第二十二話
「私は、この祝祭に意を決してきました。」
その言葉を皮切りにグラズの独白がはじまった。
「あの日、孤児院で貴方にはじめて会った日、私は貴方に一目惚れをしました。」
その言葉を聞いたフィアナが小さく息をのみ、ひゅっという僅かな音が辺りを震わせる。
「あの時はあっさり帰りましたが、しばらくしても貴方のことが頭から離れず、私は貴方を探すことにしました。しかし、すぐに見つかるだろうという私の予想に反し、貴方は一向に見つかりませんでした。そうして貴方を見つけられないまま、私はキャバロワ家の夜会に参加しました。」
そこまで話し、グラズは一息ついた。
「その日に、キャバロワ家のご令嬢がお披露目されるのはもちろん知っていました。しかし、扉から姿をあらわしたご令嬢が貴方だと気付き、私は凄まじい衝撃に見舞われました。私はここでようやく、大きな勘違いに気付きました。そして、ようやく会えたという嬉しさは一瞬で霧散し、すぐさま私を絶望が覆いました。」
ぐっと唇を噛みしめたグラズは何かを耐えるような苦し気な表情をしている。
「身分違いだと、私には、貴方に声を掛ける資格さえないように思えました。」
「そんなことっ…!」
それまでグラズの話を黙って聞いていたフィアナだったが、グラズの言ったことに黙ってられず、気づけば反論に声を荒げていた。
そんなフィアナに、グラズは一瞬、淡い微笑みを向けたが、すぐに表情を戻すと、視線だけでフィアナを制し、話を続けようとする。
フィアナはまだ腑に落ちてはいなかったが、もとよりグラズの話を最後まで聞こうと決めていたので、渋々引き下がる。
「諦めなければいけない、私では貴方に釣り合わない。だから、もう関わってはいけない、そう思って、参加者の義務として、挨拶に伺ったときに、はじめましてと言いました。」
「忘れよう、そう思って。」
微笑んでいるはずなのに、今のグラズの表情は、なぜだか笑っているようにはとても見えなかった。
その微笑みはあまりにも儚く切な気で、仄暗さが立ち込めていた。
「それからというもの、私は今まで以上に仕事に没頭しました。貴方に会ってしまうと自分を抑えられる自信がなかったので、夜会も仕事を理由に欠席する事が多くなりました。
けれど、全ては無駄でした。そんなものは、ただの悪あがきでしかなかった。結局、私は貴方を忘れることも諦めることも出来なかった。」




