黒い少年
黒衣の少年がいた。
頭からつま先まで、墨で染めたかのように黒い。青空の下にいる者としては、酷く不似合いだった。
歳は、十と、その半分くらいだろうか。落ち着いたたたずまいで、のんびりと空を眺めていた。
少年がまとっているのは、黒いコートだった。首どころか、口元まで襟が覆っている。厚ぼったい生地は、そのままくるぶしのあたりまで重苦しそうに垂れ下がっている。
腕には、漆黒の手甲をはめていた。足も、靴ではなく金属らしい光沢を放っている。
黒くないのは、かろうじて見える白い顔と、金色の瞳だけだった。
服に合わせたかのように黒い髪は、肩まで。そして、その上には、尖ったものが乗っていた。尖ったそれは、せわしなく動いていた。前へ横へ、時には後ろにも向けられている。
飾りではない。少年の意志に合わせて動く、耳だった。
「ったく。こっちに来なけりゃ、死なずにすんだのにな」
腰のあたりに、くるりと回る、尻尾もあった。
人間そのままの姿ながら、動物のような耳と尻尾という付属品付き。知識があるものなら、少年の姿を見て、亜人と呼んだかもしれない。
人間ではない、人間に近しい姿をもつ者。森人族や鉱人族という種族が広く知られている。
だが、少年に、森人族の特徴とされる長い耳はない。鉱人族よりは背が高く、屈強な肉体も持っていなかった。
尖った耳が頭に、尻尾が腰にありながら、亜人とは違う特徴だった。
「ふん、これで全部仕留めたか。逃げたのはいるけど……、まあ、いいか」
何とも気楽そうだった。手甲をはめたまま、器用に頬を掻いている。
「帰るか」
短く、自分に言い聞かせる。ここで突っ立っているのは、時間の無駄だ。
「あいつ、泣いてないといいけどなあ」
一人でつぶやくのは、罪悪感を紛らわせるためである。本来ならば、自分はこんなところにいてはいけないのだから。
歩きだそうとして、少年は右手に持ったままだった塊を思い出した。
「あ、こんな土産はいらないよな」
適当な場所に放り投げる。べちゃり、という音は無視。
「土産、土産、かあ。なんかあるかな」
少年は、コートが汚れるのも構わずに、しゃがみ込んで戦利品を漁り始める。
あるのは、貴金属の類ばかりだった。ネックレスに指輪なら見た目が良さそうだ。金貨や白金貨は、そのまま使えるだろう。さすがに金歯はいらないと思って、見ないことにした。
集めてみると、両手では持ちきれない量となった。ただ、そのどれもに問題がある。
「うへ、べっとりだ。これじゃあ、あいつは喜ばないよな。適当に置いとくか」
赤い汚れは、簡単には落ちそうにない。
少年は、集めたものを、これまた落ちていた袋にザラザラと流し込んだ。口を縛り、肩にかけると、それなりに重さを感じる。
今度こそ帰ると決めて、
「よいしょっとねー」
姿をかき消した。