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俺と異世界とチャットアプリ  作者: 山田 武
【異世界学園の】面倒事対処 その04【劣等従者】

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53/132

スレ53 曲射は曲芸射撃の略称



 一戦目はグリアルムの圧勝で終わった。

 なんだか試すような動きが多かったので、まだまだ自分でも納得していないような表情も頷ける。


「お疲れ様ー」

「……さすが兄さん」


「お前たち、せめてその格好はどうにかならないのか?」


「「無理ー」」


 用意されたソファに、寝転がっていたのが不味かったのだろうか。

 額に手を当てて頭を抱えるグリアルムに、俺たちはキョトンとした顔を浮かべる。


「しかしまあ、この調子でいけば勝利は間違いなしだな。このまま勝ち続けてくれよ、グリアルム」


「……アルで構わん。それと、まったく同じ順番は準決勝と決勝以外では許されていないからな。次の試合、お前たちのどちらかが出なければならない」


「「!」」


 そんな……このまま何もしないで勝利ってのがドリームでジャスティスだったのに!


 ファウの方はそれを知っていたかどうか分からないが、驚いているので……たぶん知らなかったか忘れていたのだろう。


「さあ、次はどちらが出る? 相手は同じ一年だ。そう苦戦はしまい」


「俺が「……私が出る」」


「そうか。なら、次はファウが出ろ」


「任せて」


 いやいや、待って待って!

 今、俺も出るって言おうとしたから!


 先に出ておけば、どんどんとレベルアップしていく強敵から逃げられると思っての行動である……が、それは所詮浅知恵だったのだろう──


「だがまあ、相手はAクラス。先ほどの三年よりはマシと言うだけで、あまり違いは無いと思うが」


「……アサマサ、助け──」


「そうかそうか、ファウが出てくれるならありがたい! 頑張ってくれよな、ファウ」


「……薄情者」


 Aクラス? やりたくもありません!

 油断したファウなど、人身御供になるぐらいしかない。


 三試合目がどこに当たるかなんてまったく分からないが、『面倒事対処シリーズ』が作動した今……俺に抜かりはない。


「そうだ、アル。三試合目はまたアルが最初に出れるのか?」


「ああ、可能だ。かつては一巡しないとダメだったらしいが……従者が出れるのと同じ理由でな」


 ありがとう、貴族の誰かさん!

 従者を出せるようにしたことに関しては未だに腹が立つが、そういう風に設定してくれたことには感謝してやるよ!


「それじゃあ、アルとファウが順番で出てくれよ。……なんだよ、ファウ。その目は」


「交代を要求する」


 まあ、当然と言えば当然だ。

 だが、俺は闘いたくないのだ!

 だって、指示でも無いのに闘う必要なんてまったくないから!


「ふっ、そんなセリフは俺に一度でも勝ってから言うんだな」


「……一度勝ったくらいで」


「そう言うな、その分アサマサには相応の罰が当たるさ」

「……ん、納得」


 おいおい、お二方。

 そんな不謹慎な話を、わざとらしく本人の目の前でしなくてもよろしいでしょう?


「お、おい、罰っていったい──」



≪勝者は2-C! 続いては1-AvsXクラスの勝負です! 二チームは、すぐに入場門に向かってください≫



「ん、出番」

「頑張れよ、ファウ」


「いや、だから内容は──」


「兄さん、いっしょに来て」

「そうだな、見にいこうか。ああ、アサマサはここでゆっくりとしていても構わない」


「えっ? あ、ああ……」


 ついそう答えてしまうと、二人共部屋から出て会場に出てしまう。


「ハッ! しまった、逃げられた!」


 慌てて追いかけるのもなんだか集中しているファウに失礼なので、今回は諦めてこの場所で待機することを選ぶ。


「まったく、これも『面倒事対処シリーズ』に関する事柄か? 念のため調べてみるが、一度見た時と内容は変わらない。アルの言うアレ(ばつ)と内容が一致するなら、まだマシな方だよな」


 この部屋には誰もおらず、魔法による監視や盗聴が無いことは確認済み。

 安心してスマホを取りだすと、鼻歌を交えながら操作を行っていく。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「しかし……ファウもサボる気が無ければマジで強いんだよなー。習った弓の使い方、少し教えたらさらに良くなりそうだ」


 少しスナイパーっぽくなりそうだが、那須与一がやったとされる『扇の的』もいちおうできるようになるし……まあ、本人が望むならって話だが。


「兄妹揃って縛りプレー。あのグレイル氏との闘いに向けて張り切っておりますなー」


 ファウも亜光速は使わず、大弓を使った攻撃だけでAクラスを圧倒している。


 光魔法で幻影を作ったり、瞬間的な目くらましはしているようだが、光魔法の正しい使い方ではあるので気にしない。


「ただ、射ってからのアレが物凄く気になるよなー。何、俺へのあてつけ?」


 矢を二本番え、一本を放ったと思えば相手の頭上を越えたもの。

 そこに曲射したもう一本の矢が届き──ビリヤードのように弾きあい、ちょうど相手の背後に命中する。


 そんな技を披露しつつ、ファウは順調に勝利を得ることになった。


 俺も可能な技術の一つだけど、教えた本人は相手の矢でもそれができるんだよな。

 なのでそこまで驚かないが、さすがに平然とそれができていることに頬が硬直する。


「前の試合で使えなかったから使ってなかったとすれば、この短期間でその術を習得したことになる。……ハァ、凡人にはできない偉業だよ」


 数週間、手を何度も傷つけながら習得した技術が一瞬で学ばれている。

 なんだか……疲れちゃうよな。



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