スレ105 掃除は低いほど大変
皆さん、お待たせしました!
キンギル先生曰く、迷宮の攻略は学生たちのカリキュラムに含められた立派な講義なんだとか。
試験としても採用されており、攻略するだけでそれが成績となるらしい。
しかし、いつだって世の中は異常事態が発生するもの。
なぜか野生の魔王とエンカウントしたり、迷宮のボスが神器を操るアンデッドだったりと……運がいいのか悪いのか。
そんなアクシデントを未然に防ぐため、魔物たちの間引きを行う──それこそがキンギル先生の言うところの『掃除』であった。
「……さて、この階層も終わりっと」
俺以外の序列者も駆りだして行われるこの掃除では、溜まった魔物たちのリセットも兼ねているのだとか。
時間が経てば経つほど、迷宮の魔物は成長して強くなる。
自動的に進化を行うこともあるし、厄介なスキルを身に着けることだってあった。
それを防ぐにはどうすればいいか──早い話、それは生きているからこそ起きる現象でもある。
そんな暴論だが正論でもある考えを採用しているこの学園では、進化しても抗えないような強者を使って迷宮内の清掃活動を行わせているのだ。
「あと何階層だっけ? はて……十五層もあるのかよ」
今回清掃活動に参加したのは五人。
そのため一人がに十層を担当すれば、どうにかなるレベルだ……言葉にするのは簡単だが、学生じゃキツいレベルだろうに。
俺が担当するのは一階層から二十層。
簡単そうに見えるが、実は一番掃除するのが面倒臭い部分でもある。
「一匹でも残っていると、確実に生徒が狙われるからな……八十層以降なんて、それこそ実力者しか来ないんだから全然適当でも構わないだろうに」
だが、いつまでもウダウダ言っていてもどうしようもない。
この掃除が終わらなければ、俺は迷宮から帰らせてもらえないのだから。
「仕方ない、やりますか」
次の階層へ移動し、魔力を高める。
それを薄く引き伸ばし、迷宮の至る所へ解き放っていく。
「“探索”」
無魔法の一種である“探索”。
自分の魔力の内部で異なる魔力反応を見つけると、それがなんとなく分かるようになるという魔法だ。
同じような技は気にもあるのだが、そちらは魔物用というよりは人族用の技術なので今回はお預けである。
なので魔力を高め、攻撃へ移行した。
指先に魔力を集中し、絞って撃ちだすようなイメージを行う。
「──“魔力弾・追尾”」
見つけた座標へ向け、魔力の弾丸を放つ。
壁をカクンカクンと曲がる異常な軌道を見せるそれは、目標となる魔物の魔力を辿って延々と追いかけるようカスタマイズ済みだ。
「……はい、次」
これがこれまでの俺の作業である。
見つけた場所へ死を告げる弾丸を撃ちだすだけで、終了だ。
正直、迷宮が階層ごとに強固な結界を張っていなければ、迷宮の外からでも簡単にできた仕事ではある。
「もっと究極的なことを言えば、虚無魔法ならその結界も突破できるんだよな……確実にオーバーキルだから使わないけど」
通常の魔力は吸収できる迷宮だが、虚無の魔力を処理できるかは微妙なところだ。
前回の攻略では使っていなかったのだし、今回も使わないで掃除を行う予定だ。
──解析されるのも嫌なので、証拠は隠滅しておく方が良いだろう?
◆ □ 十九層 □ ◆
ちなみにだが、この学園迷宮はある意味人工的な迷宮だ。
ある程度法則性があり、秩序というものが内部を支配している。
そこには大きな意思の下で統率されているような……不思議な感覚があった。
「確実に主が居るパターンだよな。この学園の創設話から考えて、学園長と繋がりのある何者か……おそらく一位が」
その二つ名は『学園最強』。
そんな大層なモノを持っているにも関わらず、誰も見たことのない未知の存在。
同じく二位のクーフリ先輩は会ったことがあるらしいが……姿を隠しての邂逅だったため、全貌は知らないらしいし。
「──“魔力弾・追尾”」
これまでと同様に見つけた魔物に弾丸を撃ち、自分は何もせずに勝利を得る。
調子に乗って無双プレイをすれば、身を滅ぼす……経験者たちが語った体験談を俺は忘れてはいないのだ。
決して驕らず、完全に気を緩めてはいけない──信じられる仲間の前でのみ、それは許される。
「次の階層に行くか」
すでに十階層のボスと戦っているが、特に異常は見受けられなかった。
なのでそう危険な相手ではないと思う……はずだが、妙に違和感があったのだ。
「十層なら攻略できるが、二十層は攻略できていない……そんなパターンだったら予想通りにはなるのか」
学術都市に侵入者は居ないだろうが、内部で起きた出来事なのであれば対処にも手間が掛かってしまう。
クーフリ先輩も協力したという都市を包む結界は、外部からの攻撃を防ぐモノであっても内部で生まれた悪意をどうこうできるような代物ではない。
「学園内でトラブルってのは、主人公の定番ではあるだろうけど……ただの悪戯で済めばいいな」
気になるのが二十層、という時点でそこまでの危険ではない。
それでも念のため“身体強化”を施してから──下の階層へ向かった。
それでは、また一月後に!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや広告下の『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけますと幸いです。
誤字脱字報告、また質問疑問なども大歓迎です。
皆さんのご意見が、山田武作品をよりよくしていきます!




