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第13話


 第1チームがクイーンシティに帰ると、すぐさま魯庵がルエラにつかまった。

 その上。

「あら? ネレイは一緒じゃなかったの?」

 と、言ってその姿を確認すると、彼もまたルエラのテリトリーに引きずり込まれたのだった。

 あれよあれよという間に連れ去られた2人に、

「どうしたんですかー? ルエラさん」

 怜が驚いて手塚に聞くと、手塚は苦笑いしながら疑問に答えた。

「いや、うちの奥さんは今、第7チームと一緒に新たな護衛装置を開発してるんだ」

「それと、魯庵やネレイに何の関係が?」

「なんだかな、彼らじゃないと出来ないことを科学と融合させるって張り切ってんだよ。まあ、許してやってくれ」




 そして、魯庵とネレイには申し訳ない話だったが。

 魯庵以外の第1のメンバーと、ネレイ以外の第4のメンバーは、長期間の任務から帰還したと言う事で、1日だけだが休暇がもらえた。

 そのため璃空は、久しぶりに柚月とゆっくりとした時間を過ごすことが出来た。

 柚月は妊娠が発覚してからも、夜勤を除いて手塚の秘書を続けている。今回は、帰って来た璃空に合わせて柚月も休暇を取らせてもらったのだ。


「はい、どうぞ」

 特に何をするでもなく、ゆったりと2人で過ごし、心づくしの手料理を味わい終えると、柚月が食後のコーヒーを璃空に差し出す。

「コーヒーなんて飲んで、大丈夫なのか?」

「ご心配なく。私のはカフェインレスよ」

 ふふっと微笑んで、ゆっくりとした動作で璃空の隣に座る。

 外から見る限りではそれほど変わりはないが、そろそろ安定期だと言う事だ。

 璃空は温かいコーヒーを口に運びながら、

「そう言えば…」

 と、以前に怜が話していた、皆でピクニックに行こうという計画をポツポツと語りだした。柚月は興味深そうに聞いていたが、聞き終わると嬉しそうに言い出した。

「神足くんナイスプラン立てたわね~。ふふ、楽しみね。ちょうど皆、産まれる時期にはほとんど差がないから、きっと賑やかになるわよ」

「ああ、そうか」

 璃空は赤ん坊の世話に右往左往しているであろう男性陣を思って苦笑した。

「広実なんかは、相当な子煩悩になりそうだな」

「ふふ、ホント。でも…」

「?」

「璃空だって、どうかわからないわよ?」

「俺が?」

 ニッコリといたずらっ子のような顔をしている柚月に、璃空は見入る。そしてまた苦笑しながら話し出した。

「こればっかりは、産まれてみないとわからないものな」

「ええ、た・の・し・み」

 そんな風に言う柚月の肩に手を回して引き寄せると、その唇にkissを落とす。唇が離れたあと、幸せそうに微笑む柚月の手が動くのを感じた。それを追って視線を落とすと、たぶん無意識なのだろう、柚月は自分のお腹に手をあてていた。その手に自分の手を重ねながら、もう一度顔を寄せていく璃空だった。




 ちょうど同じ頃。

「まーだーでーすーかー」

「…」

「もう、限界が近いんだけどー」

「…」

「ねーえってば! 京之助!」

「…」

「だーー! もうダメだ!」

 言いなが後ろへひっくりかえり、大の字に寝そべってしまうネレイ。

 それまで計測装置に示される結界の分析値しか目に入っていなかった京之助が、あっと言う顔をして、ゼエゼエ息を切らすネレイを見る。

「ネレイ。急にやめないでくれ」

「えー?! 急じゃないよぉ。なんども限界だって言ったじゃないですかー」

「そうか? 聞こえなかった」

「ええー! ひどい!」

 ぶうぶう言うネレイに、資料を抱えてやってきたあずさが笑いながら声をかける。

「京之助はね、1つのことに夢中になると回りがぜんっぜん見えなくなるのよ。ホント困ったちゃんね。あ、んーと、でも1つだけそれを解く魔法の呪文があるわよ」

 そう言ってネレイの耳元で、何やらささやくあずさ。

「へえ? そんな言葉が魔法の呪文?」

「そう。今度試してみて」


 ここは王宮に新たに開設された第5・第7・クイーン合同チームの研究室。

 分析を専門とする第5チームからは、指揮官のあずさとしん、そして京之助きょうのすけの3人がやってきていた。

 第7チームからは指揮官の土倉つちくらと晃一、ワルテが。

 そしてクイーンからも、分析と建設のプロフェッショナルたちが参加している。

 今ここでは、ルエラの提案で、彼ら魔物の結界を科学的に分析し、護衛に役立てられないかと研究が進んでいた。

 ルエラ自身の結界分析はかなり進んでいたが、彼女1人だけの分析では正確さに欠けるのではないかと話し合っていた折、ちょうど都合良く高い壁の向こうから帰って来た魯庵とネレイが引っ張り込まれたのだった。


