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第9話


 アンドロイド破壊の任務に就く璃空たち第1チームとゼノス率いるキングたちは、毎回市街地へ入ると、本日派遣されたバリヤチームに合流することになっているのだが。

 今日は珍しく、忠士の率いる第4チームがそこにいた。


「珍しいな、広実のチームがここへ来ているなんて」

 璃空が予想外だというように言う。

「あれ~? そんなに嫌がらなくていいじゃない、新行内指揮官どの」

 忠士はあいかわらず璃空に軽口をたたいてくる。しかし最近は璃空の方も、以前ほど、かたくなではなくなっていた。

「嫌がっているわけじゃない。けど、なんでだ? 何か特別な任務でもあるのか?」

「うんー。どんどん復活するロボットちゃんが、どのあたりまでいるのかって事と…」

 忠士はそこで珍しく嫌そうな顔をして言った。

「こっちの資源にはどんなものがあるのかを調べろってさ。リーダー言うところのお偉いさんがね」

 璃空は驚いて忠士の顔を見た。こんな状況のクイーンシティーから、資源を横取りしようというのか。向こうの次元には、まだ有り余るほどの資源があるというのに。すると、硬い表情の璃空の肩に手を置きながら、忠士が楽しそうに言った。

「でもさ、ロボットちゃんが邪魔して、なかなか調べられないよな。だから資源は二の次。まずはアンドロイドの追っかけしまーす」

 そんな言い方をする忠士を、「お前ってヤツは」と言いながら、璃空は笑いを浮かべながら、その顔を見返したのだった。


 その2人に、元気よく声をかけるものがいた。

「新行内指揮官、お久しぶりです! あれ? 今日は怜は?」

 第4チームのネレイだった。

 怜とネレイの2人は、なぜか出会ったときから気が合って、何かといえばつるんでいるようだ。今日も久々に第1チームとの仕事と聞いて、ネレイは張り切ってやってきたらしい。

「ああ、怜には今日は薬草チームに入ってもらった。第4チームと合同だと知っていれば、来てもらったのにな。すまない」

 律儀に頭を下げる璃空に、恐縮したようにブンブン手を振ってあせるネレイ。

「えー! そんなことで謝らないで下さいよー。元はと言えば、今日ここへ来るのを言ってなかったうちの指揮官のせいですから~」

「なんだとー」

「えっへへ」

 文句を言う忠士に笑って答えるネレイ。だが、そのあと忠士はふいっと考える様子を見せて、何かを思いつき、パチンと指をはじく。

「さっき、薬草チームっていったよな、新行内」

「? ああ」

 何を言い出すんだと言うように、忠士の顔を見る璃空とネレイ。

「だったらネレイ」

「はい?」

「お前も悪魔の端くれなら、薬草には詳しいだろ?」

「え? ええ、まあ…」

 ネレイの答えに、忠士はニヤッと笑って宣言した。

「じゃあ決まりだぜ。ネレイくん。君はその薬草チームに合流して、あのあたりのロボットの調査もあわせてやってくれたまえ」

「ええっ?!」


 驚くネレイの横で、璃空は苦笑いして言う。

「そんなに簡単に決めてしまって良いのか? 忠士。しかも薬草のあるあたりまでは相当距離がある。ネレイ1人のために移動車を出すわけにはいかないぞ」

 すると忠士は人さし指をチッチッと振りながら、自信ありげに言う。

「それだよー、璃空くん。だからこの任務は、ネレイでなきゃ出来ないんだよ」

「どういうことだ?」

「ネレイなら、向こうに鏡があれば一瞬で移動できるだろ?」

 ふいをつかれて璃空が思わずつぶやく。

「そうか、そうだな…」

 ネレイもしばらく驚いていたが、そのあと満面の笑みをみせた。

「いいんですかー、指揮官! うわー嬉しいな。怜に会える!」

「ああ、けどさ、あっちに通り抜けられる鏡があるかどうかがわかんないんだよな」

「あ、それなら大丈夫です! ルエラさんがこの短期間の間に、誰でも…って、もちろん悪魔限定ですけど、こっちの鏡を通り抜けられるようにしてくれました」

「本当か? さすがは伝説の魔女だな」

「はい!」

「だったら、新行内」

 璃空に確認を取るように聞く忠士。

「わかった。魯庵に連絡を入れてみよう」

「すまないな」

「ありがとうございます!」


 そんなやりとりがあり、急遽ネレイは魯庵が率いる薬草チームに参加することになった。

 旅立つ前? に忠士が釘を刺す。

「いいか? お前はあくまで第4チームの人間なんだからな。珍しい薬草ばかりだからって、それに目を奪われて、ロボットの捜索がおろそかになってはいけないのだぞ?」

「もう、そんなことわかってますって! 部下を信頼しなきゃ」

 ぷう、とふくれるネレイを、怖い顔で睨みながら(けれど目は笑っている)、

「よし、では出発しろ」

 と、送り出した忠士だった。

「いってきまーす」

 軽い言葉を残して、ネレイは鏡に吸い込まれていった。




 鏡がカタン、とほんの少し動く。

 すると、ゆらいだ表面から小さな鳥のような子犬のようなものが飛び出した。驚くことにそいつは言葉をしゃべっている!

