第七話 行ってきおっぱい!
今日の朝にはミニミとメルミンさんに朝ごはんを『あ~ん』してもらい、その後すぐに寝たふりをした。
そうして午後まで仮眠をとった。寝たふりでもしないと昨日のように筋トレで動けなくなるまでやってしまうと考えたのだ。
筋トレは好きだが、このままでは一年たっても筋トレをしているかもしれない。それはそれでちょっと楽しそうなのだが、まずはこの世界について知っておきたい。
ものすごくこわいモンスターとか怪物とか魔女がいるかもしれない。そんな奴らに出会う可能性のある世界なのか、そうでないのかも知らなくては。
「おはようございますメルミンさん。ってもうこんにちは、ですかね?」
おれは、はにかみながら聞いた。
「そうね~、おはようでこんにちは~」
メルミンさんは笑顔だ。美人の笑顔ってなんて素敵なんだろう。
おれは身体を起こす。
「う、いって」
背中の傷はメルミンさんの塗ってくれた薬のおかげでかなり良くなった。問題は筋肉痛だ。腹筋だけでなく背筋も痛い。身体をちょっとでも動かすとものすごい痛みがおそってくる。
「あー、メルミンさんすいません。膝枕してもらえませんか?」
「え? まあいいわよ」
メルミンさんはおれの枕元に来て、頭部を支え、おれの頭の下に太ももをいれて太ももの上に置いてくれた。
ぽふっ。
「めっちゃ癒されます」
「うふふ、かわいい~」
メルミンさんがおれの髪をすいてくれる。その感触がくすぐったくて気持ちいい。
このままメルミンさんと癒しタイムを過ごしたい。
だが、このままではミニミがやって来て可愛く嫉妬して、おれはまた筋トレして一日を終えてしまうだろう。今日はそれじだけじゃあだめなのだ。
そんな幸せは毎日の日課にする! が、それだけではだめだ。
おれはメルミンさんの太ももの柔らかさに心も身体も癒され、筋肉痛も耐えられる!
「うおお!」
上体を起こす。
痛みがおそう。
おれは一旦、身体の力をぬく。
ぽふっ。
メルミンさんの太ももの柔らかな感触。
もう一度身体を起こす。
「行きます!」
「がんばって」
おれは身体を起こし、すぐに立ちあがった。
筋肉痛にだって耐える。こんなの背中にあった傷にくらべればなんてことはない。
前の世界のおれなら筋肉痛になったらトイレと食事以外ではゴロゴロしていただけだろう。だが、今は違う!
メルミンさんの太ももがおれを鼓舞してくれるのだ!
「立てました!」
「うん、すごいすごい! 痛いのにがんばってる!」
メルミンさんが拍手してくれる。
拍手までされると恥ずかしさもあったが、褒められるのは嬉しい。
人間、本気で褒められていることがわかれば嫌な気分はしないのだ。
「今日は、できればこの世界のことを教えてほしいんですが」
「いいわよ、でも先にお昼ご飯にしましょう。たくさん食べないと、傷の治りも遅くなっちゃうでしょ」
メルミンさんが小首を傾げる。
その仕草は可憐かつ上品だ。
「もちろんです。たっくさん食べてもいいですか?」
「うふふ、大歓迎よ」
メルミンさんが台所へ去っていく。
「カズヤくん、ミニミが外に行ってて帰って来てないから探してきてくれない?」
メルミンさんは台所から顔をだして両手を合わせている。
おっぱいが両腕におされて、むぎゅっと音を立てた。
その姿は可愛らしい。しかも素晴らしいおっぱいを見せられながらのお願い。
答えは決まっている!