「でも、ルエラはリトルペンタの計測装置を開発しなければならないのでは?」

 不審に思った魯庵が最初に聞いた。

 次元の壁が再び開いたとき、そこを通り抜けたルエラは確かに計測装置の事を話していた。

「うーん、そう言えばそんなこと言ったかしらー? でもねー、また戦闘アンドロイドが復活しちゃったから、まずはこっちが先よ。バリヤ隊員やクイーンの安全が最優先!」

 と、しゃあしゃあと言う。

 魯庵はその言い方に何か含みがありそうな気がしたが、苦笑いしてそれ以上のことは聞かなかった。


 そのあとルエラについて研究室へと向かうと、第7とクイーンが緊急で作りあげた結界分析装置が目に入った。見た目は1人用の丸いステージのようだ。魯庵はクイーンから説明を受けると、装置の中央に立って精神を集中する。小さくて中身の濃い? 結界をそこに張っていくためだ。

 けれどこれがなかなか難しいのだ。

 もともと結界は自分の身を守るためのもの。そのため本来は薄く広く身体が隠れるように作るのだが、それだと内容物が広がりすぎて、装置が中身を捕まえられないのだという。結果、なるべく1点に集めて張らなければならない。

 だが、ルエラほどの魔女ならば簡単にできるその技も、魯庵やネレイだと相当な体力・気力を使ってしまい、短時間勝負になるのだ。何度か試すうちに、2人ともかなり上手くはなってきたが。



 さて、先ほど装置に乗っていたネレイも、かなり頑張ってミニ結界を浮かび上がらせていたようだった。しばらく大の字になってごろごろと寝転がっていたが、思い立ったように起き上がる。そして、

