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第4話



 第1チームが遭遇した、ゼノスと何人かのキングたちは、以前次元が開いたとき、クイーンシティの調査をするためにやってきた調査団の案内、兼、見張り役だったとシルヴァが教えてくれた。


 ただし、そのときの調査団は公認ではなく、政府の方針に反発した集団が、極秘に送り込んできたのだのだと言う事も、シルヴァは知っていた。

「当時は次元の壁のことを知るものも少なく、ましてや向こうの人間が来ているなどと言う事はおおっぴらに出来ませんでした」

 手塚はそんなシルヴァの言葉に答えて言う。

「それでも、国王が訳のわからない輩をすんなり受け入れたって方のことが、俺なんかには驚きですよ」


 するとシルヴァは意外なことを言い出した。

「ほほ、そうですわね。ちょうどあの頃は、こちらの戦闘がずいぶん激しくて。それで次元のことまで手が回らなかった父国王が、わたくしにこの件を一任したのです」

「ほお、なるほど」

「わたくしもずいぶん迷ったのですが、リリアの話を聞きたかったこともありますし。なにより、王宮の最強軍団であるゼノス隊を使うようにとの国王の助言で、安心して受け入れを決めたのです」

「ゼノスってのが、王宮最強だったんですか? ハハハ、そりゃ~さすがの第1チームも驚くはずだ」

 手塚が楽しそうに言うと、シルヴァも少し苦笑気味に微笑みながら、また話し出す。

「ですが、もしもの事があってはならないと、わたくしが調査団の方と会うことは禁止されてしまいました。おかげでリリアの事も聞くことが出来ませんでしたの」

「そりゃあ残念でしたな」

「ええ、まったくですわ」


 今度は2人は顔を見合わせて可笑しそうに笑い、またシルヴァが話を続ける。

「ほとんどの方は、戦争のあまりの悲惨さと、たぶん身の危険も感じたのでしょう。おざなりに調査を終えられると、あわてて引き返して行ったようですが、天笠あまかささんとおっしゃる方の率いるチームの方が3人ほど、こちらの動物に興味を持たれて、残られました」

「天笠?」

 手塚は名前を復唱する。

 どこかで見たか、聞いたことがあったような気がしたからだ。

天笠あまかさ のぼる。確か生物学者だと言っておられましたわ。しばらくして、おふたりが帰られたのは確認したのですが、その天笠さんだけが未だに消息不明なのです。けれどゼノスが生きていたと言う事は、その方も生きておられる可能性が出て来ましたわね」


「ああ…」

 手塚は記憶の中からその名前を引き出した。

 先日、国立研究所から見つかった、クイーンシティに関する古い資料の中に日記が含まれていたのだが、その裏表紙に書かれていたのがたしか、[天笠 登]という名前だった。と言う事は、あの日記は先に帰った2名のうち、どちらかが持ち帰ったのだろう。




 そうやって少しずつ事実が突き止められていく中、高い壁の向こう側で、またとんでもない事が起こりだした。


 壁の向こうでは日々順調に整備が整えられている。そのためどんよりと濁っていた空気も、少しず清浄されていき、ようやく微量の太陽光発電が使えるまでになった。

 それは喜ばしい事だったのだが。


「どうした?!」

 連絡を受けた手塚が本部へ飛んでいくと、通信画面に思いもよらないものが映し出されていた。

「戦闘用アンドロイドじゃねえか!」

 そうなのだ。街のあちこちで白骨化した人とともに転がっていた戦闘用アンドロイド。

 そいつらの中で、ほとんど原型をとどめたままのものが、太陽光が復活したことで、また動き出したのだ。この量の太陽光でまさか機能するとは。これは大方の予想に反していた。

「しまったな、あいつらを完全に排除してから復興に取り組むべきだった」

 手塚はすばやくいくつかの戦闘チームと護衛アンドロイドを送り込むと、反省ともつかないことを言ったが、今さら仕方がない。

 とにかく今は、中にいる人間の避難が最優先だ。

 幸いにして、起動を始めたロボットはまだ数えるほどだ。戦闘チームが作業チームを避難させつつ闘っても、余力が残せる程度だった。


「どうだ」

「クイーン、バリヤ、両作業チームの避難はほとんど完了しました」

「よし。各戦闘チームの指揮官、今、話せるか?」

 手塚の問いかけに、全チームの指揮官が答えを返した。

「第2チーム大丈夫です」

「第3、OKです」

「第8チームもおっけえー」

「さすがだな。で、お前たちはすまねえが、交代が行くまでしばらくそっちに残ってアンドロイドの破壊活動を続けてくれ。倒れて動かないと思うようなヤツにも、とにかく目に弾丸をぶち込んどいてくれよな」

「「ラジャ」」


 続いて手塚はネイバーシティのイグジットEにも連絡を取り、壁の強化を再度図るよう指図した。まさかとは思うが、直接向こうに出られては、戦闘チームのいないEの安全が確保できるとは思えないからだ。

 幸い建設チームと技術チームの何人かは向こうに残っている。強化の方は彼らに任せておけばいいだろう。

 イグジットEに状況を伝え終えると、手塚はすぐさま、こちらに残っている戦闘チームをすべて集めて対策を伝える。

「みんな状況は把握してるな。まず、第6、第9、第10の各チームはこのあと高い壁の向こうへ行って、今いるチームと交代してくれ。そして第11から第14までのチームはその後の交代要員として、いつでも出て行けるよう備えておいてくれ。そして15チームは、これからイグジットEへ急行してくれ。今、Eは、がら空きなんだ」

