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第16話

 やってきた一角獣はたった2頭だったが、やはり空中戦を戦えるものがいるといないとでは大違いだった。

 あっという間にそのあたりにいた戦闘ロボットは制圧されてしまう。

 敵の攻撃がやんでも、彼らはしばらく上空を飛びまわり、ようやく安全を確認して降りてきた。


「よお!」

 第8チームの指揮官は一角獣から降りると、かるく手など振ってこちらへやってくる。

「えー? どうしたのどうしたの? なんで一角獣に乗ってるのー。しかもこーんなヨロイつけてるしー。もう牧場ができちゃったの?」

 怜が大騒ぎするのをなだめながら、彼はいきさつを語った。

「今説明するからそんな騒ぐな、怜」

「はーい」

 怜はペロッと舌を出して黙る。

「たぶんお前たちが出発したすぐあとに、鷹品とワルテがヨロイを運んで来たんだ。俺たちが驚いてると、これを一角獣につけて、急いで国境の戦闘に加わってくれとな。博士も国境付近のジャンプするロボットの事を知っていたよ。さすがに地上では苦戦していたと言う事も。空を飛べる道具があればもっと簡単に制圧できるのに、と、キングがよく話しをしてくれたんだそうだ」

 ゼノスたちはうんうんと頷いている。

 そこまで言って今度は璃空に向かって話し出した。

「博士はお前の親父さんが来た時に、こいつのデザインを頼んだらしい。ただ人が乗れるような鞍と、今つけているような戦闘用のやつをな」

「父さんが?」

「うわー、さっすが久瀬さんだね。建築だけじゃなくて、こんなデザインも出来るんだー」

「まあ、原型だけらしいが。あとはそのデザインをクイーンシティに持ち帰って、第5と第7と協力して性能や機能を考えながら、急遽戦闘用を作り上げたんだそうだ」

 そこまで言って、彼はポンポンと一角獣の首をたたく。


「こいつらを戦闘に使うのなんて、いくら空中を飛べるとは言え、俺たちは最初反対したんだ。けどな、博士がじゃあこいつらに決めさせれば良いとか言って、試しにヨロイをつけたんだよな」

 1度言葉を切って、ちょっと微笑んだ指揮官は、また話を続ける。

「最初は嫌がってたんだ。けどそれはヨロイがイヤなんじゃなくて、何かを身につけるのが初めてで戸惑ってたらしい。博士が国境にいるゼノスたちを助けに行くんだとこいつらに話をすると、嫌がって外したヨロイをくわえて持って来た」

「へえー! 」

 ネレイが目を丸くして言った。

「そのあとのこいつら、早く出発したくて大騒ぎだったんだが、やっぱ1度くらい練習させてくれってお願いしてさ、やっと空中で銃が撃てるまでになったんだ。まったく」

 そう言ってため息をつくが、その目は優しそうに笑っている。


「いーなあ。僕も乗りたい!」

「あ、ネレイずるい! 俺も、俺も!」

 怜とネレイはあいかわらず駄々っ子のようだ。

 すると、カツカツと2頭がやってきて2人に背を向け、乗れ、と言うようにいななく。

「え? いいの? やったー」

 怜とネレイは意気揚々と一角獣にまたがった。2人がしっかり手綱を持ったのを確認して、一角獣はすいっと空へ飛び上がった。

「ヒュー」

「ヤッホー!」

 縦横無尽に飛び回る2人に、第8チームの指揮官はあきれたようにつぶやいた。

「あいつら、なんであんなにすぐに乗りこなせるんだ…」




 それにしても、先ほどの戦闘アンドロイドはどこから来たのだろうか。

 ゼノスの話では、国境付近に残っている建物のどれかではないか、そしてまだそこに残っている可能性があるのでは、とも言う。

 放っておいては安心して先に進めないため、とにかくひとつひとつ確認していくしかないだろうと言う事になった。手始めに国境の鉄格子と並行して建っている古びたビルから調査をはじめる。

