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第一話 おっぱいで異世界転生!?

 三十五歳でニートで童貞。

 一人部屋でベットに寝転がりながら、俺は人生をやり直せないかとスマホをいじっていた。


 スマホで『ニート 就職 未経験』と検索すると個人ブログやまとめサイトの記事が出てくる。なかには『仕事をはじめたら意外とイケた! お前らも頑張れw』といったコメントがある。


 その記事に勇気をもらいつつ他の記事も検索すると『就職して二時間でバックレたw』というスレのまとめがのっており『人生諦めたわ……』なんて悲壮感たっぷりのコメントで締めくくられている。


 ネットの海にはいくらでも記事があり、三十六歳の誕生日までには就職しなければと自分を奮い立たせる。けれど十歳以上も年下の社員に馬鹿にされるのがこわくてエロ広告をクリックしてしまった。


 …………ほどなくして賢者タイムがやってくる。


 三十五歳で童貞でおっぱいもさわったことがない。


 就職系の記事を探すのはやめにして、まとめサイトの巡回をはじめた。

 おれの好きなタイプのまとめサイトはオカルト系や不思議系だ。

 タイムリープで人生をやり直せたり、いきなり異世界に行ったという体験談やその方法がのっていたりする。いくつか試したことがあるがもちろん変化はなかった。


 本当なのかどうかもわからないが、それでもおれはその可能性を信じたい。


 まとめサイトで、おれが興味のある『多世界解釈』についてまとめられていた。

 おれにはまとめられていてもわからない部分が多い。だから説明については読み飛ばしてもらってもかまわない。



【多世界解釈とは……実は宇宙にはいくつも平行世界が存在していて、瞬間瞬間に別の可能性が生まれてる。だからお前らが朝食で玉子を食べてたらそのお前もいくらでもいるし、食べてないお前もいくらでもいる。平行した世界のお前らが無数にいるって考えていい。でも、お前らは常にひとつの自分の世界しか『観測』できない。だから世界がひとつのように見えてるだけ】



 正直おれには難しく理解できない。このまとめサイトの言葉が正しいのかもわからない。Wikiや個人サイトをのぞいたこともあるが理解がおいつかなくてやめた。


 でもおれにもわかることがあり、それがおれを勇気づけてくれている。


 そう、多世界解釈。


 いくつもの平行世界があり、無数のおれがいる。それだけ無数にいればきちんと就職しているおれも無数にいるだろう。その中の無数のおれには彼女がいて童貞を卒業しおっぱいを揉んで、楽しく人生を満喫しているかもしれない。もちろんニートにない苦労もあるのだろうが、それはそれだ。


 おれはやわらかいおっぱいが揉みたいし、彼女がほしいし童貞を卒業したい。

 そういう並行世界のおれを夢想して、そのおれにいつかいきなり入れ替われないかと妄想するのだ。現実逃避も大切だ。


 この現実はあまりにもきつすぎる。もし小学生の頃のおれに『お前はこれから彼女もできず、就職もできず、あまつさえおっぱいを揉むこともない』なんて言ったら、小学生のおれは絶望するだろう。


 ショック死してしまうかもしれない。それほどおれはおっぱいが好きだったのだ。それなのにもめていない。やわらかくておっきいおっぱい。おわん型のおっぱい。おっぱいおっぱいおっぱい……。


 おれはおっぱいを口に押しつけられて窒息死してしまうことを考えながら眠った。それはきっと幸せだろう。なんて幸せなんだ。おっぱいで窒息死。

 やわらかくて弾力があってはりがあっておおきくて、あまりにもおれの顔に密着して息ができなくなるそんなおっぱい。


 おれは妄想力を全開にして眠っていく。


 あー、おっぱい。




 目が覚める。

 電気を点けっぱなしで寝たのか異常に眩しい。

 おれはカーテンを一日中閉めているから太陽が眩しいことはありえない。


 数秒たってもまだ眩しい。蛍光灯に目を押しつけているのだろうかというくらい真っ白だ。


 おれはとりあえずベットをおりることにして身体を起こした。いつもは関節がバキバキ音を立てるのだが、今日は珍しく音がしない。


 もしかしたらここも夢の中なのだろうか?


「あら~起きたんですねっ! 佐藤カズヤさん、お目覚めはいかが~♡」


「ふああっ!?」


 まだ視界は真っ白で何も見えない。眩しすぎてまぶたを開け続けることもままならない。意味のわからない声が聞こえたが、一体誰だ?

 おれには妹も姉もいないし、母親の声にしては若すぎる。


「あ~忘れてました~。目が慣れないんですよね? 待ってて下さいね~♡」


 ものすごい萌え声のお姉さんだ。

 柔らかい手の平がおれの頭にのせられた。


「失礼しますよ~。目は閉じてて下さいね~」


 おれは目を閉じる。

 ――と。なにかものすごくふわんふわんして、弾力のあるやわらかい物体が目に押しつけられた。おれはなぜか幸せな気持ちになった。ずっともとめていたものを探し当てたような、そんな心持……。


「いい子ですね~。は~い。すぐ終わりましたよ~!」


「うおおお!?」


 視界が開けている。

 真っ白で何も見えなかった世界に、巨乳の綺麗なお姉さんが一人。おっきいおっぱいのお姉さんが笑顔でおれを見つめている。


「おはよう~、身体だいじょうぶ? いちお~身体でメンテナンスが必要そうな所は治しておいたから~、大丈夫だよ~」


「だ、誰ですか!?」


 おれは心を決めた。夢の中で暮らそう。っていうかこれって夢なのか? 夢にしてはあまりにヘンテコすぎるのに実感がある。しかし、現実にしてはあまりにヘンテコすぎる……。


