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第二話 女神さま、イリス

「お姉さん! おれは……」

 

 おれはここ十年以上きちんと使用していなかった頭をフル回転させていた。お姉さんのおっぱいがおれの求めていたおっぱいなのだ。絶対にそうだ。だから、おれはお姉さんから離れたくない。

 あわよくばここで童貞を卒業したい!


「じゃあそろそろ別の平行世界に行って頑張ってきてね~。佐藤さんが苦労しないように色々と『配慮』しておいたから~ふふふ」


 お姉さんは両手を広げた。すると腕に隠されていたおっぱいがぷるんぷるん!と上を向いた。なんて張りのあるおっぱいなんだ。

 おれはこのお姉さんのおっぱいが人生で探し求めていた聖典であり、果実だと天啓をうけた。


 これだ。


 このおっぱいだ! もっと窒息死させてくれよ! なんで一度きりなんだ!


 だから、おれは――。


「お姉さん! おれは、お姉さんとずっと一緒にいたいんです! おれの探し求めていた聖女はあなたです!」


 三十五年の人生ではじめて告白をした。今までの人生で告白したことはなく、されたことは勿論ない。あったら速攻でおっぱいをもんでいたはずだ。

 ……いや、そんな度胸がおれにはないかもしれないが。


「え!? え!? わ、わたしはおばさんだし~だめだよ~」


 お姉さんは首をぶんぶんと横にふる。それにあわせて腰まで伸びている綺麗な金髪が軽やかに左右に揺れる。


 この反応は本当に嫌がっているのかもしれない。

 100%そう考えるのが普通だ。おれは三十五年間童貞だったのだから。けれどこのときのおれは猪のようにエネルギーが満ちていた。

 エネルギーの供給源はお姉さんのおっぱいだ。


 すばらしいおっぱい。まるくてやわらかくてはりがあって密着してくる。

 まだまだお姉さんを説得しようと頑張れた。


「お姉さんのことを忘れることなんてできませんよ? どの平行世界のおれも幸せになれなかったのはお姉さんが現実の世界にいないからです。おれはお姉さん(のおっぱい)がなければ幸せになんてなれません!」


