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第一世界

[1]

 ゴリラ。


 男なら必ず一度は憧れる雄雄しい動物。五歳の時分に動物番組でゴリラを見て男の本能を刺激された。

 強く逞しく、雌を惹きつけて守る姿は一つの理想だ。

 その日から筋力トレーニングを始めた。しかし、すぐにどうやってもゴリラには成れないと悟る。俺は人間としての強さを求めて近所の道場に通った。鍛練を絶やさずに励んでいると、師から他流派を学ぶよう指示された。

 おかげで俺は強くなった。だというのに女が寄って来ない。原因は分かっている。

 道場に女がいないのだ。というか男ですら俺しかいない。21世紀の終わりが近づきつつある昨今では、喧嘩だけでなく格闘もまとめて野蛮のレッテルを貼られ、煙たがれる時代になった。

 街頭には監視カメラが当たり前に存在し、ひとたび胸倉を掴めば1分もせずに公僕の世話を受ける。

 そんな現実を嘆いた俺は仮想の世界に救いを求めた。


 VRゲーム。


 ちょうど俺がゴリラを目指した頃から民間での利用が始まり、16歳となった今ではVR技術を使用していない分野を探すほうが苦労する程までに広がった。

 その中で盛り上がっているモノこそ、VRゲームだ。

 俺は溜め込んだお年玉を使ってVRカプセルを購入して格闘ゲームに挑戦した。始めは仮想の肉体に戸惑ったけど、脳の順応は早く、慣れてしまえば連戦連勝で並み居る猛者を蹴散らしてスターダムを駆け上った。

 しかし、栄光の頂上で振り返れば賛辞を送る者の多くが男で、数少ない女は見世物小屋の珍獣を褒めるかのようだった。野性を失って人に媚び売る動物園のゴリラ。それが俺の正体。

 気付けば引退しており、二度とログインすることはなかった。


 今の時代にゴリラは適していない。

 そんな当たり前の事実にぶち当たり、失意に暮れる俺にキッカケをもたらしたのは、大嫌いなクラスメイトだった。


「明日から夏休みだね」


 整った顔に軽薄な笑みを浮かべて馴れ馴れしく肩をまわしてくる。

 身勝手に集団へ誘うチンパンジー臭さが、ゴリラな俺とは水と油で合わない。

 まわされた腕をそっとどかす。


「あれま、元気ないねー。そうだ、僕と一緒に《Wild Release Online》やらない? 明日からサービス開始の大作VRMORPGなんだけど」

「お前なんかと一緒に遊びたくねぇよ...ん。Wild Release、野性開放...?」

「職やギフト、スキルによって自分だけのプレイスタイルを見つけるゲーム。モンスターとの戦いなんて迫力満点だよ。どう? たまには別ジャンルもやってみたら」


 一つに拘泥するのではなく時に視点を変えてみるのも必要だと、他流派を習った際に学んだ。

 こいつから誘われるのは癪だけど興味が湧いた。

 そしてネットショップから全感没入型VRゲーム《Wild Release Online》を購入した。



[2]

 今日は夏休み。そして《WRO》のサービス初日だ。

 12:00に始まる。事前準備を済ませておくために11:00にVRカプセルに入って横になり、ヘッドギアを装着して《WRO》を起動する。

 天井ディスプレイにガイダンスが映る。


「ようこそ《Wild Release Online》の多元世界へ。IDチェック中。確認が済みました。初期設定及びアバター作成を行ってください」

「ゴリラになれますか?」

「なれません」


 興味本位で聞いてみたが、やっぱりダメのようだ。


 画面が暗転して映し出されたのは俺の本名、本住所、電話番号などの個人情報。

 VRカプセル購入時に入力しておいた情報に間違いがないか、変更がないかの確認を終えると次にアバターの作成となる。

 前にプレイした格闘ゲームで使っていたアバターのデータが残っているのだけど、今回は新規で作る。

 とりあえず現実の自分自身を取り込む。ディスプレイに俺自身が映し出される。


 アバター名:ゴリラ

 性別:男

 年齢:16

 身長:197

 体重:93


 いくつかの項目を変更する。

 とりあえず髪色を黒褐色にして、あごひげを生やす。

 元々の顔の造りが濃いのも合わさって第一印象はアメリカ大統領リンカンだ。

 偉人のそっくりさんは嫌なので、髪型をアッパーショートにして顔も多少弄くり、さらに肉体をしぼめて細マッチョな感じに仕上げる。


 最終確認を済ますと、ふっと意識が遠くなり、次の瞬間にはアバターに乗り移っていた。

 いまいる場所はダンスやバレエで使う、壁の一面が鏡張りになった練習室。

 ここで現実と仮想の差異を慣らして調整する。

 手をグーパーグーパーと開いて閉じる。さらに全力疾走したり、全身ストレッチを行ったりする。

 これら準備運動は国の規制でログインとログアウト時に十五分かけて実施するよう義務づけられている。


 ちなみに《WRO》におけるアバターの初期スペックは以下のようになっている。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ※老若男女一律 プレイ制限区分『B』(15-65歳 中学生不可) 国の健康診断必須 年に一度

 握力40kg 百メートル走14秒 千メートル走5分40秒 上体起こし18回 立ち幅跳び180cm

 視力1.0 可聴域20Hz~20,000Hz 味覚:五基本味と刺激による総合 嗅覚細胞は三千

 永久歯三十本 歯並び問題なし 指の長さ一律 指紋は見た目だけ(全プレイヤー一律) 汗腺なし

 爪の長さは一律(肉からはみ出ない) 肘と膝の位置は変動可能(プレイヤーの手動で微調整)

 肌のシミ、そばかす、黒子、産毛なし 毛の濃さは三段階(無毛 薄い 濃い)から選択


 ※柔軟さ、反応及び思考速度は固体差あり

 ※身長、体重、腰と肩の高さ、首と顔の長さ、両目の配置は日本国の仮想現実規制法により変更不可

 ※体温は現実とリンク(現実では睡眠状態に近いため高め)

 ※アバターとのシンクロ率が高まると幻覚、錯覚が起こります その場合ただちにログアウトするようお願いします


 触覚について。

 ・触覚の判定箇所(21ヶ所)

   頭頂部 頭(前) 頭(後) 口内 首 胸 腹 右上腕 右前腕 右手

   左上腕 左前腕 左手 腰 股間 右太腿 右下腿 右足 左大腿 左下腿 左足

 ・触覚の種類

   振動 圧迫 摘み

 ・触覚の強弱

   微弱 弱 中 強


 ※一部制限あり

 頭の三箇所と首、股間における痛みの強弱は微弱まで、弱以上の判定はなし

 胸の振動と圧迫は微弱まで、弱以上は判定なし

 現在の《WRO》では強の判定はなしで、最高が中までに制限されている(VRG規制)

 その他、現実へのフィードバックに問題があると考えられるパターンは制限


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 前にプレイしていた格闘ゲームでは現実の肉体に準拠していたので上記のカタログスペックがなかった。

 鍛えた肉体を使えない事に不満はあるけど、これもまた一興と考えて楽しもう。

 アバターの感覚を確かめるため、指定された十五分を超過して、結局三十分近くかけて入念にチェックを行った。


 次はゲームの設定。



「種族を選んでください」


 『人間』『獣人』『魔人』


 『人間』は現実の人間と同じ。

 『獣人』は人間に実在する数種類の生物の要素を、『魔人』は空想生物の要素を加えた種族となる。

 ゴリラがなかったので俺は『人間』を選んだが、もし他の二種を選んだ場合はアバター設定に特殊効果が追加される。

 猫耳とか犬尻尾、吸血鬼の翼や竜の鱗などだ。もちろんただのアクセサリーであり、意識して動かせないオブジェクトとなる。



「ステータスを割り振ってください」


 初期のステータスポイントは100/35。

 HP+MP=100

 ATK+DEF+INT+MEN+AGI+DEX+LUX=35

 全職共通で最低数値は1、最高数値は∞となっている。


 【名前】 ゴリラ 【年齢】 16

 【性別】 男 【種族】 人間

 【Job】 未設定 【Sub】 未開放


 【HP】 20/20 【MP】 80/80

 【ATK】  29 【DEF】   1

 【INT】  1 【MEN】  1

 【AGI】  1 【DEX】  1

 【LUX】  1


 攻撃力に極振りした。

 AGIにも振りたいけど《WRO》での反応速度は自前なので振らない。

 動きの遅さを、動き出しの速さでカバーする方針だ。



「職業を選んでください」


 ・戦闘職

  『格闘家』『武器使い』『使役士』『魔法使い』『舞踊家』


 ・生産職

 『木工師』『鍛冶師』『縫製師』『錬金師』『調理師』


 公式発表では上記の十種が全てとなっている。隠し職業や上位職の実装は未定だそうだ。

 『格闘家』と『武器使い』で悩んだけど、慣れている『格闘家』にした。



「ギフトを選んでください」


 ・適正が一職のギフト

 ・適正が複数のギフト

 ・適正が全職のギフト


 ギフトとは才能や能力の総称。

 各ギフトにはGPギフトポイントが決められており、強い効果のモノほど高くなる。また、適正の違う職で取得する場合はGPが二倍必要になる。

 GPの初期上限は全職共通で10だ。

 熟考の末、ギフト構成は以下のようになった。


 《突き技マスタリーLv1》

 【適正】格闘家 【GP】1

 【効果】突き技に補正がかかる


 《蹴り技マスタリーLv1》

 【適正】格闘家 【GP】1

 【効果】蹴り技に補正がかかる


 《投げ技マスタリーLv1》

 【適正】格闘家 【GP】1

 【効果】投げ技に補正がかかる


 《ATK強化Lv1》

 【適正】全職 【GP】1

 【効果】ATKにボーナスが付く


 《握力強化Lv1》

 【適正】全職 【GP】1

 【効果】握力にボーナスが付く


 《敏感肌Lv1》

 【適正】全職 【GP】2

 【効果】触感に気配の項目が追加


 《妨害Lv1》

 【適正】戦闘職 【GP】3

 【効果】敵の攻撃への妨害が可能


「内容に間違いが無ければ[確認]を押して次に進んでください」


 これで初期設定は終了となり、いままでの編集項目が表示されて最終確認となる。



 【名前】 ゴリラ 【年齢】 16

 【性別】 男 【種族】 人間

 【Job】 格闘家Lv1 【Sub】 未開放


 【HP】 20/20 【MP】 80/80

 【ATK】  29 【DEF】   1

 【INT】  1 【MEN】  1

 【AGI】  1 【DEX】  1

 【LUX】  1


 【Gift】

  《突き技マスタリーLv1》

  《蹴り技マスタリーLv1》

  《投げ技マスタリーLv1》

  《ATK強化Lv1》

  《握力強化Lv1》

  《敏感肌Lv1》

  《妨害Lv1》


 【武器】

  メイン:初心者の格闘グローブ

  サブ:初心者のナイフ


 【装備】

  頭:初心者のハチマキ

  胴:初心者の胴衣

  腕:同系統(胴)

  脚:同系統(胴)


 【装飾】

  ○ 空き

  ○ 空き

  ○ 空き


 設定を完了するとチュートリアルが始まった。



[3]

