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爪パリィ

 命からがら小屋に戻ったオレはアポロをベッドに寝かせた。


 アポロに、アロエをいくつか与えると意識を取り戻し、申し訳なさそうにオレを見た。

 そのままベッドに寝かしつけた後、オレは畑を当てもなく歩き回る。


 いつの間にかアポロの強さを自分の強さだと勘違いしていた。アポロは確かに強いが、間違った指示を出してしまってはその強さを生かせない。

 そして使い魔であるアポロはたとえ死ぬとわかっていても、オレの出した指示に従ってしまう。


 まずはオレ自身が強くなり、賢くならなければ。


 小屋に戻ったオレは、アポロを起こさないよう注意しつつ工作台に向かった。

 アポロのために折り畳み傘の様な物が出来ればと思ったのだ。

 皮の袋と布きれを分解しさらに鉄鉱石を加えてみたり、いろいろ試しながら何度も失敗していく。


 今のオレの技術力だと折り畳み傘どころか普通の傘を作ることすら難しく、作れるのはせいぜいカバンぐらいだということがわかった。しばらく悪戦苦闘していると、なぜか茶色い皮の小さなランドセルの様な物ができてしまった。

 それを部屋の隅に放り投げ、また別の物に挑戦する。


 しばらくして工作をあきらめたオレは石版を使い『ドライフォレスト・城外』にワープした。


 空はどんよりと曇り、雨がシトシトと振り続けている。

 雨に打たれながらあぜ道を一人進んでいく。老人と幼女の姿はなかった。


 しばらく歩くとゴブリン警備兵と遭遇した。

 警備兵と一対一で戦ってみて、あらためて自分の弱さを実感した。

 敵の攻撃を躱すことは出来るのだが、攻撃の手段がないのだ。

 接近すれば攻撃することは出来るが回避も難しくなり、ただのごり押しの削り合いになってしまう。


 オレは半分ほど体力を減らしてやっと一匹目のゴブリン警備兵を消滅させた。

 次の敵を求めてあぜ道を進む。


 二匹目のゴブリン警備兵にはパリィを試してみる。曲刀に合わせて左手の鉄の爪をぶつける。

 パリィが成功し、ゴブリンがバランスを崩す。オレは踏み込んで右の爪で攻撃しようとするが、その時にはゴブリンがすでに体勢を整えている。

 攻撃できなかったオレは再び間合いを取る。


 パリィがギリギリ成功してもタイミングが悪すぎるせいで、たいしてよろめかす事が出来ないのだ。

 何度も試してみるがなかなかタイミングが掴めない。ゴブリンのタイミング、剣速が毎回少しづつ違うのだ。


 普通のパリィは武器や盾を外側に向かって振り、相手の攻撃を外側に向かって弾き飛ばす。

 しかし爪、ナックル系統の武器には専用のパリィが存在する。


 ゴブリン警備兵が振ってきた曲刀を、オレは外側ではなくて内側に巻き込むようにパリィした。

 曲刀が力を向けていた方向にさらに力が加わり、曲刀が加速する。


 完全にバランスを崩したゴブリンはうつ伏せにドテッと転倒した。

 無防備な背中に右手の爪を突き刺すと、ゴブリンが一撃で消滅した。


 爪・ナックルパリィはリスクが跳ね上がるが、効果も同じぐらいあがる。

 最終的にはこれを完全にマスターしなければならない。


 雨に打たれながら、黙々とゴブリン警備兵を狩っていく。

 麦畑の方を見ると、寡黙なハーベストゴブリンたちがオレと同じように黙々と農作業をしていた。

 雨の中、ご苦労様です。


 爪パリィを失敗して槍を胸に食らってしまうなどの危ない場面も何度かあったが、アロエを使いながら順調にレベルを上げていく。


 そんなふうに何往復かしていると、いつの間にか第一城門の前まで来ていた。

 目を凝らすとやはりゴブリン騎乗兵が一匹、待ちかまえいる。

 レベルも上がったし、少し挑戦してみるか?

 幸い、騎乗兵と言ってもあいつは足が遅いから、無理そうならばすぐに逃げればいい。


 心を決めて城門に近づいていく。

 がっしりとした獰猛な顔のゴブリン、鉄籠にのったゾンビ顔の亡者。


 ……前の時と同じ奴だ。


 オレはゴブリンの拳撃を躱しながら、少しずつ間合いを詰めていく。

 亡者の麻痺攻撃だけは絶対に喰らわないように特に注意する。

 何度かゴブリンに爪を当てることに成功したが、ちょっとしかダメージが入らないし、騎乗している亡者にはとてもリーチが届かない。

 やはりジリ貧か。


 亡者が吹き矢で攻撃してきた。

 躱しきれなかったオレは、咄嗟に二の腕で麻痺針を受け止めた。

 それを見たゴブリンが大きく振りかぶる。


 ……バカめ、浅いんだよ!


 硬直の切れたオレは、ゴブリンの強振を爪を使って内側に巻き込む。

 爪パリィだ。

 ゴブリンは大きくバランスを崩し前のめりに転倒しかけたが、右足を前に突き出してギリギリ踏みとどまった。背中の鉄籠が激しく揺れ、中の亡者が両手で籠に掴まっているのがチラリと見えた。


 今だ!!


 オレは背中に背負っていた茶色のランドセルの止め金を外した。

 そしてかぶせの部分を跳ね上げた後、自分の背中をミサイルの発射台のように傾けた。


 目にも止まらぬ速さで、ランドセルからアポロが飛び出す。

 亡者に飛びつき、首に深々と牙を突き立てた。

 悲鳴を上げて亡者が消滅する。


 「アポロ、すぐランドセルに戻るんだ」


 アポロがランドセルに戻ると、オレは薄い鉄板で補強されているかぶせをしっかりと閉めた。

 ランドセルの中には布が敷き詰められてある。


 主人を失ったゴブリンはもはや敵ではなかった。慎重にゴブリンの体力を削っていき、最後は通常パリィでよろめかせた後、強振をボディにぶち込んで止めを刺した。


 オレは勝利の雄叫びを上げる。

 そして、消えていくゴブリンと鉄籠を見ながら小さな声で呟いた。


「フッ、マネさせてもらったぜ」


 ゴブリン騎乗兵が完全に消滅すると、第一城門がギシギシと音をたてて開いた。





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