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俺と異世界とチャットアプリ  作者: 山田 武
【始まる】面倒事対処 その01【準備】

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スレ18 砕ける聖剣



 闘いは始まった。

 俺は生成した剣に魔力を籠めて、強度をできるだけ高めていく。


 ……たとえどんな聖剣であろうと、聖剣というだけで切断力が高いことは分かる。


 リア充君がいきなり俺に突っ込んでくることはないし、魔力(MP)が0になる寸前を確認しながら、剣に可能な限り魔力を注ぎ込む。


 尽きかけて 回復したら また注ぐ

 延々続く ルーティーンかな

 アサマサ 心の川柳


 なんて変な川柳が浮かんだが、実際こんな感じでやっているな。


「……また、受け身の姿勢かい?」


「うーん、まあユウトさんが相手ならこれぐらい充分か。では、行かせてもらいます」


 未だに剣へ籠められる魔力に、限界点は確認されていない。


 初めて創ってからずっと魔力を籠めるという行為を行っているのだが、今まで自分で注いで満タンになったことはないのだ。


 収納系の魔法として創った“虚無庫(ストレージ)”に入れておくと、勝手に最大量まで溜まっているのだが……限界値っていくつなんだろうな?


 とりあえず1000ほど注げた“虚無剣(ホロウソード)”は、透明色から少しだけ不思議な色加減に変化していた……何色なんだろう、虹色っぽいけどそうとも言い切れない金とか銀もある。


 それを握り締めて体中に魔力と気力を張り巡らせ、軽ーく地面を蹴ってリア充君に剣を振るった。


「なっ!?」


 何を驚いてるんだろうな。

 ああ、最弱のはずなのに、相手の速度が予想以上だったからか。


 それでもリア充君は俺の剣速に対応し、聖剣で即座に虚無剣を弾いてくる。

 ……うん、剣越しに回路を読み取れば詳細も分かるかな?


 さっきまでは鑑定スキルも弾かれてたが、直接繋げば少しぐらい情報も分かるだろう。

 時間も稼ぎたいし、指示通りに罵倒をしながら──


「どうしたんですか? そんな風に驚いた反応をして。もしかして、自分の剣に斬れない物は無い……なんて、恥ずかしいことを思っていたんですか? ああ、それなら仕方有りませんね。世の中には、自分の想像を超える物ってのがあるんですよ」


「君はなぜ、そんなに早く動けるんだ。君のその速さは、騎士長のグラルさんの速さを超えるものじゃないか。それにその剣、君の魔法で作られた物のように視えるけど……僕の聖剣には魔法解除の効果があるはず。いったい、それにはどんなカラクリがあるんだ?」


 へぇ、そうだったんだ~。

 せっかく一瞬じゃ読み取れなかったのに、わざわざそんな大切なことを教えるとは……アイツらだったら折檻してくるだろうよ。


 魔法解除か、たしか魔力解除に使った魔力以下の魔法を無効化するって能力だったな。


 初期のリア充君の魔力量は……1000ぐらいだったと把握している。

 最初は余裕を含んでそうだし、それで失敗したのか。


 ──俺の剣、初期のお前と同量まで魔力を籠めたしな。


 聖剣は遠くから鑑定できないが、リア充君の方もまた、聖剣の影響を受けているせいかこちらを鑑定することはできない。


 だからこそ、本当は事前にしたかったんだが……それもまた、指示に書かれててさ。


[目に視える物がすべてじゃない、故に鑑定スキルは禁止(※特に自分自身)]


 ……なんで、俺のことなんだ?

 やっぱり、リア充君が隠蔽系のスキルを所持しているってことなのか?