 第一世界〔はじまりの森〕――― モチーフ:武雄の大楠&富士の樹海


 チュートリアルは二十分で終わり、タイミング良く現実時間が12:00になったのでそのままログインした。

 初回のプレイヤーは〔はじまりの森〕の中央にある、まるで世界を支えるようにそびえる大樹ユグドラシルの中に作られた街でスポーンする。

 混雑防止のため、拠点内でもスポーン地点は十箇所もある。

 俺がスポーンしたのは第三階層の広場だった。校庭ほどの大きな広場には人、人、人。

 この瞬間も続々とプレイヤーが増えていく。《WRO》の人気っぷりを感じる。


「パーティー募集中 支援職求む」

「レベリングします 同行者募っています」

「フレンド申請 (屮゜Д゜)屮カモーン」


 オンラインゲームらしい喧騒に心臓のボルテージは上がる。心音が周囲に聞こえないかと心配になるぐらい高鳴っている。

 だからつい、舞い上がった俺は無意識に胸を叩き、雄たけびをあげてしまう。俗に言うゴリラのドラミングだ。

 それまで騒がしかったプレイヤー達が一斉に停止して俺を見る。数百の瞳に見つめられ、我に返る。

 恥ずかし過ぎて逃げ出したくなるけども、背を向けるのは負けた気分になるので、あえて睨み返してやる。

 見詰め合った先から次々に目を逸らされていく。ある程度のところで見切りをつけて、広場を後にした。


 は、恥ずかしかったぁ...。


 格闘ゲームをしていた時はパフォーマンスとしてドラミングを良くしていた。

 その時は違い、今回のような反射的な場合は人並みに恥ずかしい。


 周りの視線から逃げるようにフィールド〔はじまりの森〕へと小走りで向かう。

 街エリアから戦闘フィールドに入った事で人々の話し声や挙動音が止み、代わりに風の音や木々の靡く音、小鳥の囀りが耳に入る。

 恥ずかしい出来事を忘れたい一心で、装備やアイテムをチェックせずにそのまま森の奥へと進む。

 

 チュートリアルのゲーム説明を思い出す。

 《WRO》では世界という単位でフィールドが構成される。

 第一の世界は森林ステージで、蜘蛛や芋虫、蜂、狼などをモチーフとしたモンスターが出現する。

 どれもステータスを調整されているのでVRMO初心者でも簡単に倒せるらしい。


 戦闘システムはエリアエンカウント制を採用しており、フィールドに一辺30メートルの正六角形エリアが設定されている。

 エリアにパーティーが侵入した際に判定が起こり、戦闘となればエリアは他プレイヤーから隔離される。

 見えない壁によってエリアは仕切られ、逃走する場合は壁に触れていると判定が発生し、時間が長くなるほど確立が上昇する。

 エリア内の敵性モンスターの全滅が戦闘終了となり、他エリアと再接続される。


 ゲーム説明について考えながら森を進んでいると肌に寒気が走る。《敏感肌Lv1》によって得た拡張感覚だ。

 これはゲームオリジナルの感覚で、敵の出現や攻撃の接近を寒気という形で教えてくれる。


 木々の陰から狼が三匹あらわれる。

 灰色の毛に、体長は1メートルほど。名前はレッサーウルフ。

 口を半開きにして涎を垂らす様は現実だと錯覚しそうな迫力がある。

 格闘ゲームとは違う緊張感が電流のように背中を走って、自然と口角が上がってしまう。


 拳を握り、利き腕の右を後ろにして半身で構える。

 左で払い、掴み、流し、右で決めてやる。


 レッサーウルフが動く。

 あまりに見え見えの挙動だったので鼻で笑ってしまう。

 油断大敵。

 横合いに気配を感じ、焦って視線を向ける。

 そこには今まさに尻から糸を射出する蜘蛛がいた。

 思わぬ奇襲に体が強張り、反応が遅れる。

 糸の直撃を回避できず、状態異常『拘束』にかかってしまう。

 行動速度が急激に下がり、まるで水の中にいるような抵抗を味わう。


 まずい。


 レッサーウルフは既に間近。

 飛び掛り、獰猛な口を開き、鋭い牙が俺に噛み付く直前。


「風刃!」


 カマイタチがレッサーウルフを切り裂く。

 鼻先に迫った危機は風の一撃によって吹き飛んだ。


「大丈夫かい?」


 気安い声に聞き覚えがあった。

 このゲームに誘った張本人。

 現実と同じ爽やかイケメン顔に人の不幸を楽しむニヤニヤした笑みを貼り付けたクラスメイトは、右手に刀を握っていた。

 慣れた動作で刀を振り、あっという間に残りのモンスターを処理してしまう。


「なんでお前がいるんだよ」

「せっかく助けてあげたのにひっどいねー。それにお前はやめてよ。ここではノブツナで通してるんだ」


 アバター名『No打つな』が頭上で主張している。これでノブツナと読ませるとか、酷いセンスだ。

 というか、もしかして剣聖から名をかりたのか。失礼千万だけど、憧れの存在から名前を頂きたい気持ちはよく分かるので、ツッコミを入れない。

 ノブツナも俺のアバター名を見て納得する。


「しかしどうやってエリアに入ったんだ?」

「プレイヤーが危険な場合に限って乱入できるんだ。助太刀ってカッコいいよねー。僕の優越性をひしひしと感じれる。開発はよく分かってるよ」


 ある条件が満たされると戦闘エリアは赤く光って他のプレイヤーに救援を知らせる。

 今回の場合は『残りのプレイヤーが一人』『状態異常にかかっている』『敵が四体残っている』『複数の敵から攻撃の対象に選ばれている』の項目に当てはまったので救援が要請された。


 情けない。


 恥ずかしい出来事を忘れたいがために、戦いの心構えのない状態で挑んだ俺のミスだ。

 そのせいで大嫌いなノブツナに無様を晒してしまった。

 反省しなければ。


「...助かった。ありがとう」

「どういたしまして。そうだ、パーティー組まない? 見た感じ友達のいないボッチでしょ」

「それは...悪いが、断らせてもらう」

「ええー。でもゴリの性格的に馬鹿みたいなATK特化じゃないの? パーティーを組んだ方が良い。組まないとダメだよ。だから僕が組んであげる」


 言葉には俺を見下す嘲りの汚い色が混じっていた。このゲームに誘ったのも、現実では勝てないから仮想上で馬鹿にするためでは、と邪推してしまう。いや、心底楽しそうに笑う顔を見れば一目瞭然で黒だ。まったくチンパンジーみたいな野郎だぜ。

 子殺しで有名なチンパンジーと、俺をパーティーに入れて虐める腹積もりのノブツナは似通っている。俺にはそう感じられた。


「悪いなノブツナ。ゴリラの群れに雄は一人なんだ」


 群れは一匹の強大な雄を頂点にして形勢されるべきだ。

 それこそ男の一つの理想、決して譲れない俺の目標、ハーレムだ。


「そっかー。残念だなー。ならフレンド登録だけでもしとこうよ」


 フレンド申請の画面が出る。今後は承認しておく。

 とりあえずの目的は達したのか、ノブツナは去って行った。


 ノブツナの背中が見えなくなると、頬を叩いて気分を一心する。

 とりあえず、あいつを見返す事を目標にして頑張ろう。

 俺は〔はじまりの森〕を回り、レベリングにとりかかる。



[4]

【WRO】ゴリラ発見!?【転載禁止】


1 名無しの飼育員

 ゴリラがいた


 >>動画ドラミングするゴリラ


2 名無しの飼育員

 クソスレ


3 名無しの飼育員

 ゴリラが脱走したってマジ!?


4 名無しの飼育員

 こマ?


5 名無しの飼育員

 ゴリラガニゲテル!


 どこのニュースサイトにも載ってないんですけど・・・


6 名無しの飼育員

 上野? 東山? 千葉?

 どこから脱走したの


7 名無しの飼育員

 なんだプレイヤーじゃん


8 名無しの飼育員

 動画みた

 眼力すごいな


9 名無しの飼育員

 野獣の眼光


10 名無しの飼育員

                      /

   ______        ,. -;‐;ァ;|

   ``丶、__l::::}ゝ    i i 、`-┴'ノ ',

         ̄´      l l \ ̄   |

                l l  `    |

           ,      ヽヽ     ,'

         イ       ノ }    /

           ` ==;-チ‐′  /

             〈 |     /

         _,. -‐__二二ヽ  /___

        ‐´‐<工工工ン‐' /      ̄` - 、

               一' /            `丶

11 名無しの飼育員

 ホモビデオに出ただけで半世紀も語り継がれる野獣先輩

 ほんすこ

 無形文化財認定まったなし


12 名無しの飼育員

 どういう流れでこうなったの?

 あ、動画の話ね

 ホモは帰ってどうぞ


13 名無しの飼育員

 >>12

 わからない

 突然雄たけびあげて睨んできた


14 名無しの飼育員

 基地外じゃん


15 名無しの飼育員

 ゴリラのなりきりプレイじゃね?


16 名無しの飼育員

 ドラミングだっけ

 あれって興奮した時にするやつでしょ

 ゲーム開始でテンションあがったパティーン


17 名無しの飼育員

 >>15.16

 そうであって欲しい

 VR規制に健康診断の義務あるし

 精神病んでいるって事はないはず、たぶん


18 名無しの飼育員

 この人さっき森で見たぞ


19 名無しの飼育員

 >>18 kwsk

 

20 名無しの飼育員

 ゴリラに森って

 水を得た魚かよ


21 名無しの飼育員

 >>19

 はじまりの森でグルグルしてたら

 鳥の鳴き声に混じって「ウホッ」って叫んでた


22 名無しの飼育員

 ウホッ! いい男...


23 名無しの飼育員

 くそみそスレ


24 名無しの飼育員

 うわぁ・・・これは節操ないですね・・・たまげたなあ


24 名無しの飼育員

 ホモスレ確定やん

 すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!


   ・

   ・

   ・



[5]

 気持ちを新たにした俺は快調に森を駆け抜けていた。

 油断をしなければモンスターの十体や二十体、軽く倒せる。

 今も五体のレッサーウルフと戦い、ダメージを受けずに完封した。


 サブ武器のナイフを取り出して死体から剥ぎ取るのにも慣れた。

 この動作は本当に肉や内臓を捌いているのではなく、パントマイムのようにフリをするだけだ。

 死体に解体用の道具を当てると自動で体が動き、モーションが終了するとポーチにアイテムが収納される仕組みだ。


 作業中は無警戒で危ないと思われるが、戦闘終了後に一分間のクールタイムが設けられている。休憩時間みたいなモノだ。

 もちろん解体中は時間が止まり、解体していたら一分経ってしまったという事態を防いでいる。


 アイテムポーチを確認してみると上限の99個近くまで集まっていた。

 整理のために大樹に戻ろうと体を向けると、視界の隅で赤い光を捉える。


 助太刀チャンス。


 該当エリアは半透明な赤い壁に覆われていた。触ると確認ウィンドウが表示される。

 躊躇わず〔YES〕を押して侵入する。

 そこまでのありふれた森の光景が戦闘風景に切り替わる。


 エリア内を見渡すと一人のプレイヤーが二匹の蜘蛛と三匹の蜂に襲われていた。

 敵の標的がプレイヤーに向いているのを利用して、俺は蜘蛛の懐深くまで接近してから拳を突き出す。

 圧倒的なATKに裏打ちされた拳はダメージ判定が発生した瞬間に蜘蛛のHPをゼロにして吹き飛ばす。


 肩を上下させて絶望していたプレイヤーが唖然とする。

 モンスター達も超過ダメージによるヘイト値(モンスターに狙われやすくなる数値)の急上昇により、攻撃動作を取りやめて俺へと向かって来る。

 軽やかなステップを刻んで蜘蛛の攻撃を避けてカウンターを入れる。パンッと風船が割れるような音を立てて蜘蛛は死ぬ。

 続けて三回、同じように破砕音が響く。拳を掲げて圧勝をアピールする。


 決まった。

 今の俺、超カッコいい。


 ちらっと振り向く。

 プレイヤーは少女だった。紺に近い黒髪をショートにしてこちらを見る瞳は縦長の金目。特徴的なのは頭頂部から生える猫耳。その上に表示された名前は千代女。来ている服装は忍者を彷彿とさせ、手に握る武器はクナイだった。

