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トムの道具屋

 月曜日の朝は最悪だと言うけれど、今、誰よりも大きな声で最悪という言葉を叫びたい。


 休み明けの朝、オレは携帯電話をじっと見ていた。

 胃は締め付けられ、咽喉はカラカラだ。

 しかしついに決心して電話を取る。


「あ、もしもし――――です。はい、すいません鼠が……じゃなくて、体調を崩してしまいまして。はい、すみません……では失礼します」


 オレは社会人になってから初めてずる休みをした。電話を切った瞬間に、これ以上ないほどの安堵感と開放感で、体が10キロは軽くなった様な気さえした。


 日曜日の神様も、一度くらいのずる休みはきっと許してくれるはずだ。



  ――――――――――――――――――――



 さて、ゲームの続きだ。


 ガロモロコシを収穫した時、メッセージが出た。


 ――――初めての収穫おめでとうございます。石版が解放されました。


 早速、石版に触れてみると『トムの道具屋』『はじまりの庭』の二か所にワープできるようになっていた。

 道具屋か。

 すぐにでも行きたいがハングリーメーターも満タンではないし、少し稼いでから行くか。


 ガロモロコシとキリキャベツというものを何回かに分けて栽培していく。

 大量に発生する鼠を、アポロ8:オレ2ぐらいの割合で撃退する。

 何匹目かの鼠を倒した時、レオンの体が白く光りすべてのゲージが少しずつ増加した。


 今、何レベルなのか数値化はされていないがレベルの概念はあるようだ。

 アポロも少し大きくなっている気がする。


 収穫物が皮の袋に満杯になったので、トムの道具屋に行ってみる事にした。

 アポロも連れて行けるようだが、初めてだし今回は置いていくか。


 アポロにガロモロコシを一個与え、それに夢中になっている隙に石版に触れる。


 ――――トムの道具屋に移動しますか?


 YESを選択すると、レオンの体がスッと消えた。



 視界を塞ぐまぶしい光が徐々に消えていくと、すでに道具屋に来ていた。

 カウンターの向こうにトムとおぼしき小柄なおじさんが立っている。

 なかなか眼光鋭い。


 オレが話しかけると戦争の時の話だの、生き別れた妻の話だのをベラベラと語りだした。

 トムの身の上話はどうでもいいので適当に聞き飛ばす。


 まずは持ってきたガロモロコシとキリキャベツを売却してみる。


「毎度あり。代金分のマナはあんたの石版に送っとくからな」


 トムはそう言うとカウンターにあった石版に少しの間、手を触れた。


 ……ふむ、そういうあれか。


「それと次からはこれを使ってくれや」


 トムはオレに麻袋のような物を手渡した。


「こいつは収穫袋といってな、収穫物をこれに入れると、アイテムボックスか店や市場にすぐ送ることが出来るすぐれものだ。うちの店に送ってくれた物は、すぐ買い取ってマナにしちまうから間違えないように気を付けてな。それと市場の方は今工事中だ」


 これは便利だな。タダでくれるようだしトムは親切な人のようだ。ちゃんと話を聞いてやれば良かった。


 つぎに買い物をする。

 品揃えはなかなかいいが、どれも初歩的なものばかりだ。ハングリー用の種をいくつか購入する。

 落とし穴の種というのが気になるな。

 売るつもりで持ってきた初期配置の鉄の剣を売却し、落とし穴の種を購入した。


「ところで店主よ、バトルキャットの種というのはあるかね?」

「バトルキャットの種か。今はご覧のとおりないけど、そのうち入荷すると思うぜ。値段は大体で――――ぐらいかな」


 トムの言った値段はかなり高額だった。


「たっ、高いな」

「ああ、バトルキャットは愛玩用として金持ち連中に人気があるからな。入手も簡単ではないし」


 そうなのか。

 たいまつと組み合わせたのでロストする可能性があったはずだ。本当に良かった。


 アポロのやつ、強いわけだ。

 周回プレーの時は種を即売って、ほかの物を買うという選択肢もありそうだな。


 オレはトムに礼をいい、店の石版を使って小屋に戻った。


 小屋に戻るとフレイムキャットのアポロがしょんぼりとした顔で待っていた。

 そしてオレを見るとうれしそうに走り寄り、肩まで駆け上って来る。偶然手に入れたレア使い魔だという事を抜きにしても、本当に可愛い奴だ。



 さっそく畑に出て落とし穴の種を埋めてみる事にした。


 強めの敵が出てくるだろうと思い少しドキドキしていたが、鼠すら出て来なかった。


 ……何も湧かないというパターンもあるのね。


 チューリップのような花が咲き、その花からスクロールがぶら下がっている。モンスターが来る前にと、慌てて収穫した。


 どうやって使うのかな?