「行ってきます! おっぱい!」
「おっぱい?」
メルミンさんは不思議そうにした。
「あ、まま、まちがえました!」
「いいのよ、おっぱーい!」
メルミンさんが片手でおっぱいを揺らした。もう片方の手で手を振っている。
「おっぱーい!」
「おかしな挨拶ね」
メルミンさんがそう言って微笑む。
「男としては理想的な挨拶ですよ!」
「そうなんだ?」
「はい!」
「じゃ、おっぱーい!」
メルミンさんは大きく片方のおっぱいを揺らした。
おれはそれに向かって言った。
「行ってきおっぱい!」
玄関の扉を開ける。
後ろではまだメルミンさんがおっぱいを揺らしながら手を振ってくれていることだろう。
いい気分だ。
これならどんなに嫌なバイトでも仕事でも頑張れる。
おれはこの世界で何か仕事をするのもいいかもしれない。
ニートの頃にはあり得なかった考えだ。
おれの気持ちにこたえるかのように、太陽が眩しい。青空はどこまでも広がっている。
「いまはまず、ミニミを探すか」
まずはミニミを探して、一緒にたくさんご飯を食べよう。仕事や他のことはその後だ。
おれはミニミを探そうと道を歩き出した。
◆◇
このあたりの道は土が固められて出来ている。中央の市場があつまっている場所では石畳だった。
映画やアニメで見るような中世ヨーロッパ風の街並みだ。見ていると冒険心が湧きたってくる。
ミニミは西暦三五〇〇年と言っていたが、ここは本当に未来の国なのか?
わからない。
でもいい場所だ。
すれ違うのは素敵なおっぱいの女性ばかり。男は一人もいない。
嫌悪感たっぷりの蔑むような視線を感じることもない。
奇異の目で見られることはある。それはおれが腰にタオル一枚巻いただけで、出歩いているからかもしれない。
「あの、すいません」
幼稚園くらいのかわいい女の子が話しかけてきた。
「なんだい?」
「えっと……。どうしてなにも着ていないんですか?」
女の子は恥ずかしそうに聞いた。
「ああ、おれは男だからね」
「おとこ?」
「うん。この世界にはいないってきいたけど、おれは男だよ」
「おとこ?」
女の子はおれが何を言っているのかわかっていないのかもしれない。
この世界にはもう『男』という概念がないのかもしれない。
「あ! カズヤー!」
ミニミがダッシュでおれの元にやってきた。
「ミニミお姉ちゃん!」
「ミュウ! この人は男なんだよ」
「おとこー?」
ミュウと呼ばれた女の子は首を傾げる。
ミニミは察してくれたようで、おれのタオルのことについて説明してくれた。
「うーん、もう少し大きくなったらわかるようになるよ。男はタオル一枚で過ごすんだって」
「わかったー」
ミュウと呼ばれた女の子は走り去っていく。その先にはお母さんがいて、おれたちに礼をしてくれた。
「なあ、ミニミ。おれは男だけど蔑まれたりしないんだな。迫害もされない」
「んー? あたりまえだよー。だって、カズヤおもしろいもん! みんなにねー、おっぱい腹筋トレーニングとかおっぱい背筋トレーニングとか教えたら興味津津だったよ! みんなカズヤを歓迎してる。よかったねーカズヤー」
ミニミが自分のことのように嬉しそうにスキップをしている。
張りのあるおっぱいは太陽の光を浴びてぷるんぷるんと揺れている。
「今日もいいおっぱいだな」
「ありがとー」
「メルミンさんから昼食ができたからミニミを呼んで来いって言われたんだ。戻ろう」
「うん!」
ミニミは頷いた。おっぱいもおくれてぷるるん! と跳ねる。
二人で並んで歩く。
手に、何かがふれた。
なんだろう。
ぎゅっ!
「え?」
ミニミの柔らかい手がおれの手を掴んでいる。
その手は温かい。そうか、おれはおっぱいをさわることはできないが、手をさわることはできるんだ。
ミニミは気恥ずかしそうに目を逸らした。その頬が赤く染まっている。
「かわいい手だな」
おれはその手を握り返す。
「カズヤがどっかいって道に迷うとこまるからつないどいたー!」
「ミニミのおっぱいも素晴らしいよ」
横にあるおっぱいは今日も上半分が露出し、そのチラリズムがとてもいい。いくら見ていても飽きない。
「ありがと……、なんかはずかしい……」
おれとミニミは並んで歩く。手を繋いで。
幸せだ。