 ノブツナが侍に憧れているなら、この少女はきっとくのいちを目指しているに違いない。


 そんな可愛らしい少女を格好良く助けた。

 夢見たシチュエーションに鼓動が早まり、この後の展開を期待して胸が踊る。

 ここで声をかければ少女の瞳はハートマークになるはずだ。

 しかしそんな無粋な真似はしない。

 なぜならゴリラとは『媚びず・靡かず・口説かない』からだ。

 女に対してがっつくのではなく、寄り添って来るのを待つのが俺流だ。


 だから、ほら、少女よ。

 いい加減「カッコいい! 惚れました! あなたの子が欲しい!」くらい言ってもいいんだよ。


 ...。


 しばらく見詰め合ったが、少女は気分を害したのか、ジト目で睨んでくる。

 理由は分からないけど居心地の悪さを感じて、背中に少女の視線を浴びながらエリアから去った。


 大樹へと帰る道中、少女について考える。

 もしかしたら少女は、ノブに助けられた時の俺のように活躍する場を奪われた事に憤っていたのかもしれない。

 逆境を覆す策があったのかもしれない。

 そうだとしたら悪い事をした。

 反省反省。


 大樹に辿り着くと、途端に煩くなる。

 一階の大広場は露天商区に定められており、生産職のプレイヤーが売買をあちらこちらで行っている。

 俺も群集の中の一人となって様々な露天を見て回る。

 サービス初日ゆえ、並ぶ商品に個性と呼べるほどの違いはない。強いて差異を見出すなら売り文句だろうか。


「ウチの商品には真心が篭もってますよー!」

「美少女なワタシの愛が詰まってるよー!」

「いきなり閉店セール実施中! 全品表示価格から半額!」


 あの手この手で売り捌こうと必死だ。

 大樹の中にあるとは思えない熱気にあふれ、気を当てられてこちらも高揚する。


「また会ったね」


 大広場を見回っているとノブツナに声をかけられた。テンションは急降下する。

 唾を吐きたかったが、ゲームでは唾液がないので出せなかった。


「そんな嫌そうな顔をしないでくれよ。仲間が怒り出しかねないからさ」


 ノブツナの背後には男が二人、女が三人、こちらをチラチラと窺っている。

 五人の顔には不満が見て取れた。「不審者がリーダーと喋るな」と突っ掛かってきそうな雰囲気だ。

 ノブツナが顔を近づけて、PTメンバーに聞こえないように小声で話す。


「ねぇ、ハルバオークって知ってる? これが無茶苦茶強いボスでさ。さっきまで戦ってたんだけど、あと少しで倒せるところだったんだ。このボスさ、実は推奨Lv10なんだけど、僕らLv8。すごいでしょ?

 この後再チャレンジするつもりなんだよね。いまなら全プレイヤー最速でボス討伐になるから期待して待っててよ。初回討伐の時は全鯖にアナウンスが流れるからさ」


 神経を逆撫でするニコニコした顔で俺の肩をたたき、背を向ける。

 話しかけてきた目的は自慢がしたかっただけのようだ。


 一人に戻った後は手に入れた素材を売り払い、急いで現状購入できる中で最高の装備を買い込む。

 どうやら早速、ノブツナの鼻を折って見返す機会が到来したのだ。


 俺が先にボスを倒してやる!


 意気込んだボス討伐を奪われたら、あいつは絶対に悔しがる。

 気合が入れて雄叫びをあげる。

 周囲から奇異の視線を浴びるけど、恥ずかしいとは思わない。

 覚悟が心を覆っているからだ。

 しかし耳には覆っておらず、アラームが鳴り響く。

 これは連続プレイの限界である四時間を知らせる音だ。VR規制により、一旦ログアウトして一時間の休憩を挟まなければいけない。

 渋々、メニューからログアウトを選択する。


 意識が遠のく間際。

 不意にネットリした気配を感じて首を回す。

 消えゆく視界の端に少女のジト目を発見したが、次の瞬間にはVRカプセルの半透明の青いディスプレイに変わっていた。



 【名前】 ゴリラ 【年齢】 16

 【性別】 男 【種族】 人間

 【Job】 格闘家Lv7 【Sub】 未開放

 【HP】 26/26 【MP】 92/92

 【ATK】 35 【DEF】 1

 【INT】 1 【MEN】 1

 【AGI】 1 【DEX】 1

 【LUX】 1


 【Gift】

 《突き技マスタリーLv3》

 《蹴り技マスタリーLv3》

 《投げ技マスタリーLv3》

 《ATK強化Lv3》

 《握力強化Lv3》

 《敏感肌Lv3》

 《妨害Lv3》


 【武器】

  メイン:低質の革グローブ

  サブ:屑鉱石のナイフ

 【装備】

  頭:劣化狼の血染めハチマキ

  胴:蜘蛛糸の胴衣(白)

  腕:同系統(胴)

  脚:同系統(胴)

 【装飾】

  ○物攻の指輪

  ○俊敏の指輪

  ○体力の指輪



[6]

【WRO】〔はじまりの森〕ボス攻略Part4【転載禁止】


1 名無しの狩人

 ◆前スレ

 【WRO】〔はじまりの森〕ボス攻略Part3【転載禁止】

  http://####.114514ch.net/read.cgi/#######


 ◆次スレ>>900

  踏み逃げなら>>950,>>980


 ◆βテストの情報

  ・一つの世界にボスは4体

  ・基本は東西南北の果て

  ・ボスのエリアは専用で侵入前に分かる

  ・レイド(PT6人×4)可能

  ・プレイヤーの人数により能力値変動

   (二人が最弱でソロは特別仕様)

  ・全て倒せば次の世界が開放

   (他プレイヤーの撃破でもカウントされる)

  ・全鯖通して最初にソロ討伐した場合のみユニークスキルGET

   (スキルは武器や防具の特殊能力。ユニークは全鯖で一つしかない)


  ○北 ブラッドウルフ 討伐目安Lv12

   ユニークスキル:蹴堕

  ○東 ハルバオーク 討伐目安Lv10

   ユニークスキル:味覚悪化

  ○西 殺人蜂 討伐目安Lv10

   ユニークスキル:一点突破

  ○南 大蜘蛛 討伐目安Lv14

   ユニークスキル:糸生産


594 名無しの狩人

 サービス開始から五時間経過

 討伐アナウンスなし


595 名無しの狩人

 初日では無理かも

 βの時は全討伐に三日かかったし


596 名無しの狩人

 《WRO》の課金に経験値ブースト系ないからな

 連続プレイも四時間に規制されているからムリポ


597 名無しの狩人

 さっき東のボスに挑んだけどやっぱLv6だと10秒も持たなかった


598 名無しの狩人

 βで行動パターンは学んでいるから火力超特化ならいけんじゃね?


599 名無しの狩人

 超特化って全振り?


 フレンドが火力全振りしたけど、動きが初期スペック(現代人の平均)だから狼の速度についていけなくてキャラデリ

 防御極振りは蜘蛛さんに巻かれたら終了


 極振りはフレンドに介護されないとゲームにならない

 ぶっちゃけ周りに迷惑だから特化程度がベスト

 ソロならご自由に~


600 名無しの狩人

 ソロだと

 デ ス ペ ナ 地 獄 !

 街からの外出禁止三十分w

 

601 名無しの狩人

 街のベンチでぼーと座っている奴らの事だな

 あと二時間のステータス半減もあったな


602 名無しの狩人

 デスペナ重すぎねwwww?


603 名無しの狩人

 VR規制で適宜ログアウトして欲しいため

 開発時に国の監査入りマース

 

604 名無しの狩人

 あかん 

 はよ精神の電子化


605 名無しの狩人

 そういえば生産職オンリーなら極振りもアリじゃね?


606 名無しの狩人

 DEXとLUXに全振り

 あとはINTもか


607 名無しの狩人

 >>605 生産も微妙よ

 確立で生産失敗しちゃうんだけど、その時ダメージ判定があるの

 防御力やHPにある程度振らないとタヒぬ


608 名無しの狩人

 でもさ生産職にはデスペナ無意味っしょ


609 名無しの狩人

 生産設備のあるエリアが実はフィールド判定

 外出禁止に抵触


610 名無しの狩人

 >>609

 糞ゲーwwwww


611 名無しの狩人

 設備を使わなくても生産は可能だけど

 成功確率はだだ下がり

 生産職の経験値は成功と失敗で十倍の開きがあるからデスペナ式生産マラソンは効率悪いでFA


612 名無しの狩人

 というか生産スレ行け

 スレチだぞ


613 名無しの狩人

 すまん


614 名無しの狩人

 おいお前ら

 西ボスと戦ってきたぞ


615 名無しの狩人

 おかー

 どうだった?


616 名無しの狩人

 攻撃ルーチンが変更されてた

 しかもパターンも増えてβの情報は無駄

 _(:3 」∠ )_


617 名無しの狩人

 うへw

 第一世界ぐらい楽させてくれてもいいじゃん運営ぇ


618 名無しの狩人

 むしろ俺は運営GJと言いたい

 βから変更なければ消化試合だったし


619 名無しの狩人

 ボス強化かよ

 って事はやっぱり今日中の討伐は無理かー


   ・

   ・

   ・


[7]