「ラジャ」


 指示を受けたチームが出て行くと、残ったのは第1チームのみだった。

 しかも、今は璃空とブライアン、そして怜の3人だけ。

 こんな時に、間が悪く3人になってしまった第1チームをどうするか。

 璃空はタミーの妊娠が発覚したあと、すぐに手塚にある相談を持ちかけたのだが、結果はまだ聞いていない。


「さて、あとはお前さんたちだが」

「俺たちも行きますよお~。戦えます~」

 怜がいつものごとくわがままっぽい事を言い出す。

「だが、3人だけじゃあ連携が取れないだろ? お前ら3人はどっちかって言うと攻めの方だ。守りがいなけりゃ後ろががら空きみたいなもんだ」

 そんな風に言われてもなお、怜は不服そうだ。


 その時、ノックの音がする。手塚がいぶかりながらも「どうぞ」と声をかけると、扉が開く。

「失礼します」

 皆が入り口の方を見やると、そこには第7チーム所属の小美野 晃一が立っていた。

「小美野じゃねえか。お前こんなところに何の用だ?」

 驚く手塚に、真剣な表情の晃一は彼らの顔を見回して、少し息を整えてから言った。

「第1の人手が足りないと聞いて、いても立ってもいられなくて来ました。お願いがあります。俺をまた第1チームに入れて下さい」

「「!」」

 最敬礼をして返事を待っている小美野。

 その場にいた全員が言葉をなくしていた。

 その上、いつもなら手放しで喜ぶ怜ですら、今回はしんと静まりかえっている。


「…ええっと、さすがにリアクションに困るんだけど」

 しばらくしたあと、ぼそっと答えたのが、怜。

「なぜだ? 俺が入れば少なくとも4人にはなるだろう?」

「それはそうだけど…」

 言いながら困った表情で、手塚と璃空に目をやる。


 手塚は怜の視線を引き継いで、晃一に説明し始める。

「あのな。もともとお前さんは、自分が戦闘に向いてないって思ったから、第7チームにかわったんだろ? その言葉通り、第7チームでは存分に能力を発揮してくれている。それに、聞くところによると、今ティーナさんが切迫流産で入院してるとか?」

 ティーナの事を出されると、さすがに晃一は苦しそうな顔をしたが、振り切るように顔を上げると、また話し出した。

「ええ、でもこんな状況で、戦える俺が残るって言うのはだめでしょう。ティーナもわかってくれると思います、それに」

 その後も何かと理由を言い出そうとする晃一の言葉を止めるような声がした。

「晃一」

 璃空だった。

「お前はこちらに残れ」

「え、だが」

「晃一」

 もう一度、凜とした璃空の声に言葉をなくす晃一。


「俺がなぜお前ほど腕が立つヤツを手放して、第7チームに送ったのか、わからないか?」

「璃空…」

「お前の能力が一番発揮される場所が第7チームだったからだ。それを、今さらそんなことを言われたら、こちらが迷惑だ」

 そしてふっと微笑むと、頭を下げて言った。

「お前は、第7で俺たちを最高にバックアップしてくれ。頼む」

「璃空」

 その時、ノックもなくパタンと扉が開いて声がした。

「その通りです」


 声のした方を見ると、なんと異界へ帰った魯庵が立っていた。

「魯庵!」

「え? ろあーん!」

 驚くブライアンと怜。

「申し訳ありません。遅くなりました」

 あいかわらずの冷静な口調に、「魯庵はやっぱ魯庵だねー」などと、大喜びの怜が魯庵めがけて飛びかかる。「おっと」と、軽く受け止める魯庵。


「ああ、待っていたぞ。その分だとルシアさんはうまく説得できたんだな」

 璃空がそんな2人をほほえましく見ながら聞くと、魯庵は少し苦笑気味に答えた。

「ええ…、大丈夫だと、思います。たぶん」

「すまない」


 璃空はルエラと手塚に許しを得て、魯庵に今回だけ第1に復活できないか打診していたのだった。魯庵はすぐに了解したのだが、ルシアは最初いい顔をしなかったらしい。しかしどうやら許可してくれたようだ。今の魯庵の態度からすると、しぶしぶかもしれないが…。

「じゃあこれで4人になったよ!」

 喜ぶ怜の声に答える声があった。

「いいえ、5人です」


 そして、次に入って来たのは、

「ジェニーちゃん!」

 前に移動車の運転をしていたクイーンのジェニーだった。

「ジェニーちゃん、なんで?」

「ふふっ、無理矢理お願いして入れてもらいました。私たちのために命がけで闘って下さる皆さんに、いつかご恩返しがしたいと思ってたの。タミーさんにはとうてい及びませんが、私これでもライフル撃てるんですよ」

「へえ~」

 ぽかんとする怜に、ジェニーはちょっといたずらっぽい顔で微笑みかけた。


「よし、これで5人揃ったな」

 手塚は安心した様子で皆の顔を一通り見回すと、また晃一に向かって言った。

「ってー訳だ、小美野。こんならお前さんも納得だろ?」

「…はい」

 しばらくうつむいて何かを考えていた晃一は、すっと顔を上げると、璃空に話しかける。

「璃空、ありがとうな」

「いや、いいんだ。それより」

「ああ、こちらのことは心配するな。もしもの時は最高の援護をしてやる」

「期待している」

 そんな会話を交わしながら不適に微笑み会う璃空と晃一。

「あー! いいなー。俺も混ぜてよ~」

 と、2人に飛びつく怜。

 やれやれと言う顔で、その様子を肩をすくめて見ているブライアン。

 魯庵はふっと微笑んで、やはりバリヤは良いところですね、とあらためて思ったのだった。



  

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