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第14話


 シルヴァから、ゼノス隊が国境の調査に同行すると聞いた手塚は、

「それならバリヤからは、彼らとは気心が知れているって言っちゃーなんだが、第1チームを派遣しますよ」

 と言って、璃空率いる第1チームに調査をまかせる事にした。

 そしてもともとこの調査の指揮をとるべく研究所から帰還してもらった第4チーム。

 何のことはない、研究所にいた3チームそのままが、国境調査に向かうこととなったのだ。

 何十年かぶりにクイーンシティに帰って来たキングたちには、もっと長い時間をここで過ごしてもらいたいと手塚は思っていたのだが、そんな申し出も彼らは断った。

「ひとつ所にじっとしてるなんて、俺たちのガラじゃないぜ」

 などという彼らの言葉を聞いて、吹き出しながら手塚が言う。

「良く言うぜー。何十年もあの研究所にいたじゃねえか」

「おっと、そうだった。けどな、あそこにいる間は、ほとんど姿を見せない一角獣を探し出すのに必死だったしな」

「そうだったなー。博士は研究が絡むと人使いがめっぽう荒いんだ。やれ、今日はあちらの山だ、今日はこっちの谷だってな」

 口々に言い出すキングたち。

「ちょっと草むらが動くと、俺たちが風じゃないかって言っても、とにかく確認しなきゃダメなんだよな。こっちは博士を追いかけ回して、休む暇もなかったぜ」

 ため息をつきながらも満足そうにするキングに、手塚はまた笑ってしまうのだった。




 そんな中、出発を明日に控えた璃空が準備を終えると、柚月が来て少し真面目な顔をして言った。

「ねえ、璃空」

「? 何だ?」

「今回もチョッピリ長くなりそうでしょ? だからその前にちゃんと言っておきたいことがあって」

 そう言って璃空をしっかり見つめながら話を続ける柚月。

「あのね、私、新行内 柚月になることに決めました」

「え?!」

 これには璃空が言葉をなくした。この二人は今まで、婚姻という形式にこだわらずに暮らしてきた。それはお互いが話し合いを重ねて導き出した結論だった。それがなぜ今頃になってそんなことを言い出したのだろうか。

「だが、どうしたんだいきなり。それに、そんな大事な事を簡単に決めてしまって良いのか?」

「簡単に決めたんじゃないの。ずっと考えてたのよ、あのときから」

「あのとき?」

「クイーンの人たちが、お式も挙げていないっていう私たちのために、盛大なパーティを開いてくれたでしょ? 」

「ああ」

「あのときにね。沢山の人がかかわってくれて、私すごく幸せで。事実は事実として良いとしても、こうやって色んな人に認めてもらうことも大事なんじゃないかって。だからね、形式にこだわらないことにこだわるんじゃなくて…、あら、ややこしい表現ね。とにかく、皆にわかる形で2人はちゃんと結びついてるんだって言いたいの」

「わかったよ。だけど、ネイバーシティにいる柚月のご両親には、ちゃんと説明して了解を取らなければ」

「はい、わかってるわ。璃空が承知してくれたらすぐに報告するつもりだったのよ」

「そうか、だったらいい」

 頷く璃空に、今度は柚月はいたずらっぽい顔をして言った。

「この任務を終えたら、ネイバーシティに婚姻届を出しに行って。それからね、お祭り好きのクイーンにお願いして、盛大な披露宴をしちゃうつもりよ」

「おい…」

 あきれるように言う璃空を見つめて、今度は真剣に言う柚月。

「だから…。必ず帰って来てね。約束…」

「柚月」


 今回は本当に何があるかわからないところへ行く任務だ。だから柚月もかなり心配なのだろう。

 璃空はいつも待たせてばかりの柚月を抱きしめると、はっきりと宣言した。

「ああ、必ず無事で帰る。危ないことはしないとは言えないが、必ず全員で帰ってくるよ」

「はい」

「それに、ピクニックにも行かなきゃならないしな」

「ホントだ。神足くんが皆の首に縄をつけてでも帰って来てくれるわね」


 ふふっと吹き出す柚月を、また、いとおしげに抱きしめる璃空だった。




 そして次の日。

「それでは行ってきます」

 3チームの総指揮官を任された忠士が、手塚とシルヴァに向かって言う。

「ああ、頼んだぞ」

「いってらっしゃい」

 シルヴァは優しく微笑みながら言うと、ゼノスの方に目を移す。

「ゼノス隊も皆さんを正しく誘導するようお願いします」

「わかっています、ただ」

 シルヴァの言葉に答えたゼノスが言う。

「天笠博士のところにいるヤツらに伝言しといて下さい。ちゃんと食べているか寝ているか確認すること、あんまり研究所にばかりこもらせないこと。あーっと、それから…」

「…、わかりました。けれど博士だって子どもではないのですから」

 笑いを含んだ声で言うシルヴァに、真顔で答えるゼノス。

「いや、博士は生物学に関してはすごい人なんだが、そのほかのことに関しては、まるで無頓着なんです。だから俺たちはもう心配で心配で」


「あー、それなら心配ないぜ」

 手塚が笑いながら2人の間に入る。

「研究所には、このあと分析の第5チームと工作の第7チームも派遣するんだが、誰を行かせようかと考えていたんだ」

「?」

「お陰で決まったぜ。第5からは鷹品たかしな指揮官。第7からはワルテ。この2人は性格的に、片付け好きで、きちんとしていないと気が済まないタイプなんだ。しかも口うるさい。博士のお守りにはぴったりだろ?」

