ねずみゲー
さあやるか。
ポテチを開けながらまず何をやろうか考える。
画面にはいくつかのメーターがある。体力、スタミナ、マジックポイントなど。
おっ、これはなんだ。ハングリーメーターとある。そういえば餓死の要素があるんだったな、気をつけねば。
アイテムボックスを開けるといくつか食糧らしき物はあるが、十分とはいえないだろう。
まずは食糧の確保からかな。
おすすめであったガロモロコシの種を一掴みとり、畑に少し間隔あけて埋めていく。やわらかい土を踏むと「グッ」という音が小気味良く鳴る。
三十粒ほど埋めたところで時間を高速にする。
水とかはやったほうがいいんだろうか? まだよくわからん。
イモの時と同じように芽がでて茎がのびっ――――おおっ。さっきと違い茎が真っ直ぐにのびるのびる。三十本ほどの茎がニョキニョキと一斉に伸びる様はなかなか壮観である。
葉っぱもどんどん生い茂り、茎も一メートル半ぐらいまでのびる。
花は咲かないのかな? もう少し間をつめて埋めた方が良かったかな? これじゃあスカスカだし。
ワクワクしながら見ていると、トウモロコシを球体にしたような実がぽつぽつと出来はじめた。
数え方がいまいちよくわからないが、種一つに付4、5個の実がぶらさっがている。なかなかの収穫だろう。
また赤いビックリマークが出現する。
だがさっきのビックリマークよりはずいぶんとちいさい。
目を凝らして辺り見ていると、フィールドの端っこに黒いブラックホールがあらわれた。
ははーん、こうやってモンスターが湧くのか。サルの時は見逃したが。
――――グレイラットに侵入されました。
ブラックホールからウサギぐらいの大きさの鼠が一匹出てきた。汚い感じはしないが凶暴そうである。目なんて真っ赤だし。
しかしこっちも準備は万端である。初期配置の革製の防具をいくつか着込み、ボーナスアイテムの鋼の剣もしっかり装備している。
グレイラットはまっしぐらにレオン目がけて走ってくるが、おそいおそい。
「その程度の距離で何歩かかっているんだい? はっはっは、さっきの奴は五歩だったぜ」
余裕をもって待っていたが距離が近くなってくるにつれて、鼠が決して遅くはないことに気付いた。というか早い。
先手必勝とばかりに剣を振り下ろすがあっさりとかわされて、鼠のタックルを胸に食らう。必死に剣を振り回すがまるで当たらない。
それにしてもこの剣、重いなあ。
必要能力が足りてないのかな? というかこのゲーム、レベルとかはどうなってるんだっけか。
レオンをよく見てみると剣を片手で持っている。試しにボタンを押してみると剣を両手に持ち替えた。
剣速がだいぶましになる。
グレイラットの動きをよく見て剣を振ると、今度はクリーンヒットした。しかし鼠はふらつきながらもすぐ立ち上がる。タフだな。
その時、赤いビックリマークが再度あらわれる。
濃い霧の辺りを見ると五つほどブラックホールが発生している。
……まずいな、鼠の追加か。
一匹目の鼠と闘いつつ小屋のそばに移動する。
すぐに六対一になってしまったが小屋の壁を背にして剣を振り回す。
体力はゴリゴリ減っているが、敵の数が多い分ヒットしやすくなっている。
……いけなくもないか。
と、また赤いビックリマーク
ブラックホール七つだと!
