第十八話
あぁ、おわった…。
徐々に視界が悪くなり、ズキズキと頭は痛く、耳鳴りも酷い。
いま目の前で起こった事が、頭でも心でも受け入れられていない。
いや、まるで受け入れることを拒否しているかのようだ。
そんな状態の中、絶望を示唆する言葉だけがフィアナの身体中に響き渡っていた。
いつのまにか溢れてきていて今にもこぼれんばかりのなみだを、こんなところで泣いてはだめだと、ズタボロでなけなしのプライドがぐっとおしとどめる。
それに今泣いてしまったら、せっかく綺麗にしてもらった化粧も落ちてしまうじゃない。
それはユーフェに申し訳ないわ。
こんなときでも、頭の中に冷静な自分がいて、その子が少しはずれたことを話しているのを聞いていると、ほんの僅かばかりではあるが落ち着く事ができた。
そうすると、さっき目の前で起こった事はなんら驚くべきことではないことに思い至る。
そうよね。いつもあんなに綺麗な女性に囲まれていて、もてもてなんですもの。
お相手がいらっしゃって当然だわ。
むしろ、いない方がおかしいもの。
どうしてそこを考えなかったのかしら。
どうしていないと思ってたのかしら。
自分があまりにも可笑しくて、無意識に自嘲するような薄笑いのため息がもれた。
本当はきっと気づいていた。
考えればわかることなのに、その現実を受け入れたくなくて、受け入れられなくて、ずっと見てみぬふりをしていたのだ。
ただただ身体中に響き渡っていただけの言葉が、徐々に吸収されると、先ほどおしとどめたなみだがまた溢れそうになる。
もう諦めよう…。
簡単には割り切れそうになかったが、胸に巣食うもやもやと格闘しながら、フィアナはグラズが向かっていった庭園に背を向けた。
いつもはしゃんとしている背が心なしか丸まって見える。
フィアナは、まるで断ち切れぬ想いを無理やりに引きちぎるかのように、グラズともグラズと一緒にいた女性とも違う方向へと足を踏み出した。
これでいいのよ。
ピリピリと痛む心を、あるいは気落ちしてガックリきている体を慰めるようにそう言い聞かせる。
「フィアナ。」
どこからか誰かが自分をが呼ぶ声がする。
頭の中のその声は、優しくてあたたかくてつい聞き入ってしまうような声だ。
あぁ、この声はダグお兄様の声だわ。
そう思い至った瞬間、ある夜のダクミラスとの会話が再生された。
「行動を起こしてみてはどうだろうか。自分がしたいことをしてみる、伝えたいことを伝える、ぶつかってみる…。落ち込んだり塞ぎ込んだりするのはそれからでもいいとは思わないか?」