第十五話
朝。目を覚ましたフィアナはもう落ち込んではいなかった。
なぜなら、一か月後に祝祭があることを思い出したからである。
祝祭というのは、この国の建国記念日で、一年で一番盛大に執り行われるお祭りである。
なぜ祝祭のことを忘れていたのだろうかとフィアナは少し自分に呆れた。
実質的な社交シーズンの終わりを告げる、そして祝祭に向けた準備期間の開始を告げる現宰相主催の夜会に参加していたのに…。
しかも、数年前に前国王が引退したのと同時に前宰相であったフィアナの父も引退をしたとはいえ、それまで長い間ずっとフィアナの父が、ひいてはキャヴァロア家が祝祭前の最後の夜会を催していたのである。
それなのに、すっかり忘れてしまっていたとは、自分がいかにグラズのことで頭がいっぱいだったかを思い知らされ、少し恥ずかしくなった。
けれどもそれは恥じたわけではない。
むしろ、そんな自分をどこか誇らしく思った。ようは照れたのである。
貴族は、祝祭への参加を義務付けられているため、その日には確実にグラズに会えるのだ。
一カ月も先かと思うと、どうにかならないのかというじれったさに苛まれたが、この期間はどの貴族も準備に追われ社交どころではない。フィアナも前宰相の娘として、公爵家の娘として、準備を怠ることはできない。
実際、準備をしだすとグラズとあったときにどうしようかというようなあれこれを考える余裕もないほど忙しかった。
そうして慌しく日々を過ごしていると一カ月はあっと言う間に過ぎた。
祝祭当日。
今日は朝から国中がざわざわとしており落ち着かない空気に包まれていた。町では屋台も出ており、いつも以上に賑わいを見せている。
祝祭は二部構成で、第一部は午前中に貴族のみで行われる式典となっている。この式典は貴族は出席が義務づけられている。第二部は休憩をはさんで午後から行われる。こちらは夜会のような感じで、庭園は民衆にも公開される。貴族の出席は義務づけられてはいないが、毎年すべての貴族が参加しているといっても過言ではない。
講堂には国中の貴族が集まり、厳かに式典が執り行われていた。
男性は、黒や紺、深緑などの正装に身を包んでるものが多いが、軍の関係者は軍服を着ているものもちらほらと見受けられる。女性は、淡いパステルカラーのドレスを着ており、会場は春のお花畑のように華やかであった。けれども、祝祭の式典は神聖なもので厳かに執り行われてしかるべきであるとされ、品のあるシンプルな服装が望ましいとされているので、普段の夜会のようにごてごてとした豪華だが派手な装いの者は見受けられない。
貴族たちが体を向けている方向には、彼らと対面するようにして王族が座っている。
式の開始が告げられてから、ずっと続いていた司祭の話が終わり、国王が自席を立ち一歩前に出て話を始めた。