 食事と排泄、家事を終わらせ、ボスの情報を集めていると、VRカプセルに表示されるクールタイムの残りカウントが零となる。

 即座にログインする。


 スポーンしたのは大樹内にあるマイルーム。

 初めて見た部屋の第一印象は、ずばり狭い。

 ワンルームマンションに近く、家具もなければキッチンも風呂場もない。

 雰囲気としてはログハウスの一室といった感じか。

 生産職に頼めば家具や小道具を作ってマイルームを飾れるのだろうが、今は興味がない。

 扉を開けようとドアノブを掴むと、挟まれていた手紙が落ちた。


 《WRO》にはチャットやメール、ゲーム内掲示板などがあってコミュニケーションツールは充実している。

 その中で手紙のメリットは匿名性だ。

 拾い上げた手紙に差出人は記入されておらず、開いても末尾に名前は書かれていなかった。


 不審に思いつつ本文に目を通すと、ハルバオークに関する情報が詳細に記載されていた。

 俺が調べた以上に細かく、そしてなによりも攻略法が書かれている。

 掲示板などではボスの行動パターンこそ載っていても、それをどう攻略するかについては憶測が混じって判然としなかった。


 最前線のプレイヤーが意図的に情報を遮断したのだろう。行動パターンだけはマナーとして投稿し、攻略は各自で行う。

 この方法はVRゲームにおいて一般的な流れではあるけど、今の俺のようにいち早く討伐したい者にとっては業腹な状況だ。

 情報だけで組み立てられた戦法は机上の空論。致命的なミスを起こす原因となるために俺は焦っていた。

 そこにタイミング良く、攻略の情報が舞い込む。馬鹿でも差出人は分かる。


 猫の恩返しか。


 忍者志望の猫耳少女:千代女は情報収集能力に秀でているようだ。

 これで貸し借りナシって訳だ。

 得られた情報を基に作戦を練り直す。

 ついでにポーチからアイテムを取り出す。


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 ギフトレッサーウルフ

 レア度:☆4

 譲渡:獲得時のパーティー内でのみ可能

    パーティーを一度解散する譲渡不可

 販売:不可


 使うとGPの上限が1増える不思議な石

 一度使用した種類のギフト石は使えない


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 貝殻のような光沢を放つ低確率ドロップアイテム。

 手持ちで残っているギフト石(蜘蛛、ゴブリン、蜂)も使って合計でGPを4増やす。

 そしてハルバオーク対策の新たなギフトを習得する。


 《持久力強化Lv1》

 【適正】全職 【GP】1

 【効果】持久力にボーナスが付く


 《硬化Lv1》

 【適正】格闘家 【GP】3

 【効果】一時的に体を硬化し、ダメージを軽減する

  Lv1・・・10秒/10%軽減/リキャスト10秒



 準備は整った。

 運営からのメールが未だ届いていないのでボスは討伐されていない。

 はやる気持ちを抑えてマイルームを出る。


 ハルバオークは東の果てにいる。


 道中の敵を高ATKでゴリ押し、サクサクと一時間ほどで到着。

 エリアは救援時に示す鮮やかな赤色ではなく、ボス専用の特別仕様のドス黒い赤色に染まっている。

 触れると〔侵入〕か〔撤退〕かの警告ウィンドウが出たので侵入を選ぶ。


 ここまで森の深さに比例して木々の密度は増していた。しかし森の果てである眼前は、ぽっかりと大地が露出した土気色の空間だった。

 その中央で醜い豚人間、ハルバオークは待ち構えていた。


 三メートルはあろうかという巨体は物理的な圧迫を放ち、突き出た腹は女子供が入りそうなほど膨らんでいる。

 服と呼べる文化的な物は着ておらず、黄ばんだボロボロの布をぞんざいに腰へ巻き付けただけの野蛮な格好。

 粘つく体液を垂らす豚鼻は戦闘を前にして白い息を吐き出す。幾重にも刻まれた顔のシワには不衛生ゆえにカスが溜まり、腫れている。

 見ているだけで糞尿の中に浸っているような不快な気分に陥る。されどそれでも鼻を摘む者、顔をそらす者、逃げ出す者はいないだろう。

 両手に持つハルバードと、こちらの心臓を刺し貫く視線による威容を前にして、醜悪さへの不快感など木の葉のように吹き飛んでしまう。


 武者震いが止まらない。

 すでに戦闘は始まっているのに体が動かない。


 嗚呼。

 なんて。

 カッコいいんだ。


 見蕩れてしまった。

 このままなら数時間だって観察していられるのに、それをハルバオークが許してくれなかった。


 巨体が地を揺らして駆け出す。成人男性の胴回りよりも太い腕がハルバートを一文字に振る。

 その攻撃をうつ伏せに身を屈めて回避する。背中を超重量のハルバートが通り過ぎる。

 バリー・ボンズのフルスイングをホームベース上で避けたような迫力。

 もし一撃を受けていたらHPとDEFに極振りしたプレイヤーでも耐えきれずに死んでしまうだろう。


 《WRO》はプレイヤーの誰かがボスを倒せば次の世界に行けるため、雑魚と比べてボスが異常に強く作りこまれている。

 開発陣の『簡単に倒されたら悔しいじゃないですか』の想いが根底にある。

 ましてやソロ討伐に至っては「サービス終了までさせてやるものか」という開発陣の幻聴が聞こえてくる無茶な設定となっている。


 ゲームであるはずなのに三途の川を幻視するような猛烈な死の気配。

 きっとVRカプセルに横たわる現実の肉体は漏らしている。それほどの恐怖がハルバオークには宿っている。

 前にプレイしていた格闘ゲームは見世物だったと今なら自信を持って言える。

 ハルバオークには本気の殺意がある。開発陣の執念からなのか、その身から発する殺気は仮想上の偽物であるけども本物と遜色ない。

 科学全盛の現代人が心の奥底に仕舞いこんでしまった、生物としての本能が刺激される。


 ハルバオークの二撃目が振るわれる。


 《硬化Lv1》

 道中で試し、使用感を確かめた。

 土色の光を纏っている間、ダメージが軽減される。

 さらに。


 《妨害Lv3》

 敵の攻撃への妨害が可能となる。

 ハルバートが高速で近づく中、一歩踏み出す。直拳に構えた左で、ハルバートの前段の柄に向かって裏拳を打つ。

 体重差や力量差を考えれば現実では不可能だが、二つのギフトにより攻撃を止める事に成功する。

 雑魚で試して、《妨害》の効果はATK依存であるのを知っていた。


 受け止められたハルバオークは次の攻撃までに溜めを必要とするが、俺は右手が残っている。

 さらに一歩踏み出し、抱きしめられる程の距離から弛んだ腹目掛けて正拳を突く。

 たたらを踏むハルバオークには悪いが攻撃を止めない。


 《握力強化Lv3》

 伸ばした右手で、ちょうど良い高さにある股間を握りつぶす。

 爆発のような悲鳴が森に轟く。

 ハルバオークは悶絶して腰を引く。股間を中心に据えて体全体を縮め、手で股間をまさぐる。

 あまりに現実の生物みたいな反応をするので殺し合いの最中だというのに俺は開発に携わったすべての人と握手して感謝を伝えたくなってしまった。


 思考が逸れながらも俺の体は脊髄反射のように攻撃を続ける

 垂れ下がった豚鼻を掴み、無理やり顔をあげさせて貫手で眼球を潰す。

 再びハルバオークは咆哮する。

 両手で眼を覆って海老のように背中を反らすが、股間が丸出しになってしまう。

 俺はロベルト・カルロスさながらに蹴り上げる。


 しかしここまでやってもHPバーの減少は1%。

 ATK極振りの俺でこれなのだから、いかにハルバオークのHPとDEFがぶっ飛んでいるのか良く分かる。

 だが、絶望もしないし諦めるつもりもない。


 ボスは立ち上がって《ジャンプ》で後方へと離れ、ハルバートを肩に構える。

 事前に教えられた《乱れ薙ぎ突き》の前兆だ。

 前方への範囲攻撃にして連続攻撃でもある技。近接格闘しか出来ない俺にとっては相性が悪いけれども、ここでビビッたら勝てない。

 戦いに限らず、ありとあらゆる勝負事において後ろへ退い者は負ける。常に勝利は前へ踏み出した者のさらに先にある。


 駆け出す。

 圧倒的な筋力のハルバオークが武器を振るう速度は180を超え、突きに至ってはもっと速い。

 AGIが1の、初期スペックの能力しか出せない俺では回避不可能、のはずだった。


 しかし実際には紙一重で攻撃を掻い潜り、懐へと着実に近づいていく。

 不可能を可能にしたのは精確な攻撃予測。


 目線、肩の高さ、肘の曲げる角度、手首のスナップ、握り方、両拳の距離、へその向き、腰の位置、足の開き、足指の方向。

 その他、得られる限りの情報を整理して、猫耳少女から教えてもらった攻略方法に従って体を動かす。

 《WRO》にかすりダメージは存在しない。

 1ミリでも判定範囲から離れていれば1ダメージも食らわない。

 だから低HPでも戦えるが、言うは易し行うは難し。

 幼少の頃から武術に触れ、一日たりとも研鑚を忘れずに培われたセンスがあってこその曲芸。


 ひとつ攻撃を避ける度に集中が冴えていく。仮想の肉体、その心臓から指先まで血が流れ出す。

 ヒリヒリと肌があわ立ち、感覚の鋭さが増す。体全体で心拍を打つ。

 俺だけの固有のリズムが感情の波を抑制し、雑念なき思考は勝利への道を作り出す。

 情報にない攻撃も、研ぎ澄まされた今の境地にあっては容易かった。


 そして。

 2時間48分34秒後。


 ハルバオークはうつ伏せに倒れ、鼓動をとめていた。警戒を途切れさせずに澄ませていたが、ようやく殺せた事を納得できて戦闘以外の思考が生まれ始める。

 それは強大な敵を打ち倒し、生き延びた事で湧き上がる生物の本能的喜び。

 雄叫びを空に向かって吐き出す。


 ここで自分の声に混じってファンファーレが鳴り響いているのに気付いた。

 ボス討伐成功時のお祝いだった。

 メッセージも届いていたが、とりあえず勝利者としての権利である剥ぎ取りを行う。


 

 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 ハルバオークの皮 × 26

 ハルバオークの骨 × 15

 ハルバオークの頭蓋 × 1

 ハルバオークの血 × 6

 ギフトハルバオーク × 1


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲



 解体が終わると死体は粒となって消える。一部始終を見守ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 腰を降ろし、体力回復の間の暇つぶしで運営からのメッセージを開く。


『 ゴリラ様 ハルバオークの討伐おめでとうございます。

 

 初討伐および初ソロ討伐となります。

 褒賞のアイテムをお贈り致します。


 此度のお祝いを全てのサーバーにアナウンスさせて頂きます。

 アバター名の公開、非公開につきましては下記に選択ボタンを用意しておりますので

 お手数ですが二十四時間以内のご返信のほどよろしくお願い致します。


 〔公開〕 〔非公開〕 』


 悩んだ末に公開を選ぶ。

 すると新着メッセージが届く。


『《Wild Release Online》運営からプレイヤーの皆様にお知らせいたします。


 いつもご利用いただきまして、誠にありがとうございます。


 本日7月22日21時03分に第一世界のボス:ハルバオークの【初討伐】および【初ソロ討伐】が成功しました。


 討伐者名: ゴリラ


 これにより第一世界の未討伐ボスは三体となります。

 すべてのボスが討伐されますと全プレイヤー様が参加可能なイベントをご用意しております。


 是非ともご参加ください。


 お知らせは以上となります。ご不明な点がございましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。』


 【初討伐】【初ソロ討伐】...初っ!!


 口角が上がる

 ノブツナに先んじて倒せて安心した。大の字になって寝そべる。疲労はじわじわと充実感へと変わっていく。


 良い気分に浸っていると、連続プレイ時間の上限アラームに邪魔された。


 このままメニューからログアウトしたいが、フィールド上だとポーチ内のアイテムがなくなる。

 せっかくのボス素材を失うのはもったいないので急いで帰ろうかとエリアの外縁部に触れると、帰還の問い合わせが発生した。

 こういう部分はゲーム的で助かった。


 街に戻るとサービス開始時よりもさらに盛り上がっていた。

 時刻は夜の九時を過ぎ、ゴールデンタイムを迎えている。

 そこにボス討伐の報せが届いたので、飲めや歌えやのお祭り騒ぎになるのは当然だった。


 プレイヤー名を公開した都合、確実にもみくちゃにされる。

 面倒事を避けるならこのままログアウトするべきなのだけど、やりたい事があるで進んで人混みに飛び込む。

 周りのプレイヤーが俺に感づき始めると、祭りは最高潮を迎える。

 頭や肩を叩かれ、上腕筋や腹筋を触られながら大広場の中央へ向かって背中を押される。

 木工師が用意したのか、一段高い特設ステージが設営されていた。

 壇上に上がり腕を突き出すと割れんばかりの歓声が沸く。


 見つけた。


 集まった群衆の中に千代女はいた。

 彼女に向かってサムズアップを決める。

 ジェスチャーの意味を即座に理解すると、千代女は顔を真っ赤にして睨んできた。

 そして他のプレイヤー達が気付き始める前に路地へと姿を消してしまった。


 やりたかった事を済ませて視線を再び集まった人々に戻すと、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませるノブツナを発見した。

 目と目が合うと、ノブツナは舌打ちしてパーティーのメンバーたちと共に去る。それはまるで逃げるような様相だった。


 俺の勝ち。どやぁー。


 おかげで鬱憤が晴れて上機嫌だ。


 ログアウトまでの残った時間、観客の要望に応えてアピールを続けた。



 【初討伐】褒賞


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 オークのハルバート


 レア度:☆6

 種別:槍・斧

 能力:ATK+15 AGI-5 DEX+5

 耐久:200

 スキル: 空き

    : 空き

 

 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲



 【初ソロ討伐】褒賞


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 ハルバオークの猛心


 レア度:☆10

 種別:装飾

 能力:ATK+10

 耐久:500

 スキル:衝拳


 △▲△▲△▲△▲△▲


 《衝拳》

 【レア度】ユニーク

 【種別】アクティブ 【消費MP】10

 【効果】《衝拳》が使用可能になる

     突き技に衝撃波が加わる

     中距離まで攻撃が届く

     効果時間は一分/再使用まで一分



[8]

【WRO】Wild Release Online総合Part681【転載禁止】


1 名無しのゲーマー

 ◆公式サイト

  →トップサイト http://Wild Release Online#####

  →公式twister http://twister.com/Wild Release Online#####

  →公式ブログ http://Wild Release Online/news/#####


 ◆前スレ

 【WRO】Wild Release Online総合Part680【転載禁止】

  http://####.114514ch.net/read.cgi/#######


 ◆次スレ立て

  >>700

  立てられなかった場合は安価。

  踏み逃げの場合は>>800,>>900


   ・

   ・

   ・


400 名無しのゲーマー

 初日終了したけど

 どだった?


