スレ120 祭りの始まりは空砲で
皆さん、大変お待たせ致しました!
天に放たれる空砲。
こういった技術は、これまでこちらにやって来た異世界人たちが伝えているようだ。
今日はついに始まった学園迷宮祭初日。
別の都市からも多種多様な人々が訪れ、学術都市の中を巡っていく。
「まあ、遊ぶ以外にも目的がいっぱいあるんだろうけどな……」
思い当たるモノといえば、やはり情報収集などであろうか。
普段は強固な結界が張られているため、関係者以外が入るのは難しい。
中で起きる事案が軽犯罪程度で、生徒会長がヒーローごっこができていたのもやはりこれが理由だろう。
しかし、学園迷宮祭の間だけはそういった規制が緩くなっている。
すべてを見通す監視の目が足りなくなるのもそうだが、情報公開が行われるからな。
隠していると難癖を付けられるので、最高機密以外は開示している。
ただ、そのワンランク下の情報も他の国からすれば価値のある情報になるのだ。
「サーシャ様、これからどうするんだ? 俺は従者だから迷宮の方に向かって最後の点検とかをしてくるんが……護衛の方にはハイトが付いてきてくれるから、普通に楽しんでいてもいいけど」
[行く]
「そっか。無いとは思うけど、同朋が来るかもしれないからな。特に、学生で便利なスキルの持ち主の集まりだ……強奪持ちとか、来なきゃいいけど」
[IF]
もしも、来たらどうするのか。
強奪スキルは認識していなければスキルを奪えないので、俺に関してはもう狙われることはない。
同様に、サーシャは『矯飾の耳飾り』という魔道具でステータスを偽装してあるので奪われないし、同じ物をすでにハイトにも渡してある。
他の学生は……自分たちでどうにかしてもらいたいな。
そもそも全部仮定の話だし、人を相手にするより魔物から奪った方が効率が良い。
「……強奪はたしかに便利だが、それなりにリスクもあるらしい。その上位スキルならともかく、サーシャでもやり方さえ分かればできるらしい」
[?]
「まあ、まだあるかどうか分からない話だしな。とりあえず今は迷宮の最終調整をやるとしようか」
[り]
すでに外部からの受け入れは始まっているのだが、迷宮の内部には誰も来ていない。
今回の学園迷宮祭でも、そこは目玉イベントであり本来解放されない場所だ。
なのでここはとことん厳重にしてあり、警戒されている。
「……迷宮っての、誰にとっても必要なモノだからなー」
[?]
「いや、なんでもない。というか、もう言われずとも分かっているんだろう?」
[ひゅーひゅ-]
わざとらしい口笛の演技なんだろうか。
いちおうでも教えてくれているということで納得し、俺たちは迷宮へ向かう。
◆ □ ◆ □ ◆
途中でハイトを見つけて、いっしょに連れていく。
彼女もやることが試食しか無かったようなので、食べ物を渡せばついてくる。
ある程度知識を叩き込んではあるが、それでもこのタイミングで外部の者と揉めるのはいろいろと危ういからだ。
「ところでアサマサ、異様な数の人族どもがこの巣へ攻めてきたぞ。どうするのだ?」
「どうもしない。この巣の主……理事長はそれを歓迎しているんだ。だから、そこを借りている俺たちも招き入れる必要がある」
「わざわざそんなことをせずとも、我が睨めば……ヒッ!?」
「あー、はいはい。ハイト、とりあえずあっちから攻撃をしてこない限りは何をされても無視しておくべきだな。そうだな……ほら、矮小なる人族の些細な行動を気にしていたら切りが無いだろう?」
俺にしては珍しく出てきた、機転の利いた発言によってハイトは納得してくれる。
だが、この発言がのちのあの出来事に繋がる……ようなことにならないようにせねば。
「サーシャはどうする? たぶん、そのままだと難癖を付けてくるヤツが居ると思うんだが……やりすぎちゃダメだぞ」
[呪い設定]
「まあ、それが一番かな? 親切に解呪してやるってヤツが居たときのために、念のためそれらしい首輪とか作っておいた方がいいかもしれないな」
[り]
その瞬間、一瞬で首元にチョーカーが生成されるのだからビックリだ。
もしかしたら、誰かに予めデザインとかを伝えられていたのかもしれない。
あまりに現代風というか……ああ、なんというか見覚えがある感じなんだよな。
「アサマサ、我もそうした方がよいのか?」
「ん? まあ、したいならしてもくれてもいいぞ。サーシャの創るアイテムだから、それなりに性能良いだろうし……だろう?」
[使う?]
「あ、ありがとう……ござい、ます」
慣れない敬語でしっかりとお礼を言えたハイトにほっこりしつつも、辿り着いたXクラスに与えられた迷宮の階層内にて不具合が無いかの最終チェックを行う。
幾重にも確認をしておかないと、問題が起きてからでは遅くなってしまうからだ。
一つひとつ丁寧に調べていき、勝手に書き換わっている場所がないか探していく。
「ああ……やっぱりあった。悪逆の従者はずいぶんとまあ、嫌われているよな」
[処す?]
「殺るか?」
「どこで覚えたんだ、そんな言葉? 何もしません、侵入者には不幸になる呪いが掛かっているから放っておいても問題なし。ほら、全部元に戻せたからやることは終わったぞ」
こんなこともあろうかと、バックアップは予め作成してあった。
どうせ僻んだ奴らの悪戯だとは思うが……罰ぐらいは受けてもらおうか。
──そんなこんなで、祭りが始まります。
それでは、また一月後に!
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