第17話
「行ってきまーす」
一角獣にまたがって、意気揚々と言う怜。隣には同じようにブライアンが満面の笑みで一角獣に乗っている。
「1度こいつに触ってみたかったんだが、まさかその背に乗れるなんてな」
「2人ともあまりはしゃぎすぎるなよ」
璃空がたしなめる横で、ネレイがふくれている。
「いーなあ、僕も乗りたかったー」
あのあと、一角獣で空から建物を探すことにしたのだが、その役目をつのると、璃空と魯庵を除く全員が手を上げた。そこから皆、あれこれうるさくアピールしはじめたため、あきれた璃空が公平を期してくじ引きで決めたのだった。
2人がポンポンと一角獣の首をたたくと、彼らは空高く舞い上がって行く。
「うわあ、もうあんなに遠いー」
ネレイがあらためて感心したように声を上げた。
「ああ、あいつらの移動スピードはハンパじゃないぜ」
「けど、乗ってる間はあまり感じないんだよな」
ここまで一角獣に乗ってきた第8チームの2人が言う。
2頭は国境とは反対の方角へ向かう。遠くにいくつか建物が見えるあたりへ飛んで行ったかと思うと、とたんに通信機に連絡が入った。
「移動車、応答願います。こちら、怜」
「こちら移動車の広実だ。どうした?」
「今ちょうど俺たちの下に、魯庵が見つけた建物が見えました。ほーんとに国境にあるのとそっくりだー」
楽しそうに言う怜。そのあとからブライアンの声がした。
「じゃあ、発信器を撃ち込んでいったん帰るぜ」
そこで1度通信が切れた。
ブライアンがその見事な腕で発信器を建物に撃ち込んだあと、一角獣はまた国境へと取って返す。その途中、彼らは車タイプのままでこちらに向かって来る移動車と出くわした。
「おっかえりー」
2人が一角獣と共に移動車へ戻ると、ネレイが歓迎してくれた。
「たっだいまー」
怜が同じように言い返す。
可笑しそうにそんな2人を見ながら、忠士が今後の指示を出した。
「優秀なブライアンと怜のお陰で、案外早く建物が見つかった。ああ、でかしたな、怜」
今のは、忠士に向かってピースサインを出す怜に答えたのだ。
「とりあえず向こうに着いてからの分担を再度確認しておく。まず、第1チームは建物内の捜索。ゼノス隊と第8チームの2名は外回りを調査してくれ。第4チームは安全確認が終わるまで待機」
「一角獣ちゃんたちはどーするの?」
「ああ、こいつらは飛び詰めで疲れているだろうから、少し休ませてやろう… ? うわ! なんだよー」
忠士の話を聞いていた一角獣の1頭がやってきて、忠士の服をくわえて引っ張りながらブルブルと振る。
「あはは、イヤだって。一緒に調査に行きたいんだよねー」
「わかったよ、わかったから離せって」
忠士が言って聞かせると、一角獣はおとなしくくわえていた服を離した。
「じゃあお前たちは、ゼノスたちと外回りを調査だ。よろしくな」
そう言って首のあたりをなでると、気持ちよさそうに、まるで頷くように目を閉じる一角獣だった。
国境に建っていたものと全く同じような建物が建っている。
璃空は「まるでデジャヴだな」と言いながら、今度はゼノスがいないので、扉に手をかけて少し押し開ける。何も反応がないことを確認すると、素早く全部開けて銃を構え、油断なく中に入っていった。
第1チームの面々があとに続く。
「うわー。中までさっきと同じだー」
怜が言うとおり、中はやはり倉庫のような造りになっている。そして先ほどと同じ場所の砂を払ってみると、やはり地下に通じる扉が現れた。
「さて、この扉をどうやって持ち上げるかだな」
「爆破は私が担当します」
「え? ジェニーちゃんそんなこともできるの?」
「ライフルには火薬を使うものよ、怜」
「あ、そーだねー。では、フォローいたします。指示をお願いします!」
わざときまじめな顔で敬礼する怜に、ふふっと笑いながら、粉の入ったビンを渡すジェニー。怜はそれを受け取ると、キングがやったように導火線を作っていく。少し離れたところまで来ると、
「ありがとう、怜。…皆さん少し下がっていて下さい」
と、ジェニーがマッチを取り出した。火をつけるとさっきと同じくシュルシュルと導火線が燃えていき、上手い具合にボウンと小さな爆発が起こった。
「では、開けましょうか」
扉が動いたのを見て、魯庵が継ぎ目に手をかけて持ち上げる。
「けっこう重いのですね。ゼノスの様子からもっと軽いかと」
そんなふうに言った魯庵を手伝うべく扉に手をかける他の男たち。確かになかなか重量のある扉だった。息を合わせて横に扉を落とすと、やはり同じように下に降りていく階段が現れる。
「こんなに何もかも同じなんて、すごく手抜きだよねー」
あきれて言う怜に、璃空が答える。