 まだ見ぬ強奪系の能力者も絶対にスキルを隠しているし、この忠告はしっかりと受けないとな。


「カラクリ? ユウトさんの剣よりも、俺の剣が優れていただけですよ。ほら、気にせず闘いを続けましょうよ。そんな風に、今まで嘲嗤っていた相手にいつまでもビビっているようじゃ……好きな人に引かれますよ」


「……なら、魔法も使わせてもらうよ──“火球(ファイアボール)”“水球(ウォーターボール)”“風球(ウィンドボール)”“土球(ランドボール)”“光球(ライトボール)”“闇球(ダークボール)”!」


 ビーチボールぐらいの六色の球が宙に出現し、俺の下へと高速で飛んでくる。


 一度に発動させるのは優秀な証なんだろうが、それは属性魔法を未だに持っていない俺への当て付けなんだろうか?


 ──いずれにせよ、対抗しなければな。


「えっと、どうしてわざわざ口に出して発動させているんですか? ……ゴメンなさい。そういう痛いのが趣味の人も、世の中にはいますよね」

(──“虚無限弾(ゼロバレッド)”)


「……はっ?」


 そしてそれらの球は、ビー玉サイズの小さな弾に当たり──消滅する。

 一方でこちらの弾は、放たれた際の勢いを保ったままリア充君へと進んでいく。


「くっ、まさか思考詠唱スキルを持っているとはね。それにやっぱり、隠蔽スキルも習得しているとは──“聖壁(ホーリーウォール)”!」


 六発の虚無限弾は、リア充君の創りだした壁に当たって消滅する。

 ……まあ、魔力15しか籠めてないしな。


「さて、もう少し強くしますよ。受け止めてくださいね」

(──“虚無限弾・螺旋(スパイラル)”)


「ま、まさか……ぐわっ!!」


 ありゃ、もう壊れたのか?

 まだ二発しか撃ってないんだけどな。

 魔力30を籠めた槍状の弾丸によって、彼の壁はあっさりと壊された。


 いや、もう少し魔力を籠めろよ。

 どうせ俺相手だからって、最低限の魔力しか消費してないんだろ?


「すみません、あいにく加減ができないもので。あっ、やっぱりユウトさんの得意な剣で勝負した方が良いですよね。俺に教えてくれたんですもの……スキルを持ってない俺なんか楽勝ですし。いや、でもそれじゃあこの状況っていったいなんで生まれたんだろう?」


「…………殺す!」


 うわっ、マジもんの殺意じゃん。

 最初に会った頃のみんなが、それ以上の殺気を放ってたから別に気にしないけど……あのときの俺、よく気絶しなかったよな。


 虚無剣に少しずつ魔力を籠め、魔法解除に対応しようとする。

 ……まっ、折れたら折れたでまた別のを使えば良いんだけどな。


 さあ、勝負を続けようか。

 殺気で眼がイっているリア充君を見ながらも、剣を構えて攻めてくるのを待った。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 勇者と闘うその男に──そこに居る者全員が、初めは誰も期待していなかった。