「わたしは女神さまだよ~。すご~い、女神さま~」


 語尾をのばしているおかげで、超ほんわかお姉さんにしか見えない。お姉さんのコスチュームは胸のあたりの露出がはげしく、おっぱいが半分以上露出している。


 コンパニオンが着るようなピチピチの服装が最高だ。あまりに素敵なおっぱいなのでおれは人生で一番眼力を駆使しておっぱいへ注いだ。


「おっぱいが好きなんですよね~? 知ってますよ~」


 お姉さんは癒し系の笑みでおれに笑いかけてくれる。これはきっと夢だ。

 そうでなければ三十五歳でニートで童貞のおれに巨乳の綺麗なお姉さんが笑いかけてくれるわけがない。


「……あ」


 ふいに現実がおれをおそった。

 目が覚めればお姉さんとは二度とであえなくなるかもしれないのだ。こんなに実感があって現実っぽくって素晴らしい夢を、手放したくない。


「お姉さん、おれずっとここにいていいですか?」


 おれはお姉さんに向かって手を合わせて願った。この夢の本体はお姉さんだ。おれじゃない。

 素晴らしい巨乳でやわらかそうなおっぱいのお姉さんがこの夢の本体なのだ。だからお姉さんにおれは願うしかなかった。


「え~っと~。う~ん、それはこまっちゃうかな~」


 お姉さんは困ったように視線をそらして腕を組んだ。おっぱいがお姉さんの腕に押されて、ふにっと沈んだ。


「お願いします。何でもしますから! お姉さんと一緒にいたいんです! (あとおっぱいと!)」


「だってだってだって~! おっぱいに埋もれて死にたいって言ったのは佐藤さんでしょう~!? わたしはちゃあんとお願い叶えたんだから~!」


 …………ん?

 今、なんて言った?

 死んだとかなんとか?


 じゃあここは天国か? たしかに天国っぽい。ならそれも悪くない。どうしようもなかった現実世界とはおさらばして天国に行けるなら、おれはもっと早く死ねるように努力していただろう。

 

 死んだらどうなるかわからなくて死ななかっただけだ。

 死んでこんな素晴らしい天国にこれるならもっと早くこっちを選んでいたに決まっている!


「ちがうちがう~、天国じゃないよここは~……私の――お・部・屋♡」


 お姉さんは大きなまぶたを使ってウインクした。もしや童貞卒業のチャンスだろうか?

 いやいやいや、待つんだおれ。まずは状況把握が必要だ。これが夢なのか天国なのかお姉さんのお・部・屋♡なのか、もっと別の何かなのか……。


「お姉さん、おれは死んだって言ってました? じゃあここは天国ですか?」


「そうなの~。佐藤さんは私が~、殺しちゃいました~」


 お姉さんはそう言って、幸せそうに笑った。殺しちゃったのが楽しくて仕方がないという風に見える。


「あのね~、色々事情があってこの世界の佐藤さんには死んでもらったの~。佐藤さんは知っているでしょう?

 この宇宙にはね~人間じゃあ絶対にわからないくらいたくさんの平行世界があって、それぞれに佐藤さんと同じだけどちがう佐藤さんが無数に暮らしてるのよ~。

 それでね~佐藤さんがあんまりにも特殊すぎて~バランスが取れていないって神様の間で会議になったの~」


 お姉さんが目に涙をためて、おれを見る。その潤んだ瞳は澄んでいて吸い込まれてしまいそうだ。


「ごめんね……佐藤さん……。悲しいよねごめんね……私耐えられなかったの!」

 お姉さんが急におれの頭を抱きとめた。


「はっ!?」


 おれの頭は、お姉さんのふよんふよんのおっぱいに包まれた。すっぽり包まれ、息ができない。最高のおっぱいだ。おれはおっぱいで窒息死する妄想を思い出した。


 至福の時はわずかに感じられた。一瞬だった。

 お姉さんがおれを解放した。息ができるが、とても残念だ。このまま死にたかった。


「あぶないわ~。また殺しちゃったらシャレにならないもの~。だいじょうぶ?」


「このおっぱい! まさかお姉さんが僕を窒息させたんですか!?」


 そう、あの妄想したやわらかくて弾力があり、ふよんふよんとして窒息させるおっぱいはこのおっぱいしかあり得ない!


「そうだって言ってるでしょう~。ふふふ、佐藤さんがあんまり可哀相だからね~佐藤さんには平行世界に言ってもらって、幸せになってもらうことになったのよん♡

 わたしが一生懸命神様たちにお願いしてまわったんだから~。 

 だって~佐藤さん以外の人間はみーんな平行世界のどこかでは幸せになっているのよ~。バランスっていうのはそういうことなの~。

 どこかの平行世界の佐藤さんが不幸せなら、どこかの平行世界の佐藤さんは幸せって具合になるの~。

 それなのに~、佐藤さんは無数の佐藤さんが全員不幸なんだもの~。こんなのおかしいわよ~、バクかしら~なんてね~ふふふ」


「ええと、つまりおれは別の平行世界のおれになるために、女神さまに殺されたんでしょうか?」


「だいたいはそんなところかしら~、あ~そうそうちゃんと説明書もあなたの頭の中に入れておいたから困ったらそれ読んでね~ふふふ♡」


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