フレイムキャット
空はすでに明るくなり始めていた。
光のネットにそっと手を触れると、光がスッと消え仔猫がオレの手に収まった。
仔猫を取ると折れた枝や葉っぱなどが消滅した。
仔猫は無事だった。
救済措置の続きなのか、侵入したモンスターがせっかちだったのかはわからないが、いずれにしても助かった。
仔猫を観察する。
黒と白がまざり合ったスラッとした猫だ。
よく見ると黒い毛の部分が少しだけ赤味がかかっている。
オレは両手で持ったまま小屋に戻る。
そして水晶玉に仔猫をそっと触れさせ『鑑定』を選択した。
「フレイムキャット・オス ――――強力な火属性をもっていて火による攻撃ダメージを大きく軽減します。また攻撃力、体力なども他種のキャットを上回ります。その反面、水属性の攻撃に非常に弱く、雨に濡れることでさえダメージを受けます」
バトルキャットとは違うようだ。
たぶんイラついて突き刺したタイマツが作用したのだろう。
フレイムキャットをじっと見ていると、小刻みに震え、目が開いた。
――――命名しますか?
YES
昔、実家で飼っていた猫の名前からとって『アポロ』と名付けた。
ハングリーメーターを見るとすでに三分の一を切っていた。
……やるしかないか。
ガロモロコシの種を一粒だけ埋める。
ただ時間を高速にはせず通常のままにして、仔猫を観察する。
アポロはすでに元気よく動き回り、土のにおいを嗅いだり、無意味に跳ね回ったりしている。
たまにレオンの方に走り寄り、レオンの脛に頭を擦りつけたり、親指を齧ろうとしたりしてくる。
かわいいやつだ。
ダメだ。
いくら使い魔の宿命とはいえ、こんなかわいい仔猫をいぢきたない鼠にけしかけることなど、できそうもない。
オレはアポロを小屋に戻すため抱きかかえようとした。
と、その時赤いビックリマークが出た。
――――グレイラットに侵入されました。
いきなりグレイラット五匹か。
しかたないやるか。
アポロよこれも宿命と思ってあきらめてくれ。
アポロを見ると、すでに毛を逆立て、体を大きく見せるため横向きに構えていた。
やる気十分じゃないか、だがそんな決めポーズをとっても小さいままだぞ。
グレイラットの半分ほどの体でしかない。
オレは鼠の集団の一匹に狙いをつけた。
そして、さっき覚えたローリングを繰り出す。
ローリングからの立ち上がり際タイミングよくボタンを押すと、地面すれすれから剣を突き上げるように振った。
鼠のどてっ腹に直撃。鼠は宙を舞った後、地面に叩き付けられた。
オレはすかさず駆け寄り止めを刺す。
やった! まずは一匹――――アポロは?
アポロに加勢するためオレはあわてて振り返った。
そこには四匹の血まみれになったグレイラットの無残な姿があった。
一匹などはまだアポロに首根っこを咬まれたまま、地面をずるずると引きずられている。
慈悲を乞うような、つぶらな目をオレに向けてくる。
フレイムキャットつえーーーーー
ていうか、現時点で確実にオレよりつえーし
さっき咬まれたオレの親指大丈夫か?
というかさ、いいかげん嬲り殺しにするのやめて、楽にしてやれよ、アポロよ。
これがオレとアポロの出会いだった。
――――ガロモロコシはこの後二人でおいしくいただきました。