表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

第7話



 背の高い草の間から飛び出してきたアンドロイドに、銃を撃ち込む璃空とブライアン。

 魯庵は彼らの死角に回り込み、たくみに結界を張りながら護衛する。


 璃空たちは、ジェニーを怜に任せ、出来るだけアンドロイドをふたりから離れた場所に誘導すべく、攻撃を続けていった。

 しばらくして攻撃してくるロボットもいなくなった。だが2人とはかなり離れてしまったのか、どこにも姿が見当たらないため、璃空は怜に連絡を入れてみる。

 だが、何度呼びかけても返ってくると思っていた返事がない。

「おかしいな」

 先ほどからその様子を見ていた魯庵が、璃空に話しかけて来た。

「怜ですか?」

「ああ。連絡を入れてみたんだが、返事がない。ばかりか、今いる場所の特定も出来ない。こんな開けた場所で通信が届かないことがあると思うか?」

「そうですね…」

 言うと魯庵は、持っていたポーチから小型のタブレットを取り出して操作を始める。

 出て来た画面には、このあたりの地図の上に5つの色の違う明かり。魯庵はそのうちのブルーとレッドを指さして言った。

「ご存じの通り、これとこれが怜とジェニーです。アンドロイドが出てきたあたりまで時間を戻してあります」


 各自がつけている通信機にはGPSが内蔵されていて、追尾することも出来る。時間をさかのぼることも可能だ。

 見ていると、璃空たちが離れたあともそこにとどまっていた怜とジェニーだったが、しばらくすると2人が同時にかなりのスピードで動き出した。

「! 何だ?」

 そして、ある地点まで来ると動きが止まり…

 急に2人の明かりがふっと消えてしまったのだ。

「今のは…。何があったんだ?」


 璃空と魯庵はしばらく明かりが消えたあとを見ていたが、

「2人が消えたところに行ってみるのが1番早いと思うけどね?」

 ブライアンの声に顔を見合わせ、うなずき合ったのだった。



 ゆっくりと進んでいた移動車が静かにその動きを止める。

 扉が開いて、璃空とブライアンが外に降り立った。

「ヒュー! 見渡す限りだね」

 ブライアンが口笛を吹いて言う。

 彼が言ったとおり、所々に台形の山がありはするが、あとは背の低い草が続き、どこにも隠れる場所はない。璃空はなぜ怜たちがこんなところで消えたのか、確かめるすべもなく、移動車の中にいる魯庵に言う。

「どうだ? 怜たちの反応はあるか?」

「いえ…、かなり強い信号を送っていますが…」

「そうか…」


 するとブライアンが、

「ちょっとあちこち歩いてみるか。これだけ見渡せれば援護もし放題だよな?」

 などと冗談っぽくウロウロし出す。

 璃空はこんなときにと思ったが、少し苦笑するとうなずいた。

「あまり遠くへ行くなよ」

 その時だった。

「!」

 ヒュウと風が吹いてきたかと思うと、空から何かが降り立った。そして、

 ブルゥ!

 と、その動物がいななく。

「Oh my god!」

 ブライアンの目の前には、一角獣が優雅な立ち姿を見せている。

「ユニコーン!」

 叫ぶブライアンは、驚きはしているが怖がる様子もなく近づいていく。するとそいつは威嚇するように、つのをブライアンに向ける。それにもひるまないブライアン。よほどハイになっているのか。

 璃空はさすがに「危ないからよせ」と、声をかけようとした。

 またその時。


 バッ! キィーン!


 移動車から目にも留まらぬ早さで飛び出した魯庵が、ブライアンと一角獣の前に立ちはだかり、結界を作る。ほとんど同時に何かが結界にあたってはじき飛ばされた。

間髪入れずに銃声がする。

 ドォン!


 璃空が横っ飛びになりながら銃を撃ったのだ。案の定そこには崩れ去ったアンドロイドの姿があった。

 そのあとも油断なくまわりを見渡す璃空。しかしあたりはしんと静まりかえったままだった。どうやらここにいるのはこの1体だけのようだ。


 魯庵もまわりに軽い殺気を放っていたが、しばらくするとすっとそれが消え、ホッとしたように言う。

「…間に合って良かった。街からかなり離れたところなのに、すでにここまで来ているヤツもいるのですね」

 ブライアンは「サンキュー、さっすがだね」と言いながら親指を立てる。

 一角獣はと言えば、しばらく3人の様子を眺めていたが、ふいと、まるでお礼をするように頭を下げると、またヒュウと空中へ舞い上がり、台形の山の向こうに消えていった。

「あー、残念。毛並みに触れてみたかったんだがな」

「まったく、優雅ですねブライアンは。命を落としていたかもしれないのに」

「だが、こうやってちゃんと生きてるよ」

 魯庵は肩をすくめてやれやれと言う顔だ。ブライアンは楽しそうにその背中をポンポンとたたくと、璃空にも笑いかけた。

 微妙に笑みを返したあと、心配そうに璃空がつぶやいた。

「それにしても、あの2人はこんな状態の場所で、どこへ消えたんだ。連絡も入れられないんだろうか…」


 ピー!

