第十六話
厳かな雰囲気から一転、周りは喧騒に包まれていた。
人々は優雅なようでどこか慌ただしくしている。
今は第一部が終わり、第二部が始まるまでの僅かな休憩時間。
フィアナも自分にあてられている控室へと急いでいた。
第一部は神聖さが重んじられているため、華美な装いができない。
そのため、控室をあたえられている高位の貴族令嬢は、この時間にこぞって衣装替えをするのである。
フィアナはそんなことよりも早くグラズを探したかった。
第一部に参加してそのまま帰る貴族は、もはや全くいないと言えるほどだが、第二部は参加が義務付けられてはいないので、万一ということもあり得るからだ。
しかし、そんな不安を抱くフィアナをよそに、そんなこはありはしないと一蹴し、それよりも久々に会う大事な日なのだからちゃんと着飾らなくてはと、母やユーフェをはじめ多くの者に押し切られたのだ。
フィアナとグラズのことはもはや屋敷中に知れわたっているのである。
フィアナは、急いで控室に戻り、急いで支度を済ませ、急いで会場へと戻ってきた。
しかし、それにも関わらず第二部はすでに始まっていた。
女性の支度は、幾ら急いでも時間がかかるものである。
ふと会場を見渡してみると、夜会用のドレスを来た令嬢はまだほとんど見受けられない。
それほどにはフィアナの支度は早かったということである。
本日のフィアナは、ピンクとオレンジの間くらいの色味の、テカテカと主張しすぎない上品な光沢のあるドレスを着ている。
シュッと締まった腰元からふんわりと膨らんだ布は綺麗なドレープをつくって床までのびている。
腰にはコサージュくらいの大きさのバラが二つ付いており、洗礼された上品な華やかさを演出している。
フィアナは、エメラルドグリーンや薄紫といった淡い寒色系のドレスを着ることが多いので今日のこのドレスは新鮮な感じである。
しかし、胸元や背中がいつもより開いているのは心もとなく戸惑いが大きかった。
実は、ドレスは控室にもう一つある。
この日のために長い準備期間が設けられているため、大抵の高位の貴族令嬢はドレスを二つ持ち込んで、途中でもう一度衣装替えをするのである。
フィアナは、流石にもう一度衣装替えをする気にはならず、そこはなんとか死守した。
もう一つのドレスは、淡いピンクベージュの布地で、腰から下のふんわりと膨らんだ部分には花の模様がほどこされており、さらにその布地の上にベールのような薄い布が重ねられている。
胸元は大きく開いているものの、たくさんの大きなリボンで覆われ、袖や裾にはたくさんのフリルがあしらわれ、まさに豪華なドレスといった感じだ。
これはこれで非常に可愛らしかったのだが、これを着てしまうと下位の貴族への嫌味のような気がしてきて選ばなかった。
フィアナはグラズを探していた。
しかし、会場は人で溢れかえっていて、背がそんなに高くないフィアナには、ほんの少し先を見ることも叶わないくらいである。
どうしよう…
グラズを探し始めてまだそれほど時間は経ってはいなかったが、こんな状況のなかで焦りばかりがうまれる。
もう見つからないんじゃないか、もしかして帰ってしまったんじゃないか。
どんどんどんどん悪い方に考えてしまうのに気づきながらも、目線だけは忙しなく彷徨わせていると、すこし向こうに見知った顔が現れた。