 お姉さんの大きな瞳を見つめる。


「わ、わたしはね~女神さまなんですよ~? 佐藤さんは人間さんですよ? それにわたしにそんな魅力があるとは思えません~」


 お姉さんは頬を赤く染めて身体をよじる。その姿は扇情的でおっぱいが強調されている。


「魅力ならあります! それは絶対です! おれ以外の全人類全神様が否定しても、おれはお姉さんの魅力を語れます!」


「ふふふ~、ありがとう~佐藤さん♡素敵な方ね~」


 お姉さんの頬は赤いままだ。恥ずかしがっているのか、それともおれの目がおかしくなってそう見えるようになっているだけなのか……。


「佐藤さんがね~、色んな平行世界で徳を積んで幸せになれば~……。もしかしたら佐藤さんが神様になる日がくるかもしれないわね~ふふふ」


 お姉さんはおれを真っ直ぐに見つめて目を細める。

 何か眩しいものでもみるかのようだ。


 普段のおれは母親から汚物のような扱いを受け、父親からは存在を無視されているこのおれを――目の前のお姉さんは受け止めてくれている。


「お姉さん、そう言えばお名前は?」

「イリスですよ~」

「イリスさん、おれは絶対にあなたを諦めない!」


 気持ちは一直線。

 しかし、何か大切なことを忘れている気もする。


「佐藤さんが神様になるまでいくらかかるかわからないけどね~、ずっと待ってるね~ふふふ。

 あ~あと佐藤さんが徳を積めるように、他の女の子のおっぱいはもめないようにするけどいいわよね~?」


 気のせいだろうか、イリスさんの目が一瞬ギラリとあやしく光った。しかしそれも一瞬のこと。光の角度の具合でそう見えただけだろう。


「もちろんです。イリスさん以外のおっぱいなんて、イリスさんのに比べたら鼻くそに等しいですから」

「ふふふ~、わかったわ~。じゃあそれはできないようにメンテナンスしておくわね~ふふふ」


 お姉さんがおれの両手を優しく包み込んだ。

 その手は柔らかく、白く透きとおっており指がとても長かった。


「佐藤さん、あなたは――おっぱいがもめなくなる。……わたし以外のおっぱいを」


 包まれていた両手が熱くなる。イリスさんの両手が光り輝き、おれの両手は光で見えなくなる。

 ジュッ。

 両手が痛む。


「おわり~ふふふ~」


 お姉さんの両手が開かれるとおれの手のひらが見える。

 そこには白い龍のような跡があったが、だんだんと薄くなってすぐに跡形もなくなった。


「それじゃあ~、おっぱいのもめないおっぱいが大好きな佐藤さんのために~一番いい世界を紹介しま~す。みんな巨乳だよ~? すっごいよ~?

 でも、もめないんだよ~~? がんばってね~」


 おっぱいがもめない……!?

 それはまずいかもしれない。チャンスは多いほうがいいはずだ……。


「あの、イリスさん。お、おれ、どうなるんですか? イリスさんから離れたくないんですが? あと、おっぱいがもめないのはやっぱりとりけ――」


「じゃあね~、がんばって幸せになって徳を積まないと永遠に平行世界を繰り返しちゃうからきをつけてね~」

 お姉さんはおれの言葉が聞こえなかったかのように無視した。


「ちょっ、まって下さい。なんだかやっぱりおれ不安になってきました。可能性はやっぱり残しておきたいと言うか」


「ふふふ~、告白したんだから~二言はダメだよ~。あ~、おっぱい大好きな佐藤さんのために良い世界をがんばって探したんだけどね~。でも見るだけでも幸せでしょう? 

 それにわたしのことを好きって人が~他の女の子のおっぱいをもむのは~嫌だし~、ちょうどよかったよ~ふふふふふ」


 お姉さんが両手を広げる。するとイリスさんの身体の中心から水晶玉のようなものが現れ、そこへ風が吸い込まれていく。

 おれも吸い込まれそうになっている。


「ま、まってください! それならイリスさんのすばらしいおっぱいを――今もまさせて下さい!」


 おれは必死だった。そうだ、まだ揉んでいない。


 おっぱい窒息死の夢はかなえられたが、所詮は顔。

 

 神経細胞が最も多く、最も繊細な刺激を感じ取れるこの指でおれはおっぱいを知らなくてはならない!


「ふふふ~それは佐藤さんががんばったときのごほうびだよ~。まだまだ早いかな~。

 あと~ちゃあんとかわいい女の子と仲良くしないとだめだからね~、そうじゃないと佐藤さんを幸せにするってことが叶えられないでしょ~?

 おっぱいはもめないけどね~ふふふふふ」


 おれは今、猪の状態から平常の状態に戻りつつあった。

 このイリスさん、もしやただのドSではないだろうか?


 だって、素敵なおっぱいがたくさんある世界に行くことを知りながら、おれにおっぱいがもめないようにしてしまうなんて!


 こんなのドSのやることだ。ふんわりお姉さんというのは外面なのか? いや、でも……。


「ふふふ~佐藤さんが何考えてるかわかるわよ~。だってだってだって~大好きなおっぱいを簡単にもめたらつまらないじゃ~ん。わたしも神様として佐藤さんのために頑張ったんだから~少しくらいは佐藤さんにも面白いショー? みたいなものを見せてもらわないと~ね。

 神様が勝手に負の縛りを与えることは~基本的にできないから~。佐藤さんから縛ってくれて助かっちゃった~ふふふふふ」


「な、そんな!? おれをはめたんですか?」

「言い方が悪いわよ~。わたしはちゃあんと~佐藤さんが幸せになれるように平行世界へ送ってあげるんだから~。

 眠くなってきたわ~がんばって~ふふふ」


 水晶へ吸い込まれる風が強くなり、俺の身体は水晶に向かって吸い寄せられる。

 突風のなかで最後にチラリと見えたのは、イリスさんのあくび姿とおっぱいだった。


 揉みたかった――。

 揉みたい――。


 水晶体に吸い込まれ、意識を失った。


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