バタフライエフェクト
麦畑を掻き分けてハーベストゴブリンに近づいて行く。
ゴブリンといっても見上げるほど背が高く、手足は丸太ん棒のように太い。
肌の色は薄いグリーンだ。
ハーベストゴブリンはオレを全く意に介さず、黙々と畑仕事を続けている。
オレは迷ったが、後で挟み撃ちにされてはたまらないのでハーベストゴブリンに攻撃した。
攻撃を受けたゴブリンはオレをチラリとみたが、すぐに農作業に戻る。
不意打ちでしかも強振攻撃だったのに、ハーベストゴブリンの体力はほんのちょっとしか減っていない。
……やめておくか。ほっといても大丈夫ということだろう。
再びあぜ道を進んで行くと、またモンスターが現われた。
――――ゴブリン警備兵。
細身のゴブリンが曲刀を構えている。
レオンよりやや小さいこのゴブリンは、すでに敵対心を剥き出しにしている。
オレは積極的にゴブリン警備兵の前に躍り出る。
そして警備兵の振る曲刀を軽々と躱していく。
重い鋼の剣で鍛えられたオレの足腰は、伊達ではない。
易々と攻撃を躱し、軽くパンチを繰り出す。だが深入りはしない。
じれた警備兵が大振りしてきた曲刀をパリィ。
大成功とはいかなかったが、ゴブリン警備兵はバランスを崩しよろける。
その隙に、後ろに回り込んでいたアポロが、ゴブリンの首に牙を突き立てる。
首を噛まれたゴブリンはたまらず両手でアポロを振り払おうとする。
がら空きになった腹に鉄の爪を捩じり込むと、警備兵は消滅した。
……やれそうだな。バトルフィールドと聞いて必要以上に慎重になっていたかもしれない。
次に現われたゴブリン警備兵は槍を持っていたが、同じ戦法で戦ってみる
まずオレが敵の注意を引く。
敵の目前で、蝶のように舞ってから、さらに蝶のように舞う。
大振りを誘い、体勢を崩させ、アポロが後ろから咬み付く。
またしてもゴブリンを簡単に撃破する。
この戦法でオレとアポロは順調にゴブリン警備兵を狩っていく。
蝶のように舞い、蜂のように刺す(アポロが)
オレはこの戦法を語感重視で『バタフライエフェクト』と個人的に名付けた。
途中、二匹同時にゴブリン警備兵が出てきたが、アポロの圧倒的な火力とオレの回避率の前ではもはや敵ではなかった。
ドライフォレスト恐るるに足らず。
やがて城に辿り付いた。
城というよりかは第一城壁といったところか。
でかい城門の前にゴブリンが一匹立っている。最初のハーベストゴブリンと同じぐらいの体格だが、顔は攻撃的に歪み、鉄製の籠のような物を背負っている。
「アポロ、バタフライエフェクトでいくぞ」
指示を出しつつ、ゴブリンの前に駆け寄る。
ゴブリンは岩の様な拳を振り回してくるが、スピードがないので楽に躱していく。
そして大振りになった時にパリィでよろけさせる。
素早くアポロが後ろから飛びつく。
決まったな――――そう思った瞬間。
ゴブリンが背負っていた鉄籠から、人間がピョコンと顔を出しアポロを剣で斬り付けた。
不意を突かれたアポロが剣をまともに食らう。
オレはアポロに追撃をさせまいと、ゴブリンに接近戦を挑む。
ゴブリンをじっと見ると種族名が出た。
――――ゴブリン騎乗兵。
くっ、油断したか……
まともに食らえば一撃で死にかねないゴブリンの打撃を、なんとか躱し反撃の機会をうかがう。
小さな隙を見つけこつこつと爪を突き立てていく。
鉄籠に入っている小柄な人間がニヤリと笑った。
その顔は人間というよりゾンビに近い。これが亡者か。
鉄籠の亡者は、いつのまにか構えていた吹き矢を、頬を膨らませて吹き付けた。
小さな針がオレの胸に刺さる。
針が刺さった瞬間、体全体がビクリと硬直した。
目の前のゴブリンが今までにない大きな振りかぶり見せる。
・・・・・・・・・・・死
「フギャーーーーーー」
アポロがゴブリンの太腿に咬みついた。
硬直の解けたオレは、ゴブリンの強振をギリギリの所で躱す。
二対二の状況のまま戦いが続く。
アポロの火力とスピードのおかげで、こちらがやや押していた。
致命打は決められないが少しずつ削っていく。
オレの頬にポツリとなにかが落ちた。
こんな時に……雨か……
ポツリポツリと降り出した雨はすぐに土砂降りへと変わった。
アポロを見るとあきらかに動きが落ちている。
雨によりダメージを受け続けているのだろう。
それを見たオレはつい、焦ってしまった。
強引に懐に潜り込み、強振を連打で叩き込む。
ゴブリンと亡者はオレに攻撃を集中してくる。
「アポロ、人間の方を殺るんだ。人間さえ殺せばこいつは木偶の坊だ」
アポロが大きくジャンプして亡者の首に取りついた。
たのむ、アポロやってくれ。
ゴブリンがおもむろにオレへの攻撃を中止した。
そして大きな握り拳を亡者に当たるのも構わず、アポロに叩きつけた。
力なく地面に落ちるアポロ。
水溜りに落下したアポロはピクピクと痙攣している。
それを見た血だらけの亡者はニヤリと笑った。
オレは最後の力を振り絞り、アポロを掻き抱く様に胸にかかえ、後ろも見ずに一目散に逃げ出した。
土砂降りのあぜ道をひた走る。
アポロに黄アロエを与えてみるが反応がない。
時々ゴブリン警備兵の不意打ちを受けたが構わず駆け抜ける。
やっと辿り付いた石碑に触れ、小屋へとワープした。
……なにやってんだオレは、主人として失格以下じゃないか。