表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Knight of the girl ~少女と黒い猫~  作者: きと さざんか
3:災難再び
17/21

襲来・絶体絶命

 しかし、状況は好転しなかった。

 ジークムントの目が光る。耳は、音を拾おうとして落ち着かない。


「確かに、ヤバいな、こりゃ」


 扉の前にいるギリアムが、つぶやいた。


「俺にも聞こえるぞ。あの兵隊ども、村まで巨人族(ジャイアント)を連れてきやがった!」


 もはや黙っていられないとばかりに、ギリアムが外に出た。


「マーシー! メイ! お前たちは奥に……、いや、村から出ろ! なるべく遠く!」

「ギリアムさん!?」


 メイにも聞こえる。戦いの音、ではない。人の悲鳴ばかりが、あたりに響いている。

 すぐさま飛び出した。

 外は、酷い有様だった。悲鳴を上げている兵士など、またマシな方だ。

 転がっている者が、何人もいた。うめき声を上げているならまだ良い。踏みつぶされ、もぎ取られ、人の形を失った者が多い。

 ジークムントの言った通り、魔物は巨人族(ジャイアント)だった。身長は三から五メートルはあるだろうか。それが五匹もいる。人の家が、まるでおもちゃのようだ。

 メイは、あまりの惨劇に吐きそうになった。人の生き死にを見たのは、初めてだった。一人や二人ではすまない目の前の光景は、昔、本で読んだ地獄そのままだ。

 口元を抑えながら、あたりを見る。兵士たちはもう戦えないようで、武器はあちらこちらに投げ捨てられている。

 そんな中で、ギリアムが一人の兵士を捕まえていた。何やら激しく言い合っている。


「お前が隊長なんだろうが! なにしてやがった! 村に魔物を連れてくるなんて冗談じゃねえ!」

「し、知らない! 仕方ないんだ! 私は戦い方なんて知らない、分からない! あんな魔物を相手にしたことなんてない!」

「ちっ! ならせめて、村の皆を連れて逃げろ!」

「い、嫌だ、そんなことをしている暇は無い! 殺されてしまう!」


 兵士は、ギリアムの手を振り払うと、一目散に逃げていった。ギリアムが呼び止めようとしていたが、お構いなしに村から出ていってしまった。


「くそっ!」


 ギリアムが悪態をついていた。それでも、元冒険者の意地か、巨人族(ジャイアント)の群れの前に、毅然と立つ。


「あなた!」


 飛び出そうとしたマーシーを、メイは懸命に押さえた。


「マーシーさん、ダメっ! 危ないよ!」

「でも、ギリアムが、ギリアムが……!」


 大切な人が、戦おうとしている。それも、一人きりで、無謀に。そんな様を見たら、誰だって平静ではいられない。

 だからといって、女性が一人駆け寄っただけで状況は変わらない。むしろ、


「死んじゃうよ!」


 転がるものが、増えるだけだ。


「マーシーさん、お願い、村の人たちに声をかけて! 逃げている人もいると思うけど、みんなに教えてあげて!」


 メイが懸命に説得すると、落ち着かないながらに、マーシーは分かってくれた。

 まだ力ない足取りだったが、メイの頼み通り、村の家を回ってくれていた。


「メイ、お前も逃げろ」


 ジークムントが、メイの肩から降りる。すると、そのままギリアムの方へ歩いていこうとする。


「ジーク!」


 猫のくせに、本当にメイを守ろうというのか。


「お前も、村の皆を逃がすの、手伝え。マーシーだけじゃ無理だ」

「なに言ってるの! ジークも一緒に逃げてよ!」

「言ったろうが、守るって」

「できないよ、ジークじゃ!」


 相棒は、メイの制止を、聞いてくれない。危機感のかけらもない声で、巨人族(ジャイアント)の群れに向かっていく。

 戦っているギリアムが見える。どう考えたって勝ちっこないというのに、勇ましく剣を振るっていた。

 それでも、勇ましさだけでは、力の差はくつがえせなかった。巨人族(ジャイアント)の一匹が、ギリアムを蹴り飛ばした。


「ぐあっ!」


 力をいれたようにも見えないのに、ギリアムは小石のように飛んできた。

 メイは、慌てて駆け寄る。

 ギリアムは意識を失っていた。ケガも酷い。引退したとはいえ、冒険者をただの一撃で叩きのめすなんて、信じられなかった。

 慌てて、治癒ヒール法術ほうじゅつを使う。未熟な自分でも、いくらかは役に立つだろうと、一生懸命に法力マナを使う。

 そこへ、重い音が近づいてきた。はっ、と顔を上げると、巨人族(ジャイアント)の一匹が、こちらに向かってきている。


「あ……」


 ギリアムを抱えて逃げようとするが、遅い。巨人族(ジャイアント)は拳を振り上げ、メイとギリアムを叩き潰そうとした。

 目を閉じることしかできなかった。せめてギリアムだけでも助けたかった。このまま潰されたら、マーシーが悲しむ。

 胸の中で、唱える。ごめんなさい、と。ネリーと、エムと、マーシーと、そしてジークムントに。

 こんな自分でも、死ねば悲しむ人がいる。ネリーは泣き、エムは肩を落とすだろう。マーシーはギリアムがいなくなったら、どうかなってしまうかもしれない。

 ジークムントは、主人マスターであるメイが死ぬと、命を繋げられない。守ると言ってくれた黒猫も、いなくなってしまう。

 目をつむって震えていた。来るであろう巨人族(ジャイアント)の拳を、覚悟した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