スレ85 裏家業はやっぱり黒
皆さん、お待たせしました!
そして、森の中で教師と二人っきり。
一瞬で着替えたのか、闇色に近い装束にその身を包んでいる。
「……そっちの方だったんですね」
「今さらだね。──アサマサ、序列者である君に要請が来ている。別行動になってもらったのは、これが目的だ」
キンギル先生はいつもと違う呼び方で、真面目とは違う冷酷な表情で指令を告げた。
「……サーシャ様の護衛については?」
「それこそ必要ないだろう。実力はすでに観測済みだ。刺客が来ることはない、あの建物はそういう風にできてる」
「……初代勇者様の結界、ですか」
「ほぅ、知っていたのか。アレは国家機密に近い、厳重に情報封鎖をしているんだがな」
初代勇者から聞きました、などと言ってはいけないのだろう。
しかし、何を秘密にしたのだろうか? あとで指示された場所を探ってみるか。
「──まあ、それは序列者だからということにしておいてください。それよりも、その要請とやらについて説明してください」
「そうだったな──アサマサ君、君には森の掃除をしてもらいたい。これは他の序列者との共同作業にもなるから、挨拶をするには最適なタイミングだろう」
「掃除? まさか、危険な魔物を予め排除でもする気ですか?」
「それもそうだけどね。多すぎると、いずれ魔物たちが森から溢れてしまう。そうなることを防ぐことが、ここら一帯を一時的に貸し切るための条件なんだよ」
口調を戻し、話しやすくなったキンギル先生はそう内情を教えてくれた。
魔物は一定の地域に一定の数が集まると、徒党を組んで暴れだす。
通常よりも強力なボス魔物が誕生し、かなり厄介な戦闘になるんだが……今はいいか。
「ここに居る序列者は?」
「十位である君、それに九位であるレイル君と七位と四位。そして、君のクラスの先輩である二位のクーフリ君だよ」
「二位……『絶──」
「ああ、忠告しておくよ。彼女の前で、その呼び名を言わない方がいいよ。それによって起きた騒動の結果、彼女は二位の地位に上り詰めたんだからね」
……ああ、そういうこと(察し)。
ずいぶんと気性が荒いみたいだが、その時期に入学しなくてよかったよ。
「けれど、それ以外にもは生徒たちの安全を守らないといけない。貴族を守らなければいけない、そんな面倒な決まりもあるからね」
「……それ、教師が言っていいんですか?」
「あははっ、大丈夫だよ。とにかく、そういうことだから──君一人で、この役割を果たすんだ」
はへっ? と変な声が漏れたそのとき、この場には俺しかいなかった。
「……いや、なんのための戦闘装束だったんだよぉおお!」
森の中で慟哭する声は、とても虚しく辺りに響き渡っていった。
先ほどの叫びに魔力を混ぜたのがよかったのかもしれない、魔物がその声に誘き寄せられるように群がってきたのだ。
探知に脳を使う必要もなく、夥しい数の魔物たちであった。
「なんで俺独りで……って、そういうこと、なのか?」
俺はこの状況を、イジメとしか考えられなかったポンコツな脳を嘆く。
そうだった、この世界は異世界でレベルという概念が存在するんだ……俺にはまったく関係ないけど。
「そうか、称号か!」
正直、忙しすぎて確認できていなかったうえに放置していた[称号]というシステム。
俺という平凡なモブであろうと、一発逆転のチャンスを与えてくれる可能性。
「アイツらも言ってたもんな、称号なら強化することができるって」
称号はあくまで外部から俺を強化する。
道具が俺自身の成長に影響しないように、称号もまた俺の変な体質には反映されない。
だからこそ、称号は集めれば集めるほど有利になる……悪影響があるものも手に入るだろうが、それ以上にプラスな称号を集めればいいだけだ。
「……って、だいぶ増えてるな」
魔物が来ているが、今の自分に何ができるのかを確認しておく。
新しい魔法が使える、ということはないし特殊な武術が使えるように……ということもないが、なんだか補正系が増えていた。
「(孤闘者)、なんだか凄そうだな」
効果は単独での戦闘時、能力値を向上させ身力値の回復速度を高めるそうだ。
また、あらゆるスキルにも補正が入るらしく、まさに俺向きなスキルだと言えよう。
「こういう称号が他にもあるんだから、まだまだ俺は強くなれるのか……」
戦狂いのようにアイツのような考えを抱いているわけではなく、ただ生き抜くために必要な力が欲しいだけだからな。
そのためにサーシャに護衛をしてもらっているが、物量に押されるかもしれない。
だから、俺もまた質を磨く必要がある。
物量で押し潰せないほどの質になり、俺を殺そうとする可能性を減らす。
そして、サーシャに守ってもらえば俺は寿命まで生きていけるだろう。
「……どうせなら、最後はアイツらを見送ってから死にたいな」
まあ、だからこそ今は生き延びる必要があるわけで──現実逃避は止めて、そろそろ戦いを始めようか。
「戦闘にスペックを全振りして、あとはもう全自動でやってもらおう。俺の意思が混ざると、もう完全に負けそうだし」
先ほども言ったように、物量に押されて負けるのもまた質の弱みだ。
そんなときの対策を、アイツはとっくの昔に教えてくれた。
──実行しよう、誰でもできる膨大な数の敵に囲まれた時の対処法を。
では、また一月後に!




