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第18話


 多勢に無勢だったバリヤチームとゼノス隊だったが、応援が駆けつけたお陰でそれがひっくり返る勢いだ。


「なあーんだ、こんなもんで俺たちの出番はおしまいか?」

 などと言う戦闘チームのメンバー。

 しかし、敵の数が減ったとは言え、最後まで気を抜けない事は、全隊員が知っている。

 口調とは裏腹に真剣な目つきで敵に対峙する皆。



 だがその時。


 ギュイーン、ギュイーン


 バリヤ隊員たちにとっては、耳慣れた音が聞こえてきたのだ。

「この音は?」

「ああ、次元の扉が開く音だな。けれど、ここはクイーンシティでも、宇宙天文台の工場でもない。と言う事は」

「他にも同じような扉があったのか!」

 そう、それは次元の扉が開くときの、あの音だった。

 見ると、国境の反対側、ひきちぎったように壊された建物のあたりが金色に光っている。

「あそこだ」

「ああ、どこに通じているかの確認は、とにかく目の前の敵を倒してからだな」


 そしてまた戦闘をはじめた隊員たちだったが。

「なんだ?」

 今まで凪いでいた砂漠に、ヒュウー、と風が吹き、足下の砂が、たったいま開いた次元の扉の方向に飛んで行き始めたのだ。

 それは、最初は穏やかに、けれどだんだんきつくなって行く。


「あれは…。なんだ?」

 次元の扉をよく見ようと、少し高く飛び上がったブライアンが言った。

「どうした、ブライアン!」

 璃空が叫ぶと、ブライアンは信じられないというように答えた。

「次元の扉が、どんどん回りの砂を吸い込んでいる…」

 そのとき、突然2頭の一角獣が、狼の遠吠えのように首を持ち上げた。声を上げているように見えるのだが、何も聞こえてこない。

「?」

 怜もブライアンも、そして他の隊員もその姿に怪訝な顔をしただけだったが、魯庵、ネレイ、ルエラの3人は、ハッとした顔で一角獣を見る。彼らには何か聞こえたようだった。

 そしてそのあと3人は頷きあった。



「ジェニー! 急ぎあのあのあたりを映し出してくれ! 隊員たちは、急いで移動車へ戻れ! 」

 忠士がただならぬ気配を感じたのか、叫んで移動車へと飛んで帰る。

 そして移動車のスクリーンに大写しになっていたのは、信じられないような光景だった。

 次元の扉が大きく口を開けている向こう側は、何も見えず真っ暗な闇だ。その中に、近くにある砂がどんどん吸い込まれ、引きずられるように壊れていた建物が、再度その中に引きずり込まれていく。まるで小さなブラックホールのようだ。


「こんな事が起こっていたんだな。そりゃあ敵が攻めてこられないはずだ。ここいらの街は全部吸い込まれちまったんだろう」

 ゼノスの声がした。キングはもう全員が移動車に帰っている。

 バリヤ隊員たちもあとから次々帰ってくる。

 今、外にいるのは一角獣に乗っているブライアンと怜。そして、彼らが降り立つのを見守るようにしている璃空。


 それから、魯庵、ネレイ、ルエラの3人だった。

 3人は移動車と敵の間に立って、攻撃を結界ではじきながら前に進んで行く。

 あるところまで来たとき、3人が次元の扉から移動車を守るような位置でぴたっと止まる。するとルエラが憤慨したように言った。

「もう、しつこいわね。あんたたちも早く逃げないと吸い込まれちゃうわよ。土倉さん! 特大の結界バリヤを私たちの前に落として頂戴」

「ラジャー」

 すると、ジジーーー、パリンッと音がして、ドォーンと砂を蹴散らしながら、特大バリヤが魔物たちの前に落ちた。


「おやおや、あいかわらず豪快なことで」

 先に無事地上に降り立ったブライアンが、一角獣を連れて移動車に戻ろうとするが、そいつはもう1頭を心配そうに見あげて動かない。

「ああ、そうだな」

 ブライアンも空を見上げる。怜はかなり離れたところにいたので、だんだんきつくなる吸い込みになかなか帰ってこられないようだった。現に、もっとずっと向こうにいる何体かのロボットが、紙細工のように扉の方へ飛んで行くのが見えた。