 畑の外側まで歩いていき、畑ではない普通の土の部分にスクロールを置いてみる。

 パッとスクロールが光り消滅する。


 ん? 見かけは何も変わらないなあ。


 片足でツンツンしてみるが何も起こらない。

 目印として転がっていた小石を置く。


 モンスターを湧かせてみるか。


 ガロモロコシと購入したパイメロンの種を埋めてみる。

 しばらくすると恒例のビックリマークが出て、鼠がちょこちょこと出現する。

 だがなかなか落とし穴に引っかからない。


「あっ、今のはおしかったなー、もうちょい右だよー」


 鼠はアポロにまかせて、オレは罠に注目する。


 ――――リトルフロッグに侵入されました。


 新モンスターがきたか。

 リトルといっても大型犬ぐらいの大きさがあり、緑の体がテカテカと光っている。


 カエルの出現位置は落とし穴の3メートルほど奥だった。

 カエルの視線はオレよりもパイメロンの方に熱く注がれている。


 カエル、落とし穴、パイメロンは一直線上。

 これは丁度いいんじゃないか?


 だがカエルといえば当然、跳ねるよな。どれくらい飛ぶのだろうか。やはり飛び越えてしまうのだろうか。


 固唾を飲んで見守っていると、カエルはおもむろに身を低くしてピョコンと飛び跳ねた。

 そして音もなく地面に消えていった。


 オレはガッツポーズをしつつ、落とし穴に駆け寄る。

 穴を覗くと竹やりに串刺しにされた憐れなカエル君が見えた。

 レオンの体が光りレベルアップする。

 しばらくするとカエルは消滅し、落とし穴も普通の地面に戻った。


 再利用できるのか確認する必要がある。

 アポロがおもちゃにしていたまだ息のある鼠をつまみ上げた。

 アポちゃん……そんな目で見ないでよ、後でパイメロンやるから。


 鼠を落とし穴に放り投げると、また落とし穴が発動し鼠が串刺しになった。鼠が何を勘違いしたのか、感謝の目をオレに向けてくる。


 再利用が出来るようだ。試しにオレ、アポロの順で恐る恐る落とし穴を踏んでみたが、フレンドリーなキャラには発動しなかった。これはかなり使えそうだ。


 約束通りアポロにパイメロンをやり、オレもパイメロンを食べる。

 たぶんパイナップルとメロンを混ぜたような味がするのだろう。


 食べながらオレは考え始めた。


 まだわからないことは多いが、どういうプレイスタイルで進めていくのかをぼちぼち決めていくべきだろう。


 説明書をパラパラ見ると出来る事は多いようだ。

 施設を建てることで住民を呼び寄せたり、交易、戦争、結婚に出産などもできる。

 製作者サイドとしてはそういう箱庭ゲーム的なことをメインにやってもらいたいようだ。

 だがそういうのはいまいち気が進まない。

 しばらくの間は主人公強化、使い魔強化、石版からいけるバトルフィールドの攻略をメインにやっていこうかな。お金を稼いで札束ビンタプレイというのも面白そうだけど。



 大雑把な方針が決まった所で、石版を使って『はじまりの庭』とやらに行ってみた。

 念の為にアポロにはまた留守番をしてもらったが、これはほぼ戦闘向けのチュートリアルの様な場所だった。


 『秘密の花園』に出てくるような煉瓦の壁に囲まれた庭園の真ん中にワープした。

 暖かい日差し、モンシロチョウ、噴水に屋根つきのベンチ。そんなところだ。

 近くに立派なお屋敷も見える。


 ウサギなどの小動物系のモンスターがちょくちょくと湧き、それを倒すと高確率で種をドロップする。

 煉瓦の壁に戦う剣士の絵が描いてあり、それを参考にしてウサギを狩っていく。

 ダッシュ斬り、ジャンプ斬り、強振などを覚える。


 平和だ。実に平和だ。

 こんな場所だとわかっていたらアポロも連れてきてやればよかった。

 使い魔が死んだ時、どういう扱いになるのかまだ知らないからな。ロストになったら困るし。


 そういえばレオンが死んだ時はどうなるんだろう。たまに自動セーブしているからそこまで戻るのだろうか。『猫ジャラシの種』というのを手に入れたので、喜び勇んで小屋に帰った。


 するとベッドの枕を切り刻んで、満足げに寝ているアポロの姿があった。

 切り刻まれたのがベッドではなくて、良かったと思う事にしよう。レア使い魔である事を抜きにして、おまけに枕を破壊した事を含めても、やはり仔猫の寝顔というものは、とろけそうに可愛い。


 最悪と言われる月曜日の朝も、こんな仔猫が横で寝ていたら、最高の気分で目覚められるのかも知れない。




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