チュートリアル
仕事の帰り弁当とビールを買ってトボトボ歩いていると、暇つぶし用のマンガやゲームが切れていることを思い出した。明日は休みなのにそれは困る。でも駅前まで引き返すのはめんどうだなあ……
そういえばあっちの細い道の奥にボロイ古本屋があったような気がする。一度も入ったことはないけれど。
――――――――あった、あった。
店の前に古い壺や壊れた羅針盤等が適当に置いてあり、商売する気が無いのかちゃんとした看板すらなかった。もし映画ならば、こういう店には必ず掘り出し物があるはずだ。ぬいぐるみの様に可愛いが水を浴びると増殖してしまう謎の生き物や、サイコロを振ると不思議な事が起こるボードゲームなどだ。
少しワクワクして中に入ると、ふつうに中古のゲームや古マンガがおいてあるだけだった。子供の頃から数えれば、もはや何度目なのか分からない小さな失望を味わう。最近は期待する事が減ったおかげで、失望のギネス記録は作らずには済みそうだ。
ざっと店内を見回してみるが、買ってもよさそうな物がみつからない。他には誰も客がおらず、物音を聞いた店員が疲れた顔で奥からレジにやって来た。なにも買わずに店を出るのは気まずい雰囲気があったので、ジャンク品がまとめて入っているカゴに手をつっこみ、よくわからない100円のゲームソフトを一つ買った。
家に帰るとやっぱり何もする事がない。しぶしぶさっきのジャンクソフトを起動したゲーム機に入れてみる。
なかなかきれいなデモムービーが流れた。
霧がかかった丘の上に一軒の木の小屋。小屋の前には校庭ぐらいの畑らしきものがある。クワを持った男が畑を耕し、うれしそうに何かを収穫した。ぼろかった小屋が徐々に立派な家になっていき、畑の周りに柵ができ、家が城になり城壁が張り巡らされ、人が増えていき――――最後には人々が城を守るためにドラゴンと戦っていた。最初の男が、薄布を着た女官たちに囲まれ、戦いの指揮を執っている。
――――――――これ系のゲームか。
若干の失望。昔はこれ系のゲームは大好きだったけど、やりすぎたせいか、それとも粗悪な模倣品に何度も騙されたせいなのか、最近はめっきりやらなくなっていた。失望のカウントをまた1つ増やしてしまったな。
しかし他にやることもないのでしぶしぶコントローラーを握る。まずはキャラ設定か。
初期の名前がレオンだったので即決でレオンに決定する。キャラの容姿は初期設定から髪型だけを変えて決定。浅黒い肌のなかなかのイケメンであったが、特に意味も無くアフロヘアーに変えてやった。
ふむふむ、ボーナススキルを選べか。十個ぐらいあるなあ。
神聖魔法、肉体強化、天候操作などなど……。
どうせ長く続ける気はないので、一番下にあった『豚殺し』というスキルをなんとなくで獲得する。
つづいてボーナスアイテムも適当に『鋼の剣』を選択。
「チュートリアルを開始しますか?」
テレビ画面にそう表示されたので、yesを選択した。
画面が切り替わりデモムービーの始めにあった畑と小屋がでてくる。レオンとおぼしき男が畑の前に立っている。画面の指示にしたがって操作方法をおぼえつつ、オレはパラパラと説明書を読み始めた。