スレ48 不遇武器×武術=チート
取りだした小槌を振るうアサマサは、とても『様』になっていた。
武芸の達人には到達しないものの、一流の使い手と遜色ない扱い方である。
「アサマサって、小槌のスキルでも持ってんのか? 鏃はよく分かんねぇけど、たしか槌に関するスキルはあったよな」
「あるにはあるけど……スキルに任せた動きじゃないわよ」
フェルナスは、アサマサの武器の使い方を見てそれに気づく。
「スキルの熟練度が高いとかそういうレベルの話じゃないの。自分の意志で制御して、正確に武器を振るっている。たぶん、かなり練習したんじゃないのかしら」
「へー、俺は魔法系のスキルしか持ってねぇし。よく分かんねぇな」
「取っておいた方がいいわよ。魔力が無い時にも戦えるように」
魔法使いは一般的に、後方で詠唱を行って高威力の魔法を使う者だと考えられていた。
近接戦闘職が時間を稼ぎ、その間に魔法を完成させる。
魔力が尽きればポーションを飲むか瞑想を行い、すぐに再詠唱を行って強力な一撃を加えていく──故に他の行動はいっさいせず、ただひたすらに魔力を練り上げるのみ。
前線が突破され、魔力が尽きかけた状態の魔法使いなど取るに足らない非力な赤子。
一部の種族を除き、魔法使いとはそうした存在として扱われる。
例外の一つが、フェルナスのようなエルフ族である。
魔法を巧みに操り、弓による牽制も行える森の狩人。
彼女もまたそうした環境で育ったが故に、スキルを習得していたうえで弓の技術を洗練させていたのだ。
「それで、アサマサの方だけど……何をやっているの?」
[見たままのこと]
「俺の目には、アイツが鏃を小槌でブッ叩いているようにしか見えねぇけど。………よくもまあ、あんなにピンポイントに飛ばせるよな。フェル、あれって真似できるか?」
アサマサは、片手で刺突を捌きつつ反撃を行うようになっていた。
手に挟んだ鏃を宙に抛ると、正確に矢筈の部分を叩いて兄妹に向けて飛ばしている。
「……無理よ、あんな離れ業。エルフは目と弓で射る種族。あれで飛ばせる方がふざけてるわよ」
「そりゃそっか。よくわかんねぇけど、だんだん面白くなってきやがったな」
「そうね。貴女の従者は凄いわね……」
[当然]
甲冑で見えないはずのサーシャの顔に、笑みが浮かんだように思えたフェルナス。
一瞬頭が真っ白になるが、すぐにハッと瘴気を取り戻すとアサマサたちの戦いに集中するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「やっべー、いつか死ぬな」
「ならば、今すぐ死ね!」
そう言われても、死にたくないのが人間という強かな生き物。
刺突を捌いていた方に握られていた鏃を一つ、身体強化で投げ飛ばす。
それを回避した結果空いた隙を突き、バックステップで後方へ退避する。
「ふざけた戦い方をしおって。本気で戦う気はあるのか!」
「ないない、勝てば官軍だ。それに、俺の方はサーシャ様の指示だから戦っているだけだと言ったじゃないか」
矢を叩き、妹の方へ飛ばし牽制を行う。
詠唱を行っていたので、黙らせておかないと面倒だからな。
この戦い方、意外とイケるんだよ。
小槌さえあれば、打つ物は何でもいい。
物体の軸を見定め、正確に飛ばしたい場所へ打てるようになれば完璧である。
ただ、俺はケントと違い、瞬時にそれを見定めることができないから半人前なんだ。
しかし何度か試した形状の物なら、少しぐらい軸がずれていても補正ができる。
「……まあ、いい。その鏃が尽きれば、お前の命運もお仕舞いだ。それともご自慢の闇魔法に、逆転の一矢でも隠してあるのか?」
「……さぁね、どうでしょうか」
闇魔法に、ではなく虚無魔法にだな。
今は闇魔法を纏って光属性の攻撃を弾いているけど、正直威力が出ずに困っているし。
全力でやると魔道具が壊れる……今度、予備を作ってもらおう。
「まっ、そろそろ終わらせるってのは同感。ただ、勝つのは俺だけどな」
「貴様……」
「これをこうしてっと……はい、完成」
闇魔法を籠め、魔力で編んだ糸を──小槌と大鎌の持ち手に結び付ける。
同時に、大鎌を手に取って代わりに小槌を地面に引き摺らせておく。
「鎖鎌術ってやつだ。知ってるか?」
「そんな偏屈な武術、知るはずなかろう!」
「まあ、別に宣伝したいわけじゃないから別にいいか。……それじゃあ、始めるぞ」
前にやらされたときは気でやってたが……うん、魔力でも同じようなことだろう。
◆ □ ◆ □ ◆
「なんだよ、あれ……」
「嘘、信じられない」
二人はこのとき、初めてサーシャの言葉の意味を知ることになった。
「大鎌を使って刺突剣と同じ……いや、それ以上の速さで戦えているのはまだいい。そこも充分おかしいけど。でも、さすがに小槌の方はおかしいだろ」
「魔力で繋げてあるから、ある程度操作もできるとは思う。だけど、どうしてさっきみたいに矢を打っているの?」
身体強化で神経を強化したアサマサは、先読みに近い動きで刺突剣を捌いていく。
同時に、矢によるファウルムの攻撃にも対応していた。
大鎌を僅かに揺らし、振動を起こして宙に上げると、ちょうどそこに抛っていた矢の矢筈の辺りに小槌が勢いよくぶつかる。
遠心力も加わり速度が上がった矢は、彼女の魔法を貫通して攻撃に転換していった。
「これ……今回勝てるんじゃねぇか?」
「ええ、これはもしかしたらするわね」
二人はこの戦いを見て、対抗戦での勝利を考える。
たとえ相手が一芸に長けていようと、アサマサ以上に芸に富んだ者はいるのか?
……いや、芸で勝負するんじゃないけど、なんだか勝てそうな気がする、と。




