気付いて欲しかった
自分の恩人は、実はとんでもなく鈍感なのだと判明した。
ジークムントは、適当な家の屋根に上り、月を眺めながらさきほどメイと交わした話を思い出す。
「……あの状況で、どうしたらそんな結論が出るんだよ」
人の姿ならば、頭を抱えていたくらいに呆れた。メイは臆病なこと以外にも、問題を持っているようだ。
ジークムントが言いたかったのは、当然、黒い子供、己が姿を変えた時の話であった。
ジークムントは、冗談は言っても、嘘は言わない。だが、メイにも隠していることはあった。
その一つが、人の姿になれることである。姿こそ人の子供程度だが、戦い、特に物理的なものならば他に並ぶものはいないと自負している。
自分を造った法術師が、そのように設計したからだ。ジークムントは、目的に合わせて設計された中の一つである。
造られた当時の記憶は無い。覚えているのは、法術師に造られた事実と、自分の性能と、すさまじい虚脱感を抱えたままさまよっていたこと、そして、メイに助けられたことである。それ以外の記憶はない。
おそらく、メイに出会わなければ、ジークムントは命を落としていただろう。メイは、ジークムントの命の恩人だ。
世界で一番大切な人。何があっても、守り通し、幸せにしなければならない人だ。
だが、メイはジークムントをサーヴァントにしてしまったがために、家を追い出されてしまった。
メイの法力は、一流の中の一流だった。ジークムントに出会わなければ、今も王都で幸せに暮らせていたはずだ。優秀な法術師として、歴史に名を残せたかもしれない。
実のところ、メイは力を失ったわけではない。ジークムントの維持に、力の大半を持っていかれているだけなのである。
ジークムントは、とにかく燃費が悪い。なるべくメイに負担をかけないようにしているが、それでもメイの法力の八十パーセントは貰っている。それも、常時だ。
並みの法術師なら、とっくに法力を吸い取られて空っぽになっている。メイは優秀であるがため、ジークムントをサーヴァントにするという不幸を負ってしまった。
何度も姿をくらませようと思った。メイのあずかり知らぬところで朽ち果てれば、メイの幸せも取り戻せるのではないかと。
それが、今となっては一緒にいなくてはならない相棒となった。ジークムントがいなくなると、メイはとても心配する。恐怖する。
この厄介な黒猫を、口には出さないが、家族として大切にしてくれているのだ。それが申し訳なくも、嬉しい。
散々、悩んだ。悩みぬいた結果が、メイを幸せにするという答えであった。
盗賊を始末したのも、巨人族を追い払ったのも、全てはメイのため。もっとも、盗賊を始末したせいで、今回の事件が起きてしまった。いくら反省してもたりない。自分の短慮を情けなく思う。
メイは、優しい子だ。戦いに向く性格ではない。今回の件で血なまぐさいことは、なるべく控えようと自戒した。メイはなにやら気合を入れた様子であったが、相棒である少女は他愛ない会話をしながら薬草を取りに行くくらいのクエストが丁度いい。
冒険者を勧めたのは、気弱すぎる性根に、少しばかり胆力を持たせるためだ。決して、英雄にならせるためではない。
メイはメイのやりたいように生きて欲しい。そのために力が必要ならば、ジークムントは協力を惜しまない。持っている力を全てメイのために使う。
誓いを新たに、月を見上げる。
「ただ、あの鈍さだけはどうしようもないかもな……」
こればっかりは、どうしたらいいか、さっぱり見当がつかなかった。




