嫌な予感
ギリアムは、宝をギルドに納め終わると、そのまままっすぐ村への帰路についた。街に来たついでに妻に土産でも買ってやりたかったが、用事が用事だ。久しぶりの街を、楽しむ気にはなれない。
宝を受け取ったメガネの受付嬢は、中身を見ても、眉一つ動かさなかった。ギルドでは、あの宝も大したものではないのかもしれない。ただ、今後は、村からの依頼を優先的に受けてくれると言ってくれた。
ありがたい話だ。小さな村の依頼など、とるに足らないと捨てられることもある。宝は全て納めた。クエストの優先権くらいならば、見返りとして貰ってもいいだろう。
ギリアムは、すぐにでも休みたかった。昨晩は、寝ずの番をしていたので、眠い。それは、共に来てくれた村の者も同じようで、皆で苦笑しながら帰路についた。
帰り道、村の近くにある林で、ギリアムたちは兵士たちがせわしなく走り回っている現場に遭遇した。
盗賊団のことが、もう領主に伝わったのか。兵士たちは林の中を調べているようだった。こちらを見ると、隊長だろうか、足早に、ギリアムたちのところに来た。
「村の者か?」
「ああ、そうだ」
ふむ、と隊長は首を傾げる。どうしたというのだろう。
「これをやったのは、お前たちか?」
これ、と言われ、隊長が指さした方を見る。と、そこには小さな山があった。
見たばかりでは、山が何であるか理解できなかった。何かが重なっているようではあったが、それくらいだ。
ただ、鼻の奥がむずがゆかった。ギリアムも知っている匂いだ。思い当たるものがある。
血の匂いだった。山は、よく見れば人が、死体が積みあがっているものだった。
「これは……?」
血の気が引く。
ギリアムの様子に、隊長はすぐに気づいたらしい。
「お前たちがやったものではないようだな」
ならば、通ってよい、と隊長は部下たちへ指示しに戻る。
「おい、ギリアム……」
隣にいた仲間もまた、顔色が悪かった。
馬を急かし、速足で現場を去る。
「あれ、昨日の盗賊ども、か?」
誰かがつぶやく。おそらく、間違いあるまい。
「……逃げたんじゃなかったのか?」
また誰かが言う。しかし、ギリアムの頭にまでは入ってこなかった。
ギリアムは、メイのサーヴァント、ジークムントが言った言葉を思い返す。
途中で引き返した、とジークムントは言っていた。ギリアムは、てっきり盗賊たちが道を変えて、行商人たちを追ったのだと考えていた。
しかし、実際は違った。盗賊たちは、殺されたのだ。山になるような単位で。ノートスへ向かったとき、死体など見かけなかった。林の奥に隠されていたのだろうか。
ジークムントが見たのは、仲間が殺されて逃げかえる盗賊たちだったのだ。
一体、誰が盗賊たちを討ったのか。
村の近くに、名の知れた勇者などいない。傭兵たちが通りがかりに殺していくにも死体は多すぎるし、それらしい騒ぎは全く聞こえなかった。昨日、バリケード前で待機していた間、喧騒など感じられなかった。
ただ、一匹の黒猫が軽い足取りで戻り、盗賊たちはいなくなった、と伝えてきただけだ。
実際、その後どれだけ待っても、盗賊は一人も顔を見せなかった。数人で様子を見に行ったが、ジークムントが言った通り、盗賊たちは見当たらなかった。
あの時は村の平和は守られたことに喜んでいたが、さきほどの死体の山を見てしまうと、安心が逆に不安として大きくなっていく。
「これも、村長と相談しないといけないな」
なんとも重苦しく、苦渋に満ちた顔で、ギリアムは呻いた。