401 名無しのゲーマー

 神ゲー

 今日ほど四時間制限を恨んだことはない


402 名無しのゲーマー

 マジ最高


 というか怒涛のボス討伐ラッシュはちょー燃えたwwww


403 名無しのゲーマー

 21時からの二時間で第一世界のボス全て撃破だからな


404 名無しのゲーマー

 イベントが待ち遠しぃいい!!


405 名無しのゲーマー

 立て続けで分からんかったけど

 誰か討伐者まとめておらへん?


406 名無しのゲーマー

 >>405

 ハルバオーク

 →ゴリラ(ソロ)

 ブラッドウルフ

 →騎士団(PT)

 殺人蜂

 →社会人チーム(PT)

 大蜘蛛

 →水光接天(PT)


407 名無しのゲーマー

 >>406 thx


408 名無しのゲーマー

 ゴリラの存在感

 ぱないの!


 ソロってなんだよマジで


409 名無しのゲーマー

 チート疑惑でスレが立ったからなw

 運営への問い合わせ多数らしいw


410 名無しのゲーマー

 さっきイベント告知と一緒に公式の返答あったぞ

 チートは無しだってよ


411 名無しのゲーマー

 >>410

 まじかよ...

 リアル化物かよ

 いや、ゴリラだから合ってるのかw


412 名無しのゲーマー

 疑惑スレで言われてたけど

 そのプレイヤー別ゲーの有名人だってよ


413 名無しのゲーマー

 >>408

 格ゲーのチャンピオンまで登り詰めた人

 一部で日本のマイク・タイソンとか誇張されてる


414 名無しのゲーマー

 筋肉モリモリマッチョマンの変態かよ!?


415 名無しのゲーマー

 それシュワちゃん

 ある意味最強だけど


416 名無しのゲーマー

 広場で見たけど日本人離れした体格だよな

 まじゴリラ


417 名無しのゲーマー

 ところでイベントの詳細ってどこで見れる?


418 名無しのゲーマー

 リンク貼っとく


  http://Wild Release Online/update/event101/#####


   ・

   ・

   ・



[9]

 イベント告知


 ■ 呼 称 ・・・『生産の宴《ドキッ! 丸ごと水着! スライムだらけの防衛戦線》』


 ■ 日 時 ・・・7月23日12:00 ~ 7月24日24:00


 ■ 場 所 ・・・第一世界〔はじまりの森〕


 ■参加 条件・・・ な し


 ■主 催 者・・・ユグドラシル樹長


 ■ 概 要 ・・・突発的に起こったスライム大増殖!

          ユグドラシル樹長は「非常事態宣言」を発令する

          約定に従いすべての異邦人は解決へと乗り出す


 ■ 日 程 ・・・23日12:00より〔はじまりの森〕にて

          既存モンスターが消えてイベント専用モンスターに変更される

          同時に「非常事態宣言」が発令、大樹活性によりユグドラシル内の生産が向上する

          23日24:00と24日12:00にモンスターの侵略が予想される

          24日21:00から樹長を総大将とした軍が反転攻勢に出る作戦

          24日24:00から表彰式、宣言の取り下げを予定している


 ■ポイント制・・・生産ポイント(以下pt)と戦闘ptの二種類がある

          生産ptの算出式

          ・作成 pt=レア度×(レア度-本イベント中に作成した同名アイテム数+スロット数)

          ・強化 pt=強化値×(レア度-本イベント中に強化した同名アイテム数+スロット数)

          戦闘ptは下記に記載されている各モンスターのptをトドメをさしたプレイヤーに付与

          24日24:00に集計終了し、即時ランキング発表と各TOP10の方々に褒賞の贈与

          褒賞の内容は表彰式にて発表いたします


 ■大樹 活性・・・イベント中は生産のクールタイムが零になる

          生産の成功確率+10%/大成功確率+5%

          武器防具装飾の強化成功率+10%


 ■ 水 着 ・・・イベント専用モンスターからドロップするアイテムを使用することで生産可能

          種類はワンピース型・セパレート型・ビキニ型・ボックス型・スパッツ型

             サーフパンツ型・フィットネス型・スクール水着

          形状、色、模様、サイズ選択可能

          ただしマイクロサイズは不可


 ■モンスター・・・このイベント限定で五種類のモンスターが登場

          スライム・・・  1pt 武器防具装飾の耐久度への高い攻撃性能を持つ

          ビキニ猿・・・  3pt トリッキーな攻撃で翻弄する

          サーフ虎・・・  5pt 滑って動く重量モンスター

          スク水鳥・・・ 500pt 出現率《極低》 魔法を使う

          ????・・・1500pt ボスモンスター 【初討伐】と【討伐】に褒賞あり

          ※注意※ イベント専用モンスターからギフト石はドロップしません


 ■第二 世界・・・イベント終了後から移動可能となります


 ■ 補 填 ・・・平日の開催となりましたので参加の困難な方が多いと予想されます

          9月1日までの間、土日をメインとして計10日50時間、同イベントを開催いたします

          ただしポイント制とボスモンスターの褒賞は初回のみとなります



[10]

 7月23日 8:00


 俺は鍛練と食事、家事を済ませて《WRO》にログインする。

 前回のログアウトがハルバオーク撃破後の大広場だったために、二百件もの新着メッセージが届いていた。

 マイルームの扉を振り返れば予想通り、手紙が溢れかえっていた。


 一つずつ見ていくが、途中から件名だけ確認して破棄していく。

 どれもが勧誘だった。フレンド、パーティー、ギルド。

 俺の《WRO》での知り合いはノブツナと千代女の二人だけ。だから差出人のチェックだけでも捨ててもいいのだが、とある勧誘に関しては読んでおきたい。

 それは生産職プレイヤーとの専属契約の誘いだ。


 専属契約とはゲームの歴としたシステムだ。

 結ぶことによって、相手がログアウト中であっても手数料なしでアイテムやお金を送れるようになる。

 さらに契約者からの生産依頼には特典がつき、成功率や強化率、スキルの発現率が僅かではあるけども上がるのだ。


 バリバリの戦闘職である俺は生産職に就くことも、ましてや生産系ギフトも取るつもりは一切ない。

 しかし戦闘する上で装備の充実は重要だ。そのため俺の要望を実現してくれる生産職の専属契約、つまり相棒が欲しい。

 求める条件は寝る前に考えてある。


 ・女であるか

 ・美しい、または可愛いか

 ・生産技術が高いか

  ∟ 職、ギフトのLvの高さではなく生産センス

 ・ゴリラへの理解があるか

 ・胆力があるか

 ・専属は可能であるか

 ・学生であるか

 ・性格の相性が良いか


 ざっと評価項目は以上だ。

 いくつかは必須であるが、全てを満たしている必要はない。

 これらを考慮してメッセージと手紙を吟味しているが、どうしても顔が見えないために判断が難しい。

 もういっそ掲示板に募集でも出してみるかと考えたが、今の段階で数百件の勧誘が来ている事とイベントまで残り四時間を切っている事を踏まえると却下せざるを得ない。


 こういう時は足を動かすに限る。

 残った勧誘は名前だけ見て破棄してしまう。


 マイルームを出て最初にスポーンした三階の広場へと足を運ぶ。

 平日の朝だというのに賑わっていた。夏休みを利用していると思われる少年少女だけでなく、年齢の高い大人やお年を召したお方までいるのは有給を取ったからだろう。

 中には親子と思われる似た人相のグループもいて、VRゲームの人気の片鱗を感じた。


 広場に辿り着くと注目が俺に集まる。

 声をかけてくるプレイヤーもいたが、短い言葉で追い返すと場は冷えて落ち着きだす。

 失礼な対応をしてしまったプレイヤーに心の内で謝罪する。

 分不相応な例えをするなら、テレビの有名人が道端で話しかけれて煙たがるのに近い。

 盛り上げる場では愛想を振りまくけども、それ以外の場面では静かに暮らしたいと思う。


 俺の態度に冷えてしまった空気が少しずつ暖かさを取り戻してく間、街の把握をする。


 大樹ユグドラシルの中に形勢された街は、中心が巨大な吹き抜けになっている。普通なら枯れているはずだけど、そこはゲームだ。雰囲気や見た目重視のデザインとなっている。

 吹き抜けの壁には十以上の螺旋階段と、マイルームの入退室で使った百機以上の魔法エレベーターが設置されている。

 今いる三階の広場は螺旋階段の踊り場も兼ねている。

 下から吹き上げる緑の薫りに顔を晒しつつ、一階の大広場で蟻のように忙しなくうごめくプレイヤー達を観察する。


 今日から始まるイベントは生産職が主役だ。

 そのため熱気が一段と増している。素材アイテムの買取価格は昨日の夜から二倍から三倍に暴騰していた。

 背後の熱を取り戻し始めた広場からも「蜘蛛の糸一つ300リブで買取してます!」や「他の店よりも1リブ高く買取するよ!」などの声が聞こえてくる。


 《WRO》の通貨単位はリブ。Lと略される。

 ゲーム開始時に1000Lが配られる。公式が昨日だけで全鯖合わせて26万人ログインしたと発表したので単純計算でゲーム内にリブは2億6000万存在する。

 プレイヤー間での売買には数種類あり、その内の一つであるオークションでは運営に手数料として5%取られてしまう。さらに拠点内の生産施設は利用料が発生し、これまた運営へ取られてしまう。