「晃一くん!」

 ルエラが叫んだ。

「了解」

 晃一が怜の向こう側に何度も大砲を撃ち込んで吸い込みを防ぎ、彼らが少しでも早く下に降りられるよう援護する。怜と一角獣は結果バリヤに守られながら、ようやく地上に近づいてきた。

 すると、璃空が飛び出して行きながら移動車の土倉に言う。

「土倉さん。怜が降り立つあたりに壁を落として下さい!」

「あ? 了解ー」

 ドーンと小さな結界の壁が彼らの降りてきたあたりに張られた。その中に上手く身体を滑り込ませる一角獣と璃空。

「指揮官!」

「無事で良かった。戻るぞ」

「でも、なんでこんな危ないところに」

「お前たちを全員無事に連れて帰るのが、俺の仕事だ」


 璃空がそんなふうに答えたとたん、ゴウンッと不気味な音がして、いきなりブラックホールが吸い込む力を増したのだ。

「!」

 ガタガタと揺れたあと、璃空と怜を守っていた結界バリヤが、耐えきれないように飛んで行った。とたんに2人と1頭が宙に舞い上がる。

「うわっ」

 彼らはなすすべもなくブラックホールと化した次元の扉へと運ばれていく。


「指揮官!」

「怜!」

 皆、口々に叫びだす。

「怜!」と叫んで外へ飛び出そうとするジェニーをゼノスが思わず抱き留める。

 その刹那、ふたたび2頭の一角獣が、1頭は風に舞い上がりながらも、いななくように首をもたげて、人には聞こえない声を上げる。

 次の瞬間、真っ昼間だというのに、空に星が輝きだしたのだ。

 それはペンタグラム星座。

 次元の扉と異空間をつないでいると思われる、その星座の中心がひときわ明るく輝くと、ザアーーッと音がして、おびただしい数の金銀が舞い降りてくる。

 そしてまた、国境の遙か彼方からもザアーーッと言う音と共に、金銀の光が飛んでくるのが見えた。クイーンシティにある扉から飛んで来たのだろうか。

 そいつらは大きな塊となって、今し方開いて、すべてを吸い込もうとしているブラックホールめがけて飛んで行く。


 そのうちの1つの塊が、璃空たちの身体を受け止める。驚くことにそいつらは、人の身体に触れてもはじけて消えずに、包み込むようにして彼らを地上に運ぶ。


「リトルペンタ」

 ルエラがそうつぶやくと、そのうちの1匹? が、ルエラの耳元で何かささやくようにくるくると飛び、また飛んで離れて行った。

「OK。さあーて、私たちの出番よ。魯庵、ネレイ、今リトルペンタが彼らの力を増す呪文を教えてくれたわ、§§§§☆★*、よ」

「わかりました」

「りよーかい!」


 3人は手を広げて前に突き出すと、ルエラが言った通りの呪文を繰り出した。すると飛んでいるリトルペンタたちが、またひときわ輝きを増していくのだった。それらは、どんどんブラックホールを覆い尽くしていく。

 けれど、向こうもそう簡単に閉じてはくれない。

 ルエラたちはあらん限りの力を込めて、呪文を送り続ける。

 ブライアンの横にいる一角獣も首を上げて、何度もいなないているようだ。


 どんどん増えるリトルペンタ。

 それに力を与えていく魔物と一角獣。


 やがて光がみるみるふくれあがり、目を開けていられない程の輝きに変わったとたん…。


 パアーンと何かがはじけるような感覚のあと、光が急に消えてあたりが静まりかえった。



 隊員たちが、まぶしさでくらんでいた目を少しずつ開けてスクリーンを見ると、今までブラックホールがあったあたりは完全に砂地に戻り、何匹かのリトルペンタがふわふわと浮かんでいるばかりだった。