 いつ負けるか、それを賭けて遊ぼうとしたり、なぜ挑発をするのか、聖女に長時間癒して貰いたいのか? と邪推する。


 どうしてステータスを隠しているんだ? 奪い甲斐のあるスキルを持っているのか? と今後の予定を企てる者らもいたほどだ。


 一番その中でマシな考えでも──ユウト君なら、ちゃんと手加減するよね? であることからして……誰も彼に期待していないことが如実に表れている。


 そして、勇者が殺気を放つ。

 その力の奔流に試合前のオーラをどうにか耐えられていた者も、失禁をして気絶してしまうほどの威圧だった。


 しかし、それを直に受けているであろう男は……それをサラッと受け流し、まるでそれが普通であるかのように振る舞っている。


 聖剣は眩い光を放ち、魔を払う勇者の相応しい輝きを魅せていた。


 対して、男の握る透明にも見える白っぽい剣は、男と同様にすべてが謎に包まれた不可思議さを醸し出している。


 それらがぶつかり合い、聖なる力と魔力が雷撃のように宙に広がっていく。

 彼らの力は空間を伝達し、その場にいる者全員に理解させる。


『……互角、あの無謀が【勇者】様と!?』


 未だに剣戟は続き、男が勇者とせめぎ合う様子が見て取れた。

 勇者が魔法を行使すると、男もまた詠唱を行わずに魔法を発動させて破壊する。


 ……魔法の威力は男の方が上であるのか、一度も勇者の魔法が男に届くことはない。


 だが、男の魔法も勇者の魔法を破壊した後は剣によって無効化されるため、勝負はなかなか終わらない……そう思われていた。


 ――しかし、少し変化が起こる。


「あっ、ヤベっ」


 男の剣がパキッと折れ、消失したのだ。

 勇者はそれを隙と考え、さらに猛打を行っていく。


 誰もそれを卑怯とは思わなかった。

 これまでの戦闘が、それを当然とするだけの信頼と信用を得ていたのだ。


 そしてそれを裏切ることなく、男はその攻撃もサラッと避け続け──


「ほいよっと」


 いつの間にか握り締めていた槍を使い、剣とぶつけて剣を防ぎ始める。


 もともと男が使っていた剣は、魔法によって生成された物だ。

 新たに武器を生み出すこと自体に、何も問題はない。


 ……だが、なぜ槍を使うのか。

 そのことを観客たちは思う。

 勇者ならば聖武具術スキルという、すべての武器を扱うスキルを持つ。


 聖武具はあらゆる聖なる力を帯びた武器のことを指し、聖なる力を振るう勇者にはそれらすべてを扱うだけの許可証が与えられる。


 だが、男は違う。

 剣術スキルすら持ちえない男が、勇者と剣術で渡り合った。


 なのにその剣の腕前を捨てて、今度は槍で勇者に挑む。

 意味が分からなかった……しかし、理解させられた。


 ──男は何を使っても、勇者に匹敵するだけの力を誇っていたのだと。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それから何度か打ち合うたびに、武器が壊された。


 剣、槍、斧、槌、鎌、刀、矛……使えばいずれ破壊され、何度も何度も新たな武器を生成していく。


 魔法による闘いは意味を成さず、いつまで経っても勝負に決着はつかない。


「……何なんだい。君は、今まで僕に力を隠して愉悦に浸っていたのかい!?」


 その状況に、リア充君は耐えられなかったようだ。


 似たようなことをグチグチと述べ続け、観客はもうドン引きなことを勝負の間中ずっと言い続けている。


「──いい加減、倒れろよぉおおお!!」


「……えっ、嫌ですよ」


 生みだすのも疲れたし、今度は“虚無庫”から取りだした棍を使い、聖剣を防ごうとしたのだが──


「あっ、なんかゴメン」


「……ぼ、僕の聖剣が……」


 俺の最初に使っていた剣のように、ポキッという軽快な音がこの場を支配する。


 今までの蓄積したダメージから聖剣が砕けてしまい、剣身が半分程になってしまい──粒子となって舞い散る半分より上の部分。


 この闘いで“虚無庫”から武器を取りだして使うのは初めてだったんだが……どんだけ硬くなってるんだよ。


 これまでの闘いで魔力を籠めればほど、武器が硬くなることを理解していた。

 それでも武器は魔力で絞り出せる範囲で、1ずつ上げて硬くしていたんだけどな。


 先ほどちょうど、100で作った武器を破壊されたので、“虚無庫”に入れておいたヤツに切り替えたんだ。


 でも、まさか壊れるとは……。


「許さない許さない許さない許さない許さないコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねーーーーーーーーーーーーッ!!」


「えっ? だから嫌ですって」


 そして、心が壊れたリア充君がポキッと折れた聖剣を握り締めて俺の下へやってくる。

 ──そろそろ終わりにするか、今はちょうど棍だから……。


 肩に棍を乗せ、重心を低めにしてリア充君が来るのを待つ。


「死ねー!」


「はい、終わり。棒技──『天地』っと」


「グギッ!」


 驚異的な速度で突っ込んで来たリア充君へグルンと棍を廻し、喉仏の辺りに差し込む。

 そして、魔力と気力を波動のように叩き込み浸透させていった。


「えっと、救護班お願いします」


 俺がそう言った途端、グラッと体を揺らしたリア充君が地面に倒れ伏す。

 ……どうして、こうなったんだろうな。



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