 ゼノス隊と第1チームから何人かがその任にあたった。


 まわりを警戒しながら建物の前まで行くと、ドオン、と難なく鉄の扉をを蹴破るゼノス。

「うへ、大胆~」

「何がだ? 敵が隠れているかもしれんだろう」

 力のあるゼノスならではの侵入の仕方に、驚きながらも面白そうに後に続く怜。

 中はがらんとしているが、作りは何かの倉庫のようだ。

 見渡したところ簡単な足場が組んであるが、1階には特に何もなさそうだった。

「えーっと、2階へ行くには。あ、あそこに階段があるんで、上がってみます」

 と、怜が2階に続く錆び付いた階段を指さして言う。璃空が注意するように言った。

「気を抜くなよ。何が隠れているかわからないし、足場自体、かなりガタがきているようだからな」

「ラジャ」

 トントンと上まで軽々上がった怜は、注意深くあたりを見回していたが、

「2階も異状なしでっす」

 と、ピッと敬礼をして下の者に知らせた。


 そして、そのまま通路の手すりにもたれかかり、上を仰ぎ見ている。

「もっと上もありそうなんだけど、上る手段がなさそうだなー。あれ、天井にヒモみたいなのがある、あれにロボットがぶら下がってたのかな」

 よく見ようと手すりから少しだけ身体を出したとき、ギシギシと嫌な音がした。

 バキン!

「え? うわ!」

 錆び付いてもろくなっていたのだろう。怜の体重にすら耐えかねた手すりがいきなり折れてしまった。まさか折れるなどとは予想もしていなかった怜は、あわてて何かをつかもうとするが、手は空を切って下へ真っ逆さまに落ちていく。

 うわー、痛いのやだー。と思いながら目を閉じて衝撃に耐える準備をした怜は、しかし痛い思いをすることもなく、ガシッと誰かに受け止められた。


「あ、あれ?」

 目を開けると、誰かが自分を抱き留めていた。

「わー、助かったよ。ありがとう、ゼノス」

 この状態の自分を受け止められるのは、ゼノスしかいないと思った怜は、おもわず言ったのだ。

 だか。

「ん? 何がありがとうなんだ?」

 あろう事かゼノスはまっすぐ怜の目線の先にいて、怪訝な顔をしている。


「俺がゼノスに見えるのか? 怜」

 と言いながら、可笑しそうに彼を下ろしてくれた人物は…。

「うわっ! 指揮官!」

 そう、璃空だった。

「えーーー?! し、指揮官って、そんなに力持ちだったんですかー? 」

「俺を誰だと思っている? 」

「新行内指揮官です、ってちがーう」

 怜が驚くのも無理はない。

 璃空は背丈こそ怜より高いが、細身で、優男の怜とは言え、大の男を受け止める力があるようには見えないのだ。ゼノスなら納得だが、怜は今まで璃空が力技を見せたことがなかったので、心底驚いているのだった。

