第八話
チュンチュン。
かすかに鳥のさえずりが聞こえる。それはまるで鳥たちが歌を歌っているようであった。
「んっ。」
鳥の歌声とカーテンの隙間から差し込む陽の光で、フィアナはようやく目を覚ました。
むくりと起き上がってはみるもののまだボーっとしている。どうやら昨日の疲れがあまり取れていないようである。
しばらして、いつものように呼び鈴を鳴らして侍女を呼んだ。
コンコンコン。
侍女はすぐにやってきた。
「お嬢様、ユーフェです。」
「どうぞ。」
入室を許可するとユーフェがワゴンを押して入ってくる。
そのユーフェの相変わらずのそつの無さに、思わずふふっと笑がこぼれる。
「昨夜はよくお眠りになられましたか?」
そう言いながら、ユーフェが紅茶を差し出してくる。
「ええ、ユーフェが入れてくれたミルクティーのおかげでよく眠れたわ。ありがとう。」
そういいながら紅茶を受け取った。
「それはよかったです。」
「ユーフェが入れてくれる紅茶は格別ね。昨日のもそうだけれど今朝のもちょうどいい温度だわ。」
「もったいないお言葉です。」
フィアナは、寝る前と寝起きはほんの少しぬるい紅茶を好んで飲む。
しかし、ぬるいといってもぬるすぎてはいけず、その微妙な加減がとても難しい。
たとえ差し出されたものが熱すぎようがぬるすぎようが、飲み干すであろうが、フィアナが好む温度の紅茶をきちっと入れれるのはユーフェくらいなのである。
「すぐに何かお召上がりになられますか?」
「そうね、軽いものをお願いできるかしら。」
「はい、かしこまりました。」
フィアナとユーフェの会話が終わり、フィアナが紅茶を飲み始めると、ユーフェは顔を洗うぬるま湯とタオルを用意して、軽食を頼みに部屋を出て行った。
ユーフェがいなくなったことで、フィアナは思考に耽りだした。
どうやら昨日はベッドに横になって、その日の出来事を振り返っている間に寝てしまったようね。
昨日のことを思い出すとまた気分が下がっていく。
真っ青に晴れ渡っている空とは真逆で、心は大きな大きな雨雲に覆われているようだった。
そんな気分を吹っ切るようにふいと頭を一振りする。
それにしても、いい天気ね。
なんだかいつもより日差しが強いような…。
そこまで考えてはっとした。
そして、時計に目をやるともうすぐ正午になろうとしていた。
自分のあまりの寝坊っぷりにぎょっとした。
いつも7時には起きるのだ。
めったに寝坊はしないが、もし7時に起きていなければ、いつもなら8時にはユーフェが起こしてくれる。
それなのに今日は起こしに来なかったようだ。
きっと気を使ってくれたのね。
考えてみれば、昨日の自分はあまりにもひどいありさまだったに違いない。
申し訳ない事をしてしまったわね…。
そう考えると自然と苦笑が漏れた。