……これは……無理だな。
別に死んでも大丈夫だろうが、とりあえず小屋の中に退避する。
鼠では小屋の中にまでは入ってこれない仕様なのか、鼠はレオンをあきらめて畑の方に走って行った。
小屋の窓から畑をそっと覗くと……。
グレイラットたちがおいしそうにガロモロコシを齧っていた。
ちくしょお。
グレイラットたちは畑を蹂躙し尽くすと、満足そうな顔でフィールドの端まで行き、煙のように消えていった。
ふーむ。
そういえば収穫物の価値によって敵の強さが決まると言っていたな。
いきなり30粒は埋めすぎだったか。
欲張りすぎたよな、いくらなんでも。
今度は気を取り直して5粒ほど埋めてみた。
――――結果……ダメでした。
ボロボロになったオレは小屋の窓から、七匹のグレイラットにレ〇プされるガロモロ娘しおりちゃんを茫然と見ていた。
ちくしょお……。
キャラメイクからやり直すべきか。
ボーナススキル「豚殺し」とかマジいらねえし。
肉体強化をとるべきだったか。
しかし一時間ほどやってみて、この「レオン」というキャラに少し愛着が湧いてきている。
時間を高速にするとハングリーメーターがゴリゴリ減るので、レオンにちょくちょく食事補給をさせているのだが、レオンは実に美味そうになんでも食べるのだ。
キッチンを使うのが面倒なので生肉を与えた時でさえ文句もいわずうまそうに食べる。
アフロヘアーを揺らしながら。
今度はガロモロコシの種を1粒だけ埋めてみた。
これでダメならもうどうしようもない。
――――結果…………おしかった。
グレイラットは計5匹湧いた。
長時間、戦闘したがそれ以上湧かなかったので打ち止めだったはずだ。
3匹倒したがそこでレオンが瀕死になった。
回復アイテムはない。
スキルは豚殺し。
しかたないよね。
いつものように窓から覗くと……。
生き残った二匹の鼠たちはゆっくりと詩織を味わっていた。
クソゲーかよ!
やはりレオンはあきらめるべきか。
それともゲーム自体を止めて、さっさと寝てしまうか。
ベッドで寝て体力メーターを回復させたあと、俺はイラつきながら畑を散策していた。
すると、所々小さく光っている場所があることに気が付いた。
調べてみる。
――――白アロエを見つけました。
これはたぶん回復薬かな?
ならばとフィールドを探索すると、いくつか光っている場所を見つけたので調べていく。
ネーミングからしてショボそうなアイテムをいくつかゲットした。
小屋の真裏に行くとまた光っている場所があったので調べてみる。
――――バトルキャットの種を見つけました。
ねずみを狩るは猫。
なるほど……これは救済措置的なことなのかもしれない。
早速、小屋のすぐ近くにバトルキャットの種を埋め、時間を高速にする。
なかなか芽が出てこない。
ガロモロコシに比べると時間がかかるようだ。
しばらくしてやっと芽が出る。
ちょくちょくハングリーメーターを回復させつつ待っていると、画面が夜になってしまった。
アイテムボックスを覗くとタイマツがあったのでそれを取り出す。ついでに食事補給をすると、初期配置の食糧がすべて尽きてしまった。
バトルキャットの種は一メートルぐらいの木になっており、葉っぱが多数広がっている。
強いモンスターが湧くかもしれないが、回復薬と一時的な肉体強化の草も拾っているのでなんとかなるだろう。
オレはタイマツの火を掲げて木をじっと見守る。
まだかなまだかな。
少しトイレに行きたくなってきたな。
どうしようか。時間を完全停止することはできないようだ。
一度、電源を落とすか?
まあ、大丈夫だろう。
オレは時間を通常に戻し、レオンを小屋に入れてから急いでトイレに行った。
もどってくるとバトルキャットの木はへし折られていた。
周囲に葉っぱが散り、根っこの辺りの土が掘り返されている。
……クソゲーかよ。
所詮、百円のゲームなんてこんなもんか。
そりゃ、離れてたオレも悪いけど、普通、時間止められるだろ。
イラついたオレは手に持っていたタイマツを地面に突き刺した。
そしてむしゃくしゃする気持ちを抑えて、シャワーを浴びに行った。
ゲームをつけっぱなしで。
シャワーから戻り、なにげなくテレビ画面を見ると、木の根元が光っている。
よく見ると、光のネットのような物に包まれた仔猫が、スヤスヤと眠っていた。