第六話
フィアナは、グラズの言葉や冷たいまなざしにショックを受けたが、何とか夜会が終わるまでは持ちこたえた。けれども、一歩会場から出て人目がなくなると、一気に悲しみがこみあげてきて放心状態になってしまった。そんな人形のようになってしまったフィアナを、ユーフェは少し困惑しながら部屋へと連れて帰った。
「どうぞ。」
まだ、ボーっとしているフィアナを少しでも元気づけようと、ユーフェはラベンダーをほんの少し配合したミルクティーを出した。
「ありがとう…。」そう言ってフィアナは紅茶を飲み始めた。
リラックス効果のあるラベンダーの香りと、甘くてまろやかなミルクティーによって、フィアナは少しずつ表情を取り戻し始めた。
「心配をかけてごめんなさい。」
ぽつりとこぼされた言葉に、ユーフェはとても何があったのかは聞けなかった。
「いいえ、私にそのような気遣いは不要です。むしろ頼っていただけているような気がしてうれしいです。でもそれ以上にお嬢様の笑顔が見れればもっとうれしいです。」
そう言いながら微笑むユーフェに、フィアナは心にあたたかなものが広がるのを感じた。
「ありがとう、ユーフェ。」
「やっぱりお嬢様には笑顔がお似合いですわ。」
ふふふ、と二人で笑い合った。
「さあ、お嬢様。そろそろお休みになりませんと。お風呂の準備をしてまいりますわ。」
笑いがひと段落したところで、ユーフェはそう言って部屋を出て行った。
フィアナは、ユーフェが準備してくれたお風呂に入って、夜着に着替え、ベッドに横になった。
「それではお休みなさいませ、お嬢様。」
「ええ、お休みなさいなさい、ユーフェ。」
挨拶をして、ユーフェは去って行った。
暗くなった部屋で、体は疲れ切っていて、ふかふかで肌ざわりの良いべッドに横になっているにもかかわらず、いっこうに寝れる気がしなかった。
目をつむると今日のことが思い出され、胸が苦しくなるのだ。
どうして、なぜ、という疑問が頭の中でぐるぐるしている。
本当に、どうしてあのような冷たい目をされていたのかしら…。なぜ嫌われてしまったのかしら。
そう考えるうちに、その原因を探るかのように、無意識に今日のことを思いかえしていた。