 このままだとゲーム内の通貨量は減っていくばかりだ。そこに目をつけた一部の廃人が素材を高値で購入したためにここまでの暴騰が起こっている。


 一応NPCからのクエスト報酬にリブがあったり、モンスターの素材をNPC店で売ったりすれば通貨量を増やせる。

 しかし既にNPC店の買取価格をプレイヤーの買取価格が上回っているので、損してまでNPC店に持ち込む者はいない。

 そしてクエストにいたっても未だ第一世界であるために種類は少なく、報酬も微々たるモノに抑えられている。


 結果、生産をやりたいけど戦闘は不得手なプレイヤーが初期の1000Lでアイテムを買えずに苦労している状態だ。

 オンラインゲームにとって買占め、転売はガンだ。不治の病だから対処療法しかない。そして運営は此度の一件はイベントの前の需要と考えて静観の構えだ。


 踊り場から離れ、広場の反対側に行く。

 こちらは大樹の外に面してるため、フィールドを見渡せる。

 〔はじまりの森〕の浅い内縁部に生産職と思われるプレイヤーが素材の草花を採取し、岩石にピッケルを振り下ろし採掘している。

 物を作って、店を構え、客との販売交渉を夢見たプレイヤーが下働きしている様は、仮想なのに現実染みている。


 VRゲームが現実に近づけば近づくほど、こういった問題は発生してしまう。


「きずつないけど、ゴリラはんやんか?」


 思考に割り込んできた声に振り返る。

 赤い眼鏡をかけ、その奥の目はキツネのように細められた男が立っていた。


「やっぱりそうやん。ワテの名は堺宗巴いいます」


 エセ関西弁。

 ちょび髭と慇懃無礼な雰囲気も合わさってとても胡散臭い。

 堺商人なのにエセ京都弁って所が特に。


「ワテはノブツナはんの専属、さかいによろしゅうお頼申します」


 それはよろしく出来ない。

 チンパンジーの友達のキツネ:堺宗巴、と覚えて要注意人物リストに入れておこう。

 たしか目を通して破棄したメッセージの中にそんな名前があったな。

 記憶は正しく、宗巴はハルバオークのドロップアイテムが欲しくて話しかけてきた。

 ノブツナ達の装備をハルバオークで揃えたいのだと打ち明けてくれた。


「1つ1万リブでどうどっしゃろ。本当はこれ以上しんどいけどノブツナはんの親友ならワテの親友でもあるさかいに1万2000でかまへん」


 目玉が飛び出る金額。

 仮に販売可能なドロップ品を全て売れば57万6千Lにもなる。

 初期プレイヤー576人分と考えれば分かりやすい。それだけの額をゲーム開始翌日にも関わらず宗巴は支払えるのだろう。

 金額の提示に迷いがない。

 だからこそ胸糞悪い。


「すみません。無理です。売る気はないのでお引取り下さい」

「1万5000」

「金額の問題じゃない...です」

「しかつい人やっちゃな。堪忍しとぉくれやす」

「...いい加減にしろよ」

「あかん、かなんなー」

「帰れ」

「こわいこわい。しゃーない、ほなごめんやす」


 間違いなく宗巴は過度な買占め、転売を行うマナー違反者だ。


 俺は煮え切らない気持ちを割り切って専属の生産職を探しに出る。

 審査の項目に一つ加える。


 いま広場にいる奴らは嫌だ。


 全員が全員、悪い奴じゃない事ぐらい分かっているのだけど、心情として拒否感が強い。

 自然と足はフィールドへと向いていた。



[11]


 猫だ。


 〔はじまりの森〕の浅い場所をうろついていたら猫耳少女:千代女を発見した。

 野良猫のように警戒心が強く、一歩近づけば三歩離れる。

 生憎とまたたびは未実装らしくお手上げだ。

 何度か言葉を変えて話しかけてみたが、返事はジト目だった。

 許可もなくフレンド申請するのも憚れる。


 どうしたものかと、首を傾げる。

 千代女も真似して小さな顔を傾ける。


 そのまま十秒ほど見詰め合うと、飽きたのか千代女は歩き出した。

 もちろん俺から離れるように。

 今日はお別れかと寂しく思ったら、少し進んだ先で千代女は振り返って俺を見つめていた。

 また歩き出すと、三歩進んで振り返った。


 彼女の行動の意味を理解した。

 千代女の後を追いかける。


 一定の距離を保ちつつ進むと、千代女が前方を指差し、その後はそれこそ忍者のような軽やかさを見せて木の枝へと飛び上がり、音を立てずにどこかへと去ってしまう。

 取り残された俺は指差した場所に向かう。

 そこには一人のプレイヤーが採取ポイントで膝をついて綺麗な赤紫色の花を摘んでいた。

 声をかけようとして、腰の下から伸びる尻尾を見つけて口を噤む。


 背中側に反り返り、キツネよりも少し短い斑模様の尻尾。

 ポニーテールの結い目の上に生えるのは丸みのある小さな耳。

 灰色や黄色、茶に黒が混じっている。


 ニホンオオカミ。


 文献で読んだ絶滅種を髣髴とさせる姿に、知らず息を呑む。


「うわっ! あんた誰だよ!? いつの間に背後にいたんだよ...」

「俺はゴリラ。千代女から君を紹介された」

「ゴリラ? 千代女? 誰?」


 ...どういうことだよ。

 前回のボス攻略情報みたいに、俺が求めている存在に取り次いでくれた訳じゃないのかよ。

 いや、疑ってはいけない。

 無口で人見知りっぽい千代女が無駄な事をするとは思えない。


「実は専属契約を結んでくれそうな優秀な生産職を探していてな。千代女というのは俺の知り合いで、彼女がここに誘ってくれたんだ」

「ふーん。アタシの名前は三島徳利。好きに呼びな」

「じゃあ三島。それで三島は生産職で合ってるか?」


 三島の釣り目が細められて俺を値踏みする。


「そうだよ。だけど生憎と貧乏生産職さ。専属結ぶような秀才さんはあっちだよ」


 腕組みして顎で大樹をさす。

 転売買占め連中の事か。


「そっか。三島はあんな連中に劣るのか。悪かった」

「おい、ちょっと待て」


 帰る素振りを見せると怒気の混じる声に呼び止められた。


「アタシがあいつらより劣っているだって...ふざけんじゃない」

「いや。秀才はあっちだって三島が言ったんだろ」

「ぅぐっ...そう、だけどさ。売り言葉に買い言葉ってあるだろぉが」


 《WRO》の生産は職やギフトのLvをただ上げれば良い物が作れる、という簡単なモノではない。

 公式の紹介文には「センスが一番重要」と謳い、掲示板をのぞけば「センスさえあれば良い」とまで書かれていた。

 もちろん職やギフトが一切関係ない訳ではなく、言わばLvは品質の下限を上昇される類のモノで、最高を目指すならセンスが必要になるという事だ。


 俺の持論ではあるが、センスを発揮する上で大事なのは当人の自信だ。

 絶対に負けない、という強い想い。幸い、三島は持っているようだ。


「俺と専属契約を結んでください」

「唐突に丁寧になるなよ! はぁ。答えは同じだよ。アタシは今日から初めた貧乏生産職で、いまは満足させられる代物を作れないのさ」

「素材や金は俺が用意する。だからとりあえず一品作ってくれないか」

「...食い下がるな。分かった。ここまで言われて引き下がったら三島の名折れ。一品作ってやるよ。それで、何が欲しいんだい」


 メニューから交換を申請してハルバオークの素材を提示する。


「なっ!? こ、これは...! あんた、何者だい。ただのゴリラじゃないね!?」


 問い掛けに対して口元を緩めて返事とする。男のカッコよさは口ではなく行動で語るものだ。



[12]

 ユグドラシル工房。


 マイルームに近いシステムが導入されており、拠点内のエレベーターに乗って〔工房〕を指定する。

 個室と相部屋が選べる。設備のレベルは同じだけども値段は個室が少し高い。

 入室時に部屋代として50L支払う。これで十五分間使用できて、延長は十分単位となる。延長料金は個室で15L、相部屋で10Lに設定されている。

 俺と三島は個室を選ぶ。部屋の造りはマイルームと同じで、一回りほど広く、炉や机、蒸留台に紡績機、大窯、各種作業台などが置かれている。


 設備に目移りする俺とは対照的に三島は慣れた様子で炉の前に座る。


「βテストの時に利用しているからね」

「その様子だとやり込んでる様だけど、なんで昨日はログインしなかったんだ」

「夏休みの課題を終わらせてからじゃないとゲームやっちゃだめってママ、がッ! あ、いや。お母さんが言うから。お母さんがねっ!」


 ここまでくる途中でお互い高校生だと判明した。

 俺が一年で、徳利は二年だった。

 先輩だけどタメ口で良いと許されたので口調はそのままだ。


「それで今日やっとログインできたと思ったらさ、素材の値段が頭おかしい事になってて、しょうがないからフィールドに出てたんだ」

「転売屋の仕業か」

「ゴリはさ、あいつらの事をどう思う。いや、ごめん。嫌だからアタシの所に来たんだったね」


 会話はそこまで。

 炉が熱し、三島が作業を始めた。

 『質の悪い鉄』と『ハルバオークの骨』を入れる。鉄が真っ赤に発光するとハサミで掴み金床の乗せてハンマーで叩く。

 20秒も経たずに再び炉に戻し、最適温度になれば金床に移して叩く。これを何度も繰り返した後、厚さ2-3cmほどの板状にする。

 斧に近い形の道具を使い、板に切り込みを入れる。そこに骨を挿して叩き込む。接着剤として灰色の砂をまぶし、炉に戻す。

 色を注視し、ここぞというタイミングで出す。あとは叩きと熱す作業を幾度か行う。


 これら作業の力加減や回数、温度調整はプレイヤーにゆだねられる。

 職やギフトの存在価値は適切なタイミングを知らせてくれたり、叩き漏れのある箇所が緑色に見えたりといった補助だ。

 三島は《適宜冷却Lv1》のギフトを持っているので、一分もせずに冷えた鉄を持ち、研磨機を使って粗仕上げする。

 この後の工程は焼き戻しと最終仕上げだけとなる。

 ゲームゆえに作業は簡略化され、工数も減らされている。

 しかしそれでも肌を炙るような火の温度を感じ、指先はジンジンと震える。


「子供の頃、魔法少女のアニメが好きだった。主人公の女の子が持ってるステッキがどうしても欲しくてパパ、ごほんっ! お父さんにねだったけどダメでさ。

 だから自分でステッキを作ってやった。ダンボールを張り合わせてさ。そしたら切り口とかボロボロでさ、振るたびにゴミがこぼれてさ、持ち手は曲がって柄はへにゃって折れちゃった。

 でも楽しかった。それ以来アニメを見ても武器や装備ばかりに目がいくようになっちまった。将来は劇とか映画の美術スタッフになりたいなぁーって思ったけど、いまってどれも映画はCGで、劇は仮想上で行うようになっちゃって...もう美術スタッフはただのプログラマーだよ。

 はは、情けないよな。それで行き着いたのがVRゲームだったんだ。ゲームだって分かってるんだけどさ。それでもやっぱり手で物を作っているとアタシは思うんだけど、笑うかい?」


 所詮データ上の、0と1が作る仮想上の出来事。さらには生産過程は擬似的で簡素、都合の良いモノだ。

 作り出される物はまやかし。偽物。

 しかし彼女の真剣な顔を見て正論を返せなかった。

 ましてや笑うなんて無理だった。


「マネーゲームをするのも1つの楽しみ方だと思う。だから転売屋たちは嫌いだけど文句を言うつもりはない。でもさ、そんなやつらにイベントの一位は取らせたくない。絶対に」


 もうじき始まるイベントの呼称は生産の宴。

 物を作る事にプライドを持つ三島はどうしても勝ちたいと心を熱する。

 出合った時、無我夢中で素材を採取していたのは勝つため。

 そして目の前には貴重な素材を持つプレイヤーである俺がいる。


「だからお願い。アタシと専属契約を結んでください。素材を提供して欲しい。勝ちたいの。負けたくないのっ」


 

 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 ハルバオークの鉈

 Made in 三島徳利


 レア度:☆6

 種別:鉈(サブ武器)

 能力:ATK+5 DEX+5

 耐久:200

 特殊:解体速度2.0倍

   :解体回数が20%の確立で一回増える

 

 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 作り出された武器は現段階では最高の品質の一品だった。

 これを見せられて、信念を聞かされて、断れるだろうか。いや、出来ない。


 俺は三島と固く握手を交わした。



[13]

