透明な
・・・・・・私が世界で目にしたものは、黒く鋭い眼光のカラスだった。
〇enter-zero〇
アスファルトに眩しいほどの光が照りつける。
そんな40℃を超える真夏日の話。
「あっついなあ。」
僕はシャツをぱたぱたとさせた。
汗で濡れた背中が気持ち悪い。
本当はタンクトップに短パンで外に出たいところだが、そうはいかない。
僕にそんな格好が似合うはずがない。
僕の名前はー・・琉生 拓実(るい たくみ)
書道部に入っている高校生2年生だ。
そして今僕が、なぜ暑いのも我慢しながら外へ出ているのか。
それにはちゃんと理由がある。
「ごっめーん!待っちゃった感じ?」
先ほど言ったように僕は書道部に入っている。
今日は同じ書道部である先輩の、紅音坂 毬(あかねざか まり)と共に買い物をするからだ。
「待ちましたよ。せめて連絡くださいよ、もう。」
「あー!たっくん怒ってる感じ?私謝るから期限直して欲しいっす!」
いつもにも増してテンションが高い。
字を書いてる時の紅音さんとは思わない。いや、思えない。
「ごめん。ちょっと色々あってさ。」
あれ、何かおかしい。
紅音さんの表情はとても悲しげに見えた。
さっきのテンションはどこへいってしまったのか。
この雰囲気は、、、深く聞かない方がいいかもしれない。
「あっ、その、買いに行きませんか?妹さんのプレゼント、買うんですよね?」
「そっだねー!行こ行こ!れっつごー!」
左手をぐいっと引っ張られ勢い良く走り出す毬。
「ちょっと!早すぎますって紅音さん!」
「紅音さん~?私は毬なんだけどなあ??そもそも呼ぶなら紅音坂って最後まで言って欲しい感じー。」
「あはは。そこは呼びやすさ重視ですよ、紅音さん。」
「だーかーらっ、私は毬なのー!もう、もっと速く走っちゃうもんねっ!たっくんは私についてこれない感じ?」
毬がにししと笑い、ひとりでに走り出す。
そして僕なんかが追いつけるはずもない。
彼女は中学の時、陸上部に入っていた。
そしてつけられたあだ名がチーターガール。僕はこのことを書道部の別の先輩に聞いた。
「無理ですよ!僕がチーターガールに追いつけると思ってるんですか!!」
「ぎゃー!なんでそのあだ名知ってるの!私そのあだ名嫌いなんだよー、もうっっ!
いいもんね!私だってたっくんの事、たーーっくさん知ってるもんねー!」
「はは、そうですかそうですか。とりあえず止まってくださいよチーターガールさん。」
「んもう!!!」
怒りながらも止まってくれた。
でも彼女の顔を見るともちろんのようにぷくーっと顔をふくらませていた。
そんなにもチーターガールが嫌なのか。
むしろ僕はかっこいいて思っていたのに。そう思う僕は子供なのか?
いや、彼女が大人なのか。
そんなことを考えながら、今度はちゃんと歩いて行った。
目的地であるショッピングセンターに着いた。
外が暑かったせいか、ショッピングセンターの中はとても涼しく感じられた。
「で、ですよ。何買うつもりなんですか?」
僕がそう聞くと毬はんーっと悩み出した。
「何がいいかな~。。英莉ならなんでも喜んでくれるとは思うんだけどな。」
紅音坂 英莉(あかねざか えり)、紅音さんの妹だ。
姉とは違ってかなり落ち着いた子らしい。
すこし他人とは違う感性を持ってるんだとかなんとか。
実際、僕は見たことがない。
姉妹なのだから、似ているのだろうか。
そんなことを考えているとあっ、と毬が声を出した。
「あれだよあれ、なんていうんだろ、あの、写真立て?写真縁?」
「あ、フォトフレームですか。いいですね。」
「そそ!それだよそれ!私さぁ、英莉と写真撮ったことないんだよね。撮ろうとしても英莉嫌がるからさ。」
たまにいる、写真を嫌うタイプの子なのか。
そんな子にフォトフレームをプレゼントする紅音さんはやっぱり人とずれているのかもしれない。
とゆうことは、妹さんもずれいている方なのか。
一つ言えることは、こんな人にはなって欲しくない。かな。
「てゆうか、なんでフォトフレームなんですか。嫌がらせですか?」
「はあぁ?嫌がらせなわけないじゃーん!私英莉大好きだもん。愛してるもん。英莉らぶだもん。」
シスコン、、いや、何でもない。何でもないぞ。
「あのね、英莉と写真撮りたいの。そんで、あげたフォトフレームに入れてもらえたらなぁなんて。
私達そこまで仲悪くないし、むしろ良いほうだと思うんだ。
だからね、一度でいいから一緒に写真が撮りたい。ちゃんと思い出に残したいの。」
へぇ。彼女にしてはまじめな考えで少しびっくりしてしまった。
そうだよな、色々考えると姉妹で写真撮った事無いって珍しいもんだよなあ。
「だからね、英莉にあげるフォトフレーム、一緒に選んで欲しいなぁなんて。」
「えっ、僕が?何で?」
「あ、そっか。知らないのか。んふふ。何でもないから、とりあえず選ぼうって感じ?」
「は、はぁ。。あっ!!」
「ん?どったのたっくん。」
「写真!撮ったら見せてくださいね!僕、妹さん見たことないんですよ!
ほら、一緒に選びますから、ね?」
「もーしょーがないなあたっくんはー!うふふ。特別だよ?」
プレゼント選びには少し時間がかかったが、とても良いモノが見つけれた。
今日一日、疲れたけどすごく楽しめた。なんだろう、笑顔しか出てこなかった。
・・・そう、帰り道までは。