5話
本屋で詩織と神崎は待ち合わせをして、『地球サミット』の番外編を買った。
無表情の神崎が少しほくほくしているのを詩織は見逃さなかった。
じゃ、と帰ろうとする神崎を慌てて引き止めて、近くのミスドに入ったところだ。
しかし、神崎から何か話すなどなく、しばし無言が続く。
詩織が必死で『地球サミット』の話題や自分の話をたくさんするのを相槌打つだけだ。
「か、神崎くん。私の話、おもしろくない?」
あまりに、話が膨らまず、嫌われてるのだろうか、と詩織は悲しくなってきた。
「…そんなことはない。ただ、女の子と話すの苦手で…。」
どうやら彼も緊張していたらしい。
「私も、男の子と話すの苦手なの。だけど、神崎くんとは仲良くなりたいって思った。ほ、ほら『地球サミット』とか共通の話題で盛り上がれるし!」
詩織は大きく息を吸った。
「私たち、友達にならない?」
※※※
2人は友達になり、よく学校帰りにミスドに行ったり、本屋に行くようになった。
いつしか、神崎の家に詩織がお邪魔して、2人でゲームもするようになった。
神崎姉は、詩織が大のお気に入りで『ほんと、こんな美人な子がなんで、うちの慶太なんかの彼女に。』など言って騒ぐのが日課だ。
頬を染める詩織とは対象的に、神崎は『いや、彼女じゃない』と即答するので、すぐ凹むのだが…。
(神崎くんは私のこと、どう思ってるのかなー)
ある日、神崎宅でゲームが終わったとき、ふと詩織はたずねた。
「神崎くんは、どんな子がタイプなの?」
神崎はしばらく無言でぽつっと答えた。
「性格のいい子…かな。」
神崎くんは見た目で決めないんだ、と嬉しくなる。
「だけど、僕は女の子に興味ないんだ。女の子は見た目で人を判断するから。」
「そんな…。女の子全員が見た目で判断したりしないよ。」
「山口さんは違うね。失礼。」
神崎はふっと笑う。
「僕は…昔、片思いの子に振られたんだ。あんたみたいなデブ好きじゃないって、ね。それから人と話すのが怖くなり、ゲームと食べることでストレス発散してたらこのざまだよ。」
神崎の淋しそうな顔を見て、詩織には分かった。
(…神崎くんは、まだその子が好きなんだ。)
いくら、自分をバカにした相手でも、その子が今でも好きなんだ。
「なら神崎くん!見返そうよ!
ダイエットして、痩せて見返すの!」
「…何言ってんだよ。無理に決まってるだろ。」
「無理じゃない。神崎くんはまだその子好きなんでしょ?だったら痩せてもう一度アタックすればいいじゃない。」
「…結局、あんただって見かけで判断してんのかよ!」
「違う!」
詩織は無意識に涙が出てきた。
「私、自分の容姿がコンプレックスなの。皆、私を『綺麗だね。』って言うけど避けていく。『私の外見じゃなくて、内面を見てよ』って心で叫んでも見てくれない。…だけど、神崎くんは私に普通に接してくれた。…嬉しかったの。始めて男友達ができて。神崎くんが優しい男の子なのは知ってる。」
詩織はしっかりした目で神崎を見つめる。
「…でも悔しいじゃない。神崎くんを振った女の子は、神崎くんの内面を知らずに振ったんでしょ?今でもそれが、神崎くんのシコリになってる。だったら外面を磨いて彼女にもう一度告白してみたらいいじゃない。外面を磨いて勝負するのよ。そしたら内面も見てくれると思うの。神崎くんみたいな素敵な人振ったりしないわ。」
一気にまくしたて、詩織はなんだかすっきりした。
神崎はしばし、びっくりしていたが『そうだな』とうなづいた。
「山口さんの言う通りかもしれない。僕は今まで逃げてばっかりだった。山口さんも協力してくれる?」
「も、もちろん!」
こうして神崎ダイエット作戦が始まることとなる。