 言いながらニッと笑って親指など立てる手塚。ゼノスはキョトンとそれを見ていたが、すぐに、いつものごとく豪快に笑い出した。

「アーッハハハ! いや、ありがとう! まったくアンタは面白いヤツだな、手塚さんよ。これでなんの心残りもなく出発出来る。なあ、みんな?」

 まわりのキングたちもうんうんと頷いている。


「よーっし、そいじゃあ皆、出発するぜー」

「「「ウォー」」」

「「おーっ」」

 ゼノス隊は雄叫びを、怜とネレイは手を突き上げて。そのほかのメンバーも各々自分たちなりの決意を新たに、忠士の声にこたえたのだった。



 国境の近くまでは、以前に使った空を飛ぶ移動車を使う。

 もちろん操縦はジェニーが請け負っていた。補佐はゼノスがしている。

「よし、あとは自動操縦に切り替えて、着陸まではゆっくりしな」

 離陸してしばらくは、ジェニーとゼノスの2人は、行き先の確認や微調整をしていたが、それも終わったようだ。

 ポンポンとジェニーの肩をたたいて、副操縦席から立ち上がるゼノス。

 少しほっとした様子でジェニーがそのあとコクピットから出て来た。


「お疲れ様、ジェニーちゃん。はい、どうぞ」

 怜が暖かい紅茶を差し出す。

「まあ、ありがとう」

 受け取って微笑み、ひとくち口にするジェニー。

「美味しい…」

 ホッとした口調に、ネレイが楽しそうに言う。

「そうなんだよねー。怜の入れる紅茶はなぜかすごく美味しいんだよねー」

「あったりまえじゃん! 会社勤めの頃は、男女の区別なく、持ち回りでアフタヌーンティを入れなきゃならなったんだから。でさ、どうせならって、師匠について修行したんだからね」

「師匠? 」

「そ、紅茶専門店のマスター。通い詰めて通い詰めて、やあっと教えてもらえるようになったときは嬉しかったなー」

「さっすが、怜」

「ホントね」

 3人が楽しそうに話しているところに、ブライアンと忠士がやってきて仲間に入る。

「あー、いいなー。怜くん、俺にも紅茶入れておくれよー」

「あ、広実さん。りょーかいしました! ブライアンは?」

「ああ、俺にも。そうだな、今日はロイヤルミルクティーとしゃれ込むか」

 そのブライアンのオーダーに、忠士はまた冗談ぽく言う。

「うお、ブライアンくんてば、顔に似合わずおしゃれー。じゃあ俺も同じもの」

「へいへーい」

 怜はいつものことだと慌てもせずに、軽く答えて紅茶の用意をしに行った。


 作り付けの簡易キッチンの向こうでは、こちらも先ほど副操縦席から来たゼノスが、休む間もなく璃空と打合せをしている。

「国境付近で戦闘したことは? 当然あるとは思うが」

「ああ。さすがに厳しかったぜ、向こうさんも国を守らなきゃならないからな。ただ、人が生き残っているかどうかは、もうわからんが。アンドロイドは俺たちが使っていたタイプと、もう一つとんでもなく跳躍力の高いヤツがいる」

「跳躍力というと?」

「空を飛べるわけじゃないんだが、1度の蹴りでかなり高くまで飛び上がってな。空中から攻撃を仕掛けてくる」

「いつも闘うアンドロイドよりも?」

「ああ、あの3倍は飛んでるかもしれん」

 そこから2人は護衛アンドロイドと戦闘アンドロイドの使い方、攻撃をかわす陣形やこちらからの攻撃の仕方、などを次々話し合っていたが、そこへ怜がやってきて紅茶のカップを差し出した。忠士とブライアンに作ったとき、一緒に入れたようだ。

「はい! 指揮官とゼノスにも」

「ああ、ありがとう」

「すまん」


 怜はそのまま璃空の隣に腰掛け、しばらく2人の会話を聞いていたが、少し考え込む様子を見せると、会話が途切れたところで話に加わる。

「ねえ、魯庵とネレイが研究材料になってた護衛装置はまだ出来上がってなかったんだっけ?」

 璃空はそんな怜の疑問に答えるべく彼の方を向いた。

「ああ、残念ながら間に合わなかったようだ。だが、今こうしている間も着々と開発は続けられている。聞くところによると、父さんも開発チームに入って晃一たちと一緒に頑張っているらしい。だからしばらくは待っていよう」

「指揮官のお父さん? うわーすっごい! あの新行内建設官が? 小美野ちゃんてば、すんごく張り切ってそうだねー。これはかなり期待していいね! 」

 嬉しそうに言う怜に、少し面はゆそうにしながら璃空が頷いた。自分の父親の事を手放しで褒められるのがどうにも恥ずかしいらしい。

 すると、ちょっと目を見開いてそんな璃空の顔を見ていた怜が、思わずつぶやく。

「指揮官てば可愛いー」

「男が男に可愛いとはなんだ?」

 ゼノスが驚いて、けしからんと言う様子でとがめる。


 怜は、エッヘヘと言いながら気にせずに言う。

「だって本当の事だもーん。あっゼノスもついでに可愛いよー」

「なにっ! 」

 怜の言葉に絶句したゼノスは、ガックリ肩を落とした。

「お前…、いや、怜か。なんだって? 俺が可愛いって? しかもついでだと…」

「え? ついでがイヤだった? じゃあしっかり可愛いよー」

 と、ニコニコ顔で言う怜に、またガックリ肩を落とすゼノス。

 2人のやりとりを可笑しそうに見て、少し笑いを含んだ声で怜に言う璃空。

「怜。もうそのくらいにしておけ」

「はーい」

 怜は珍しく聞き分けよく璃空に従った。


 そんな和やかな雰囲気を乗せて、移動車は順調にフライトを続けて行くのだった。





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