親方のハンマー
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職業安定所から電話がかかってきた。
「え! 面接ですか、はいすぐ行きます、え? 手取り13万ですか……昇給ほぼなし、ボーナス気持ち程度、ですか。いや不満というわけでは、ただ結婚や子育てを考えると……すいません、今回はお断りします。またよろしくお願いします」
どうやらオレは、完全にレールを外れてしまったようだ。
そんな事よりゲーム♪ゲーム♪♪
――――――――――――――――――――
オレは鍛冶屋のガイドフ親方と話していた。
「ねえ、親方のハンマーだけど――――」
「ハンマーはやらんし、仮にやったとしてもただのハンマーだぞ」
ガイドフ親方は食い気味でそう言った。
「いや……まだ何も言ってないんだけど」
「どうせ、オレのハンマーを畑に埋めると収穫量が倍増するとか、そういう話だろ。まったく、くだらねえ噂広めやがったのはどこのどいつだ」
親方は不機嫌そうに言う。
「……で、いくらなんだ? そのハンマーは?」
「売らねー、つってんだろ相変わらずしつこい奴だなお前は。で、今日は何の用だ」
そうだ、大事な用があったんだ。
オレはテーブルの上に、鋼のインゴット3つと鉄の爪、そして火の精霊石を並べた。
「ほう、インゴット3つ揃えたのか、やるじゃないか――――って、こりゃ火の精霊石じゃないか、こんなもん何処で手に入れたんだ?」
親方は、野球ボールぐらいの精霊石を手に取って、まじまじと見た。
「ふーむ、質も良さそうだな……どうだ? オレのハンマーと交換するというのは?」
「断る。ただのハンマーなんだろ?」
「ちっ、だが、この火の精霊石をつけるのは銀以上じゃなきゃ無理だな。ただの銀につけるのすらもったいないぐらいだが」
「む、そうか」
オレは火の精霊石を懐にしまった。
「で、鋼の爪を作るってことでいいんだな?」
オレと親方は、製作する爪のイメージを話し合った。
攻撃力は多少下げてもいいから、できるだけ軽くしてほしいという事。
できれば投げ縄を使いたいので、指の部分の自由度を上げてほしいという事。
この二点を親方に伝える。
製作費用がだいぶ高くなってしまったが、長く使えば元は十分とれるだろう。
夕方には完成するというので、そのまま市場で時間を潰すことにした。
ばあさんとアポロにお土産を買ってってやるかな……いやアポロにはやらんでいいか。
アポロの奴、最近コタツに常駐して、ちっとも顔をみせやしない。
コタツなんて作るんじゃなかったよ、ほんとに。
それにしてもエリンばあさんに言われたことが気になるなあ。
それが起こった時には、そうと分かるか……
そんな事あるんだろうか。
物思いに浸りつつ、市場をウロウロしていた。
するとまだ明るいというのに、ネオンサインをギラギラさせている店に行き当たった。
なんだろうと思い看板を見上げると『カジノ』とあった。
――――ゴクリッ、ばあさん……いいんだな?
30分後
「悪いなあ、アフロのあんちゃん、フルハウスだ」
オレは札を叩きつけてから、足早に店を出た。
みんなで稼いだ大切な金を、だいぶ減らしてしまった。
いや、ばあさんが悪いだろ。どう考えてもばあさんが悪い。絶対だ。
オレは呆然としてフラフラ歩いていると、いつの間にか細い道が入り組んだジメジメした場所に来ていた。
ここは何処だろう?と考えていると、横から声をかけられた。
「はあーい。そこのイカしたアフロのお兄さん、遊んでいかなーい。安くしておくわよ」
びっくりして、声がした方を見ると、ランジェリー姿の若い女が手招きしていた。
――――ゴクリッ、ばあさん……いいんだな?
オレは女に促がされるまま狭い部屋入り、ベッドに腰かけた。
女はシャワーを浴びてくると言い、ドアから出て行った。
少し待っていると、ドアがバーンと開いた。
そして物凄くブサイクな、アフロヘアーのチンピラがオレを睨んでいた。
「てめーかコラ、オレ様の女にちょっかい、かけているっての――――」
3分後
「すいません、すいません、もう悪いことはしませんから。美人局はもう二度としませんから。だからこれ以上殴らないでください」
チンピラは号泣していた。
「本当にすいません、このアフロヘアーもケガが治ったら、別の髪型に変えますんで勘弁してください」
「ほー、ケガの治療ならオレが手伝ってやろうか?」
「ひっ、今日、今日床屋に行ってきます。速攻でいってきます」
やれやれまったく、毎日マラソンで鍛えているオレを舐めるんじゃないよ。
時間を無駄にしてしまったが、おかげで丁度夕方になっていた。
オレが早足で鍛冶屋に行くと、ガイドフ親方はすでに待っていた。
そしてテーブルに敷いた布の上に、鋼の爪が置いてあった。
計八本の爪が、日本刀のようにキラキラ光っている。
鉄の爪の時より、爪の長さが短くなっており、爪というよりかはナックルよりになっている。
手に装備してみると、オープンフィンガーグローブのように、指が自由に動かせた。
「ガイドフ親方、ありがとう。イメージ通りだ」
「礼はいらんさ。まあ、いい物が出来たとは思うがな」
オレが礼をいい、店を出ようとすると、ガイドフ親方に呼び止められた。
「なあ、風の噂で聞いたんだが、お前さん……バトルフィールドに頻繁に行っているらしいな」
親方は、言いにくそうに話した。
「実はオレの故郷は坑道だらけなんだが、一番大きな坑道にモンスターが巣食ってしまってなあ。もし退治してくれるならお礼に――――」
「やるよ」
「え?」
「モンスターを倒せばいいんだろう?新しい爪を試すのに丁度いいじゃないか」
ガイドフ親方はキョトンとした顔で、オレを見ていた。
……エリンばあさんの言った通りだったな。答えを見つけてくるぜ、ばあさん。
――――――――ショートクエスト『鉱石カマキリの女王』が開放されました。