわけでもないか。ジークの奴、なんでも、盗賊どもの様子を、見に行ってくれていたらしい」


 ギリアムは、ジークの様子を見て褒めるべきか怒るべきか悩んでいるようだった。


「様子を、見に?」


 姿を見なかったのは、そういう事情があったからか。確かに、ジークムントは黒猫の姿をしている。人に気付かれないように動き回れるのだろう。

 考えると、気が抜けた。


「おい、メイ、大丈夫ふがっ!?」


 肩にいた黒猫を、思いっきり抱きしめる。締め落とす勢いで。


「バカッ、バカジーク! そんなことしたら危ないのに。見つかったら、殺されちゃうのかもしれないのに!」

「いや、げふ、でもオレ、見た目猫だし。サーヴァントだって見抜けるやつは、うがが、おい、メイ、ちょっと力入れす……ぐぐぅ」


 なにやら言っているが、許してやらない。主人マスターを不安にさせるダメサーヴァントの言うことは、無視してやる。

 でも、と思って、


「よかった、ジーク。本当に、何もなくて……」


 きちんと主人マスターのもとに帰ってきたのだから、許してやらないこともない。

 ジークは、メイの声を聞いて、申し訳なさそうに言う。


「……わりぃ。安心させようと思ったんだけどよお」

「バカッ。心配した」

「すまねえ。泣かすつもりは、なかった」

「泣いてないもん。怒ってるだけだもん」

「そうか……って、メイ、力入れすぎぎぎ」


 悶絶する猫の叫びを聞きながら、メイは力をこめる。

 本当に無事でよかった。それを言葉ではなく、行動で示し、生意気な黒猫が気絶するまで抱きしめてやった。

 メイがそうしていると、扉の方から、ギリアムではない別の男の声が聞こえてきた。


「ギリアム、なあ、こんなのが落ちてたんだけどよ……」

「ん? なんだ?」


 ギリアムと男は、また外に出たらしく、声が遠ざかっていった。

 しばらく、マーシーはメイとジークムントの様子を見守ってくれていた。そうして、思いついたように言ってくる。


「ねえ、メイ。今日はうちに泊まらない? 荷馬車もまだ出られないみたいだし、今からノートスまで行くのは、大変だと思うの」

「えっ、でも……」

「大丈夫よ。このまま帰ってしまう方が、心配になるもの。兵隊さんが来てくれるまで……、ううん、メイが居たいっていうなら、好きなだけ泊まっていいわよ?」


 マーシーは、心の底から心配してくれているようだ。村の危機が何事もなく去ってくれた安心感もあるのだろう。

 好きなだけ、と言われて、メイはつい甘えたくなった。ギリアムも、マーシーもメイにとっては頼れる大人だ。だが、


「ううん、マーシーさん。私、早く帰る」


 メイも、一端いっぱしの冒険者だ。薬草のクエストもある。甘えてばかりはいられない。

 事態は、まだ完全に落ち着いたわけではない。連絡用の早馬も出せないだろう。連絡も無しに部屋を空けたままだとネリーが、クエスト報告をしなければエムが、心配してしまう。


「そう……」


 マーシーも、メイの身を案じてくれている。それを知っているので、メイはほんの少しだけ、と甘えることにした。


「あの、今日だけ、泊まっていっても、いい?」


 控えめに言うと、マーシーはまた満面の笑みを浮かべてくれた。


「えぇ! 美味しいご飯、たくさん食べさせてあげる!」


 本日何度目か数えられないくらい、マーシーはメイを抱きしめてくれた。

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