スレ65 右から左へ受け流す
お待たせしました一ヶ月ぶりですね
「……ふぅ、どうにか勝った」
終了を告げる音が鳴り、俺はようやく一息吐くことができた。
悔しそうな表情を浮かべる男は、小さな声でボソリと呟く。
「くっ、こんな弱そうな奴なのに……」
ああそうさ、たしかに俺は弱い。
だが、それなりに修練は重ねているんだ。
「イイ勝負でした、次があればまた良い闘いにしましょう」
「チッ、従者の分際で……」
笑顔を浮かべて手を伸ばしたのだが、弾かれてしまい少し顔が引きつる。
俺って、序列十位という結構な地位に就いたはずなんだけど……どうしてここまで恨まれなければならないのだろう。
なんだか悲しくなってくるが、そんな思いはいつまでも続かない。
「──あっ、アサマサ師匠!」
辺りからキャーという黄色い声が上がる。
先ほどまで女子が上げるのは、卑怯者に向けるバッシングだけだったんだがな。
現れたのは、イケメンフェイスの少年。
見る者すべてに好意を示すような明るい笑みを浮かべたその姿……特に女子の皆様がその甘い顔にやられていく。
「なあ、レイル。俺、物凄く嫌われてるんだが……お前が序列に入ったときも、こんな感じだったのか?」
「えっ、そんなことなかったですよ? むしろ皆さん、こうして歓迎してくれましたし」
「……そうなのか」
レイルが顔を見せればキャーキャーと盛り立て、レイルが見えない角度では俺に向けてブーブーと非難の声を上げる。
容姿か、やはり容姿なんだろうか(哀)。
「にしても師匠、ついに始まりましたね。ぼくも師匠の闘い方を拝見して、勉強させてもらいますよ」
やはりイケメンな笑顔を見ると、本当にそうなのだろうかと疑ってしまう。
というか、異世界って容姿が良い奴ばっかりいるらしいし……地球だけが過酷らしい。
まあ、盛り上がった話題の一つを思いだしたみたが……今は関係ないか。
大切なのは唯一つ──このまま恨まれていては、いつまでも戦闘に明け暮れる毎日が続いてしまうということだけだ。
「レイル、何かコツとかないか? というかずっと闘わないと駄目なのか」
「はい。最初の月だけは、どうしようもありません……師匠なら簡単ですよね?」
「いや、そうじゃなくてさ。勝てば勝つほどなんというか……嫌われる気がしてさ」
首を傾げ、小さく笑うレイル。
そんな動作にも黄色い声が上がり、まさにその通りだよと言わんばかりの殺意が俺に向けられる。
「はははっ、そんなはずあるわけないじゃないですか──そうですよね、皆さん?」
『はーい!』『おう!』
「……ねっ?」
「何がねっ? だ。俺、このままだと本当に学園の嫌われ者確定じゃないか」
思い当たる理由など、レイルに勝ったことぐらいしかないんだが……俺だって指示が無ければ、普通に降参していたんだ。
なのに事情を知らないヤツは、イカサマだの八百長など裏で言って……そういうの、全部分かっているんだからな。
「そうですか? みんな、師匠のことを凄いと思ってますよ」
「ああ、たしかにそうかもしれないな」
「ですよね!」
よくもまあ平然と外に出てこれるぜ、的な感じの感嘆であればしているかもしれない。
そんな視線に覚えがあるし、実際そんな奴も数人ではあるがいるようだ。
「──そうだ師匠! これから、ぼくにまた剣術を教えてください! そうすればきっとみんなも、師匠のことを認めてくれますよ」
「ダメだな。剣術スキルを持ってない奴に習おうとするバカはいないだろ。それに、あれは簡単に身に付くモノじゃない……死に物狂いで覚えたんだよ」
何より、俺が教えたくない。
レイルは指示だから習わせるが、それ以外の奴に何が悲しくて、数少ない切り札を一枚開示しなければならないのだ。
それにレイルだって、俺に使える剣術のすべてを教える気はない……まあ、アイツらの剣技全部使えるわけじゃないし、そういった意味ではあながち間違ってないのか。
「そうですか……残念です」
「ところでレイル、お前が来たのはこの話をするのが目的だったのか?」
「あっ、いえ、違います。実は序列のルールにはいろいろありまして、その一つに代行というものがあるんですよ」
「代行?」
なんだろう、物凄く嫌な予感がするこの響きは……。
「何かの理由で闘いに出られなくなった序列上位の者の代わりに、下位の者を闘わせることができる制度でして……その、師匠をもっと闘わせたいらしく、みんな対戦を受けるだけ受けて、師匠に回したんですよ」
「…………」
なんでも、いちおうは互いに利益のあるシステムとのことだ。
恩を売って売られ、これをこなしておけば次に無理難題を吹っ掛けられても一度だけ逃れることができるなど……すでにこの時点で無理難題だが、そこは仕方がない。
「もちろん、下位の者にも拒否する権利やさらに下位の者に回す権利があるのですが……今月いっぱい、師匠は対戦を拒否することができませんので」
「つまり……あれか? 俺はこれから、最悪九人分の対戦を毎日やるのか」
「いえ、そうではありません」
よかった、と息を吐こうとした瞬間、ニコリと笑ったレイルの発言。
「──九人分ではなく十人分です。その、ぼくも師匠の闘いぶりがみたいので」
異世界の弟子は、隠れドSかもしれない。
ではまた、一か月後に
皆さんの応援で短くなるかもしれません




