第十四話
久しぶりにグラズの登場です。今回はジャニ視点です。
今日は宰相主催の夜会の日だ。
グラズは今日の夜会にも出席しないと言っていたので、俺も辞退した。
しかし、あまりにも退屈なのでグラズを襲撃することにした。
「ふふっ。」
「おい。」
「珍しいこともあるもんだな。」
「何でいる。」
「いつものことだろ。」
「そんな理屈が通ってたまるか。」
不機嫌さを隠しもしない物言いの割に、実際には突然執務室を訪れた俺を追い出そうとはしないグラズは、結局のところいい奴だと思う。
顔立ちが整っていて表情が乏しいために、血もかよっていないような冷たい奴だと誤解されることも多いし、実際冷徹な部分もあるが、それがグラズの全てでは決してない。
だが本人は周囲の誤解なんてちっとも気にしちゃいない。
知ってくれている奴がいればそれでいいのだと。
「素直じゃないなあ。」
「何のことだ。」
「ほんとはわかってるくせに。」
「知らん。」
「じゃあ何でさっきから仕事進んでないのかな。」
「お前が話しかけるからだ。」
「いつもはそれでも順調にこなしてるのに?」
「…。」
黙り込んでしまったグラズはうんざりしているようだっが、しばらくすると大きなため息をついて観念したようだった。
「気になって仕方がないんだ。」
「ならいけばいいじゃん。今からでも間にあうよ。彼女、最近は積極的に夜会に参加しているみたいだ。そもそも執務室にこもってないで普段参加するようなやつだけでも参加していれば何回かあえていたはずなのに。」
そう言って俺は肩をすくめて見せる。
「俺は関わるべきではない。」
グラズは、俺のおちゃらけた態度とは対照的に、どことなく思いつめたような声音でぼそりとつぶやいた。こりゃ重症だ。
「深く考えすぎだって。お前も知ってるだろ?あの家は身分に捕らわれず恋愛結婚を推奨している。過去には平民と結婚した方もいるくらいなんだぞ?」
「それは知ってるが…」
いつもはどんな大きな事柄でもズバッと決断するのに、らしくなく歯切れの悪いグラズの言葉を遮ってやる。
「何を迷ってんだか。」
難しい顔をして押し黙るグラズにもうかける言葉はない。
これ以上言わなくてもグラズは十分わかっているはずだから。
「とにかく祝祭だよ。」
それだけを言い残してグラズの執務室を去った。
まったくあいつは、そう思いながらも自然と笑みがこぼれる。
長いつきあいだが、あんなグラズを見るのは初めてだった。
「うまくいくといいな。」
自分の口からでた言葉に自分でうなずいた。
なにもできない自分を恨めしく思いながらも、不器用なあいつが幸せになれたらいい、ただそう思った。