「異邦人の皆様。まずは突然の招集にこれだけの人が駆けつけてくれた事に感謝を述べます。

 今回お呼びした理由はこの世界に魔物の大量発生が確認され、ユグドラシル樹長である私が『非常事態宣言』を発令したからです。

 古き盟約に従い、異邦人の皆様に大樹の加護を与えます。対価として大樹を、私たちをお守りください」


 7月23日 12:00

 街の大広場の中央で初老のおじいちゃんが、年齢に反して大きく太い声で宣言を発する。

 宣言の終了と伴にユグドラシル全体が淡く緑色に発光する。

 集まったプレイヤーたちがメニューから自身のステータスを見ると『大樹の加護』のバフが付与されていた。


 生産職は即座に工房へ走って行き、戦闘職はフィールドへと駆け出す。


 俺は手持ちのアイテムを全て三島に渡したので手ぶらだ。

 あとはモンスターを倒しまくって、送還するだけ。専属契約を結んでいなかったらアイテムを渡すために戻らなければならなかった。

 とりあえずアイテム送還の目安として一時間のタイマーを設定し、フィールドを駆け回る。


 拠点周辺では敵とエンカウントせず、最初の遭遇は第一世界の外周部だった。

 ぽよん、ぽよんとジャンプして進むスライムが五匹。

 体積はバスケットボールほど。色は赤色、水色、緑色、紫色、青色と多様だ。

 とりあえず物理攻撃が通用するのかひと当てしてみる。


 殴った感触は水風船そのもので、スライムはパンッと音を立てて弾け飛んだ。

 あっさりした決着に肩透かし。

 しかし武器を見た瞬間、緩んだ気が張り詰める。


  

 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 低質の革グローブ


 レア度:☆2

 種別:拳

 能力:ATK+2

 耐久:12 (34ダウン)

 

 △▲△▲△▲△▲△▲△▲


 ごっそり耐久が削れている。

 イベント告知に説明されていた装備の耐久度への攻撃とは、触れただけでも効果があるようだ。

 物理攻撃職を潰しに来ている。

 運営の意図としては装備の生産と破壊のサイクルを合わせたいに違いない。大樹の活性により生産速度が上がったので、破壊速度も上げざるを得なかった。

 厄介な事態にプレイヤーはため息をもらすが、俺だけは笑っていられる。


 残りの四体のスライムに向かって、距離が開いた状態で拳を突き出す。

 四つの破砕音が響く。

 《衝拳》のスキル効果を発動させたおかげで触れずに撃破する事が可能なのだ。


 ハルバオークの鉈で手早く解体を済ませてドロップアイテムを回収する。


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 スライムゼリー × 17

 スライムの核 × 5

 水着用布地(イベント専用) × 3


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 エリアの再接続が終わると次の獲物を探す。

 ちょうど目の前に赤く光るエリアがあるので侵入する。


 そこは桃源郷。

 女性プレイヤー三人組が防具を溶かされてインナー状態で悲鳴をあげている。

 彼女らは枝と枝を自由自在に飛び移るビキニ猿に翻弄されていた。

 ビキニ猿の名前の由来は毛色がビキニ模様になっているからだ。


 驚いた事にビキニ猿はスライムを手に持ち、プレイヤー目掛けて投げるという戦法を使っていた。

 なんと素晴らしい、いや、悪辣なんだ。

 猿は、胸や股の大事な所を隠して両手が塞がったプレイヤーに追い討ちをかける。

 なんて羨ましい、いや卑劣な手口だろうか。


 ウッキッキーとニヤつく猿。

 作ったのは絶対に男だ。

 いいぞもっとやれ、と本音では応援したいのだが、今回のイベントはガチで一位を目指しているので心を鬼にする。

 《衝拳》を連発し、逃げるビキニ猿をエリアの壁へと追い込んで殺す。

 サクッと解体を済ませ、感謝を背中で受けて次のエリアに向かう。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 ビキニ猿の毛 × 8

 ビキニ猿のビキニ模様の皮 × 1

 水着用布地(イベント専用) × 2


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 幾度かの戦闘をこなし、一回の戦いを十秒以下に収めるまでに洗練され出した頃、サーフ虎と出遭った。

 なかなか奇抜な外見のモンスターだったので立ち呆けてしまった。

 虎自体は現実と同じ外見なのだが、何故かロングボードに乗っている。伏せの姿勢で。そして移動する時は背後から波が出現して前足でパドリング。タイミングばっちりのテイクオフを決め、二足で立ち上がる。

 スムーズな、熟練者を思わせるライディング姿に見惚れていると、こちらに突撃してくる。

 俺は《WRO》で初めて正面から攻撃を受けてしまった。


 なんとか一撃死は避けられたが、残りHPが5。心に渇を入れて《衝拳》を打つ。

 チューブライド中のサーフ虎に直撃し、波に揉まれて絶命する。


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 サーフ虎のボード × 1

 サーフ虎の皮 × 2

 水着用布地(イベント専用) × 1


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 その後、合間合間でアイテムを送りつつ、休まずに連戦した。

 連続プレイ時間の限界までプレイしたが、スク水鳥とはエンカウントしなかった。

 説明文でも低確率だと書かれていたので仕方ないと諦める。

 俺は三島に連絡し、ポーチのアイテム全て送ってからログアウトした。



[14]

【WRO】生産の宴総合Part47【転載禁止】


1 名無しのスイマー

 ■公式サイト

  →トップサイト http://Wild Release Online#####

  →公式twister http://twister.com/Wild Release Online#####

  →公式ブログ http://Wild Release Online/news/#####

  →イベント告知 http://Wild Release Online/update/event101/#####


 ■前スレ

 【WRO】生産の宴総合Part46【転載禁止】

  http://####.114514ch.net/read.cgi/#######


 ■次スレ>>900

  踏み逃げなら>>950,>>980


   ・

   ・

   ・


741 名無しのスイマー

 夏だ!


742 名無しのスイマー

 水着だ!


743 名無しのスイマー

 VRゲームだ!


744 名無しのスイマー

 外に出ろ


745 名無しのスイマー

 てか何故このタイミングで水着イベなんだよ

 海ないじゃん!! 森じゃん! 大樹じゃん!

 森林浴しか出来ないよ...


746 名無しのスイマー

 ふぅ休憩


747 名無しのスイマー

 オイラも現実休憩タイム


748 名無しのスイマー

 ああ四時か

 ガチ勢のクールタイムなのね


749 名無しのスイマー

 だれか情報をまとめてない?

 仮眠を取りたいからお願い


750 名無しのスイマー

 オイラもほすぃ


751 名無しのスイマー

 態度わりぃな

 自分で探せよ

 イベント開始はPart44からだ

 情報が出始めたのは700以降だったかな


752 名無しのスイマー

 >>751の優しさにときめいた

 やる気でてきた

 ちょっと情報まとめてくる


753 名無しのスイマー

 は?


754 名無しのスイマー

 >>751の優しさを台無しにしていくスタイル

 あらてのツンデレかな


755 名無しのスイマー

 ねぇねぇ質問いい?


756 名無しのスイマー

 >>755 質問スレ池


757 名無しのスイマー

 質問するね

 サーフ虎からボードGetしたけど

 どこで使うの?


758 名無しのスイマー

 やべー

 人の話を聞かない奴ばっかりだ...


 ボードはサーフ虎が起こす波で使えるっぽい

 ただしVRゲームの水表現は...あ察し、レベル

 つまり期待するだけ損


759 名無しのスイマー

 >>758は>>751と同一人物

 心に染み入る優しさやで~


760 名無しのスイマー

 サーフ虎といえば

 初見の時リアルに

( д) ゜ ゜

 こうなった


761 名無しのスイマー

 はよ病院行け


762 名無しのスイマー

 優しいレスに溢れたスレだなー()


 とはいえ確かに驚いたな

 360とかロデオフリップとか決めてたぞ

 虎のモーション絶対プロから取ってるよ


763 名無しのスイマー

 ギャレット・マクナマラかな


764 名無しのスイマー

 でけた


 ・モンスターについて

  ∟スライム……中、遠距離攻撃で倒せ 水着用布地ドロップ

  ∟ビキニ猿……壁に追い込め 水着用布地ドロップ

  ∟サーフ虎……見惚れるなボードを狙え 水着用布地ドロップ

  ∟スク水鳥……現在報告は六件 スク水用布地ドロップ

  ∟????……報告なし おそらく侵略時に登場


 ・スク水鳥について

  出現条件がある、と思われる。

  候補 ・スコールが晴れた直後のエリア(信憑性:高)

     ・PTメンバー全員が水着着用(信憑性:中)

     ・PTメンバーLv10以下(信憑性:中)

     ・日中(信憑性:中)

     ・PTメンバーに幼女(信憑性;願望)


 ・水着について

  スク水以外の水着はレア度1-4 水着用布地が必須

  スク水はレア度4-6 スク水用布地が必須(情報少ないので注意)

  布地以外に素材アイテムを加える事が可能

  水着は生産5職なら作成できる

  扱いは一律で胴の装備となり、他は同系統になって装備不可


  ※ここ大事※

  水着には《一時の悪ノリ》という特殊能力が高確率で付く

  効果は全能力+50%(切り上げ)ただし『生産の宴』開催中のみ


765 名無しのスイマー

 おおー


766 名無しのスイマー

 GJ

 助かった


767 名無しのスイマー

 スク水のレア度高いな

 やっぱり日本製ゲームだと安心する


768 名無しのスイマー

 次はブルマーが出るかもな


769 名無しのスイマー

 ありえるw


 でも実装されたとしても後発のピッタリ型だろ

 ぼくちん、ちょうちんブルマーが好きなんだよ(´・ω・`)


770 名無しのスイマー

 節子 それブルマやない バルーンパンツや


771 名無しのスイマー

 (´・ω・`) そんなー


772 名無しのスイマー

   人人

   ) (

   \/


773 名無しのスイマー

 wwwwww


 豚がスク水着てるw


774 名無しのスイマー

 結構ほそい体してるけど

 何かスポーツやってたの?


775 名無しのスイマー

 草の上に立つスク水らんらん

 今の《WRO》を象徴してるな


776 名無しのスイマー

 森を駆けるサーフパンツ騎士

 ワンピース水着の魔法少女

 セパレート水着の女剣士


 なんのゲームだっけ


777 名無しのスイマー

 777Getだぜ!!


    ・

    ・

    ・



[15]

 ログインするとマイルームだった。

 フィールドでログアウトしても指定した拠点内にスポーンするようで安心半分、ログイン後に即戦うのもアリだと思っていたので残念半分だ。

 マイルームを出てエレベーターに乗り込む。

 一階の大広場に到着すると、逸る足が止まった。


 数百、下手をすると千を超えるプレイヤーの八割近くが水着になっていた。


「これは、また。やばいな」

「驚いたみたいだね」


 俺の呟きに背後から、ログインしたばかりの三島が応えてくれた。顔を合わせるため振り向こうとしたら強い語調で止められた。

 そして目を瞑るよう命令されて尚且つ手を握られた。そのまま連れて行かれる。周囲の音から判断するとエレベーターに戻り、工房へ入ったようだ。


「目を、開けて...良いよ」


 目の前には三島が立っていた。

 水着で。ビキニ姿で。パレオを腰に巻いて。胸がこぼれそうだ。

 眼福だった。


 ゲームで良かった。

 現実なら鼻血モノだ。


「どう? 変、じゃない...?」


 三島は恥じらいから股を隠そうと脚をモジモジさせる。その仕草は端的に言って、そそる。

 しかし三島が望む回答は別な事ぐらい分かる。

 ここは相棒として答えなければならない。


「ふむ。青と白で彩り浜辺をイメージさせているのか。それに目を凝らせば葉の集合体で浜辺を描いている。大樹や森の中で着る前提を活かしつつ、夏らしさ、海らしさを演出した訳だな。

 ブラはフレアフリルを二段にして、風で流れる様は波を表現している。視線を下に移せばパレオが踝まで伸びて脚を長く見せ、うっすらと透ける脚がスラっと細く見えるように配慮されている。