 まるでそれを聞いていたかのように、璃空の通信機が鳴りだした。

「しきかーん、聞こえますかー。応答願いまーす」

 聞こえてきた声は怜だった。不意を突かれた璃空は、思わず大きな声で怒鳴ってしまう。

「怜! どこにいる! 今まで何してたんだ!」




 ここは例の研究所の一室。

 あのあと、璃空たちが研究所の近くにいるとわかって、すぐさまゼノスが隠し扉を開け、第1チームを招き入れたあと、この空き部屋へと案内してくれたのだった。


 思いがけず璃空に怒られた(と、本人は思っていた)怜は、璃空の顔を見るなり、「指揮官! ごめんなさい!」と平謝り。璃空の方も、心配が過ぎてつい大声を出してしまったので、そこは素直に謝った。

「いや、俺の方こそ…。本当に2人が心配だったんだ。悪かった」

 深々と頭を下げる璃空に大慌てで「しきかん!」と、珍しく声をうわずらせ、その腕にすがる怜。

「頭なんて下げないでくださいよー。指揮官は心から俺たちのこと、心配してくれたから、あんなに怒鳴ったんですよね?」

「え? あ、ああ…」

「だったら、すんごく嬉しいですー、俺」

 そう言って頬をかきながら、怜はヘヘッと少し照れたように笑った。

「まったく、相変わらずだな、お前は」

 と、あきれたように言って、璃空も笑みを返す。


 話が途切れたところで、2人の様子を眺めていたブライアンが聞いた。

「ところで、なんで怜はこんなところにいるんだ?」

「あ、それはねー」

 と、怜は今までのいきさつを話し始めたのだった。


「というわけで、ジェニーちゃんと俺は、今ここにいまーす」

 話し終わった怜に、璃空が聞く。

「じゃあ、その、天笠博士と言う人が?」

「そっ。ジェニーちゃんを助けてくれたんだよぉ。あ、そうだ。まだ寝てると思うけど、ジェニーちゃんの様子を見に行こうよ」

「ああ。それと、天笠博士にも、お礼を言わないとな」



 さすがの怜も、一度通ったきりの研究所内を「あれ?こっちじゃなかったっけー」などと迷いながら、それでもなんとかジェニーのいる部屋にたどり着いた。

「あー、ここだここだ。トントン。お邪魔しまーす」

 と、嬉しそうに声ノック? をした怜がドアを開ける。

 見ると、天笠とゼノスは寝台から少し離れたデスクに座って、おのおの何か仕事をしていた。最初に声をかけてきたのは言うまでもなくゼノスだ。

「お? もう説明は終わったのか?」

「うん! で、みんなジェニーちゃんが心配だと思ったから来たんだ」


 怜に続いて部屋に入った璃空は、ゼノスに軽く会釈して天笠の方を向く。なるほど、よく見れば彼は自分の父親である久瀬と同年代と思われる。

 璃空は少し前に進み出て天笠に声をかけた。

「初めまして、新行内 璃空と言います。ジェニーを助けていただき、どうもありがとうございました。それから、神足、というのは彼ですが」

 と、怜を手で示して話を続ける。

「彼から聞いたところによると、天笠博士はうちの父と親しくしていただいていたとか」

 すると、「ああ、君が」と手を止めて、椅子ごとこちらに身体を向け、ちょうどそこにあった簡易チェアを璃空に勧めながら、天笠は少し面はゆそうに話し出した。


「あの久瀬が…。などと言ってはお父さんに失礼だな。あの頃友人たちと将来の話をするたびに、久瀬と私は一生独り者で、無粋なくらしをするんだろうと言われていたんだよ。ふたりとも研究や開発が恋人だったからね」