「俺の父さんはヒューマンハーフだよ、怜」

 微笑んで言う璃空に、あらためて、指揮官には4分の1とは言え魔物の血が流れているんだー、と再認識させられた怜だった。


「気を抜くなと言っただろう。だが、2階にも何もなかったんだな」

「はい」

「それならここは空振りだな。ゼノス、次を探そう。? 」

 出口へ向かおうと一歩踏み出した璃空が、その足下に異変を感じ取ったらしく、「なんだろう?」と、かがんで積もった砂を払う。

「ここに何か隙間がある。もしかしたら地下があるのかもしれない」

 そう言ってもう一度砂を払おうとする璃空を押しとどめて、コンコンとそのあたりをたたくゼノス。その音は下に空洞があることを物語っていた。

「ビンゴだな。よーっし」

 ゼノスは注意深く砂を取り除いて溝のようなものに手をかけて持ち上げようとする。しかし、さすがのゼノスの力にもそれはびくともしなかった。

「かなり錆び付いちまってるな。おい! 」

 振り返ってもう1人のキングに声をかける。

「まかせとけって」

 彼は腰のポーチから仕掛け花火のような筒と粉の入ったビンを取り出し、溝に置いて粉を線のように落としていく。

「離れてろ」

 声をかけると、マッチを取り出してシュッと火をつける。どうやら粉は火薬のようだ。

 線の端につけた火が、シュシュシュと燃えていき、最後に置いてあった筒に火がついてボオンッと軽く爆発した。

 ガタンと音がして、扉が動いたのがわかった。

「よしよし、あとは俺に任せな」

 ゼノスがもう一度溝に手をかけて、「ウオーッ」と雄叫をあげると、ズズと扉が持ち上がった。

「すごーい」

 怜が嬉しそうに言うと、ゼノスは「ほい」とその扉を横にずらして通り道をあけた。


 その間に璃空あてに移動車から連絡が入ったようだ。

 いつの間に現れたのか、魯庵がそこに立っていた。

「考えましたね。地下なら砂の被害も少なくて済む」

「ああ」

「魯庵! なんで? 」

 怜が聞くと、璃空が少し微笑んで言う。

「やはり護衛アンドロイドだけでは、守りが心許ないから、だそうだ」

 その手には、女物らしい折りたたみ式の鏡を持っている。良く見ると、鏡と反対側に(YUZUKI)のネームが刻まれている。

「あれ? それ今澤ちゃんのだ」

「ああ、俺はこんなもの持ってないから、柚月に借りてきた。良いように呼び出される魯庵とネレイには、きっと不評だと思うが」

「いえ、わざわざ鏡を探す手間が省けるので、こちらとしてもありがたいですよ?」

 魯庵は微笑んで答えている。



 壊れた扉の下には、中へ降りていく階段があった。

 始めに護衛アンドロイドが、続いて魯庵が下へ降りていく。

「魯庵も大変だねー。早く研究中の護衛装置が出来上がれば良いのに」

 怜がそのまた後ろに続きながら、茶化すように言う。

「これが私の仕事だからね。それに、あの装置はこういう所で使うたぐいのものではないかもしれないよ」

「えー、じゃあ、どういう所で使うのさ。…わあ、すげー」

 階段を降りきったところで、魯庵が得意の夜目を生かして、明かりのスイッチを見つけ出し、試しに入れてみる。それはまだ生きていたようで、とたんに部屋の全貌があらわになった。

 ここはゼノスの予想通りロボットの格納庫のようだ。砂よけか、出来上がったばかりなのか、ビニールのようなものにくるまれて、ずらりと寝かされたアンドロイドが並んでいる。

「砂よけにしてはずいぶん簡易な置き方だな」

 璃空が言うと、ゼノスが答える。

「まあ、砂漠で使うためのロボットだ。そのための性能はすぐれている」


 見回すと、部屋の奥の方にどこかへ通じる通路が見える。

 ゼノスは果敢に進もうと言ったが、璃空がいったん待つように言った。

「どこへつながるかわからない状況ではこちらが不利だ」

 すると、少し考えこんでいた魯庵がゼノスに聞いた。

「この国の兵士には女性はいますか?」

「あ? あーっと」

「確かいたはずだぜ」

 思い出すように考えるゼノスに、もう1人のキングが答える。

「でしたら、この先にもし兵士の詰め所があれば、鏡があるかもしれない。試しに飛んでみます」

「魯庵、だがそれは危険すぎる」

「大丈夫です。向こうに抜けることはしません。鏡のこちらからどういう状況か見てくるだけです」

「わかった、だがくれぐれも危険なことはするなよ」

 しぶしぶ了解した璃空に1つ頷くと、魯庵はボウンと鏡渡り用に変化して彼の持つ手鏡に吸い込まれていった。


「ヒューウ。いつ見ても鏡渡りの術はすげえなー」

 キングは言いながら璃空の持つ手鏡を覗き込んでみる。しかしそこにはもう彼の顔しか映っていなかった。

 しばらくすると、璃空が手に持っていた鏡がカタカタと揺れ出し、スーッと何かが出て来たかと思うと白煙が上がり、また魯庵が姿を現した。

「ただいま戻りました」

「ああ、早かったな」

「ええ、残念ながらこのあたりの鏡にははまだルエラの手が入っていないらしく、通り抜けられませんでしたので」

 しれっと言う魯庵に、やはりと思いつつ璃空があきれた声で言う。

「やっぱり向こうに抜けようと思っていたな? 」

「すみません。ですが、大きな収穫がありました。どこかの建物のアンテナに鏡状のものがついていて、外の様子が窺えました」

「本当か?」

「はい。この建物とそっくりな建物が建っています。しかも少し離れた砂漠の山の上に、さっき壊された見張り台の先端が見えていたので、そう遠くにあるわけではないようです。そこを見つけて中を調べましょう。もし同じようにロボットが格納されていれば、倉庫用建物の特定ができるので、作戦も立てやすくなります」

「よし。ただ、本来なら建物ごと破壊するのが良いんだが」

「そこまで大がかりな爆破装置は今回積んできてないぜ」

「ああ、しかたがないな。ではいったん移動車へ戻ろう」

 璃空たちは地下から上がると、もう一度入り口のフタをきっちりと締めてから建物をあとにし、急ぎ移動車へと戻る。

 忠士が話を聞いて手塚に報告したあと、魯庵の提案どおり、彼らは建物探しをする事になったのだった。





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