スレ123 運に抗う単純な方法
皆さん、大変お待たせしました!
「──ご苦労様です。報告書は、すでに受け取っていますよ」
キンギル先生の下へ向かうと、資料を呼んでいた。
どうやらその内容は、俺が依頼された内容に関するものらしい。
「いつの間に……じゃあ、生かしてもらうという提案にも?」
「それが君への報酬、ということになっても構わないのであればね」
「ならそれでいいですよ。あとついでに、またこっちでの身分を用意しておいてほしいですね。今回は……学園の方で雇う、執事とメイドという形で」
お代は高めに貰っておく。
表に露見していたらかなり揉めていただろう案件を、サクッと処理したのだから相応の礼は頂く必要がある。
教育はあとでするとして、まずは受け入れ先の確保をしておく。
あとはどう育てるか……うん、これからできることはいっぱいありそうだしな。
「分かったよ。これで、君への依頼は終了。錬金準備室に預けた彼らについても、一週間はあの中に居ても構わないよ」
「それだけあれば充分ですよ。依頼に関しては、公言しなければいいんでしょう? ただし、サーシャ様とハイトにだけは言わせてもらいますからね」
「そっちも織り込み済みだよ。君のことだ、身内には言うと思っていたよ」
キンギル先生には、読まれていたようだ。
隠してもいないので問題ないのだが、やはり教師に何かバレると言うのは……少々の罪悪感が湧いてくるな。
「二人に言うのは構わないよ。ただ、クラスメイトには誰であろうと言ってはいけないからね。もちろん、クーフリ君にもね」
「分かっていますよ」
そう言って、俺は部屋を出てきっと繁盛しているであろうXクラスが担当している迷宮の階層へ向かう。
望むままに暴れられる、それが力を持つ者に取ってどれだけありがたいことか……。
◆ □ ◆ □ ◆
「大繁盛だな……うん、予想通りだ」
闘技場を模したXクラスの階層には、大量の人々が集っていた。
クーフリ先輩によって拡張された巨大なコロシアムは、ありえないほどの規模を誇る。
今はバトルロイヤルの時間ということで、武舞台では大量の人々が戦っている。
それを眺める観客たちは、その激しい闘争に一喜一憂していく。
……ちなみに、賭博も兼ねているのでかなり儲かっているぞ。
「おう、アサマサか。何やってたんだ?」
「いやー、ちょっと他の所に何があるか見物してたんだよ。そうだ、ちょうどお前にピッタリな店があったんだぞ。あとで行ってみたらどうだ?」
「……どんな店なんだ?」
「おう、メイ──って場所なんだがな……」
途中から、辺りへ聞こえないように配慮しながらブラストに目的の場所を伝える。
最初は首を傾げていたが、コンセプトを伝えると……。
「ま、マジ?」
「ああ、マジマジ。さすがは異世界人の知識だよな、もう客がだいぶ集まっていたぞ。早く行った方がいいんじゃないか?」
「……変わってくれるか?」
「えっ、普通に嫌だけど」
上げて落としてみた。
店番……いや、迷宮番は順番なので、やはり規則は守るべきではないか。
なんて建前を振りかざしてしまえば、基本真面目なブラストは逆らえない……いや、正確には逆らうことができないのだ。
「アサマサ! テメェ──ぶほぉ……っ!」
「何やってるのよ、本当に。アサマサ、あまりブラストを挑発しないで」
「すまんすまん。ちょっとトラブルもあってな……癒しが欲しかった」
ブラストで癒されるわけではなく、ブラストをしばくフェルの姿を見るまでがワンセットである。
水魔法を吹き飛ばされるブラストの姿は、やはり俺に心の安寧をもたらした。
「ふーっ、今日もいい水魔法だったな」
「それ、褒めているつもり?」
「俺としては最上位の敬意を表しているんだが……普段、俺とサーシャ様のやり取りを笑うフェルなら分かるだろう?」
「それは…………まあ、分かるけど」
分かっちゃうのである。
なかなかの性格をしているのは、これまでの従者生活で重々承知だ。
「本当、どうしてアサマサっては従者なのかしら? 全然似合わないわよね」
[り]
「ええ、サーシャ様まで……答えは単純、生徒になるだけの才覚を持ち合わせていなかったから。要するに運が無かったからだよ」
実際、ステータスも平均値を叩きだす他の能力値と違い、運だけは0だった。
運頼りの生活なんてできない、力が必要な日々だったのはそれが原因なんだろうな。
「運ねぇ……そんなもの無くても、世の中生き抜けると思うけど? 実際、学園でアサマサが本当に困っているときなんて一度も無いわけだし」
「そうなるために、苦労したからだ。運に頼らずにすべてを完璧にやり抜く。そうすれば介在する余地が無くなって、求める結果が出る……入学試験のときは祈っちゃったしな。それが原因だろう」
期待してはいけない、それが運の要素だ。
予め属性だのスキルが必要なことを知ってしまったがために、それをどうにかできないかと思ってしまったのだろう。
どうしようもないからこそ、祈りを捧げてしまう……前にそんなことを、ナツキが教えてくれたっけな。
それでは、また一月後に。
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