「と言うか、戦場では効率最優先だからデザインなどはどうでも良いんだろう」
魯庵を先頭にして下へ降りていき、同じ所にあるスイッチで明かりをつけた。
「これは?」
そこに寝かされていたのは、先ほどとは少し形状の違うアンドロイドだった。いつもバリヤが敵対しているのと同タイプのようだ。
「普通のだね」
「ああ、俺たちにとっては、見慣れたヤツだな」
今度はブライアンが答え、かがみ込んでロボットたちをしみじみと眺めてから、部屋をぐるっと見回す。
「あそこに通路があるぜ」
ブライアンが指さす方角は、国境の建物にあった通路の位置とはちょうど反対側だ。
「ホントだ。じゃあやっぱり国境とここはつながってるって事?」
「そのようだな」
そのとき璃空の通信機が鳴った。忠士からだった。
「今、手塚リーダーから連絡が入った。第7チームを含む応援部隊が、もうこちらへ向かっているそうだ。到着するまでロボットちゃんを起こさないように、だと」
「起こさないように、とは、どうすれば良いんだ?」
「ただそのまま置いておけって。刺激を与えて動き出しちゃあ困るからさ」
「了解。それでは、ここもきちんと閉めて撤退する」
「ああ、頼むぜ」
忠士からの連絡はチームの全員が聞いていたので、階段を上がりながら、
「あーあ、何もしないで帰らなきゃならないんだねー」
などと怜が言う。
「何もないのは良いことですよ」
魯庵がごくあたりまえのことを言うので、「へいへーい」と、怜も納得したように、また男たちで地下入り口の扉を閉める。
「?」
ふとジェニーが首をかしげたので、怜が不思議そうに聞いた。
「どーしたの?」
「あ、ううん、何でもないの。閉まる寸前に光が見えたような気がして。きっとそこの窓からの明かりが反射したのね」
第1チームが移動車に戻ると、ゼノス隊と第8チームはすでに調査を終えて戻っていた。
「よう、おそかったじゃねーか」
「俺たちはゼノスみたいに馬鹿力じゃないから、扉に苦戦したんだよ~」
「はっ、情けねえ」
お互いに言いたいことを言う、怜とゼノスだ。
「そっちは何か収穫があったか?」
璃空が聞く。
「ああ、ここから少し離れたところにも、同じような建物があったようだ。どうやらあの倉庫は、国境から等間隔で配置されているみたいだ」
一角獣に乗って調査をしたと言うキングが答える。
「建物があったようだ、とは?」
「その建物も、なにかに引っ張られるように壊されていたんだ。ただ、窓の形状や壁の色から同じものだと判断した」
「了解」
璃空が答えたそのとき。
ガタガタガタ…
と、移動車が揺れだした。
「何だ?」
「どうした」
口々に言うチームの面々。
「今、外の様子を映し出します」
ジェニーがコクピットに飛んで行ってスクリーンをオンにする。
最初に見えたのは一面の砂漠。
それが少しずつ回り出して、順番にあたりを写していく。
倉庫の建物まで来たとき、突然ドオーンと言う音がして入り口から噴煙があがり、その煙の中からアンドロイドが飛び出してくるのが見えた。
「ロボット!」
「なぜだ? 俺たちはアンドロイドに指1本触れていないぞ」
璃空が言う。しかし原因はわからないが、復活してしまったものはしかたがない。
ロボットたちは、格好の獲物だと移動車めがけてやってきている。
「あーあ。せめて応援が来るまで待っててくれればよかったのにぃ。けどしょうがない。よーし! 全員、一暴れといきますか」
忠士がそんなふうに言うと、キングたちはたちまち外へと飛び出して行く。
「ゼノス隊、早すぎー。で、悪いけどさ、人手不足のため第4チームも戦闘に参加してもらうよ。それから、ジェニーと魯庵は移動車を守るためにここに残ってくれ。じゃあ、あとのバリヤのみんな、よろしく!」
もう一度指示を出した忠士に、頷いて外へ飛び出すバリヤ隊員たち。もちろん護衛アンドロイドと戦闘アンドロイドも、そして、もちろん一角獣も。
今回一角獣に乗っているのは、先ほどと同じく怜とブライアンだった。
ブライアンは言うに及ばず、怜も射撃の腕は一目置かれている。怜が建物の入り口付近の敵を、ブライアンは闘っている隊員たちの間を縫って、確実に敵に弾を撃ち込んでいく。
「ブライアンてば、あんなに動き回ってても全然ぶれないんだもんなー」
忠士が攻撃を繰り返しながら、独り言のように言う。
「それがブライアンだろう?」
璃空も独り言のようにそれに答えて言う。
さすがに、バリヤとキング合同隊は次々現れる敵にも動揺せず、何とか制圧出来そうな雰囲気が漂ったその時。
キュウウウー
と、あの嫌な落下音が聞こえた。
「こいつらまで起動しやがったのか!」
ドドドドー!
