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俺と異世界とチャットアプリ  作者: 山田 武
【強者の権利】面倒事対処 その05【最下の義務】

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85/132

スレ85 裏家業はやっぱり黒

皆さん、お待たせしました!



 そして、森の中で教師と二人っきり。

 一瞬で着替えたのか、闇色に近い装束にその身を包んでいる。


「……そっちの方だったんですね」


「今さらだね。──アサマサ、序列者である君に要請が来ている。別行動になってもらったのは、これが目的だ」


 キンギル先生はいつもと違う呼び方で、真面目とは違う冷酷な表情で指令を告げた。


「……サーシャ様の護衛については?」


「それこそ必要ないだろう。実力はすでに観測済みだ。刺客が来ることはない、あの建物はそういう風にできてる」


「……初代勇者様の結界、ですか」


「ほぅ、知っていたのか。アレは国家機密に近い、厳重に情報封鎖をしているんだがな」


 初代勇者(アキ)から聞きました、などと言ってはいけないのだろう。

 しかし、何を秘密にしたのだろうか? あとで指示された場所を探ってみるか。


「──まあ、それは序列者だからということにしておいてください。それよりも、その要請とやらについて説明してください」


「そうだったな──アサマサ()、君には森の掃除をしてもらいたい。これは他の序列者との共同作業にもなるから、挨拶をするには最適なタイミングだろう」


「掃除? まさか、危険な魔物を予め排除でもする気ですか?」


「それもそうだけどね。多すぎると、いずれ魔物たちが森から溢れてしまう。そうなることを防ぐことが、ここら一帯を一時的に貸し切るための条件なんだよ」


 口調を戻し、話しやすくなったキンギル先生はそう内情を教えてくれた。


 魔物は一定の地域に一定の数が集まると、徒党を組んで暴れだす。

 通常よりも強力なボス魔物が誕生し、かなり厄介な戦闘になるんだが……今はいいか。


「ここに居る序列者は?」


「十位である君、それに九位であるレイル君と七位と四位。そして、君のクラスの先輩である二位のクーフリ君だよ」


「二位……『絶──」


「ああ、忠告しておくよ。彼女の前で、その呼び名を言わない方がいいよ。それによって起きた騒動の結果、彼女は二位の地位に上り詰めたんだからね」


 ……ああ、そういうこと(察し)。

 ずいぶんと気性が荒いみたいだが、その時期に入学しなくてよかったよ。


「けれど、それ以外にもは生徒たちの安全を守らないといけない。貴族を守らなければいけない、そんな面倒な決まりもあるからね」


「……それ、教師が言っていいんですか?」


「あははっ、大丈夫だよ。とにかく、そういうことだから──君一人で、この役割を果たすんだ」


 はへっ? と変な声が漏れたそのとき、この場には俺しかいなかった。


「……いや、なんのための戦闘装束だったんだよぉおお!」


 森の中で慟哭する声は、とても虚しく辺りに響き渡っていった。




 先ほどの叫びに魔力を混ぜたのがよかったのかもしれない、魔物がその声に誘き寄せられるように群がってきたのだ。

 探知に脳を使う必要もなく、夥しい数の魔物たちであった。


「なんで俺独りで……って、そういうこと、なのか?」


 俺はこの状況を、イジメとしか考えられなかったポンコツな脳を嘆く。

 そうだった、この世界は異世界でレベルという概念が存在するんだ……俺にはまったく関係ないけど。


「そうか、称号か!」


 正直、忙しすぎて確認できていなかったうえに放置していた[称号]というシステム。

 俺という平凡なモブであろうと、一発逆転のチャンスを与えてくれる可能性。


「アイツらも言ってたもんな、称号なら強化することができるって」


 称号はあくまで外部から俺を強化する。

 道具が俺自身の成長に影響しないように、称号もまた俺の変な体質には反映されない。


 だからこそ、称号は集めれば集めるほど有利になる……悪影響があるものも手に入るだろうが、それ以上にプラスな称号を集めればいいだけだ。


「……って、だいぶ増えてるな」


 魔物が来ているが、今の自分に何ができるのかを確認しておく。

 新しい魔法が使える、ということはないし特殊な武術が使えるように……ということもないが、なんだか補正系が増えていた。


「(孤闘者)、なんだか凄そうだな」


 効果は単独での戦闘時、能力値を向上させ身力値の回復速度を高めるそうだ。

 また、あらゆるスキルにも補正が入るらしく、まさに俺向きなスキルだと言えよう。


「こういう称号が他にもあるんだから、まだまだ俺は強くなれるのか……」


 戦狂いのようにアイツのような考えを抱いているわけではなく、ただ生き抜くために必要な力が欲しいだけだからな。


 そのためにサーシャに護衛をしてもらっているが、物量に押されるかもしれない。


 だから、俺もまた質を磨く必要がある。

 物量で押し潰せないほどの質になり、俺を殺そうとする可能性を減らす。


 そして、サーシャに守ってもらえば俺は寿命まで生きていけるだろう。


「……どうせなら、最後はアイツらを見送ってから死にたいな」


 まあ、だからこそ今は生き延びる必要があるわけで──現実逃避は止めて、そろそろ戦いを始めようか。


「戦闘にスペックを全振りして、あとはもう全自動でやってもらおう。俺の意思が混ざると、もう完全に負けそうだし」


 先ほども言ったように、物量に押されて負けるのもまた質の弱みだ。

 そんなときの対策を、アイツはとっくの昔に教えてくれた。


 ──実行しよう、誰でもできる膨大な数の敵に囲まれた時の対処法を。



では、また一月後に!

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