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第10話



「「退院おめでとー、ジェニーちゃん!」」


 2つの声に続いてパンパン! とクラッカーがはじける。

「あ…。ありがとうって言うのかな、この場合」

「え? なんでなんで?」

「おめでとーじゃないの? もっと入院してたかったとか?」

 質問する2人に、

「えっと、そうじゃなくて。でも、これって入院だったの?」

 と、反対に質問を返すジェニー。

「あー、そうかー。でもさ、今日から普通の生活が出来るようになったんだよ。どっちにしても、めでたい事に変わりはないよ」

「うん! そうだよー」

 そんな言葉に、やっぱり苦笑いしながらも「ありがとう、嬉しいわ」と、ちゃんとお礼を言うジェニーだった。

 今日、天笠から完治のお墨付きをもらい、通常の任務についても良いと言われたのを聞いて、怜とネレイが大喜びでお祝いをしようと言い出したのだった。

 もちろん反対するものもなく。

 けれど、浮かれているわけではなく、いつもの昼食を大皿に盛ってバイキング形式にし、いちおうまだ日も高いと言う事で、ノンアルコールのシャンパンを開けて、それを皆で囲んでいるだけである。

 ただ目先を変えるだけで、パーティのような雰囲気が出せるものだな、と璃空などは感心したのだが、こういった簡単なパーティもどきは、もと会社員の怜にとっては朝飯前だった。


「今夜は本物のシャンパンで乾杯するってのはどうだ? 」

 ゼノスが豪快にグラスを空けながら言う。

「ゼノスって、世の中のお酒をぜーんぶ飲み尽くしても酔わない気がする」

 怜が冗談めかして言うと、驚いたゼノスが、

「そんなことあるわけないだろ!」

 と、言ったそばから、隣に座るキングから横やりが入る。

「ゼノスは、ある意味酔ってる方が強いかもしれん」

「そうだよな。普段よりもっと容赦がなくなるからな」

 ハハハと笑う彼らに、今度は怜が驚いて聞く。

「え?! みんな酔っ払って闘ったことあるの?」

 そんな怜を、なんでそんなことを聞くんだと言うように見ながら、また話を続けるキングたち。

「あたりまえだろ? 敵の攻撃は朝も昼も夜も関係ないだろ? 普通は」

「なあ?」

「酒を飲んでいようが、風呂に入っていようが、寝ていようが、敵の数が多けりゃそんなことは言ってられねえ。援護の要請が入れば、すぐさま応援に駆けつけて全力で闘ったもんだせ、昔はな」


「ふえ~」

 それを聞いて、怜やネレイは言うに及ばず、璃空やブライアンですら、こちらの世界の戦闘の過酷さを垣間見たような気がしたのだった。


 そんな過激な戦闘を目の当たりにして、同士が次々と逃げ帰って行く中、おそらく父と同じように銃を持ったこともないであろう天笠が、どんな恐怖を抱えながらこちらで研究をつづけ、そして1人残ったのだろう。

 璃空はニコニコと皆の話を聞く天笠の中に、研究に対する激しい情熱を見て、畏敬の念を抱かずにはおれなかった。



 ネレイはあれから研究所に滞在している。

 と言うのも、第4チームはアンドロイドの分布と資源調査が主たる仕事なので、本体が到着するまでにこのあたりの調査を少しでも進めておく、という理由からだ。

 その間に、銃のことも聞くことが出来た。こちらではあたりまえのようにジシャク草が咲いているので、銃の製造工程の中に、こちらもあたりまえに磁気を逃す装置がつけられるのだという。

 ちなみにジシャク草の磁気は、向こうの次元のものとは微妙に違うようだと魯庵が感じ取り、試しに怜が群生している真ん中で撃ってみたが、バリヤの銃には、ほとんど影響がないようだった。

 だが、自分も撃つと言って試射したブライアンは、どうにも納得しない顔で帰って来た。

「だめだ、ずれている」

「え? ぜーんぜんずれてないじゃない!」

 怜が驚いて言ったように、ブライアンの撃った弾は、マトの真ん中を貫通している。

「だったら、こっちで撃ってみるから、見ててくれ」


 ドン!


 ジシャク草から離れたところで、歩みを止めることもなく軽く撃った弾がマトのど真ん中を打ち抜いた。

「ひえ~。いつもお見事なことで」

 からかう怜を少し睨んで、2つのマトを取り外し、重ねて合わせて見せるブライアン。

「やっぱりな、ほら」

 と、渡されたマトを重ね合わせてみると、ジシャク草の中で撃った方は、なるほど、ほんの何ミリか中心から外れていた。

「ええー? なにさこれ! こーんなのずれてるって言わないよ!」

「俺にとっては、たいしたズレだよ」

 怜はそれを聞いて「うぇっ」などと言って肩をすくめた。


「さすがはブライアンだな」

 報告を受けた璃空は、すぐさまクイーンシティのバリヤ本部に連絡をとり、磁気を逃す装置をつけた銃の製造を依頼した。

 バリヤ隊員には、支給された銃を使う者もいれば、自分だけのオリジナル銃を持つ者もいる。ブライアンほどの使い手ならば当然自分用があると思うだろうが、彼は意外にも支給された銃を使っていた。彼ほどになれば、銃を選ばす、ということか。

 ちなみに璃空は今回、キングたちの銃のメンテナンスも合わせて依頼していた。彼らの銃は整備はしっかりしてあるものの、かなり使い込まれていたため、いちど専門家の手でオーバーホールしてもらってはどうかと話をしてみたのだ。