「あー、つかれたー。甘い物食べたーい! 」

 と言って、分析する第5チームの邪魔? をする。

 慎の背中にくっつきながら、次々スイーツの名前を挙げるネレイ。しばらくは揺さぶられるままでいた慎も、さすがに作業の邪魔になってきたらしい。

「そろそろ離れてくれよネレイ。分析がはかどらないじゃないか」

「えー? とーっても頑張ったのにぃ。何もご褒美なしなのー」

「いつも何もなしじやないか」

 慎は苦笑いしながらも、ちゃんと相手をしてやる。そこら辺が慎の慎たる所なのだが。

 ネレイは「今日は身体が甘~いのを要求してるの!」などと、まだご機嫌がなおらない。すると、まるでその言葉を聞いていたようなタイミングで、研究室の扉がノックされた。


「はーい」

 あずさが立って扉を開けに行く。

 入って来たのは。

「みなさん、お疲れ様です。あいかわらず頑張ってるわね」

「コレットさん!」

 セシルの母親のコレットだった。いや、今は京之助の義母でもある。

「お母さん。どうされたんですか? あ、もしかしてセシルに何かあったんですか?!」

 セシルは今日、定期健診の日だった。そこで異常があって本人が来られず、母親のコレットに伝言を頼んだのだろうか。

 勢い込んで言う京之助を笑ってなだめながらコレットが言う。

「いえいえ。赤ちゃんは順調。本人もものすごく元気よ」

「だったら」

 なぜ? と言う顔をする京之助。


 するとコレットは、肩にかけていた大荷物をそばのテーブルに下ろして言う。

「なんだかあの子、妊娠してから甘い物が食べたい食べたいって言ってね。私も作るのが嫌いじゃないから色々作ってたんだけど。今日はさすがに作り過ぎちゃってね」

 言いながら包みを広げる。

 すると、匂いにつられてすかさずネレイがやってくる。

「くんくん。あー! すげえ!」

 そう。コレットが取り出したのは、フルーツケーキやバターケーキ。ショコラにクッキー。ネレイがほしがっていたスイーツがどっさりだった。

「うーわー! コレットさんって超能力者? 僕がスイーツ食べた~いって思ってたら、いきなり持ってくるんだもん」

「え? アハハ、そんなわけないじゃないかね。でも、そんなに喜んでくれたら作ってきた甲斐があるってもんだよ。さあさあ、たっぷり食べておくれ」

 言いながらネレイに次々菓子を勧めるコレット。

 ネレイは目をハートにしながら、「えーと、どれから食べようかなー。これも美味しそうだし、これも。あっ、こっちのも美味しそう~」と迷いに迷っている。


 すると、ネレイの後ろからヒョイと手が伸びて、ショコラがひとつ消えてなくなった。

「あ!」

 声をあげて振り向いたネレイの目に、幸せそうに口を動かしているあずさが映る。

「あー! あずささんひどい! 今それ食べようと思ってたのにぃ」

「あら、これ全部貴方のものじゃないわよ? そうですよね、コレットさん?」

 聞かれたコレットがうんうんと頷くと、あずさはニッコリ笑ってすかさず言う。

「だから、のんびり構えてるとすーぐなくなっちゃうわよ? ここにはスイーツ大好きな女の子がいっぱいいるんだから」

 そんな話をしている間にも、次々とクイーンがやってきて、

「あ、これコレット自慢のバターケーキよ。すっごく美味しいのよ」

「このクッキーも大好き!」

 などと言いながら、ひとつ、またひとつと皆のお腹に入っていく。

 ネレイは、もう選んでられないと、あわてて手近にあったショコラやケーキをバクバクと食べ出した。そして、本当に幸せそうな表情で、ニンマリと笑い、

「美味し~い。うーん、ボク、しあわせ~」

 などと言うので、あずさも、クイーンたちも、そしてコレットもつられて幸せな気持ちになるのだった。



「この分だとしばらくネレイは装置に乗れそうもありませんね」

 微笑んで言いながら、魯庵が装置の方に歩いて行く。その声に気がついたワルテが苦笑いしながら後に続く。

「まったく困ったヤツだぜ。あれ? 魯庵はスイーツ食べないのか?」

 装置の準備をしながら、ふとワルテが聞いた。

「はい」

「俺も苦手なんだよなー甘いもん。じゃあ、とりあえずいらない同士で頑張るか」

 また少し微笑み、甘いものは苦手ではないのですが、と思ったが口には出さず、魯庵は手を広げると、結界作りに集中していくのだった。




 そしてまた同じ頃。

 何十年かぶりのクイーンシティで、キングたちは家族と涙の対面を終えると、久しぶりに暖かい家で水入らずの時を過ごすことができた。当時は皆、独身だったため、年老いた親や姉妹がほとんどだ。

 家族の者は、驚くほど穏やかになった彼らの変わりように目を丸くする。

 けれど皆、そんな彼らを嬉しそうに歓迎したのだった。


 そのあとキングたちは王宮からの招待を受けた。

 広間ではなく、私室と思われる部屋へと案内される。

 そしてそこにいたのは。

「スティーブンス? ああ、やはり貴方が国王を引き継いだんだな…。それにしても」

 病に伏せる現国王、スティーブンスと接見したキングたちは、しばし言葉をなくす。

 というのも、当時、次期国王間違いなしと言われていたステイーブンスは、触れれば切れるような鋭さと厳しさを持った男だったが、今、ベッドに半身を起こしてこちらを見る顔には、その面影は全くないと言ってもいいほど、柔和な笑みを見せている。


「久しぶりだな、ゼノスとその隊の者たちよ。前国王の命令とはいえ、何十年もの間、帰る事も許されず、皆、さぞ寂しく悔しい思いをしたことだろう。どうか謝罪させてもらいたい」

