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報酬ラッシュ

 右の頬を、なにかザラザラした物が擦っている。



 オレは目を覚ました。

 アポロが、オレの頬っぺたをペロペロと舐めていた。


 仰向けのまま首だけ起こすと、すでにタカアシグモは消滅していた。

 そしてタカアシグモがいた辺りに、石碑が出現していた。


 ……終わったか。


 オレはなんとか上半身を起こして、まずアポロにアロエを与える。

 毒ガスのせいか、アポロの毛がチリチリになっており、禿げている場所さえある。

 オレはアロエをかみ砕いて、液状にしてから、アポロの背中にそっと塗りつけた。


「しみるけど、がまんな」


 アポロに塗った後、ぼろ雑巾のようになっている自分の左足にアロエを塗りつける。


「ぐぅ……むり、これは無理だわ」


 次に右の太腿にも塗り込んでいく。

 破れたズボンをチラリとめくると、爪痕がしっかりと刻まれていた。


 「アポロ、お前、オレより先にスキル覚えやがって。しかもなんだよ、あのスキル……ちょっとひどくないか」


 アポロの爪は元の大きさに戻っていた。後で水晶玉に乗っけて調べてみるかな。


 アロエで少しだけ元気を取り戻したオレは、なんとか立ち上がった。

 こんな所はさっさとおさらば、と思い石碑に向かう。

 するとアポロが、反対方向に走っていってしまった。


 ……おい。


 足を引き摺りながらアポロを追いかける。

 アポロが待っている場所までなんとか辿り着くと、地面がキラキラと光っている。


 ……ここは消滅したカマキリの女王がいた辺りか。


 手を伸ばして拾ってみた。


 ――――プラチナ鉱石の種×3を手に入れました。


 ドヤ顔でオレを見ているアポロの頭を、ごしごしと撫でる。


「でかしたぞ、アポロ。ランドセル入るか?」


 アポロを抱え上げ、ランドセルにそっと入れる。蓋は丸めて、アポロの顔が見えるようにしておく。


 石碑まで辿り着き手を触れると、大量のマナが流れ込んでくるのを感じた。

 視界が光に包まれる。




 光が収まると、見覚えのある4人の男が膝をつき、頭を垂れていた。


 ……最初の場所か。


 しかし膝をついているのは、4人だけではなかった。

 オレを囲むように数百人の老若男女が膝をつき、頭を垂れている。


 オレをトロッコに案内した年長の男が、前に進み出た。

 他の者と服装を見比べると、男が高い地位にいるのがわかった。


 男は、袋をオレに差し出した。

 受け取って、さっそく中を見てみると金貨がギッシリと詰まっていた。

 報酬ラッシュときたか、たまらんなあ。


 しかし、膝を付いている人々を見回すと、多くの者がやせ細っていた。


 ……くっ、お前らにかっこつけるんじゃねーぞ。後で報告するエリンばあさんに、かっこつけるんだからな。


「袋はあるか?」

「はい?」

「もう一つ、袋だ」


 袋を受け取ったオレは、金貨を3分の1ほどジャラジャラと流し込み、小さい方の袋を自分の懐に入れた。


「坑道が止まってたんだから、生活が大変だろう。生活が苦しいというのが、どんなに惨めで辛いか、オレは良く知っている。いい物も拾ったし、報酬はこれで十分だ」


 村長らしきさっきの男が、深々と頭を下げて、金貨の袋を受け取った。

 そして村人たちの顔を、順番に見回していく。村長に見られた村人たちは、皆、順番に頷いていく。

 村長は大きく頷くと、懐から紫の布を取り出した。

 折りたたまれた布を開くと、小さなハンマーが入っていた。


「これは村に代々伝わる、特別な物です。どうぞお受け取りください、勇者様」


 勇者様と来たか。


 オレはハンマーを受け取った。


 ――――契約者の槌を手に入れました。


 さらに、間をおいてメッセージが出る。


 ――――あなたの活躍により226人が救われました。おめでとうございます。


 オレは村人に見送られながら、小屋に戻った。



「ただいま」


「おかえりなさい」


 小屋に戻ると、エリンばあさんは珍しく監視塔を降りて、小屋で待っていてくれた。

 エリンばあさんは優しい目で、ただオレを見ている。


「ばあさん……あのさ……」


 どう話そうか迷っていると、ばあさんが静かに言った。


「話は後でかまわないから、休みなされ」


「……そうだな……一つだけ言うとさ、夢中で戦っているうちに、余計な事、全部忘れちゃったみたいだわ」


 エリンばあさんはにっこりと笑った。


「眠りなされ」


 オレとアポロは一緒にベッドで丸くなり、深い眠りについた。



 ☆☆☆



 オレはアパートの部屋で目を覚ました。


 ゲームをしているうちに、いつの間にか眠り込んでしまったようだ。

 なぜだかわからないが、体中が痛かった。やっとの思いで上半身を起こす。


 つけっぱなしのテレビにはアナウンサーが映っていた。

 尻の下で潰れていたリモコンを取ろうとすると、左手首の感覚がなかった。


 ……こりゃ、病院行かなきゃダメそうだな。


 オレは、壁に掴まりながらなんとか立ち上がった。

 洗面所まで歩いていき、冷たい水で顔をバシャバシャと洗う。


「――――速報が入りました。

 チリで発生した鉱山落盤事故の続報をお伝えします。

 救助隊の到着の遅れや悪天候により、救助作業が難航しておりましたが、

 周辺諸国の支援部隊の到着、さらに天候の回復などにより、作業が急ピッチで進み、さきほど、鉱山に閉じ込められていた、すべての鉱山作業員が助け出されたという情報が現地より入りました。

 命が危ぶまれていた、226人の作業員全員の無事が確認されたとの事です。

 作業員の多くは栄養失調に陥っており、病院に搬送されました。

 さて、次のニュースです。

 メキシコで活動している武装強盗団が、市街地で警官隊と銃撃戦になりました。

 多数の警官と巻き込まれた一般市民が、死傷した模様です。

 なお、武装強盗団の主要メンバーは逃走に成功し、国境を越えたとの情報が入っております」


 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・


『すべてを捨てて、夢中でやった最後のゲーム』 第一部 完 




感想ありがとうございます。書くことで精一杯でお返事出来ていませんが、大切に読まさせて頂いてます。また同じ理由ですぐには無理ですが、いただいたご意見を元に、何か所かの加筆修正を決めました。本当にありがとうございます。


次投稿は3、4日空きますが、よろしくお願いします。

次回『竹美エンジェルス』改め『体が動かないので、丘を作る』です。

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