「えーと、ここはどこかな?」

 だが、言ったとたんにボフンと白煙が上がり、一瞬でネレイの姿になった。


「いらっしゃい、ネレイ」

 うしろから不意に声がして、振り向くネレイ。

 そこにはベッドに半身を起こして、微笑みながらこちらをみているジェニーがいた。

「ジェニーちゃん? うわー、ジェニーちゃんだ、ジェニーちゃんだー。ひっさしぶりー」

 飛びついて再会を喜ぶネレイに、目を白黒させるジェニー。

「あの、そんなに喜んでくれて嬉しい…、けど、ちょっとくるしい…」

 慌てて離れるネレイ。

「あー、ごめんね。でもさ、ここは?」

「私の病室? って言っていいのかな。薬草チームはだれも鏡を持っていなかったものだから、こっちへ来てもらったの。二度手間になっちゃって、ごめんね」

 あやまるジェニーにまたブンブン手を振りながら、ネレイはビックリしたように言った。

「だれも鏡をもってないって、魯庵も?」

「ふふ、そうよ」

「あの、魯庵が鏡を持っていないなんて…」

 そうなのだ。魯庵はいつでもどこでも用意周到で、ありとあらゆる物を持っているはずなのだ。それが移動手段の鏡を持っていないとは!

「ありえなーい、あとで絶対、わけを聞いてみる!」

 フンッと鼻息の荒いネレイを可笑しそうに見ながら、

「あ、そうそう、それで魯庵に頼まれたんだけどね」

 と、ジェニーは薬草のある草原までの地図を取り出し、説明をしはじめた。


「これで草原までの道のりは終わり。わかったかしら?」

「うん、だいたいはね」

「大丈夫?」

「うん、僕たちは初めての場所でも勘がいいからだいじよーぶ。魯庵も向こうにいるし」

 そんなやりとりをしていると、ドアから入って来た人物がいた。

「邪魔してもいいかな?」

「博士! どうぞ」

 それは天笠だった。

「君がネレイくんかな。神足くんからお話しはよく聞いているよ。はじめまして、ここの責任者の天笠といいます」

「はい! 噂のネレイです。どうぞお見知りおきを~」

「はは…。彼の言う通りの楽しい人だね。ところで、薬草のあるところへ行くとか」

「ええ、今、道を説明していたんです」

 と、ジェニーが答える。

「だったらちょうど良かった。さっき道具の追加を頼まれてね。移動車を出すから、良ければそれに乗って行けばいい」

「わー、ホントですかー? うーん、ラッキー!」

 いかにもラッキーそうに言うネレイに、天笠もジェニーも吹き出してしまう。

「じゃあ行こうか。出発の前に連絡を受けてここへ寄れて良かったよ」

「え? 博士も行くんですか?」

 ジェニーが驚いたように言う。

「ああ、けれど私も、ではなくて、私だけ、だよ」

「ええ?!」

 と、もう一度驚くジェニー。というのも天笠は、第1チームがここへ来てから、一度も外へ出たことがなかったからだ。不安になったジェニーが聞く。

「もしかして、人手不足で、もう博士しか残っていないとか…?」

「ハハハ、そんなわけないよ。いや、あんまりこもってばかりいると、キングの連中が心配して、たまには外へ出ろって、無理矢理用事を作るんだよ」

「まあ」

 ジェニーは驚きながらも可笑しそうに笑う。けれど、キングが天笠の事をどれだけ大事にしているか、と言うことがわかる話だ。ジェニーはどうということもなく、胸にポウッと灯りがともったような気がした。

「じゃあ行こうか」

「はい! じゃ、ジェニーちゃん。行って来るね」

 ピッと敬礼などするネレイに、ジェニーもちょっぴりふざけて敬礼を返しながら言った。

「ラジャ! ふふ、行ってらっしゃい」



 ジェニーに見送られて移動車に乗った天笠とネレイは、程なく研究所裏山の、薬草が群生するあたりへと到着した。

「ふわー。気持ちいー」

 風が吹き抜けるそのあたりは、さっきまでいた王宮近くの市街地とは空気が全然違っている。少し離れたところに、魯庵と怜が立っているのが見えた。

「ろあーん、れーい」

 ネレイが大声で2人に呼びかける。気がついた2人も、こちらを向いた。

「ネレイ!」

「わーい、れい…」

 走り出そうとしたネレイが、途中で言葉を止め、きつい表情で結界をはる。


 キィーン!