 言いながら、深く頭を下げるスティーブンスに、ゼノスたちは慌てて言い出す。

「いや、俺たちはちゃんと納得して護衛に向かったんだ。そりゃあ長かったと言えばそうだが…」

「ああ、けど、天笠博士というすごい人に出会って、協力しながら一角獣の絶滅を回避できたんだ」

「彼は、破壊ばかりの俺たちに、初めて何かを救うことを教えてくれたんだ。こんな素晴らしい任務に就かせてくれた国王に、礼は言っても、恨みを言ったりはしないぜ」


 口々に言うキングたちを、こちらも驚くような顔で眺めていたスティーブンスだったが、やがてその口元に自分を揶揄するような笑みを浮かべながら言った。

「貴殿らも、自分の中にあるもう一つのキングに気づいたのか。しかもかなり良いシチュエーションでだな。良かった、良かった…」

 そこまで言うと、少し疲れたのか、目を閉じていったん言葉を切り、ベッドに沈み込む。そして目を開けると、また話しはじめる。

「私の場合は回りのものをすべて失い、長い長い時間を、たった1人で過ごさざるを得なくなってからから気づくという、最悪の状況でだった。もう遅いとわかってはいるが、悔やんでも悔やみきれない。彼らを救うことも出来たのに、私の傲慢さが皆を葬ってしまったのだよ」

 悲しげな表情で話をする国王に、ゼノスが言う。

「いや…。それはなにも国王1人だけの問題じゃあないぜ。闘いから逃れられないのは、キングが持つ宿命みたいなもんだ」

 その言葉に深く頷く他のキングたち。国王は少し哀しそうに微笑んで、その後納得したように目を伏せた。


 そこへ、お付きの者に紅茶のワゴンを押させて入って来たのはシルヴァだった。

「お茶が入りましたよ。あら、まだ皆さん立ったままじゃないの? もう、気が利かないわね、スティーブンスは。さあさあ、皆、椅子にかけてくつろいで」

 シルヴァがキングたちにそれぞれ椅子を勧める。彼らはちょっと顔を見合わせて微笑みあいながら、おのおのソファや椅子に腰掛けた。

 その様子を満足げに見届けたシルヴァは自ら紅茶をカップに注いで皆に振る舞った。

 しばらくは紅茶を味わいながらくつろいでいた彼らだが、その1人が、ふと思い出したように国王に聞いた。


「そういえば不思議なんだ」

「? なにがだね?」

 国王は怪訝な顔をして聞き返す。

「市街地でアンドロイドの排除をするのはいいんだが、なぜ攻めてこないんだ?」

「それはバリヤ隊員たちのおかげで…」

「いや、ロボットの方ではなく」

「?」

 そこでいったん言葉を切ったキングが言う。

「敵国が…」


「!」

「!」

 他の隊員たちが驚いて彼を見る。しかし、彼らもどうやら同じ考えだったようで、あとに続いて口々に話しだした。

「ああ、俺もそれは思っていた」

「バリヤにとってはアンドロイドが敵なのだろうが、俺たちにとってはもともとロボットは味方」

「そうだな。あれほど激しく攻め込んできていた回りの国々が、兵士もロボットもいなくなった、いわば丸腰の国を放っておくはずがない」

「それは…」


 国王はしばらく考え込んでいたが、彼の思いを引き取るようにシルヴァが言い出した。

「どこの国でも男子が産まれなくなって、兵士がいなくなったのではないですか?」

 すると、ゼノスがそれに答える。

「なるほど男はすべての国で生まれなくなったと聞くが、よそには女が兵士として闘う国もある。なのにどこからも攻め込んでくる様子がないのは、どういうことだ?」

 国王が深く頷いて話し出す。

「私もそれを考えていた。私があの宇宙天文台で、護衛アンドロイドと戦闘アンドロイドに守られて生き延びられたのも、敵国が攻めてこなかったからに他ならない。そのため今、バリヤには広範囲の調査を頼もうと思っていたところだ」

「広範囲とはどこまで?」

「とりあえず一番近い隣国との国境線を視察に行ってもらおうかと…」


 その言葉を受けて、ゼノスはキングたちの顔を見回す。彼らはそれに答えて深く頷いた。ゼノスは嬉しそうにこちらもうんうんと頷きながら、代表して国王に話しはじめた。

「それなら国王、俺たちが彼らのナビゲーターになる。土地勘のある俺たちが行くほうが、調査もはかどるだろう?」

 国王は彼らに深く頭を下げた。

「ありがとう、ゼノス。だが、天笠という人物が研究所で待っているのではないか?」

「ああ、そうだな…。けれど博士なら、自分の事はかまわずに行けと言うだろう。そういう人だ、あの人は」

 国王は、そんな風に言うゼノスを感慨深げに眺めていたが、決心したように「わかった」とだけ言うと、自分はこの通り動くこともままならないからと、実際にまつりごとを取り仕切るシルヴァに、今後の事を一任したのだった。





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