 腰の結び目の下に生まれたスリットからチラ見えする肌色もポイントが高い。パレオの長さをアシンメトリーにして、こちらでも凪ぎの涼しさを醸し出している。

 ショーツ部分はパレオによって隠されているが、それ故にミロのヴィーナスのように想像を否応なく奮い起こされる。ざっと俺から言えるのはこれぐらいだな」

「え、なに。ゴリって...そういう人なの?」

「意味が分からん。感想を求められたから思った事を口に出しただけだ。足りないというなら続けて」

「ちょっとたんま! もう大丈夫だから! 充分伝わったから! ありがとう!」


 顔を真っ赤にして三島は両手をぶんぶんと振る。

 おっぱいも揺れて大満足。

 気の強い、一匹狼的な性格かと思ったら、正面からの褒め言葉には弱いらしい。

 本当は「ふーん」とぶっきら棒だけど尻尾が揺れて喜んでいる的な展開を期待していたが、これはこれで良いか。

 というか《WRO》の尻尾は意志で動かせなかった。


「あーもう! こんなんしてる場合じゃないのよ」

「じゃあ何故連れてきたんだ」

「それは、ちょっと感想を聞きたくて...いざ作ってみたけど水着は作ったことなかったし...」

「朝の自信はどこにいったんだよ。勝ちたいんだろ?」

「...ごめん。ラストまで頑張るから今のは忘れて」

「おう。じゃあ俺は素材採取に行ってくる」



[16]

 《Wild Release Online》 オークションサイト


 ☆入札件数☆ ◇TOP 10◇


 順位|  名  称  |入札数|現在の価格|残り時間| 一言説明 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1位| スク水用布地 |128|899,800L| 23:16 |偶然GETしました

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2位| スク水用布地 |110|850,000L| 23:18 |未使用(意味深)

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 3位|ハルバオークの鉈| 86|567,999L| 19:54 |解体用サブ武器

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 4位|ハルバオークの鉈| 82|566,999L| 19:55 |解体用サブ武器

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 5位|ビキニ(パレオ付)| 69|134,000L| 23:42 |10L開始 三島製

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 6位|ビキニ(パレオ付)| 63|110,000L| 23:45 |10L開始 三島製

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 7位|ビキニ(パレオ付)| 57| 98,900L| 23:42 |10L開始 三島製

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 8位| セパレート水着| 51|141,999L| 21:42 |10L Mika-Brand

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 9位|   ビキニ  | 44|226,800L| 21:48 |10L Mika-Brand

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 10位| サーフパンツ | 42|130,000L| 23:43 |10L開始 三島製



1 《Wild Release Online》オークション専用掲示板


 ■注意事項

  ・出品

   ∟最低額は10L

   ∟取引成功時に5%の手数料が引かれます

   ∟即決価格が未設定の場合、最短で24時間、最長で168時間

   ∟出品者、アイテム製作者のフルネームは未公開ですが、最初の文字と文字数は公開されます

   ∟取り止めは原則禁止 入札が零件の場合のみ可能

   ∟ブラックリストによる入札者制限は可能


  ・落札

   ∟取引通貨はリブのみ

   ∟出品者との連絡は匿名でのみ可能

   ∟入札の取り止めは不可能

   ∟落札の際にリブが足りなければ取引中止、さらにペナルティが課されます

   ∟出品情報をよく確認して入札して下さい


  ・ペナルティ

   ∟168時間のオークション使用禁止

   ∟二度目の場合、禁止措置を永続に変更

   ∟IDを要観察区分に振り分け

    ∟規約違反が発覚した場合は酌量なしでID停止、若しくは破棄

   ∟180日間、トラブル報告がなければ前科抹消


    ・

    ・

    ・


567 名無しの落札者

 スク水すげぇー!!www


568 名無しの落札者

 約40分でボス鉈を超wえwてwるw


569 名無しの落札者

 やば


570 名無しの落札者

 ボスの再出現は12-36時間

 現在だとボス系アイテムはかなり貴重だぞ

 というか出品に出すとなるとゴリラの所ぐらいしかない

 だというのにスク水...


571 名無しの落札者

 変態多すぎなんだよなぁ

 というか着る奴いるのか?

 VRでは現実と性別一緒だろ

 意味分からん


572 名無しの落札者

 >>571

 ヒント①:スク水は女だけとは限らない


573 名無しの落札者

 ああ昔着てたアレか

 海パンみたいな


574 名無しの落札者

 無垢な奴だな

 はやく掲示板を閉じるんだ!


575 名無しの落札者

 ヒント②:女用デザインを男が着れる


576 名無しの落札者

 ・・・・・・・・・・え


577 名無しの落札者

 VRゲームにより急増したフェチの一つ

 女装

 あるいは男の娘ってやつだ


578 名無しの落札者

 え、まじ?

 男が着るの?

 ごめん

 なんで?


579 名無しの落札者

 VRゲームでは身長体重などの変更不可な要素があるけど

 顔の造りや体格は結構自由なんだよ...

 しかもシミ、汚れなしの美肌

 分かるか?

 女装するには最適な環境なんだよ


580 名無しの落札者

 その趣味に特化したVRゲームも存在するしな


581 名無しの落札者

 日本人の美的感覚が21世紀初頭から中性的なモノになって

 美男と美女の目標が同じになった


 >>571はおそらく生まれも育ちも田舎だろ?

 オレも田舎者だったけど上京して狂った

 まじ頭おかしい奴らで理解できない

 ...と思っていた時期がオレにも、いや私にもありました。


 いまでは立派な男の娘です

 うふ


582 名無しの落札者

 おぇー


583 名無しの落札者

 (´・ω・`)


584 名無しの落札者

 リアルの友達がプレイしてるVRゲームを教えてくれない場合

 高確率で男の娘


 ソースは俺、いや私


585 名無しの落札者

 こんだけ男の娘がいれば

 そりゃあ暴騰しますわ


 ちなみに同ランキングに乗ってる三島製とmika-Brandは普通の女の子用

 ランキングの良心だわ~


586 名無しの落札者

 両者の株がストップ高


587 名無しの落札者

 どちらも製作者が女性プレイヤーだからなのか

 デザインが凄く良い


 たぶん落札後、類似品が出回るだろうね


588 名無しの落札者

 類似品(男の娘用)


589 名無しの落札者

 にしても三島って奴すごいな

 スク水は例外として除けばTOP5独占かよ


590 名無しの落札者

 オークションを利用するプレイヤーがまだ少ない

 なにせ即決なしだと最低24時間かかる


 トッププレイヤーにとって致命的

 だから現在のオクにはβでの有名生産者が少ないのさ


591 名無しの落札者

 へぇー


592 名無しの落札者

 >>591

 もっと興味深そうにしろ!

 せっかく話題転換してやったのに


593 名無しの落札者

 でもそうするとスク水用布地の入札者バカじゃね?

 落札は明日だろ。現物入手する頃には攻略情報出回って暴落してるでしょ


594 名無しの落札者

 だと思うじゃん?

 ところがどっこい


 スク水鳥の出現条件のスコールが曲者

 《WRO》はエリア判定で逃走にも時間がかかる

 結果、スコールを目視しても急行できないんだな~


595 名無しの落札者

 まじかよ

 運頼みか...

 でも、そういうのも必要か


596 名無しの落札者

 一応スコールの発生地域は限られているっぽい


 トップ集団はその情報を数十万Lで売り買いしてる

 しかも一般プレイヤーには秘匿が徹底されてる


597 名無しの落札者

 現実と同じで一部の人間が世を動かしてんだな

 なんか萎えるな...


598 名無しの落札者

 富める者は富み

 貧する者は貧する


 VRにより格差は是正するっていってた識者どもフザけんな!!


599 名無しの落札者

 発展には競争が必要

 競争には敗者が必要


 ベーシックインカムを考えるとVRは格差是正に一役かってるから

 >>598は†悔い改めて†


 てか何故>>596はトッププレイヤーの談合、内情を把握してんの?

 裏切り? それともスパイ?


600 名無しの落札者

 たし蟹


601 名無しの落札者

 私は忍者

 主君のため活動してる


602 名無しの落札者

 アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?


603 名無しの落札者

 一人称が「私」...

 この忍び、もしや...


604 名無しの落札者

 女です


605 名無しの落札者

 デスヨネー


606 名無しの落札者

 >>603から>>604の時間1.4秒

 はやいな流石忍者はやい


607 名無しの落札者

 おそろしく速いレス

 俺でなきゃ見逃しちゃうね


    ・

    ・

    ・



[17]

 周りの夏真っ盛りな雰囲気にあてられて俺も水着、ブーメランパンツを履く。

 サーフパンツを薦めた三島はオレの姿を見てドン引きしていたけど、やっぱり男は肉体美を見せるべきだろ。

 このゲームの目的は『守ってくれる逞しさに惚れた女』を探すためだから当然の服選びセンスだ。


 だと言うのに大広場を通れば呆れる者こそ大勢いるものの、黄色い声を上げる者はいなかった。

 気落ちしながらフィールドに出ると千代女を見つけた。

 彼女は前回よりも距離を置いて木の陰からこっそり覗いている。


 先ほどと同じく奇異の視線かと不貞腐れるけども、不思議と千代女からは嫌悪感を受けない。

 むしろ熱いモノを感じる。

 堪能したのか、千代女は足元に手紙を置いて消えてしまう。

 拾って中を確かめると、スク水鳥の出現範囲についての考察が書いてある。


 確信した。


 千代女は俺に惚れている。

 内助の功、という言葉が思い浮かぶ。


 やっぱり俺は間違っていなかった。

 今の時代にもゴリラを求める女性はいる。

 燃える心が猛るままに教えてもらった場所へと駆け出す。



 指定された地域はジメジメとした湿気を帯びていた。

 空を見上げれば雲行きが怪しく、準備を整える前に雨は降り出し、すぐに雨足はバケツをひっくり返した様に激しくなる。

 スコール。

 〔はじまりの森〕で局地的に起こる気象現象。体全体に弱い圧迫がポツポツと繰り返されて、視覚や聴覚情報から雨を表現している。

 《WRO》での雨は十秒以上打たれ続けると『低温』の状態異常にかかる。HPとMPの自動回復量が減り、移動時の体力減少量が大きくなる。

 大木の幹に背を預ける事五分。

 スコールは止み、虹が空を渡る。


 スク水鳥の出現で信憑性の高い二つの条件が満たされた。

 水溜りやぬかるみはスコールと伴に消えているので、快調に走れる。


 そして潅木に頭を突っ込み餌を確保しているスク水鳥とエンカウントした。

 枯れ木を思わせる細さの脚に支えられた胴体から白い羽が生えている。

 俺という外敵に気付くと、威嚇のために翼を広げて己の体を大きく見せる。


 翼で見えなかった体の腹の部分。

 やはり紺の体毛がスクール水着を形勢していた。

 ちなみに雌だった。

 さらに付け加えると胸に「4年2組 すくみずどり」のゼッケンが貼られていた。


 サイドの縫い目が再現されているのか、胸や股は他と比して厚いのか、など気になる点はあるが、サクッと《衝拳》で倒す。

 千代女メモにはスク水鳥は攻撃せず、ただ威嚇するだけのモンスターと載っていたからだ。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 スク水鳥の紺羽 × 3

 スク水鳥の白羽 × 1

 スク水用布地(イベント専用) × 1


 △▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲


 ドロップアイテムは三島に送る。

 スコールに遭遇できた幸運を最大限いただくため、周囲のエリアをめぐる。

 おかげで計2体たおせた。


 スコールの発生予想地域は複数あるので、別のポイントに向かう事にする。

 道中と、スコール大気中はスライム、猿、虎を狩る。

 流石に飽きが来るけども、三島の情熱を思えば集中は続いた。


 イベント二度目の連続限界が訪れる。

 全アイテムを渡してログアウトする。

 次のログインではモンスターの侵略が待っている。

 現実でしっかりと栄養補給と体調管理をしなければ。

通常攻撃*3→蒼破刃→戦迅狼破→通常攻撃*3→蒼破刃→蒼牙刃→噛烈襲→秘奥義「更新不定期」

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