 渋るかと思っていたキングたちは、割とあっさりOKしてくれた。

「以前ならたぶん、銃のことを女に任せるなんて、と、どいつも言ってたと思うんだよな」

 と、ゼノスが言うように、これが昔ならばクイーンシティに持って行くと言っただけで、拒否反応が起こっていただろう。だが、彼らは天笠と長い時間を過ごすうち、技術力に男女の差はないこと、闘いだけが生きるすべてではないこと、などを自分の中に浸透させていったのだ。


 新しい銃の製造やオーバーホールが済むまでは、研究所にあった年代物の銃を携帯して任務にあたっていたキングとバリヤ隊員だったが、幸いなことにその間は、なぜかアンドロイドたちもおとなしくしてくれていた。

 お陰で薬草やそのほかの調査も順調に進んでいった。




 忠士たち第4チームが到着したのは、そんなある日のこと。

「しきかーん、いやっほーい。お久しぶりです!」

「おう、ネレイ、良い子にしてたか?」

 などと言いながら、ネレイの頭をゴシゴシなでる忠士。

「もーう! 指揮官! 冗談はやめて下さい!」

 ネレイはいきなりの熱烈歓迎を振り払って、「せっかくきれいにしてたのに~」などと言いながら、手ぐしで髪を整える。

「ははは、悪い悪い。お前さんは可愛いから、つい」

「指揮官にそんなこと言われたって、ちっとも嬉しくありません!」

 プイ、と横を向いてしまうネレイにも、ペロッと舌を出して、ひるむ様子もない忠士だった。


 ネレイのあとから苦笑してやってきた璃空にも、忠士は軽い口調で再会の挨拶をする。

「やあやあ、久しぶり。璃空くんも元気そうじゃないかねー」

「ああ、だが…」

「なんだ?」

 璃空は忠士の様子がいつもと少し違っているのを感じ取って言った。

「どうしたんだ? なんだかやけに嬉しそうだが」

「あ、やっぱりばれちゃった? 今日はね、特別ゲストをお連れしたんだよ」

「?」

 忠士の言葉のあと、移動車のタラップを踏みしめるように降りてくる人物があった。

「父さん!」

「ああ、璃空か…。久しぶりだな」

 なんと、そこにいたのは璃空の父である、新行内 久瀬だったのだ。


 忠士の説明によると、アンドロイド調査の途中で手塚から依頼があり、それはある人物を研究所まで無事に連れて行って欲しいと言うものだった。第4チームはすぐさまその人物を迎えに高い壁の出入り口へときびすを返したのだが。

 そこにいたのが、驚くことに久瀬だったのだ。


 思わず怜を顧みる璃空に、ブンブンと手を振って否定を示す怜。

「え? 違いますよー。博士と久瀬さんを引き合わせたいとは思ってましたけど、俺、手塚リーダーにはまだ何にも言ってませんって」

「そうなのか。だったらどうして?」

 そんな璃空をフッと微笑んで見つめ、話し出す久瀬。

「違うんだよ、璃空。ここへ来たいと言い出したのは、私自身だ」

「え?」

「実は手塚さんから天笠が生きていたと言う連絡をもらってね。私も最初は自分の耳を疑ったよ。こっちの状況は、以前に来たときに詳しく聞いていたから」

「ああ」

「だから、彼がまだ生きていると聞いて、もう、いてもたってもいられなくてね」

 そこまで言ってからひと息ついて、久瀬はまた話をはじめた。

「けれど私にはあちらでの仕事もある。それを放っては行けない。そんな葛藤からダメ元で手塚さんに相談したんだけどね」

 と、久瀬はなぜか可笑しそうに笑ってからまた話をつづけた。

「相談の途中で、そう言えば、第7チームのヤツらですら手を焼いている工法で、急ぎの仕事があるのを思い出したと言って、ぜひ私に解決に来ていただければ助かるんですが、などと言い出してね」

「ああ、なるほど」

 璃空はその説明だけでピンとくるものがあったようだ。

「それで、バリヤからの正式な依頼を受けて、何の苦もなくこちらへやってこられたと言うわけだ」

「手塚マジックを使ったんだな」

「まったく」


 2人して同じように苦笑いする新行内父子がそんな話をしている間に、魯庵がキングの1人に声をかけて、研究所の中へと入っていく。


 しばらくして。


 バン!


 その場にいた者が少し驚くような音がして、扉が開く。

 そこには、いつもはポーカーフェイスを崩さない天笠が、焦ったような表情で、息をきらせながら立っていた。

「久瀬!」

 彼を一目見たとたん、目を見張って驚く久瀬。

「の…。登? だよな? 登!」

 走り寄る久瀬と、がっしり抱き合う天笠。

 2人は男泣きしながら、長い年月をうめるようにしばらくはそのままでいた。


 皆がしんと静まり、男2人のすすり泣きの声だけが聞こえる中、ドアの向こうから顔を出した魯庵が声をかけた。

「ここは危険ですから、積もる話は中で」

 回りで見守っていた者も、泣いていた2人もその呼びかけで我に返る。久瀬と天笠は笑顔になり、お互いに肩や背中をたたきながら研究所に入る。

 目の端をすっとこすって、璃空がその後に続く。

 忠士は何かをこらえるように一度上を向いてから歩き出す。


 その後には、同じようにもらい泣きした怜とネレイが、顔をグジュグシュにして、

「わーん、怜、泣いてるー」

「グズーッ。なんだよ、ネレイこそー」

 などと言ってお互いをつつきあっていたが、そのうちへへっと泣き笑いになり、肩を組んで扉の向こうに消えていったのだった。





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