すぐさまゼノスが攻撃する。
「よっし、任せて」
怜の乗った一角獣が空高く舞い上がりながら、落ちてくるアンドロイドを途中で攻撃する。
「やっぱ君たちはすごいやー」
しかし、怜とブライアンは腕では負けていないが、向こうは数にものを言わせてやってくる。
「うわ!」
攻撃をよけた怜の一角獣が少しバランスを崩した所に、新たな攻撃が仕掛けられた。
逃げ切れない!
誰もがそう思ったとたん、敵の攻撃と怜の間に光る弾が飛び込んで、花火のようにバアンとはじけた。
それはガラスのように広がって、敵の攻撃をはじき返す。
「遅くなってすまない」
聞こえてきた声は、晃一のものだった。
「小美野ちゃん!」
跳躍ロボットが飛んで来たあたりから、2台の移動車が空中をやってくる。
1台の屋根には大砲のようなものが、もう1台にはガラス板のようなものが取り付けられている。
さっきの光の弾は大砲が撃ち出したのだった。
その後も、隊員めがけて飛んでくる攻撃の前に光弾が撃ち出され、彼らを守る。
「これって魯庵やネレイの結界みたいだ。…あ! 護衛装置、完成したんだね!」
「怜…。俺が来た時点で気づけよ」
「あは、ごめーん。この子に傷を負わせると思って、ちょっとあせっちゃったんでー」
こんな会話を交わしながら、そして的の攻撃から皆を守りながら、移動車は砂漠に降り立った。
中からバリヤ戦闘チームが次々現れる。
「またせたなー。俺たちにも闘わせろよな」
「すげー数。頑張ってるんだね、きみたち」
降りたチームの面々は、好きなことを言いながらも闘いに参加していく。
「隊員のみなさーん、ちょっと前を空けてくれるー?」
すると、ガラスを屋根に取り付けた移動車から土倉の声がして、ガラス板からまたガラス板のようなものが続けざまに打ち出され、砂漠に斜めに突き刺さっていく。今やってきた隊員たちはその下に走り込み、敵の攻撃を避けながらアンドロイドを打ち倒していく。
「わあ、結界の壁が出来た。あの壁、時間が経っても消えないよ?」
ネレイが言う。
「そうよー。名付けて結界バリヤ。結界の壁よー」
それに答えて移動車から優雅に出て来たのはルエラだった。
「ルエラ、貴女まで来る事はなかったのに」
魯庵があきれたように言うと、少し考え込るようなそぶりでいたルエラが言った。
「私もそう思ってたんだけどねー。なにかしら? 身体が勝手に動いて気がつけば移動車に乗っていたのよー」
「またまたそんなご冗談を」
忠士が可笑しそうに言うが、魯庵はルエラの含みのある言い方をよく知っている。
やれやれ、これだけでは納まらなさそうですね、と、心の中でほうっとため息をついた魯庵だった。
思っていたとおり、魯庵とネレイはそのあとルエラになにやら耳打ちをされ、驚きながらも頷くのだった。