 アンドロイドだった。

「ふうー、危機一髪。博士は移動車の中へ入って下さい!」

「…ああ」

 しかし、今までかなり遠くでしかアンドロイドを見たことがなかった天笠は、その実態と迫力に、固まったようにその場にたたずんでいる。

「はかせ!」

 さっきまでの軽い調子とは裏腹なネレイの声音に、天笠はハッと我に返り、急いで移動車の中へと入って行った。

 しかも、いつもなら、間髪を入れずに攻撃してアンドロイドを打ち倒す怜の姿がない。

「怜!」

 見ると、なぜか怜はガンベルトを少し離れたところに置いているのだった。なんでー? とネレイは思いながらも忙しく頭を働かせる。

 キーン! キィーン!

 アンドロイドは容赦なく、あちらにもこちらにも攻撃を仕掛けてくる。

 魯庵はそれを結界ではじき返しながら、怜が銃を置いたあたりまで移動しようとしている。すると、ロボットが置かれた銃に気がついたのか、飛ぶようにそっちへ行った。

「いけない!」魯庵が叫んだときは、すでにアンドロイドの方が近くにいた。

 銃めがけて突進し、それをつかもうとしたとたん。


 ズッ


 鈍い音がして、アンドロイドが糸の切れた操り人形のようにガックリと力をなくす。

 そこにいた全員が、驚きで声もなくその光景を見やった。

 それは、銃の前に立ちはだかって、アンドロイドの目にツノを突き立てている一角獣の姿だった。


 ガラガラガラ


 一角獣が軽くツノを振ると、アンドロイドは無残に崩れ去った。


「あ…。ありがとう」

 最初に声をかけたのは怜だった。

「君ってもしかして、ジェニーちゃんと俺を助けてくれた子?」

 ブルゥ

 と、彼の言葉に答えるようにいななく一角獣。

「うわあ、これで2度目だね。ホントにありがとう。なにかお礼しなきゃねー」

 怜は一角獣の首に頬をゴシゴシとすりつける。驚くことに、その一角獣は嫌がることもなくそれを受け入れている。

「そいつは人間慣れしているからね。でも、男の君がそんなことをしても嫌がらないのは、驚きだ」

 いつの間にかそこへやってきた天笠が言う。くだんの一角獣は、天笠の顔を見ると怜をほっぽってそのそばへ寄っていき、甘えるように天笠の手に顔をこすりつける。

「あ、あれ?」

 ポカンとして、なすすべもなく突っ立っている怜。

「あはは。怜が振られた~」

 お腹を抱えて笑いながら言うネレイに、ぷぅっとふくれっ面の怜だった。


「でもさー、なんで銃を離れたところに置いてたの? 危ないじゃない」

 ようやく笑いが納まったネレイが、ふと真剣な顔になって2人に抗議する。

「ああ、それは…」

 と、魯庵が答える。

「ちょっと来て」

 手招きする魯庵に、首をかしげながらあとをついて行くネレイ。

 そして、その群生する薬草の中に足を踏み入れたとたん、

「うわあー」

 と、感嘆の声を上げた。


「これって…。魯庵! これってさ」

「そう、異界のおとぎ話に出てくる、ジシャク草だね。私もまさかと思ったんだけど」

「だから銃を外してたんだね」

「ああ」

 ジシャク草とは、魯庵たちが暮らす異界では空想の産物と言われている薬草だ。まさしく磁石のような働きがあって、ハイテクの銃や通信機が使い物にならなくなると、異界のおとぎ話では言われている。

 少し向こうの磁石とは違うように感じた魯庵だったが、念のため、銃は遠くへ置いておくようにと言ったのだった。


「俺も、銃を遠くへ置けって言われたときは、魯庵、気は確か?って思ったけどね。説明してもらったら、なーるほどってね。それにさ、ここしばらくアンドロイド出てこなかったから、大丈夫だろうってちょっと油断しちゃったんだよね」

「ええ。でも、今の一件で、早急に対策を打つ必要があるとわかりましたね」

「そーだよねー。ボクたちみたいに結界持ってればいいけど、それがなきゃ、丸腰って事だよねー」

「うーん、さすがの俺でもそれはかなり厳しい」

 天笠は一角獣の首筋をなでながら3人の話を聞いていたが、不思議そうに言った。

「そんな薬草があるんだな。けれど、ゼノスたちから銃が使えないエリアがあるとは聞いたことがないな。なぜだろう」

 怜がその疑問の答えを探すように言う。

「ええっ? うーん、あっ、じゃあこわーいゼノスたちの銃は木製なんだよきっと」

 すると魯庵がめずらしく吹き出して言った。

「フ…。いくらなんでもそれは。怜だって彼らの銃を見せてもらっていたじゃないか」

「そーだよねー。たしかに超最新ハイテク銃だった!」


 疑問の確認はあとですることにして、とりあえず今は薬草の調査を急ぐ事にした。

 先ほどのようなことがまたないとも言えないので、魯庵の助手はネレイが引き受け、怜はジシャク草の影響を受けないあたりで、銃を装備したまま、違う薬草の調査を続ける事にした。


 そして天笠は、運び込んだ道具を置くと、ひとり研究所へと帰って行った。






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