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親方のハンマー

 ☆☆☆


 職業安定所から電話がかかってきた。


 「え! 面接ですか、はいすぐ行きます、え? 手取り13万ですか……昇給ほぼなし、ボーナス気持ち程度、ですか。いや不満というわけでは、ただ結婚や子育てを考えると……すいません、今回はお断りします。またよろしくお願いします」


 どうやらオレは、完全にレールを外れてしまったようだ。

 

 そんな事よりゲーム♪ゲーム♪♪


  ――――――――――――――――――――


 オレは鍛冶屋のガイドフ親方と話していた。


「ねえ、親方のハンマーだけど――――」


「ハンマーはやらんし、仮にやったとしてもただのハンマーだぞ」


 ガイドフ親方は食い気味でそう言った。


「いや……まだ何も言ってないんだけど」


「どうせ、オレのハンマーを畑に埋めると収穫量が倍増するとか、そういう話だろ。まったく、くだらねえ噂広めやがったのはどこのどいつだ」


 親方は不機嫌そうに言う。


「……で、いくらなんだ? そのハンマーは?」


「売らねー、つってんだろ相変わらずしつこい奴だなお前は。で、今日は何の用だ」


 そうだ、大事な用があったんだ。

 オレはテーブルの上に、鋼のインゴット3つと鉄の爪、そして火の精霊石を並べた。


「ほう、インゴット3つ揃えたのか、やるじゃないか――――って、こりゃ火の精霊石じゃないか、こんなもん何処で手に入れたんだ?」


 親方は、野球ボールぐらいの精霊石を手に取って、まじまじと見た。


「ふーむ、質も良さそうだな……どうだ? オレのハンマーと交換するというのは?」


「断る。ただのハンマーなんだろ?」


「ちっ、だが、この火の精霊石をつけるのは銀以上じゃなきゃ無理だな。ただの銀につけるのすらもったいないぐらいだが」


「む、そうか」


 オレは火の精霊石を懐にしまった。


「で、鋼の爪を作るってことでいいんだな?」


 オレと親方は、製作する爪のイメージを話し合った。

 攻撃力は多少下げてもいいから、できるだけ軽くしてほしいという事。

 できれば投げ縄を使いたいので、指の部分の自由度を上げてほしいという事。

 この二点を親方に伝える。


 製作費用がだいぶ高くなってしまったが、長く使えば元は十分とれるだろう。

 夕方には完成するというので、そのまま市場で時間を潰すことにした。


 ばあさんとアポロにお土産を買ってってやるかな……いやアポロにはやらんでいいか。

 アポロの奴、最近コタツに常駐して、ちっとも顔をみせやしない。

 コタツなんて作るんじゃなかったよ、ほんとに。


 それにしてもエリンばあさんに言われたことが気になるなあ。

 それが起こった時には、そうと分かるか……

 そんな事あるんだろうか。


 物思いに浸りつつ、市場をウロウロしていた。

 するとまだ明るいというのに、ネオンサインをギラギラさせている店に行き当たった。

 なんだろうと思い看板を見上げると『カジノ』とあった。


 ――――ゴクリッ、ばあさん……いいんだな?


 30分後


「悪いなあ、アフロのあんちゃん、フルハウスだ」


 オレは札を叩きつけてから、足早に店を出た。

 みんなで稼いだ大切な金を、だいぶ減らしてしまった。

 いや、ばあさんが悪いだろ。どう考えてもばあさんが悪い。絶対だ。


 オレは呆然としてフラフラ歩いていると、いつの間にか細い道が入り組んだジメジメした場所に来ていた。

 ここは何処だろう?と考えていると、横から声をかけられた。


「はあーい。そこのイカしたアフロのお兄さん、遊んでいかなーい。安くしておくわよ」


 びっくりして、声がした方を見ると、ランジェリー姿の若い女が手招きしていた。


 ――――ゴクリッ、ばあさん……いいんだな?


 オレは女に促がされるまま狭い部屋入り、ベッドに腰かけた。

 女はシャワーを浴びてくると言い、ドアから出て行った。

 少し待っていると、ドアがバーンと開いた。

 そして物凄くブサイクな、アフロヘアーのチンピラがオレを睨んでいた。


「てめーかコラ、オレ様の女にちょっかい、かけているっての――――」


 3分後


「すいません、すいません、もう悪いことはしませんから。美人局はもう二度としませんから。だからこれ以上殴らないでください」

 チンピラは号泣していた。


「本当にすいません、このアフロヘアーもケガが治ったら、別の髪型に変えますんで勘弁してください」

「ほー、ケガの治療ならオレが手伝ってやろうか?」

「ひっ、今日、今日床屋に行ってきます。速攻でいってきます」



 やれやれまったく、毎日マラソンで鍛えているオレを舐めるんじゃないよ。

 時間を無駄にしてしまったが、おかげで丁度夕方になっていた。


 オレが早足で鍛冶屋に行くと、ガイドフ親方はすでに待っていた。

 そしてテーブルに敷いた布の上に、鋼の爪が置いてあった。


 計八本の爪が、日本刀のようにキラキラ光っている。

 鉄の爪の時より、爪の長さが短くなっており、爪というよりかはナックルよりになっている。

 手に装備してみると、オープンフィンガーグローブのように、指が自由に動かせた。


「ガイドフ親方、ありがとう。イメージ通りだ」


「礼はいらんさ。まあ、いい物が出来たとは思うがな」


 オレが礼をいい、店を出ようとすると、ガイドフ親方に呼び止められた。


「なあ、風の噂で聞いたんだが、お前さん……バトルフィールドに頻繁に行っているらしいな」


 親方は、言いにくそうに話した。


「実はオレの故郷は坑道だらけなんだが、一番大きな坑道にモンスターが巣食ってしまってなあ。もし退治してくれるならお礼に――――」

「やるよ」

「え?」

「モンスターを倒せばいいんだろう?新しい爪を試すのに丁度いいじゃないか」


 ガイドフ親方はキョトンとした顔で、オレを見ていた。


 ……エリンばあさんの言った通りだったな。答えを見つけてくるぜ、ばあさん。




 ――――――――ショートクエスト『鉱石カマキリの女王』が開放されました。



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