第二十話
「好きです。」
気がつくと勢い余ってグラズに抱きついていた。
えっ
「いい加減にしてくれ。」
自分の大胆な行動にびっくりしてあわてて離れようとしたのだが、それよりも早く凍てつくような冷たい声とともに振り払われる。
ゆっくりと振り向いたグラズはあからさまにうんざりとした表情をしていて、その目も酷く冷たい光を宿している。
心臓がぐっと鷲掴みされたかのように締め付けられ、またしても溢れてくるなみだを今度ばかりは押しとどめることができなかった。
グラズはうんざりした気持ちでゆっくりと振り返り、目の前の人物を認識して、大きく目を見開いた。
「はぁー」
グラズの口から大きなため息がもれる。
溢れてくるなみだを押しとどめることはできなくても、せめてそのなみだをみせまいと俯いていたフィアナが、そのため息を聞きとがめて、びくりと肩を揺らす。
それに気付いたグラズが口を開こうとしたが、フィアナがそれを遮った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…。」
フィアナはもう耐えられなかった。
自分勝手な行動をしている自覚はあったが、これ以上拒絶の言葉を聞かされるのは心が持たないと思った。
だからグラズが口を開くのを感じて、咄嗟に反応して遮ってしまった。
失礼極まりない行為ではあったが、もはやこのときのフィアナにはそう判断することさえもままならなかった。
口からはグラズにとってはほとんど意味をなさない言葉ばかりが漏れる。
これ以上はグラズをより不快にさせるだけかもしれない。
そう思うともういてもたってもいられなくなって、フィアナはついに駆け出した。
もうきっとグラズ様とあうこともないだろう。
お話をすることなんて、けっして叶わないに違いない。
そう思うとチクリと胸がいたんだが、こればかりは仕方が無い。
今回は自分が悪いのだから、自業自得というものだ。
けれども、そんなふうに感傷に浸りながら、グラズの前から退場することは叶わなかった。
「…っ。」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
なぜ自分は止まったのか。
何が自分を止めたのか。
上半身にわずかばかりの圧迫を感じ、徐々に視線を下げていくと、そこには自分の体に絡まる二本の腕があった。
「…やっ。離して、下さい。」
ようやっと自分がグラズに後ろから抱きしめられているという状況は飲み込めたが、なぜ抱きしめられているのかは、全くわからなかった。
「離さない。頼むから、逃げないで。話を聞いて欲しい。」
恐る恐るグラズに視線を向けると、彼の目は自分を射止めんばかりに見つめていた。
その目には強い光が宿っていて、唯ならぬ意思の強さを感じる。
「は、い…。」
逃げられない。
そう直感した。
あぁ、もうここから逃げおおせることはできないのだと。