「やった、のか?」

 忠士がつぶやくように言うと、答えるようにルエラが言った。

「やったわよ。リトルペンタたちが。ありがと、ペンタちゃん」

 ルエラは、ちゅ、と飛んで来た1匹にkissをする。そいつは照れたように少し赤く光って、けれどいつものようにパチンとはじけて消えてしまった。

「あちゃー、ごめんねー」

 ルエラが申し訳なさそうに舌を出すと、移動車の方から、ウオー! とも、ガオー! ともつかないような雄叫びが聞こえた。


「怜!」

 その中で、ひとり移動車から飛び出したジェニーはあたりを見回している。

 璃空たちが受け止められたあたりは、ちょうど砂山の向こう側になっていて、こちらからは見えないところだった。

 そこに人影が現れる。

 一角獣の手綱を取って歩いてくる璃空と、気を失っているのか、その背にもたれかかり、動かない怜。

「怜!」

 泣きながら駆けていくジェニー。

 璃空に何か話をしたあと、ジェニーは怜の後ろに乗せてもらうと、その身体をいとおしそうになでながら、また涙を流していた。


「あー、若いっていいねえー」

 その様子を見ていた忠士の、妙にしんみりした言い方に、

「お前さんだって、充分若いじゃねえか。それは俺たちみたいなオジサンのせりふだぜ」

 と、笑い合うゼノス隊の面々だった。




 そのあと、クイーンシティに帰る移動車の中でルエラが語った所によると。

「私ね。次元の扉を行ったり来たりするうちに、リトルペンタがなんだかんだうるさく言ってきてね、すっかりお友達になっちゃったのよねー」

「でも、リトルペンタってふれるとパチンとはじけちゃうじゃないですかー」

「そうよねー。だから細心の注意をはらいながら通るようにしてたの。そしたらね、ペンタちゃんたちが、なんだか良からぬ事が起こりそうな予感がするから力を貸してくれっていうの。で、そのあと自分たちが復活した理由を教えてくれたのよ。それはね、絶滅しかけていた一角獣が復活したからなんですって」

「え? ということは…」

「そう、もしあのまま天笠博士がこないまま、一角獣が絶滅していたら、次元の扉も2度と開くことはなかっただろうって」

「なんてことだ」


 本当になんという事だろう。

 リトルペンタと一角獣はそんなに密な関係にあったのだ。たまたま扉が開いたときに、天笠のような、熱心で誠実な研究者がやってきたお陰で、一角獣は絶滅を免れ、はからずもまたクイーンやキングたちも絶滅を免れたようなものだ。

 けれど一角獣の復活には、天笠の力だけではなく、キングたちの護衛や協力が大いに貢献しているというのもまた事実だ。


「私たち異次元の3つの世界は、密接にお互いがお互いを助け合いながら存在してるって事よね」

「じゃあ、あのブラックホールの次元扉はどんな意味をもっているんだろう?」

「それはペンタちゃんにもはっきりとはわからないらしいけど。彼らが言うにはね、殺し合うばかりのこんな世界は消えてしまえと、何か大きな力が働いたんじゃないかって。すべての世界の真実が、いらないものを宇宙に吸い込んでしまおうと」

「…」

「でね、じゃあネイバーシティは関係ないじゃなーいって思うかもしれないけど、あなたたちも知ってるように、ペンタグラム星座はあちらにもこちらにもある。どこかでつながっているってことよね。だからこちらの世界が消えてなくなってしまったら、きっとあっちの世界にも影響があるだろうって」


 そこまで言って、ちょっと考えながらルエラが最後に言った。

「私たちのこの世界は、目には見えなくても、どんなに遠くにあっても、きっとどこかで何かがつながっているって事。そこに生きるすべての生き物は、それを踏まえて謙虚に生きなきゃならない。とりわけ人という生き物は、物言わぬ動物や植物に対して鈍感だからね。次元の扉はそのことを教えてくれたんじゃないかしら」


 その後は、1人1人がそれぞれの思いを乗せて、移動車はクイーンシティへの道を辿っていったのだった。





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