「はあ…」

 璃空は何と答えて良いものやら、気の抜けた返事をする。

「ははは」

 天笠はその表情が可笑しくて思わず笑ってしまってから、「すまない」と話を続けた。

「その彼にこんな立派な息子さんがいるなんて。いったいどう言う経緯で知り合ったんだろう? ご両親に聞いたことはないかな」

「父にはなにも…。母は俺が1歳を過ぎた頃に亡くなりましたので…」

「!」

 天笠はしばらく言葉をなくしていたが、少し哀しそうな顔になりながら言った。

「そうか…。いや、ぶしつけな事を聞いてすまなかったね」

「いえ、博士は何もご存じなかったのですから。でもそう言えば」

 と、璃空は可笑しそうに続ける。

「父はロマンスとはほど遠い、くそ真面目を絵に描いたような人間ですね」

「だろう?」

 2人は顔を見合わせて、ふっと笑い合った。


 そんなやり取りを眺めていたゼノスが、「ふんっ」とため息をついて腕を組む。

「どうしたの?」

 怜が不思議そうにゼノスに聞いた。

「いや。銃を持ったこともないとか、くそ真面目だとか…」

 そのあとゼノスは、スキンヘッドをかきむしるような仕草をして少し悔しそうに言う。

「あの勇敢で破天荒で男勝りのリリアさまが、なんでそんなヤツを好きになっちまったんだぁ? 謎だ! 俺には理解できん!」

 ちょっと失礼な言い方をするゼノスを、目をまるくして見ていた怜だが、

「たぶん指揮官のお母さんはさ、自分に無いものを持ってる久瀬さんにひかれたんじゃない~? プラスとマイナスとか、磁石のNとSとかも引き合うじゃない、そんな感じ」

 と、人さし指をピッとたてて諭すように言う。

「ふん! 利いた風な口を利くな!」

 自分の半分ほどの歳の怜になだめられたのが悔しかったのか、憎まれ口をたたくゼノス。その子どものような言い方に、怜もペロッと舌を出して肩をすくめるしかない。

 けれどさすがに大人げないと自分でも思ったのか、そのあとぼそっと付け加えた。

「まあ、お前さんの言う事にも一理あるか…。そうだな、自分にないものにはひかれるもんだな」

「そうそうその通り、納得した?」

「こいつ!」

「へへ」

 ぽかん! と怜の頭に本日何度目かのゲンコツを落とす仕草をするゼノスと、今度はそれをよけるでもなく嬉しそうにうける怜だった。



「う……ん」

 すると、いきなり人がふえて騒がしくなったためか、ジェニーが小さく身じろぎした。

「ジェニーちゃん!」

 最初に気づいた怜が飛んでいって声をかける。だが肝心のジェニーは、そのあとまたスヤスヤと寝息を立てだした。心配そうな怜に天笠が声をかけた。

「まだもう少し寝かせてあげなさい。麻酔はあと30分ほどで切れるから、それまではぐっすり寝た方が回復も早い」

「はい…」

 言いながらもやはり心配なのだろう、怜はそのままベッドの横にあった椅子に腰掛け、彼女の様子を見守っている。

 そのそばへ魯庵がやってきた。

 彼はジェニーの顔のあたりに手をかざしたあと、少し考えるような様子を見せていたが、

「ちょっと失礼」

 と、かかっていた布団をめくり、処置された傷の上にまた手をあてる。

「なに?」

 怜がまた心配そうに魯庵に聞く。魯庵は大丈夫というように目で答えてから言う。

「彼女の傷は、相当な腕を持つ博士がすぐに縫合して下さったので、痕もほとんど残らないと思うよ。ただ、体力的な事が心配なので…」

 と、魯庵は璃空に確認を取るように話しかける。

「一度異界に戻って、薬草を持って来たいのですが。よろしいですか? 指揮官」

 璃空は心得たとばかり、すぐに了解する。

「わかった。ルシアさんは薬草マイスターだからな。よろしく頼む」


 するとそのやりとりを聞いていた天笠が、「薬草?」と、聞くともなしにつぶやいていたので、璃空が代表してあらためて話をした。

「ああ、紹介が遅れました。彼はバリヤ第1チームに所属している、白川 魯庵。そして」

 と、ブライアンの方を向いて、

「彼が、同じくブライアン・オルコットです」

 紹介された2人は「よろしくお願いします」「はじめまして」と、会釈しながら挨拶する。璃空はそれを聞いてから、また説明をはじめた。

「2人が優秀なのは言うに及ばずですが、中でも魯庵は異界から来ています。そして、彼と彼の奥さんは優秀な薬草マイスターでもあるんです」

「ほお」

 天笠も悪魔の存在と、もちろん久瀬がヒューマンハーフである事も知っている。

「それでさっき、異界へ帰って薬草を持ってくると言ったんだね?」

「はい」

「そんな手間をかけずとも、この研究所にはこちらで採れた薬草が置いてある。足りなければ、ここの裏山は薬草の宝庫だから、ゼノス隊に案内してもらうといいだろう」

「え? そうなのですか」

「ああ」

 天笠の言葉を聞いて、魯庵は目を輝かせた。

「それなら案内をお願いしてもよろしいですか? こちらの薬草がどのように群生しているのか、とても興味がありますので」

 天笠はそんな風に言う魯庵に微笑みを返しながら頷いた。

「わかりました」

 こんな経緯を経て、第1チームはジェニーの傷が癒えるまで、しばらく天笠の研究所に滞在することになったのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